最終話:一生分の「定時」を繋いで
「後日談編」最終話、そして全編の完結です。
社畜だった40代女性の、最高の逆転劇。
最後まで見守ってくださった皆様、本当にありがとうございました!
晴天の休日。私たちは家族三人で、かつて二人が初めて「定時退社」をして歩いた、あの公園へ来ていた。
「パパ! あっち! あっちに三秒でいくよ!」
湊が小さな足を一生懸命に動かして、芝生の上を駆けていく。
「こら、湊。三秒は無理でも、五秒ならパパが追い越してあげますよ」
蓮くんが軽やかな足取りでそれを追いかけ、湊を高く抱き上げる。
二人の笑い声が、青空に吸い込まれていく。
(……ああ。本当に、夢じゃないのね。社内ニートの上司に苛められて、深夜のオフィスで一人泣きそうになっていた私が、こんなに眩しい景色の中にいるなんて)
ふと、隣に戻ってきた蓮くんが、私の手をそっと握った。
大きな、温かい、私の人生を三秒で変えた魔法の手。
「凛さん。何をそんなに、愛おしそうに僕たちを見てるんですか?」
「……ううん。ただ、私、本当に幸せだなって思って」
私が素直に微笑むと、蓮くんは少しだけ驚いたような顔をして、それから今日一番の、とろけるような笑顔を見せた。
「……ずるいな。そんな顔で笑われたら、三秒どころか一生、目が離せなくなるじゃないですか」
(脳内:……もう! パパになっても、子供の前でも、甘いセリフの在庫が無限なのね! 私の心臓の『幸せ許容量』、とっくにパンクしてるわよ!)
蓮くんは湊を地面に降ろすと、私の肩を引き寄せ、耳元で囁いた。
「凛。僕の人生で最高の『業務効率化』は、あの日の夜、あなたの残業を三秒で終わらせたことです。……おかげで、あなたと過ごす一生分の『定時』が手に入った」
「……蓮くん。私もよ。あなたに三秒で攻略されて、私の人生は一生分のハッピーエンドに上書きされたわ」
湊が「パパ、ママ、いっしょ!」と私たちの服を引っ張る。
私たちは顔を見合わせ、同時に笑った。
三秒で恋をして。
三秒で未来を選び。
三秒で、この幸せを繋いでいく。
私たちの時計は、これからもずっと、世界で一番甘い時間を刻み続けるのだ。
(完)
ついに、本当に完結いたしました!
「三秒」という言葉をキーワードに紡いできた凛さんと蓮くんの物語。
最後は家族三人の幸せな姿で締めくくることができました。
40代という年齢も、社畜という過去も、すべては今の幸せのための「伏線」だった。
そんな風に思えるハッピーエンドになっていれば幸いです。
もしどこかのオフィスで、「それ、3秒で終わりますよ」と囁く有能な年下男子を見かけたら……それはきっと、蓮くんの弟子かもしれません(笑)。
長い間、お付き合いいただきありがとうございました。
また別の物語でお会いしましょう!




