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紫竜の花嫁  作者: 秋桜
第24章 豊編
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北都の危機

「残念ながら、紫竜は北都ごと燃やすつもりです。」


豊はもう正直に告げるしかない。



予想してなかった最悪のシナリオだ。


北の貴族は傀儡で、担当者の交代は北学の私利にまみれた独断でした

なんて言い訳が龍希に通用するわけもない。


それどころか、北の貴族が傀儡だと隠していたことにも怒るだろう。


もはや北都だけでも済まないかもしれない。

北の貴族が統治する人の町はいくつもあるのだ。



「そんな・・・どうか」


孫娘2人は泣き出した。

他の孫たちはもう逃げたのに、彼女たちは北学の娘であるがゆえに死を選ぶ他なかったのだろうが、近くで見るとまだ顔に幼さが残っている。

貴族に同情するつもりはないが、豊は気分のいいものではない。


彼女たちはこれから何一つ守れず無駄死にするのだから。




「どうか、どうか、奥様のお情けを頂けませんでしょうか?」


北零は涙を堪えて訴えてくるが、



「たった今、奥様の問題ではなくなりました。北の貴族一族はずっと紫竜を騙していたことになる。紫竜は北の貴族相手に依頼をしてきたのですから。」



「ああ。」

北零は理解したのか、両手で顔を覆って床に崩れ落ちた。


「お母様!」

孫娘2人が泣きながら北零に駆け寄って両側からくっついたが、


「お母・・・様!?」


豊は一瞬だけ疑問に思ったが、すぐに分かった。

北零は北の貴族の妻にしては若すぎると思っていたが・・・本当は北学の妻だったわけだ。


北の貴族の妻のふりをしたのは、本当の妻である北清の逃亡を隠蔽しようとしたのか、死んだ北学の妻子と分かれば信頼されないと思ったのか・・・今はどうでもいい。



「北都の門を解放して下さい。逃げられる民だけでも逃がして下さい。」



もう豊にできるのはこれだけだ。

北都だけでなく北の貴族統治の町にいる仲間たちに連絡して逃がさなければ。

司令官に早く報告しに帰りたい。


豊じゃ無理だ。司令官に・・・



『すみません、司令官、芙蓉さん』



芙蓉さんも遅かれ早かれ北都の壊滅を知ることになるだろう。

芙蓉さんは何も悪くないけど、優しい彼女のことだ。自分の依頼がきっかけでこうなったと、自分を責めるかもしれない。


司令官は芙蓉さんの力になりたいと思って動いたのに、豊だって芙蓉さんのために何かしたい思いもあって、ここに来たのに。


豊は無力だ。



「ふふ。ウソ。豊さんは言葉だけで人の心を動かせるすごい人だわ。」



不意に芙蓉さんの言葉が頭の中に甦った。

豊のことなんて何も知らないのに、芙蓉さんのあの言葉はお世辞ではなかった。



「くそ!」


豊は頭をかきむしった。


『考えろ!俺は龍希の、紫竜の欠点を知ってるんだ!』


紫竜は嘘を見破れる。

その特技ゆえに、偽りはない言葉に隠された意図や思惑には気付けない。


芙蓉さんはそれをうまく利用してきた。

司令官とユリがかつては芙蓉さんを誘拐した犯人であることを龍希に隠し続けている。



「おい!」


「は、はい!」


豊の大声に女たちは身を竦めた。



「お前はそこの北の貴族の血族か?」


豊は北零に問いかけた。

利用できるのはこいつらしかいないのだ。



「い、いえ。私は東の貴族の娘です。北学に嫁いだ時に改名を・・・」


「ちっ!」


豊の舌打ちで、北零はさらに怯えた顔になってしまったが、そんな気遣いをする余裕はない。


「じゃあ、そっちの2人!どっちかでも成人してないのか?」


「ま、まだです。私たちは双子で・・・」


歳上に見えていた方が答えたが、やや大人びているだけで双子だったらしい。

子どもではダメなのだ!



「他に居ないのか!?成人した北の貴族の血族は!?」



北才を探し出すしかないか?

他の息子たちを追う方が早い?

いや、どいつもダメだ。


貴族としての責任を放棄して、命惜しさに逃げた奴らに紫竜を騙せるとは思えない。



「くそ!」



コンコン



突然、外から扉がノックされた。

豊は我に返り、北零たちを立たせて、寝台の布の向こうに隠れさせてから、扉を開けた。


狼補佐官が扉の前にいた。



「お話し中に申し訳ございません。お声が聞こえて来ましたが、何かございましたか?」



どうやら豊は大声を出しすぎていたらしい。

狼たちにとっては盗み聞きのチャンスだったろうに、この補佐官はなんで!?



「失礼しました。北の貴族と開門の話がつきそうです。狼補佐官だけ中に。北の貴族の許しは得ています。」



豊は狼補佐官の顔を見て、重要なことを思い出した。


彼女と、この狼の協力を得られれば、なんとかなるかもしれない。



「何事ですか?」


狼補佐官は部屋に入ってきて扉を閉めるなり、怪訝な顔で問いかけてきた。



「先程、北都だけでなく、北の貴族統治の人族町が全て消されることが判明しました。」



「はあ!?」


「本当ですよ。こちらに。」


豊は狼補佐官を北の貴族の元に案内した。



「・・・」


狼補佐官はボケた北の貴族の顔を見て、言葉を失っていたが、怖い顔になって北零たちを睨みながら、豊に問いかけてきた。


「いつから、騙されてたわけ?」


「紫竜が北の貴族に依頼を持ちかけた時にはすでに。」



「・・・」


狼補佐官は青い顔になって身体がふらつき、そばの壁に寄りかかった。



「バカじゃないの!?嘘でしょ!?

北の貴族の町全部!?ダメよ。いま、狼族長が・・・」


狼補佐官の最後の方の言葉は聞き取れなかったが、豊にとってはラッキーだ。

紫竜が動けば、狼族長も危険な場所にいるということだろう。



「シーヨ様、俺の悪巧みに協力してください。北零様たちもです。どうせ死ぬなら、町だけは守って死んで下さい。無駄死によりマシでしょう。」



「え?」


「何をするつもり?」


女たちと狼補佐官は怪訝な顔で豊に問いかけてきたので、豊は思い付いた作戦を全て話した。



「バカでしょ!そんな小細工で龍希を騙せる訳がないわよ!」


狼補佐官は即座に否定するが、


「龍希の関心は、北の貴族が自分の妻に悪意を持っているか否かです。

北の貴族が傀儡だったなんて想像もしていないから、こちらから言わなければ分からない。」


「・・・その肝心なところを騙せないって言ってんのよ!

どう考えても、紫竜からの依頼なら北学はこんなバカなことはしなかったはずよ!同族である族長妻からの依頼だから、下に見たんでしょう!?

私たちにも分かるわよ!」


「そうですよ。でも、北学は北の貴族ではない。」


「こんなジジイに族長としての価値はないでしょ!?」


「じゃあ他に方法がありますか?」



「・・・バレたら死ぬのよ。狼族に何のメリットがあるの?」



「うまく行けば、紫竜に人の町を焼かれずに済む。命が助かる狼は多いですよね?」


「紫竜が来る前に同族は逃がすわ。」



「いいんですか?竜の逆鱗に触れるかもしれませんよ。紫竜が北の貴族一族に騙されていたと触れ回るなんて。」



豊の指摘に狼補佐官は怒った顔になった。

図星だろう。



「・・・あんた、次に会った時は覚えてなさいよ。」


狼補佐官は牙をむき出しにして豊を睨んでくるが、豊だって命がけなのだ。

次のことなんて心配していられない。



「僕らは龍希に正直に打ち明けたところで、死ぬことはない。狼たちが巻き込まれて人の町で死のうが知ったことじゃない。

でも、芙蓉さんは悲しむでしょう。

彼女には何の責任もないけど、自分のせいで無関係な人や狼たちまで死んでしまったと自分を責めるに違いない。

それで、また、人との繋がりを切ろうとしたら困るんですよ。

もう彼女を孤独にはさせたくない。」



芙蓉さんのことがこの狼の説得に役に立つかは分からない。

こうなった以上、狼族にとっては族長妻のご機嫌取りよりも、紫竜をだますリスクの方が大きいのは間違いない。


ただ、豊たちが芙蓉さんのために動いていることだけは伝えたかった。



「・・・勘違いしないでよ、人族。あんたの言葉ごときに私は(ほだ)されない。同族を守るため。そのために協力してやるわ。」


孤高の狼族らしい返答だが、理由はなんでもいい。

彼女の助けがないと、豊の作戦はうまくいかないのだ。



「司令官と北清を連れてくるわ。」


狼補佐官は部屋を出て行った。


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