第2話:親への挨拶は、プレゼンより緊張する
結婚編、第2話です。
難攻不落と思われた凛さんのご両親も、一之瀬くんの前では赤子同然。
彼の「誠実さという名の暴力(笑)」が、実家の空気さえも変えてしまいます。
実家の玄関前で、私は深呼吸を繰り返していた。
(……あああ、胃が痛い! 全社プレゼンの百倍緊張するわよ! 四十歳の独身娘が、いきなり三十二歳の、しかもこんな発光してるレベルのイケメンを連れてきたら、お父さんショックで倒れるんじゃないかしら!?)
隣に立つ一之瀬くんは、ネイビーの高級スーツを完璧に着こなし、手には有名店の菓子折りを携えている。
緊張のかけらもない、涼しい顔だ。
「凛さん。三秒以内に呼び鈴を押さないと、僕が無理やり押しますよ?」
「待って! まだ心のバックアップが……っ!」
ピンポーン。非情にも彼は私の指をガイドするように、ボタンを押した。
「……あら、凛! お帰りなさい、隣の方は……?」
出迎えた母が、一之瀬くんを見た瞬間、手に持っていたお玉を落としそうになった。
居間に通されると、そこには腕組みをした父が、仏頂面で座っていた。
「……一之瀬くんと言ったか。凛とは、ずいぶん歳が離れているようだが。君のような有能そうな男が、なぜ……」
(始まったわよ、父の『なぜなぜ分析』! 一之瀬くん、逃げて! この頑固親父は三秒で論破できる相手じゃないわよ!)
ハラハラする私を余所に、一之瀬くんは深く頭を下げた。
「お父様。凛さんは、誰よりも責任感が強く、誠実に仕事と向き合ってきました。……僕は、その凛さんが自分を犠牲にしてまで会社を守る姿に一目惚れし、彼女を支えたいと願って転職したんです」
一之瀬くんは、迷いのない瞳で父を見据えた。
「凛さんが僕に『三秒』で攻略されたのではなく、僕が彼女に、一生分の恋をしたんです」
(……ぎゃあああああ! お父さんの前で何を言ってるの!? 一生分の恋!? 恥ずかしい、恥ずかしすぎて畳の隙間に潜り込みたい!)
すると、父がふっと肩の力を抜いた。
「……転職までして娘を。……そうか。凛、お前……いい男を捕まえたな」
(……ええええええ!? お父さん、攻略されるの早すぎない!? 三秒よ!? 三秒で落ちたわよ、この頑固親父!)
「お父様。ついでに、ご実家の庭の剪定マニュアルと、お母様の家計簿アプリも『三秒』で整理しておきました。これでこれからの生活も効率化できますよ」
「……おお! これは便利だ!」
「まあ、一之瀬さん、素敵ね!」
気がつけば、一之瀬くんは両親の心を完全に掌握していた。
私の実家までもが、彼の「三秒の魔法」によってホワイト化されていくのを、私は呆然と見つめるしかなかった。
お読みいただきありがとうございます!
一之瀬くん、義実家でもしっかり「三秒」のワードを使ってきましたね。
家計簿まで効率化する彼の有能さに、お母さんもメロメロです。
次回、第3話。ついにウェディングドレス試着! 一之瀬くんが初めて言葉を失います。




