第47話 違った!?
4つのヒントが揃った。他にもヒントがあるのかもしれないが、とりあえずこれで鍵を攻略できるのではないかと予想した我々は、鍵の前まで戻ってきた。
得たヒントを纏めてみる。
1.ヌルから西に4キロ進んだ先にいるアインス
2.ヌルから東に2キロ進んだ場所にあるツヴァイ
3.ヌルから東に6キロ進んだ先にあるドライで生まれた物語
4.ヌルから西に1キロ行った場所にあるフィーアに行けば、話は全て終わるのである
そして、鍵に触れて文字を出現させた。
『扉を開ける鍵を求める者。その者は最初の場所ヌルから、数々の偉人の集う場所アインスへと向かい。次には物語を生み出す地ツヴァイへ行くが、鍵は見付からなかった。ドラマ産みし悲劇の地ドライにて悲しみを落とし、最後の場所フィーアに希望を寄せるが、そこに鍵はない。鍵は場所にはないのだ。辿った道こそが鍵なのである』
つまり、答えは4261という事だろう。
我はそのままダイヤルを回し、4261の順に数字を合わせていく。
だが。
「違った!?」
マリの声が耳に大きく響く。どうやらマリも一緒になって南京錠をのぞき込んでいた為、すぐ隣に顔があった。
彼女の言葉は正しい。何故なら、南京錠に埋め込まれたクリスタルは4261に合わせた途端に砕けてしまったのである。
我は鍵に手を触れたまま、顔だけマリの方へ向けて口を開いた。
「どういう事だ」
「わ、わからぬ。順番か? いや、だとするとヒントが少なすぎる……」
顎に手を当てて考えるマリ。我はその顔をじっと見ながら、自らも思考に耽った。
マリが指摘した通り、順番が違うという線は提示されている情報からの推察が難しい。これがミスリードを狙ったものだとすれば、最早お手上げに近いものがある。
根本的な部分の勘違いという線も考えられる。例えば、南京錠に入れるべき数字が、実は距離ではないという答えなどだ。
しかし、それも順番が違うという線を否定した事と同じ理由で、結局解く事が前提とされた謎解きであればそこまでのミスリードはないのではないだろうか。
ただし、これは現時点の情報が全て正解で、かつそれ以外の情報が同一か、もしくは存在しない場合に限るのである。
何が言いたいのかというと、もしかすると別の本を読んでいけば、新事実が発覚していくかもしれないのだ。
例えば、○○への道は、○○以降は工事によって○○キロ短縮された。などである。
もっと言えば、ヒントの文言に即した内容が存在するのかもしれない。その場合、鍵を求める者が○○への道を目指した時には、○○への道は○○キロだった。などだ。
そもそも、我々はルールを破ったからこの部屋に転送されてきたのだ。この部屋の目的は何かというと、それは勿論懲罰だろう。
その目的という点で考えると、出る為には沢山の本を読む必要がある、というのは合理的な理由のような気もする。
努力をして刑期を短くできる分、努力しなければ一生出られない。まさしく罰としては良い仕組みかもしれない。
とりあえず、このままでは新たな答えもでそうに無いと思い、本棚に向かおうと踵を返した我の袖を、マリが引っ張った。
何事かと思い目を向けると、彼女は何かを閃いたようだ。興奮した様子でこちらに目を向ける事なく口を開く。
「これって、もしかすると通った道が鍵なんじゃない!?」
「……最初からそのつもりで情報を探した結果、違ったのだと思うが?」
「違うよ! 通った道だよ!」
何が違うのかはわからないが、彼女は言葉遣いが素になるほどに興奮している。
とりあえず一旦聞く姿勢になって、目で先を促してみると、彼女は手振りを添えて説明を始めた。
「ほら、今入れた数字ってヌルって場所を中心としてるでしょ? でも、この文章に出てる鍵を求める者って、毎回ヌルに帰った訳じゃないと思う!」
なるほど。言いたい事は分かった。わかるのだが、それでも疑問は残る。
我が「ふむ」と応えながらも顎に手を当てて考えていると、彼女はそれを理解していないと判断したのだろうか、先程よりも大きな身振り手振りで説明を続ける。
「例えばさ。ヌルから西に4キロ進んだ先にいるアインスに行って、その後ツヴァイに行ったんでしょ? つまり、その距離ってアインスからツヴァイって事だよね。ツヴァイはヌルから東に2キロだから、アインスからは東に6キロって事じゃない?」
「しかし、ヌルから東に2キロという表示であれば、北北東でも南南東でも2キロなのだろうが、アインスからツヴァイにははっきりした記載は見つけられていない。南南西から北北東であれば距離も変わってくるだろう」
「そんな現実的で細かい事を、謎解きで問題にするかのぅ……」
言いながらもマリは、幾分か自信がなくなってしまったのかやや下を向いて考えこんでしまう。
我は、自分の発言した内容と心の動きに愕然とする。
我だって悠久の時間を生きる中で、滅んだ文明のものとはいえ無数の本を読んできたし、その中で謎解きのようなものが出てくる本も多数あった。
だから、南南西だのなんだのといった事を理由に回答が異なるという事はあまり考えられる事ではないとわかっている。
では何故、そんな指摘をしたのか。
意地悪をしたのだ。我程の存在が、人間風情に対して。
それも、なんらかの意図があって行ったのではない。思わず口をついて出てしまったのである。
信じられなかった。対等の存在、もしくは近しい存在だと認知していなければ、そのような行動に出るはずがないのだ。
全く次元の違う存在。共に行動する事はできるかもしれないが、共に生きる事など不可能である筈の存在。
捕食者と非捕食者。壊す者と壊される者。そんな関係だと思うし、そうあるべきだと思っている。
その筈だが。
本当に、我はおかしくなってしまったのかもしれない。
マリが掴んでいた袖を振り払うと、彼女は小さく「あっ」と声を発したが、構わずに鍵に向かった。
そしてダイヤル部分に触れて、マリの方を振り返ることなく幾分不機嫌な声を出した。
「それで、答えは何なのだ」
「えっと、でも、さっきドラゴン氏が言ったように間違っている可能性が……」
「いいから言え。我もマリの答えが……正しいと思っている」
最後、幾分か声が小さくなってしまった我の言葉をどう受け取っただろうか。
それを考えただけでもイライラとしてしまい、思わず胸中で舌打ちをする気分になる。
「えっと、ちょっと待つのじゃ、あー、ヌルから東に2キロの所から6キロ東だから引き算になって……」
何やら右手を中心に、左手を右に移動させたり左に移動させたりしてごにょごにょ言っている様子だ。
恐らく右手がヌルで、左手が移動している鍵を求める者という事だろう。
まあ、実は我が計算した方が早いというか、我はもう答えが出ているのであるが、こういった単純に計算だけをする場合は、計算違いをしてしまう可能性だってある。
1人の出した答えをそのまま信用するよりも、複数の人間で答えを出して、ちゃんと一致するか確認を行った方が良い。
だから、我はマリの答えが出るのを待った。
「えっと、4647……4647じゃ! ドラゴン氏!」
「わかった」
我の計算と一致している事を確認し、迷いなくダイヤルを回していく。
その姿に何か思う事でもあるのか、驚いたような、不安なような、そんな表情で我の顔とダイヤルを交互に見るマリ。
4。
思えば、今回は振り回されてばかりだ。
6。
言ってしまえば、マリを1人にするわけにはいかないと思ってここに閉じ込められたのである。それなのに。
4。
なぜ、我はこれほどに人間相手に気を遣わなくてはならないのか。そこまで理のある相手でもあるまいに。
7。
まあ、それでも。
我は一瞬マリの顔を横目で見やる。
期待、興奮、不安。そういったものがない交ぜになったような表情で、目はキラキラとして見えた。
あのまま泣かれているよりは、今のほうがいい。
意図せず左の口角が上がって、溜息のような漏れるのを感じた。
そして、耳元で大きな声が響く。
「ドラゴン氏! あれを見よ!」
言われてマリが指さした方に目線を向けると、それは扉の中央だった。
ダイヤルを4647に合わせると、門に描かれた魔法陣のようなものが輝き出したのだが、中でも中央部分が激しかった。
そして、その光は青白い光からやがてピンク、赤へと変わり、言葉へと姿を変える。
『たいへんよくできました』
まるで五芒星のような、見様によっては花のような枠へと変化した魔法陣の中に現れた言葉。
ダイヤルに入れた数字は正解だった、という事で間違いなさそうではあるのだが、少々馬鹿にされているような気もしないではない。
やがてカチャリという音がして扉が僅かに開く。
遊ばれているような心地になって、思わずムッとした顔になる我とは対照的に、マリは歓声を上げていた。
「やった! やったぞドラゴン氏!」
その声に振り返ってみると、彼女は興奮で一杯になった顔をして、両の手のひらを顔の辺りの高さ、丁度バンザイの途中のような形で上げており、こちらに押し付けようとするような動作をしていた。
何をしようとしているのかわからない我は、じっとマリを見つめた。
そんな我の様子に、マリはやがて恥ずかしいとでもいうような顔になって手をおずおずと下げて目を逸らした。
「ほ、ほら。扉は開いたようじゃぞ」
口早にごにょごにょとそう言ったマリは、そのまま足早に扉に向かう。
我は、その背に声をかける。
「ありがとう」
その言葉がまるで突然飛んできたものかのように、驚いて振り返ったマリに、我は言葉を続ける。
「認めたくないが、我一人では答えにいきつけなかっただろう。いや、最終的には答えにいきついたとは思うが、時間がかかったのではないかと思う」
なにやら恥ずかしくなってしまって目を逸らした我。マリも気恥ずかしいのか、我ではなく、少し目線をずらした場所を見ていた。
なんとも言えない居づらいというか、じっとしているのが辛い雰囲気に、我は歩き出しながらマリに声をかけた。
「何があるかわからない。我が先に行く」
「わかった」
素直に我の言葉に従ったマリを背に、我は扉を開いて進むのであった。




