休日3話:眼鏡と寝癖と、恋する瞳
休日編、第3話です。
「隙」を突くのが天才的な一之瀬くん。
凛さんのコンプレックスを、彼は一番のチャームポイントとして愛で倒します。
朝食を終え、ソファで一息つく。
けれど、私はさっきから気が気じゃない。
(……あああ、やっぱり眼鏡外してコンタクト入れてくるべきだった! この眼鏡、度が強すぎて目が小さく見えるのよ! しかも髪! 寝癖を適当なクリップで留めただけだし、これじゃあ完全に「実家の母親」じゃない!)
一之瀬くんの隣に座っているのが申し訳なくなって、私はじりじりと距離を取る。
「……あの、一之瀬くん。やっぱり私、着替えてくるわ。こんな格好、あなたに見せるものじゃないし」
「どうしてですか? 僕は、今の凛さんが一番好きなんですけど」
彼は逃がさないと言わんばかりに、私の腰に手を回して引き寄せた。
……近い。会社で囁かれる時よりも、ずっと密やかで、熱い距離。
「一之瀬くん、離して。……私、もう四十だし、すっぴんだとシワとか……色々……」
「……凛さん。僕を、三秒だけ見てください」
(三秒……その、カウントダウンが一番怖いのよ……!)
恐る恐る顔を上げると、至近距離に彼の瞳があった。
眼鏡のレンズ越しでもはっきりと分かる、熱を帯びた、ひたむきな視線。
「この眼鏡の奥にある瞳が、僕を見て揺れるのがたまらなく愛おしい。……この髪も、僕が乱したいくらいに綺麗だ。それのどこが、おばさんなんですか?」
(ぎゃあああ! 殺し文句の暴力! 「僕が乱したい」って何!? 三十二歳の性欲……じゃなくて情熱を四十歳の心臓にぶつけないで! 壊れる! 物理的に壊れるわよ!)
彼は私の眼鏡のフレームを指先でそっとなぞり、そのまま髪のクリップをパチン、と外した。
肩にバラリと髪が落ちる。
「会社の『佐藤さん』はみんなのものですけど、この『凛さん』は、僕だけのものです。……三秒以内に、僕に甘える覚悟を決めてください」
(……無理。三秒どころか、一秒で陥落したわよ。この確信犯な年下騎士に、私の理性が残業代も出ないままログアウトしていく……!)
一之瀬くんは、私の髪に深く顔を埋めた。
柔軟剤の匂いと、彼の体温。
休日の静かな部屋に、二人の重なった鼓動だけが、トク、トクと速く響いていた。
お読みいただきありがとうございます!
「僕が乱したい」……一之瀬くん、さらっと危険なことを言いましたね。
会社では見せない、少しだけ「オス」の部分が見え隠れする休日回です。
次回、第4話。いよいよ(?)外に出て、一之瀬くんプロデュースのお出かけ編です!




