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みんなを幸せにする武士になりたいだけなのに!(権力闘争がひどい)  作者: ワタツミ


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第26話「富国への道」

引き続き拙作ではございますが、何卒お付き合いいただけますと幸いです。

 


 ――治承2年(1178年)二月 上総国 義円――



 一連の豪族との談合が収まった頃、さらに踏み込んだ改革を進めることにした。

 ここまではあくまで、収穫高の精査と目指すべき概念を伝え続けていたに過ぎない。

 次は成果物を示し、方針を浸透させていくべきなのだ。


 この国の田畑の広さは、正確に把握できました。

 ここで気づいたことではございますが、各々の報告が統一されておりませぬ。

 そのため管理には時間がかかり、豪族との意思疎通も膝を突き合わせて話をしなければいけない有様。

 早急に統一された物差しが必要かと」


 その提案に、広常は興味深そうに問い返した。


「物差し、とは。……既に段別の収穫高は測っておるではないか」


「それを、さらに一歩進め、田の等級ごとに標準となる収穫量――"石高"とでもしておきましょう。

 これを上総国全体で、統一して定めたいのです。

 上田、中田、下田それぞれの石高を明確に取り決めることで、年貢の取り立ても新田開発の見込みも

 これまで以上に、正確に立てられるようになります」


 その説明に、広常は、深く頷いた。


「なるほど……。

 同じ"一反"でも、土地によって、実りは違う。

 それを、きちんと数字で表す、ということか」


 この石高の統一と並行して、

 俺は稲の植え方そのものにも、手を加えることにした。

 この時代の水田は、現代人が想像するような形はしていない。

 統一された技術もないため、農業に携わる慣習の中で田植えと収穫が行われている。


「皆は苗を、思い思いの間隔でばらばらに植えておる。

 苗と苗との間を、一定の間隔でまっすぐな列になるよう植えれば

 それぞれの苗に、日の光と風とが、均等に行き渡るようになる。

 これにより育つ苗、育たない苗の差がなくなる。

 手入れもしやすくなるゆえ、収穫も増えるであろう」


 村々を回り、地面に木の枝で見取り図を描きながら、この"正条植え"の要領を、丁寧に説明していく。


 しかし反発もあるもので、老齢の百姓の一人が半信半疑の表情で口を挟んだ。


「義円様……。

 そのように几帳面に植えたところで、実りが増えるとは、にわかには信じがたいことにございます」


「まずは、試しに、一反だけ、この植え方で、育ててみてほしい。

 ……秋の実りを、これまでの田と、比べてみようではないか」


 その提案にどの百姓も、そこまで言うならばと渋々承知してくれた。


「義円様がそこまで仰るなら……。まあ、一反だけなら、試してみましょう」


 後述するがその年の秋、正条植えを試みた一反の田は

 これまでの田に比べ、およそ二割ほど多くの実りをもたらした。

 この成果は、瞬く間に上総国内の郷々に広まり

 翌年からは多くの田で、この正条植えが取り入れられるようになる。




 この米作りの改革と並行して、上総国が持つ特産品を形成する試みにも力を注いでいる。


「広常様……。こ

 の上総の山野には甘葛――蔦の樹液を煮詰めて作る貴重な甘味の材料が、豊富に自生しております。

 各々が出会い頭に手に入れるのではなく、これを集め、精製する仕組みを整えたいと存じます」


「甘葛か。……都の貴族たちが、珍重していると聞くな」


「はい。……これまでは、ただ、山に自生するものを細々と採るだけでした。

 ですが、その木の場所をしかと把握し、時期を定めて採取すれば

 都への献上にも豪族への褒美にも利用できます。」


 この甘葛の採取と精製は山間の郷々の百姓たちに、新たな仕事として割り当てる。

 冬の間、農閑期の副業としてこの甘葛作りに取り組んでもらうことで

 百姓たちの暮らしにも、新たな実入りが加わることになった。


 酒についても、改良を加える。

 平安時代末期の酒はいわゆる濁酒(だみざけ)である。

 御酒(ごしゅ)御井酒(ごいしゅ)と呼ばれる甘口の澄み酒は存在しているが

 いずれも宮中で製法が管理されており、遠く坂東の田舎豪族が口に出来るモノではなかった。


「これまでの酒は夏を越すと、すぐに酸っぱくなり多くが無駄になっておりました。

 ……しかしこの酒に灰を加えることで、その日持ちを大きく延ばすことが出来るのですよ」


 俺のその提案に、酒造りを担う者たちは、当初戸惑いを見せた。


「灰を酒に……?そのようなことをすれば、酒そのものが台無しになりましょう」


「まずは、少量で試してみてください。

 ……木灰を、程よい量加えることで、酒の酸味を抑え腐りにくくすることができるのです」


 この"灰持酒"の技法は幾度かの試行錯誤を経て、確かな成果を上げるようになる。

 甘さと酸が際立つこの時代の酒(味醂の原型)とは違う味わいと日持ちを可能にした

 この酒は周辺豪族がこぞって求めるようになる。



 一連の内政改革により、上総国は確かに豊かになりつつある。




 将家は甘葛の蜜を舐めながら、気軽に居室に訪う。


「義円様、この甘葛とやらはまことに美味しい物でございますな」


 気のおけない振る舞いは変わりがないが、この頃には義円付きの腹心として

 周囲からも見られ始めており、口調は努めて丁寧である。


「だろう? この土地が持つ、豊かさの一つだ。気づいていないものは、まだまだあるぞ」


「本当に、色んなことを知っておられる。……田の植え方から、酒の造り方まで」


 その言葉に静かに笑みを浮かべる。


「知っているだけでは、何も変わらんさ。

 ……実際に、この土地の人々へ向け形にしていかねば」


 俺の一言に将家は、背を正し深く頷いた。

 事はうまく進んでいるが、来るべき時代のうねりへ向けて備えはいくらあっても足りないのである。

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