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紫竜の花嫁  作者: 秋桜
第24章 豊編
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北の貴族との取引 中編

~族長執務室~


「なんだと!?」


案の定、本家に族長の雷が落ちた。

報告を終えた龍算は、びびっている龍景を庇いながら自分の足が震えないようにするので精一杯だ。



「俺の妻直々の依頼だったんだぞ!」



妻が絡むと族長の怒りはヤバイのだ。

妻はあんなに温厚というか情け深すぎる性格なのに、いや、逆にバランスがとれている?



とはいえ、今回ばかりは妻の情けで穏便に済ませるわけにはいかない。

紫竜一族の面子にもかかわるのだから。



「族長、奥様も居られるのです。雷は止めてください」


龍賢だけが冷静に諌めている。

龍算は後任と言われているが、将来は龍賢のように族長を諌められるだろうか?



「族長、提案があります。」


「なんだ?龍賢?」


「北の貴族が態度を変えた理由を調査させるべきでしょう。」


「必要ない。」

族長はまた雷を落としそうだ。



「今回は奥様のご依頼ですぞ。奥様は理由を知りたがるのではないですか?」


「う・・・」


族長から怒気が消えた。

図星だったようだ。



「理由が分かったところで許せる問題じゃねえぞ?」


「人族を許せとは申しておりません。奥様のご不安を払拭するためです。」


「確かにな。だが、どうやって調べるんだ?」


「人族のことは人族にさせればよいのです。」


龍賢はものの数分で族長の怒りをおさめ、次の一手まで決めてしまった。




~水連町病院~


「司令官!」


12月のある日、ようやく戻ってきた司令官を見て、豊は思わず大きな声が出た。


豊は水連町に戻ってきてからは、協力商人の手配で病院の護衛として雇われ、病院に勤めながら司令官の帰りを待っていたのだ。



「遅くなって悪かったわ。幹部たちを集めてくれる?新しい仕事よ。」


「はい!」


豊はすぐに動いた。



~カエデの病室~

その日の夜、カエデの病室に、司令官、豊、ショウ、陶矢、水人が集まった。



「司令官、ご無事で!」


豊以外は安堵している。


「心配かけてごめんなさいね。豊から芙蓉のことは共有してもらってるわね?

これから相談したい仕事も芙蓉がらみだから、聞きたくなければ構わない。」


司令官はいつもと変わらない。

リスクの高い仕事や任務ほど、作戦会議前に不参加の自由を与えるのだ。

 幹部クラスでも解放軍に参加した理由は様々だからだ。



「1つご質問が。仕事に失敗すると、司令官が紫竜に殺される危険はありますか?」


「ないわ。」


カエデの質問に司令官はきっぱり答えた。



それ以降は誰も発言せず、誰も部屋を出ていかなかったので、豊は司令官にまず水人さんたちの警護の件を尋ねた。


「私たちは護衛ではないから、水人さんと朝顔亭の妻の息子の警護は請け負えないけど、水人さんは解放軍の協力者として、息子の方は獣人から保護した子どもと同じように扱うことは変わらない。芙蓉はそれでいいって。

それから息子はカグラのいる洗濯屋で保護してる結太のことで、芙蓉とは別の、紫竜に嫁いでいる人の娘と、人間の前夫の子らしいわ。」


「そんな詭弁が紫竜に通用しますか?」


「妻の家族の警護に、紫竜は干渉しないそうよ。芙蓉と朝顔亭の妻は、私たちでは警護の責任を負えないことを理解してくれたから、この件はこれで終わり。」


司令官が断言するなら、豊は信じるしかない。



「相談したい作戦はここから。最近、イヌワシ族領で重傷を負ったケープが熊の点滴薬で殺されかけた事件は知ってるわね?」


当然、全員が頷いた。



「最近、芙蓉が熊族から買った香水瓶にも何かが混入されてる可能性があるから、北の貴族の研究所に調査を依頼したらしいの。

北の貴族は以前から紫竜の依頼を請けてきたらしいけど、今回、芙蓉からの依頼は担当者交代で納期に間に合わなかったと言って取引を破棄した上、紫竜の使者に殺気を向けたらしいの。」 



「は!?」


豊は思わず隣のショウと顔を見合わせた。

予想外の話になってきた。



「えっと、紫竜からの依頼と、芙蓉・・・さんからの依頼は別物という扱いですか?」


「みたいよ。とはいえ、紫竜族長妻という立場での依頼だから、失敗すれば夫の族長が黙ってないってことは、北の貴族も分かってるはずだと、紫竜は言うけど、芙蓉は北の貴族と面識はないから、北の貴族の考えが分からないらしいわ。

正直、私も分からない。貴族レベルでは紫竜のことは理解しているはずよ。これまでの紫竜からの依頼は最優先でこなしてきたらしく、紫竜も北の貴族には一定の信頼をおいてたみたいなの。」



「・・・事情は分かりましたが、それが解放軍の仕事とどうつながるのですか?」


「紫竜は、芙蓉からの依頼だから北の貴族が破棄したと怒ってるみたいでね。特に夫の族長は北都を壊滅させると息巻いてるみたいなの。

今は芙蓉が諌めてるけど、このままだと無関係な人間まで殺されかねないから、北の貴族が取引を破棄した理由を調べてほしいと、芙蓉から頼まれたの。

もしかしたら、かつて策士がしたように、北の貴族の中に、ジュウゴの手下が紛れ込んで芙蓉に何かしようとしてる可能性もあるわ。」



「ま、待って下さい!芙蓉と北の貴族の取引だったんですよね!?なのに、なんで夫とはいえ紫竜が北都を襲うなんて話になるんですか!?」


豊も疑問に思っていたことを、陶矢が尋ねてくれた。


「紫竜の理屈では、族長妻の面子を潰すことは紫竜への宣戦布告でもある、となるらしいわ。

後、北の貴族の兵士が使者の紫竜に殺気を向けたことも原因みたいね。使者の紫竜は責任者だった北の貴族の息子と、その場にいた兵士たちを皆殺しにしてきたらしいけど、それで済む話ではないそうよ。」



「・・・北の貴族が芙蓉さんを快く思っていないから取引を破棄したと分かったらどうなりますか?」



「カグラが想像しているとおりよ。カモメの島と同じく北都は焦土と化して住人は皆殺しにされるわ。だから、調査と同時に、解放軍の仲間や協力商人は逃がさないといけない。」


「それはいつまでに?」


「とりあえず今月いっぱいまで期限をもらったわ。私は年末にまた紫竜本家に報告にいくことになってる。

この中から2人、すぐに北都に向かってもらいたいの。カグラは狼族にコンタクトをとって。北の貴族の1人と繋がりがあったはずよ。」



「あ!そうです。狼族の補佐官が一昨日、病院を訪ねてきました。用件はカラス族と同じで、司令官の不在を理由に待たせています。」


「ちょうどいいわ。明日、早速呼んで。芙蓉からの依頼と知れば協力するはずよ。」



「・・・司令官、質問です。今回の仕事を請けたのは、北都にいる仲間を逃がすためですか?」



陶矢は浮かない顔で尋ねた。

豊もまだ腑に落ちない。

これまでの解放軍の活動とは明らかに違う。

今の豊は芙蓉さんが困っている様子もよく理解できるけど、司令官が引き受けるべき仕事だろうか?



「それもあるけど、一番は芙蓉のためよ。

彼女は私の友人なの。かつて芙蓉は人の世界と距離をおくことで、紫竜が人の世界に影響を及ぼすことを避けようとしてたみたいだけど、もうそれは叶わない。

人が紫竜の逆鱗に触れないように、他の獣人たちに倣って紫竜とうまく付き合う方法を見つけないと、人もカモメのように滅ぼされかねないわ。

だけど、紫竜は貴族とも正式な関係は結んでいない。今回の件でさらに難しくなったでしょうね。

今、人の世界と紫竜をつなぐのは芙蓉だけなのよ。私は彼女の助けになりたいし、それが解放軍を守ることにもつながると思ってる。」



「・・・」


質問したくせに陶矢は目を丸くして司令官を見ている。

ショウはなぜか驚いた顔だ。



「2人ともなんなの?その顔は?」


カエデが尋ねてくれた。



「あ、いや・・・なんか、司令官が個人的なことというか、こんな人間らしいことを言うなんて意外で・・・」


「司令官、友人居たんですね!?」


2人はとても失礼なことを言い出した。



「ふふ。機械人間だと思ってた?」


司令官は珍しく笑った。


「あ!いえ、そんなことは・・・」

「い、意外だっただけです」


陶矢とショウは慌てている。



「司令官、僕は北都に行きます。元々、紫竜の担当ですし、今ならかなり匂いがついているので、狼に襲われる危険も少ないかと。」


豊は立候補した。


「狼補佐官がこの町にいるなら、私と豊で北都に行きましょう。病院の警固はショウに、町にいる解放軍の指揮は陶矢に任せるわ。」


「はい!司令官」


北都の命運をかけた仕事が始まった。

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