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紫竜の花嫁  作者: 秋桜
第24章 豊編
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北の貴族の面会

~狼族軍基地~

北清と別れ、豊たちはその晩は狼族軍基地の客間のような部屋に泊まった。

かなりの規模の基地のようで、豊と司令官それぞれに別の部屋が与えられた。



昨日は1日狼の乗り物で長距離を移動して疲れたせいか豊はすぐに眠ってしまい、目を覚ました時にはもう日がかなり高くなっていた。


狼補佐官が部屋に呼びに来たので、豊が着いていくと、別の客間にいた司令官とも合流し、基地内を歩くこと2~3分、豊たちは客間と同じくらいの広さの部屋に案内された。

部屋の中央に丸テーブルがあり、3人分の食事が用意してある。



「どうぞ。人族用の食事を用意させたはずだけど、食べられない物があれば言ってちょうだい。」



狼補佐官に促されて、豊は司令官とともに椅子に座った。

部屋の中には狼補佐官と豊たちの3人だけだ。



「食べながらでいいわ。どうやって北の貴族を殺るの?」



狼補佐官はダイレクトに聞いてきた。

昨日は関与しないと言っていたのに、その建前をなくすための密談部屋のようだ。



「北都の中では無理ですね。族長の奥様の元に案内すると嘘をついて北の貴族を連れ出して、始末したいところですが・・・」


司令官が答える。


「ですが?」


「北の貴族は70歳近いはずなので、おそらく自らは来ない。息子の誰かを代理にするでしょう。

今日、北の貴族自身が私たちの前に出てくるかも怪しい。」


「・・・狼族も北才のところの北の貴族には会ったことがないのよね。北の貴族の中で最高齢って聞いてるわ。」



「芙蓉の名前が北の貴族を引っ張り出してくれることを祈るのみです。」



「・・・いくら同族だからって奥様の名前を軽々しく出すものじゃないわよ?」


狼補佐官は顔をしかめている。



「密談の場所を下さった貴女への敬意のつもりですよ。」


司令官は微笑みながら告げる。



「はん。獣人たちを誑かして解放軍に協力させてきただけはあるわね。だけど、私は狼族長に忠誠を誓ってるの。メリットがなくなればあんたたちは即切り捨てるわよ。」


狼補佐官は冷たく言いはなった。



「それで結構ですよ。私どもも芙蓉が信頼している狼補佐官殿を道連れにはできません。」


司令官の言葉に狼補佐官は怪訝な顔になる。


「補佐官ごときが族長妻に認知されていると思う?」



「お二人の関係は知りません。ただ、芙蓉がシーヨという狼補佐官にまた会ったらお礼を伝えておいてほしいと言っていたので、私がそう思っただけです。」



豊はこの話は初めて聞いた。

目の前にいる狼は象族領から撤退するときに協力を持ちかけてきた補佐官だ。

今回も彼女が水連町に来たことから紫竜担当だと思っていたけど、個人的に芙蓉に認知されている狼だったらしい。


シーヨは困った顔になって明後日の方向を向いている。

これはどういう反応か分からないが、彼女にとっては喜ばしい話ではなかったらしい。



「私は狼族のために族長妻に恩を売ろうと思ったの。それだけよ。」



「そうですか。北の貴族の元には豊に行ってもらいます。私はここで留守番させてもらいますね。」


司令官は作戦会議に移るようだ。


「司令官が責任者じゃないの?」



「はい。私が紫竜に報告に行くので、北の貴族の話を直接聞くわけにはいかないのですよ。

それに人の世界では女の使者は軽んじられる。北都を守るためです。」



「・・・龍希相手に隠し事はできないわよ?」


「隠し事はしません。私は豊から聞いた報告をそのまま伝えるだけです。」


「なるほどね。北の貴族から返事が来たらすぐに出発するから準備しておきなさい。」


狼補佐官は豊にそう言うと、部屋を出ていった。



「豊、頼んだわよ。」


「はい。」


豊は責任重大だ。

紫竜から北都を守りつつ、ダメだった時に備えて開門のために北の貴族を暗殺する。


司令官と2人でできる規模の仕事ではなくなったが、増員する時間的余裕はないし、北都の中にいる仲間も連絡をとる手段もない。



こんなに事前準備のない作戦は初めてだ。



~北の貴族の屋敷~


その日の昼過ぎ、豊は北都から迎えにきた北の貴族の馬車に乗って、北都に入った。

馬車には狼補佐官と豊が乗り、後ろに狼族の乗り物で狼族軍が着いてきている。


豊は着物に着替えていた。

北の貴族に会うためというより、紫竜族長の妻の名前を使う以上、粗末な格好はするなと言って、狼補佐官が用意してくれたのだ。


狼族の高級品のようなので、おそらく昨晩徹夜で豊用に直してくれたのだろう。



それにしても、てっきり北の貴族の息子の一人でも来るかと思っていたが、使いは貴族の側近だという初老男だけだった。


やはり北の貴族は芙蓉さんをかなり見下しているということだろうか?


もしそうなら、北都を守るために北の貴族を始末するしかない。



馬車が止まり、豊が降りると、もう北の貴族の屋敷内だ。

降雪の地域でよくある造りだ。



「北の貴族様がお待ちです。どうぞこちらへ。」



意外なことに北の貴族と会えるようだ。

北の貴族が今回の重大性を理解しているなら、北都を守れるかもしれない。


豊は淡い期待を抱いて案内された部屋に入った。



「ようこそ。紫竜族長の奥様の使いの方ですね。

私は北の貴族の妻の一人である北零(ほくれい)と申します。」


扉の前で出迎えたのは、40代くらいの女性だ。


部屋の奥には天井から吊るされた大きな布が垂れ下がっており、布の向こうにはうっすらと大きな寝台のような物が見える。



「私は奥様の使いではございません。

奥様よりこの度のトラブルの原因調査を命じられたホウと申します。」


豊は恭しく頭を下げた。



「失礼致しました。北の貴族は年齢と病のために、一人では立つことが難しく、伏せたままお話しすることをお許しください。

また、耳が遠く、声も小さくなっております。補助のために、私と、孫娘たちが同席することをお許し下さい。」


北零はそう言うと、壁際に控える2人の娘たちが頭を下げた。

2人とも年齢的にまだ10代半ばのようなので、嫁入り前なのだろう。



それにしても北の貴族の衰えは予想どおりだ。

これではこの屋敷から連れ出すのは難しそうだ。

これが演技でなければ、だが。



「北の貴族様にお時間を頂き、誠に光栄にございます。恐れいりますが、護衛の狼族が同席することをお許し下さい。

貴族様の兵士もおられることですので。」



「少々、お待ち下さい。」


北零は北の貴族のそばに行き、耳打ちするような仕草をしているようにも見えるが、布に隠されているので、よく見えない。


2人の話し声も聞こえない。

しばらくすると、北零が豊の前に戻って来た。



「北の貴族は、貴族兵を退室させるので、貴殿とだけお話をしたいとのことです。」



北零はそう言うが、豊は驚いた。

豊の知る限り、貴族が護衛を下がらせるのは貴族だけの会合くらいなのに、芙蓉の使者ですらない豊を、北の貴族は貴族と同格かそれ以上と扱うつもりなのだろうか?


それとも、護衛を下がらせてまで狼には聞かれたくない話か?



豊が無言で背後にいる狼補佐官を振り返ると、狼補佐官は狼軍を連れて部屋から出ていった。

同時に貴族兵も全員が退室した。



「我儘ばかり申しまして申し訳ございません」


北零は北の貴族の妻とは思えないほど、腰が低いので、やはり今回の事態を北の貴族はよく理解しているらしい。



「いえ、私は狼族の手先ではありませんので、何も問題ございません。今回ご訪問した経緯をご説明してもよろしいですか?」


「はい、お願い致します。」


北零は北の貴族への取次はせずに答えた。


「紫竜の言い分では、紫竜族長の奥様から北の貴族に依頼し、約束の時間に紫竜の使者が研究所に行ったのに、新しい担当者は一方的に取引を破棄した上、部下の兵士が紫竜に殺気を向けたとのことです。

これまで紫竜との取引ではそんな不手際はなかったので、奥様は困惑されており、理由を知りたいと私どもに依頼された次第です。

担当者変更の理由を北の貴族様にお伺いしたい。」



「・・・やっぱり」


北零は俯いたまま、小さく呟いた。

壁際の娘孫2人は何か言いたげだが、目を見合わせて口をつぐんだ。



「北の貴族にお伝え願えますか?」


「どうぞ、お近くへ。もう隠し事はできません。」


北零は意味深なことを言いながら、豊を北の貴族のそばに案内する。

まさか豊に直接耳打ちさせる気か?



北李(ほくり)北亜(ほくあ)もそばに。」


「はい、奥様」


2人の孫娘も寄ってきた。


豊は北零に続いて天井から垂れ下がった布を越え、北の貴族が伏せる寝台のそばまで近づいたのだが、


「・・・」



豊は言葉を失った。


目の前には、寝台に横になった痩せてシワだらけの老人がいるが、目の焦点があっていない。

口をぽかんと開けて、豊が覗き込んでも老人は全く反応しない。



「・・・いつからですか?」


この老人は完全にボケている。

おそらく会話どころか食事すら自力では無理そうだ。



「5年以上前からです。病に倒れ、寝たきりになってから・・・もう会話すらできません。」



北零は絞り出すような声だ。


「本物の北の貴族はどちらに?」


「北の貴族のままです。息子たちは誰も後継者になりませんでした。」


豊は思わず舌打ちした。

理由は聞かなくても分かる。最近は獣人の種族でも族長の後任が見つからないのだ。

失敗すればその首が飛ぶような重い責任を誰も引き受けたがらないからだ。

しかし、


「ならば、誰が担当者を交代させたのですか?」


「北学の独断です。彼は北の貴族が否定しないから、自分の提案が受け入れられたと言い張って、北才から無理矢理取引を取り上げた。」


「それで北才に復讐された、と?」


「そのようです。北才は香水瓶の調査結果を暗号化しておりました。北学は研究員からその暗号を渡されて読むことができず、研究員から本当に担当者は交代したのか?と怪しまれたそうです。

北学は研究員を脅して暗号を解読させようとしたそうですが、研究所に残っていた北才の兵と争いになり・・・その最中に紫竜が来たそうです。」



「で、北学は殺されたと。それで、あなた方遺族は何をするつもりですか?それも、女3人だけで。」


「・・・北才は行方不明です。ほかの息子たちも、その家族も誰もここにやって来ない。」


「なぜ、あなた方3人はここに?」


北の貴族の息子たちは紫竜に殺されることを察して逃げたのに、この女3人はなぜ逃げないのだろうか?



「この2人は北学の娘です。息子は北学とともに紫竜に殺されました。北の貴族と、その妻の私と、この4人の命を持って、紫竜と奥様にお許しを頂けませんでしょうか?」



北零は豊を真っ直ぐに見て、申し出てきた。

覚悟を決めた女の顔だった。


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