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紫竜の花嫁  作者: 秋桜
第24章 豊編
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北の貴族との取引 前編

~族長執務室~


妻たちのお茶会の翌日、龍希は、龍栄と龍海以外の補佐官たちと、竜礼を呼んでいた。



「竜礼、トモエが連れてきたジュウゴの部下人族からめぼしい情報は出てきたのか?」


「いいえ。すでに解放軍が聞き出した情報以上のことは知らないみたいです~最近水連町に来た人族で、報酬目あてに雇われた下っ端みたいですね。ジュウゴと面識はなくてワシの郵便で指示を受け取っていたそうです。」


ようやくジュウゴとつながる獣人を捕えたと思ったのに、不発だった。



「そいつが結太のいたセンタクヤに放火したんですか?」


尋ねたのは龍景だ。


「そうみたい。仲間のタンチョウの獣人が嫌がったから、人族が放火したんですって。」


「そのタンチョウは?」


「解放軍は捕まえられなかったらしいわ。この人族もタンチョウの行方は知らないって~」


「また役にたちませんでしたね。」

龍緑は不機嫌だ。



「後は北の貴族の調査待ちですわね~誰を迎えに行かせますか?」


「龍算と竜礼で行ってこい。」


「承知しました。」


「承知しました~」


2人とも異存はないようだ。

竜礼はやはり龍算を嫌っている様子はないけど、龍算がうるさいので、はやく仲直りしてほしい。



「族長、熊族の香水瓶から毒が出てきたら、熊族長に何を求めるつもりなんですか?」


龍景が尋ねてきた。


「それはトモエなり解放軍に考えさせるさ。」


龍希はまだ何も思いついていないのだ。




~北都~


その日の夜、竜礼は兄とともに一角獣の馬車で北の貴族の研究所がある北都に向かっていた。

 人族町の門は閉まっている時間だけど、一角獣の馬車で空から研究所の敷地に着地するので問題ない。



人族嫌いの族長は、北の貴族への依頼は断固拒否で、他竜の個人的な取引なら口を出せないとのスタンスだったのに、北の貴族は毎回きちんと依頼をこなし、その結果はいつも文句なしなので、今回はとうとう族長妻からの直々の依頼を許したのだ。

 この依頼もうまくいけば、遅かれ早かれ族長自ら人族に正式依頼をするようになるはずだ。


取引や縁談の調整をする雌竜(おんなたち)の立場からすれば、いい加減に人族と正式な取引関係を結びたい。

 龍陽たちの代は人族から生まれた子が多すぎるので、人族との縁談はないだろうけど、龍陽の子たちの代になれば、人族の長からの嫁入りもあるだろう。

その下準備のためにも、竜礼の代で人族との・・・



「血の匂いがするな」


ずっと無言だった兄が呟いた。


「え?」


竜礼にはすぐには分からなかったけど、北都に入り目的地が近づくにつれ人族の血の匂いがしてきた。




「まさか研究所が襲われた?」


竜礼は嫌な予感がしながらも、御者台に通じる小窓をノックした。



「いかがされましたか?」


御者台にいる兄のワシの執事はのんきに返事する。


「かなり血の匂いがする。目的地はどうなってる?」

兄は少しイライラした様子で問いかけた。


「あ、はい。血の匂いは気になりますが、目的地からは着陸の合図がきております。」


兄は一瞬だけ悩んだ顔になったが、執事に命じて馬車を着地させた。



竜礼が兄に続いて馬車から降りると、兵士らしき人族は何十人もいるのに、責任者が見当たらない。

 昨日依頼に行った竜紗の話では、責任者は出発の準備を整えて馬車の前で待っているのではなかったか?

明日の族長の執務開始時間までに責任者を別荘まで連れてくるために兄と竜礼はこんな深夜にやって来たのに。


ただ、兄が反応しないので人族から悪意や殺意は出ていないのだろう。



「責任者はどこだ?」


兄のワシの執事も警戒した顔になり、そばの人族に問いかけた。


「中でお待ちです。どうぞこちらに。」



「お前は馬車の番をしてろ。」


兄は執事に命じて人族について歩きだしたので、竜礼も続いたが、人族の血の匂いがそこらじゅうに漂っている。


ここで何かあったらしいが、それは竜礼たちには関係ない。

北の貴族が取引さえちゃんとしてくれれば・・・



「こちらです。」


人族が案内してきたのは、なんと研究所の応接室ではなく、ロビーのような開けた場所だ。

昨日は竜紗一人相手でも北才は応接室に案内したと聞いているのに、どういうことだろう?



それにロビーの中央には北才ではない雄の人族がおり、その背後には30を越える兵士らしき人族がいる。

まさか護衛を控えさせて会話する気か?



「誰?責任者はどこ?」


竜礼は先に問いかけた。



「初めまして、北の貴族が長子、北学(ほくがく)と申します。私がこの研究所ならびに紫竜の方との取引の責任者になりました。」



ロビーの中央にいる人族は北の貴族の別の息子だったらしいが、



「そうか。じゃあ馬車に乗れ。」



兄はかなりイライラしている。

言葉には出さないが新しい責任者の礼儀のない態度に怒っているのだろう。


だけど、今は時間が惜しい。

早く出発しなければ!

明日の朝、族長を待たせるようなことになれば、やっと回復してきた人族への信頼に大きな傷がつく。

なのに、



「え?今からですか?申し訳ございません。ご挨拶は日を改めて」


新しい責任者は意味不明なことを言い出した。



「何を言ってる!?今回の依頼の報告だよ!うちの族長夫妻を待たせる気か!?早くしろ!」



兄がキレた。



「え?いえ、責任者の引継ぎ途中でして、今、私がここを離れるわけには・・・」


「人族の事情なんざ知るか!うちには関係ないだろう。昨日、確かに約束したはずだ!」


兄の剣幕に人族たちは後退りしている。

兄が怒気を抑えているが、これ以上はまずい。



これまで北才に不手際はなかったのに、北の貴族はなぜこんなタイミングでこんなグズに責任者を変更したのだろう?



「お、お待ち下さい。まさかこんな深夜にお越しになるとは思わず、明日にでも北の貴族に相談・・・」



「はあ!?お前、責任者のくせに昨日の取引を把握してないのか?」



兄は怒りを通り越して呆れているが、竜礼はもう言葉が出ない。



「ほ、北才を連れてこい!」


グズが命じると、部下は外に走っていった。

北才はこの研究所にはもう居ないようだけど、取引の引継ぎもさせず、北の貴族はどういうつもりだろうか?



「帰るぞ。族長妻の面子を潰しやがって!北の貴族一族の命だけで済むと思うなよ!」



兄が北の貴族を見限ってしまったが、竜礼にはフォローのしようもない。

これが雄竜の個人的な取引ならまだしも、族長妻直々の依頼なのだ。


北の貴族の一族を皆殺しにしても族長の怒りはおさまらないかもしれない。



「お、お待ち下さい!北才を連れてきますので!」



グズは騒ぐが、兄は無視して歩き始めたので、竜礼も従った。



族長が北都に雷を落とすのだけは止めさせたい。

族長妻に相談して族長をなだめてもらうしかないかな・・・



「わ!」


考え事をしていた竜礼は兄の背中にぶつかった。


「すみません、補佐官」


竜礼は謝ったが、兄は怖い顔だ。

だけど、竜礼に怒っている訳ではない。


竜礼にも分かる。



兄の前方に立ち塞がった人族の兵士たちから殺気に近い悪意が出ているのだ。



「そういうこと!?」


竜礼は絶望した。



北の貴族はわざと族長妻からの依頼を放棄したということだろうか。



他の妻の種族ならあり得ない。人族から族長妻に喧嘩を売るメリットなんてないだろうに。


というかこの依頼が成功すればようやく人族は正式な取引先になれたかもしれないのに、なぜ?



「お待ち下さい!私はこうして理由を説明しているではありませんか。」



グズはまだ何か言っているが、部下の不始末を詫びることすらしないとは!


族長妻との取引が人族の都合で不能になったなら、せめて長である北の貴族自らが弁明すべきだろうに。

こんなグズを責任者に据えて、悪意を出すような兵士を配置するなんて、族長妻に対する宣戦布告としか思えない。


龍海が担当補佐官として来ていたら、ここにいる人族を皆殺しにするだけでは足りず、北の貴族の首を持って帰ってくることだろう。



「竜礼、下がってろ。」



兄の怒りが限界突破したらしい。

竜礼は黙って宙に浮き、先に馬車に戻ることにした。

兄がここの人族たちを皆殺しにするのに10分もかからないだろう。


それよりも馬車の番をするワシの執事が兄の怒気で気絶すると面倒だ。



『あ~あ。』


竜礼はため息しかでなかった。

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