第6話:甘い報酬はコーヒーの香り
第6話です。
仕事の報酬は、甘いお菓子と、さらに甘い告白(?)。
ついに一之瀬くんが、自分が転職してきた「真の理由」を明かし始めます。
「凛さん。今日の午後の予定、全て『完了』にしておきました」
金曜日の午後二時。一之瀬くんが私のデスクをトントン、と叩いた。
画面を見ると、来週分の進捗まで完璧に整理されている。……嘘でしょ、これ私が先月まで不眠不休でやってた量よ?
「……一之瀬くん、これは?」
「僕が教えた『三秒の魔法』を応用しただけですよ。……さあ、報酬を貰いに行きましょう」
(ほうしゅう! 報酬って何!? 怖い、怖いんだけど! どこに連れて行かれるの!? 私は今、会社支給の事務用カーディガンしか着てないわよ!? せめて、せめてもっと『ちゃんとした女』の格好をさせてー!)
脳内の絶叫も虚しく、私は彼に手を引かれ、オフィスを後にした。
辿り着いたのは、路地裏にある静かなブックカフェ。焙煎された豆の香りと、古い本の匂いが混ざり合う、落ち着いた空間だ。
「……素敵。こんな場所、会社から徒歩五分のところにあったなんて」
「凛さんは今まで、下を向いて全力疾走しすぎていたんですよ。……これからは、僕と一緒に前を見て歩いてください」
運ばれてきたのは、深煎りのコーヒーと、真っ白なクリームが乗ったシフォンケーキ。
一之瀬くんは、自分のコーヒーには手をつけず、ただ私を見つめている。
「……な、何よ。私の顔に、何か付いてる?」
「いえ。凛さんが『仕事』を忘れて、一人の女性に戻る瞬間を、三秒も見逃したくなくて」
(ぎゃあああ! 出た、三秒! 今度は見つめる時間の単位なの!? この子、本当に天然なの? それとも恋愛のプロなの!? 四十歳の心臓にニトロを打ち込まないで!)
動揺してフォークを落としそうになる私。
彼はクスッと笑うと、テーブル越しに私の手に触れた。
「凛さん。……一之瀬蓮という男は、興味のない人の仕事は『三秒』で終わらせても、助けたりはしません」
「え……?」
「僕がここに来たのは、初日に、お菓子の袋が開かなくて半泣きになってた……世界一可愛いあなたを、独占するためですから」
(……初日のアレ、見られてたーーーーー!? 死ぬ! 今すぐこのシフォンケーキの中に顔を埋めて窒息死したい! 完璧な課長代理を演じてた私の努力は一体何だったのよ!?)
顔を真っ赤にして俯く私を、彼は愛おしそうに見つめている。
それはもう、逃げ場のない「男の目」だった。
お読みいただきありがとうございます!
「三秒」のワードを、今度は「見つめる時間」として使ってみました。
凛さんの初日の失態、実はしっかり見られていたんですね(笑)。
次回、いよいよ社内改革がクライマックスへ。無能上司にトドメを刺す準備が始まります!




