第3話:ウェディングドレスと、三秒の沈黙
結婚編、第3話です。
無敵の年下騎士が、初めて見せる「余裕のない姿」。
凛さんの美しさが、彼の知性を一時的にシャットダウンさせてしまいます。
真っ白なレース、繊細な刺繍、ふわりと広がるシルクの質感。
ドレスショップの試着室の中で、私は鏡に映る自分を直視できずにいた。
(……いやいやいや! 四十歳のウェディングドレスよ!? 痛くない!? 大丈夫!? 「コスプレ乙」とか思われない!? 一之瀬くんの隣に並んで、公開処刑にならないかしら……!)
脳内でネガティブな妄想が三秒で一万回くらい駆け巡る。
けれど、スタッフの方に「とてもお似合いですよ」と背中を押され、私は意を決してカーテンを開けた。
シャーッ、と軽やかな音を立てて視界が開ける。
そこには、ソファに座って待っていた一之瀬くんがいた。
「……一之瀬くん。どう……かしら。やっぱり、無理があるわよね」
一秒。彼は動かない。
二秒。彼は瞬きすらしない。
三秒。……いつもなら「三秒で終わりますよ」と笑う彼が、彫刻のように固まっていた。
(えっ、待って。無言!? 一番怖いんだけど! やっぱり似合ってないの!? 三秒経っても言葉が出ないほど、私のドレス姿は絶望的なの!?)
私が不安で泣きそうになった、その時。
一之瀬くんがガタッ、と椅子を鳴らして立ち上がった。そのまま大股でこちらへ歩み寄ると、私の肩を震える手で抱き寄せた。
「……凛さん。……すみません。三秒どころか、一生言葉を失うかと思いました」
「……え?」
「綺麗すぎて……。僕が、あなたを独占するために注いできた全ての努力が、この瞬間のためにあったんだと確信しました」
彼の声は微かに震えていた。
ふと見ると、あの完璧な彼の耳が、今までで一番赤くなっている。
(脳内:……えっ。一之瀬くん、今、泣きそう!? 私のドレス姿で!? 嘘でしょ、この男、私の想像の三秒先を行く愛情を持ってたっていうの!?)
「凛さん。……あとの準備は全部、僕が三秒で終わらせます。……あなたはただ、当日まで僕に愛されていてください」
彼はドレスの汚れを気にするのも忘れて、私を抱きしめた。
四十代の私が、まるでお姫様にでもなったかのような錯覚。
いえ、彼の隣にいる限り、それは錯覚ではなく「現実」なのだと、彼の熱い鼓動が教えてくれた。
お読みいただきありがとうございます!
「三秒の沈黙」――。一之瀬くんにとって、人生で最も長い三秒間だったに違いありません。
コンプレックスだらけだった凛さんが、彼の瞳を通して「自分を好きになる」過程、書いていて感無量です。
次回、第4話。ついに結婚式! 懐かしの(?)あの男が乱入しますが、一之瀬くんが容赦なく「ざまぁ」します!




