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みんなを幸せにする武士になりたいだけなのに!(権力闘争がひどい)  作者: ワタツミ


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第25話「抵抗」

心機一転、沢山のストックを携えて書き始めました。

引き続き拙作ではございますが、何卒お付き合いいただけますと幸いです。

 


 ――治承2年(1178年)正月 上総国 義円――



 検地と禄制度の導入から、既に二月あまりが過ぎていた。

 天羽秀常の郷をはじめ、幾つかの郷では、この新しい仕組みが少しずつ根付き始めていた。

 だが、改革への反発は静かに、しかし確実に広がりつつあった。


「義円様……。夷隅郡の豪族たちが協力を、頑として拒んでおるとのことにございます」


 重なるその報告に、感情を押して尋ねる。


「拒む理由は」


「先祖代々の土地を上総家に取り上げられるという、根も葉もない噂が広まっているようで」


 夷隅郡だけでなく周辺の幾つかの郷にも、この噂は流布されており

 実務に当たる郎党たちが、行く先々で、冷たい視線を向けられるようになっているらしい。


「義円様……。このままでは、検地そのものが立ち行かなくなりかねませぬ」


 実務にあたる一人が焦りを滲ませて報告してきた。

 その報告に、静かに頷く。


(噂は、放っておけば雪だるま式に膨らんでいく。……この火種は根から断たなければ)


 その噂の出所を密かに探らせる。

 果たして、その出所は、意外なところにあった。


「義円様……。噂の出所はどうやら以前、義円様に不利な裁定を受けたことのある郡司のようでして

 ――名を時田為常殿であると」


 その名に内心で唸り声を上げる。

 かつて、最初に手掛けた裁きの相手方である。

 件は、公平な取り決めとして、双方の合意のもとに収まったはずであるが...

 その裁定への拭いきれない不満が、時田為常の胸の内に、なおも燻り続けていたのだろう。


 時田為常の館へは、単身赴くことにした。


「義円殿……。まさか、直々にお越しになるとは」


 時田為常は、警戒を隠さぬ様子で俺を迎える。


「為常殿……。其方が、あらぬ噂を広めておられるとのこと、それがしの耳にも届いておりまするぞ」


 その単刀直入な指摘に為常は

 一瞬、狼狽えた様子を見せた後、開き直ったように言った。


「……噂ではございませぬ。事実にございましょう。

 上総家が、この坂東の土地を、根こそぎ取り上げようとしておられるのだと」


「その理解は、誤りにございます。

 ……ですが、思い当たる節もございます。

 我らのご縁に禍根を残した私の過ちでもある」


 その指摘に、為常は、しばし押し黙った後

 堰を切ったように、これまでの鬱屈を吐き出した。


「……あの時、義円様はまだほんの童でございましたな。

 某は、童相手に言い負かされた形になり申した。

 以来、坂東の武士たちの間では、童一人に丸め込まれた愚か者だと陰で笑われ続けております」



 為常は、続けて鬱屈を吐き出し続ける。


「某とて、あの裁定が理に適っていたことは、頭では分かっておりました。

 ……ですが心は、そう簡単には納得できぬものにございます。

 この十数年、その屈辱を胸の奥に抱え続けて参りました」


 理屈だけでは動かせない人の心の複雑さを、この時代に初めて思い知らされている。


(史実の知識だけでは、こういう人の心の機微までは見通せない。

 ……こうした生身の感情も無視するわけにはいかない)


「為常殿……。その御無念、思い至らぬところがございました。

 まことに、申し訳なく存じます」


 率直な詫びに、為常は意外そうな顔をした。


「この改革は為常殿のような、この坂東を支えてきた方々の

 理解と協力なくしては決して成し遂げられませぬ。

 ……そのためにも、これまでの誤解を、この場でしかと解いておきたいのです」


 俺は、続けて、この改革の全体像――検地の目的、禄制度の仕組み

 それによってもたらされる具体的な実りの増加を丁寧に説明していった。


「為常殿の郷でも、同じように新田開発による実りの増加をお約束いたします。

 ……それ以上に、某は為常殿御自身に、この改革の"担い手"の一人として加わっていただきたいのです」


「担い手……。それがしに何をせよと」


「この検地と新田開発の手法を他の郷にも広めていく。いわば、指南役を務めていただきたい。」


 その提案に、為常は大きく目を見開いた。


「……いわば義円殿の名代ではないか、何ゆえ某に」


「かつての裁定の折り、為常殿は決して理を欠いた主張をなさっていたわけではございませぬ。

 ただ、双方の利害が、真っ向からぶつかっていただけにございます。

 冷静に断りを理解される器量もあれば、それを主張する弁舌もある。

 為常殿を置いて適任はおりますまい」


 その評価に為常は、しばし黙り込み深く頭を垂れた。


「……分かり申した。

義円様のその真っ直ぐな物言いを信じましょう。

この時田為常、これより上総家の試みに力を尽くさせていただく。」


力強い眼差しを向けてくる為常を、見つめ返し

頼もしい返答に頭を下げた。

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