第2話:その「根性」、不要です
第2話です。
無能上司の「根性論」を、一之瀬くんがスマートに論破します。
そして、ついに一之瀬くんが「佐藤さん」ではなく「凛さん」と呼び始め……?
「……何だ、これは。もう終わったのか?」
翌朝。デスクに置かれた完璧な集計資料を見て、加藤課長が目を剥いた。
普段なら私が徹夜一歩手前で仕上げるはずの量だ。信じられないといった様子で、課長はねちねちとページをめくる。
「手抜きじゃないだろうな。佐藤くん、君はベテランなんだから、楽をしようと考えちゃダメだよ。仕事は根性と誠実さだ」
(出たわよ、根性論! 昨日の夜、一之瀬くんが魔法みたいに一瞬で終わらせたのよ! 根性でExcelのセルが埋まるなら、私は今頃マッスル北村並みの筋肉になってるわよ!)
心の中で毒づく私を、隣に座る一之瀬さんが涼しい顔で眺めている。
彼はスッと立ち上がると、課長の背後に回った。
「課長、その資料の最終ページに集計ロジックを添付しておきました。従来の手作業でのミス発生率をゼロにするための自動計算です。……根性よりも、確実な数字の方が経営陣は喜びますよ?」
「う、うむ……まあ、できているならいい」
一之瀬さんの放つ圧倒的な「正論のオーラ」に、課長はたじろぎながら自分の席へ戻っていった。
……スカッとした。いつもなら「すみません」と謝って終わる場面なのに。
「ありがとうございます、一之瀬さん。助かっちゃった」
「お礼なら、言葉以外で欲しいですね」
(言葉以外!? 何、肉体労働!? それとも貢ぎ物!? 私のなけなしの有給をあげればいいの!?)
脳内で迷走する私をよそに、彼は椅子を滑らせて私のパーソナルスペースに侵入してきた。
そして、パソコンの影に隠れるようにして、私だけに聞こえる声で囁く。
「昨日の夜、僕の手……熱かったですか?」
「っ……!?」
心臓が跳ねた。
昨夜、マウスを握る私の手に重なった彼の温度。その感触を、今朝からずっと、それこそ三秒に一回は思い出していた。
「顔、隠せてませんよ。……耳まで真っ赤だ」
(やめて! 見ないで! 四十歳の耳なんてただの軟骨よ、そんなに凝視しないで! ああもう、仕事に集中させて! 業務効率化しても、私の脳内の処理が追いつかないんだから!)
「……凛さん。今日の定時、空けておいてください」
「えっ、あ、まだ仕事が……」
「僕が『3秒』で終わらせますから。……二人で、美味しいコーヒーでも飲みに行きませんか?」
それは、業務改善の提案という名の、あまりにも鮮やかなデートの誘いだった。
お読みいただきありがとうございます!
仕事は爆速、アプローチも爆速。そんな一之瀬くんに、凛さんの脳内はもうパンク寸前です。
次回、40代社畜が人生で初めて(?)経験する「仕事終わりの贅沢」へ。
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