後日談2話:パパになっても、騎士(ナイト)様
後日談、第2話です。
育児で余裕のない凛さんを、蓮くんが「三秒」で女の顔に戻します。
パパになっても独占欲の塊な蓮くんの攻勢をお楽しみください。
午後九時。
ようやく湊を寝かしつけ、私はリビングのソファに深く沈み込んだ。
(……はぁぁぁ、疲れた! 三歳児の体力、底なしか! 仕事でシステム障害を三秒で解決するより、寝ない子供を三秒で寝かせる方法を開発してほしいわ、切実に……!)
ボサボサの髪に、洗い物で荒れた手。
鏡を見る余裕もなかった自分に、ふと溜息が出る。四十代半ば、母親という役割に必死な今の私は、蓮くんの目にどう映っているんだろう。
そんな不安を吹き消すように、背後から温かな体温が私を包み込んだ。
「凛さん。今日もお疲れ様。……三秒で、僕に甘えてください」
耳元に触れる、蓮くんの低い声。
彼は私の肩を揉みほぐしながら、首筋にそっと唇を寄せた。
「……あ、蓮くん。だめよ、私、今すごくおばさんっぽいし。服も湊の食べこぼしが付いてるかもしれないし……」
「おばさん? どこにそんな人がいるんですか? 僕の目には、今日も家事と育児を完璧にこなした、世界一愛おしい『僕の妻』しか映っていませんが」
(ぎゃああああ! パパになっても、その殺し文句の切れ味、全く落ちてないんだけど!? っていうか、その手が服の下に入ってくるスピード、三秒どころか零コンマ数秒なんですけど!)
私は慌てて彼の手を止めようとしたが、彼は軽々と私を抱き上げた。いわゆる、お姫様抱っこだ。
「蓮くん!? 湊が起きちゃう!」
「大丈夫です。寝かしつけのついでに、朝まで起きないように『最適化』しておきましたから。……今は、パパじゃなくて、あなたの『男』に戻ってもいいですか?」
(……最適化って何!? アロマ!? それとも特殊な子守唄!? っていうか、今の蓮くんの目、完全に『獲物を狙う騎士』の目よ! 四十歳の心臓が、新婚時代と同じ速度でオーバーヒートしてる!)
寝室へ運ばれる道すがら、彼は私の耳を甘噛みした。
「……凛。三秒以内に、僕の名前を呼んで。……『パパ』じゃなくて、ね?」
会社での「凛課長」でもなく、湊の「お母さん」でもない。
私は彼の腕の中で、一瞬にして恋をする乙女へと書き換えられてしまった。
お読みいただきありがとうございます!
「三秒で寝かしつけ」――どんな裏技を使ったのか気になりますが(笑)、蓮くんにとっては「妻との時間」を確保するための最優先タスクだったのでしょう。
凛さんの脳内は、何年経っても蓮くんの言動に大忙しですね。
次回、後日談最終話。家族三人で迎える、最高の休日と未来へのメッセージです。




