休日2話:おうちデートの「三秒」ルール
休日編、第2話です。
凛さんのキッチンを一之瀬くんがジャック!
エプロンなしの私服姿で料理をする一之瀬くんに、凛さんの心拍数は限界突破です。
「……狭いところでごめんなさいね。今、お茶淹れるから」
私が慌ててキッチンへ向かおうとすると、一之瀬くんがスッと私の前に立ちふさがった。
「凛さんは座っていてください。僕が準備しますから」
「えっ、でも、お客様にそんなこと……」
「お客様じゃありませんよ。……未来の家族、かもしれませんし?」
(……は!? 家族!? 今の発言、婚姻届の予行演習!? 三十二歳のプロポーズの重みが、四十歳の心臓を直撃したんだけど! 死ぬ! 朝食の前に私が召されるわ!)
脳内で墓を立てている私をよそに、彼は慣れた手つきで私のキッチンに立った。
……あ。
一人暮らし用の狭いキッチンに、背の高い彼がいると、空間の密度がすごい。
シャツの袖を捲り上げ、たくましい腕が見える。彼がコーヒー豆を挽く音が、やけに官能的に響く。
「……凛さん。三秒以上、僕の背中を見つめないでください」
「えっ、あ、ごめんなさい!」
「嘘です。……もっと見てください。凛さんの視線、熱くて……すぐ、こっちを向きたくなる」
(この子、背中にも目が付いてるの!? っていうか、セリフがいちいち甘すぎて、コーヒーに砂糖入れる必要ないじゃない! 私の胃もたれを心配して!)
やがて、テーブルには香ばしいクロワッサンと、完璧な香りのコーヒーが並んだ。
一口食べると、サクッとした食感の後にバターの香りが広がる。
「……美味しい。幸せ……」
「……あ、口角にクリーム付いてますよ」
「え? どこ……」
自分で拭おうとした指を、彼が止める。
彼は身を乗り出すと、私の指ではなく、親指で直接私の唇をなぞった。
「……取れました。三秒ルール、適用外ですね」
(三秒ルールって、床に落ちた食べ物のことじゃないの!? 私の唇に触れた指を、そのまま自分の口に運ぶのは反則よ! 間接……間接なんとかでしょ、これ!)
一之瀬くんは満足げに微笑み、私の淹れたてのコーヒーを一口飲んだ。
……そこ、私の使ってるマグカップなのに。
私の休日の平穏は、彼の「無自覚(確信犯)な攻撃」によって、完全に粉砕されたのだった。
お読みいただきありがとうございます!
「未来の家族」なんてパワーワードをサラッと言ってのける一之瀬くん、さすがです。
凛さんの脳内ツッコミも、休日は一段と冴え渡っていますね。
次回、第3話。眼鏡姿の凛さんに、一之瀬くんがさらに踏み込みます!




