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紫竜の花嫁  作者: 秋桜
第24章 豊編
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熊の香水瓶

「芙蓉、龍景が時間をとってすまなかった。」


夫に促されたので、芙蓉は奥の応接室スペースに向かい、ソファーに座った。

隣にはユリが座り、巴衛は机を挟んだ向かいの椅子に座る。


夫と龍景は少し離れた壁際の椅子に座り、龍算と竜礼は巴衛の後方の壁際に立った。



妻の家族の警固に関する話なら、夫の一族は干渉しないとのルールらしい。


ただ、妻の家族との面会ですら監視はされるので、家族でない巴衛との密談なんて不可能だ。



「急に申し訳ございません。どうしても水人さんと結太君のことで相談したいことがございまして」


「敬語はやめて。夫たちは妻の家族の警固には干渉しないらしいから、今日は私たちとの個人的な話し合いになるの。」


「分かった。先月、水連町で解放軍の潜伏先がいくつも放火にあって、結太を匿っている洗濯屋も燃えたの。」


「え!?」


「そんな!?」


芙蓉とユリは同時に悲鳴をあげた。



「結太は無事よ。放火に関与した策士の部下・・・ジュウゴの手先を捕えて話を聞いたら、どうやら水連町で解放軍が芙蓉の父親とアサガオ亭の妻の息子を警固しているって噂が広がっているらしくて、ジュウゴが放火を命じたらしいわ。

残念なことに、ジュウゴに味方している水連町の住民もいるみたい。」


「ジュウゴはどうして結太君まで?」


「それは私には分からないの。アサガオ亭の妻が誰かも私たちは知らなかったけど・・・」


「私のことです。」


巴衛を遮ってユリが答えた。



「2人の身元が噂になってることはカラス族が知らせてきたの。カラス族は解放軍を利用して2人に取り入りたいみたいね。おそらくこれからハクトウワシや狼もまた協力を持ちかけてくるだろうけど、私たちは芙蓉に雇われた護衛として振る舞うわけにはいかない。

とはいえ、解放軍が勝手に護衛してるなんて詭弁ももう通用しない。」


巴衛は初めて無表情から困った顔になった。



「ごめんなさい。私の影響を見誤ってた。人の町なら大丈夫かもって・・・」


芙蓉は落ち込んだ。

巴衛に、解放軍に甘えすぎていた。


「私たち解放軍は元からジュウゴと対立してるから、芙蓉が気にする必要はないわ。水人さんがいるおかげで、ジュウゴと関係のない獣人たちは解放軍を襲わなくなってきたし、東の貴族が水連町に干渉してこないのも、きっと芙蓉のおかげだと思うから、解放軍もすごく恩恵をうけてる。

私が相談したいのは、ここから。解放軍は護衛ではないの。カラス族をはじめとする獣人と協力すると言ってもこの先何年も警固の協力ができるとも思えない。

勝手だけど、水人さんたちの警固は、解放軍からの引継先を探して欲しいの。」



「そ、そうね・・・」


芙蓉は答えたものの、父達の警固を頼める相手なんていない。



「結太と水人さんをジュウゴは殺そうとしてるの?」


ユリが尋ねる。


「そうみたい。理由は分からないけど、ジュウゴが芙蓉を狙っているなら、紫竜と繋がりのある人間はみんな敵に見えるのかも。

ただ、ジュウゴの部下獣人たちは紫竜を怖れてるから、芙蓉の父親だと有名になった水人さんとユリの息子の結太を直接殺す勇気はないみたい。

結太の居た洗濯屋は獣人が嫌がったから人の部下が放火したらしいわ。

豊にも紫竜の使用人と大差ない匂いがついてたから、獣人は怯えて、人の部下が暗殺しに来たわ。」



「え!?豊さんは・・・」

芙蓉は真っ青になったけど、


「無事よ。暗殺者は返り討ちにして、今は水連町の仲間たちと合流してるわ。豊の発案で、仲間の一人に芙蓉のふりをさせて、ジュウゴを誘き出そうとしたんだけど、その作戦はジュウゴにバレてもう出来なくなった。

ジュウゴの居場所はいまだに分からない。ただ、水連町の近くにはいるみたい。水連町の部下への連絡が異様なほど早いから。」


「ごめんなさい。私のせいで豊さんまで巻き込んでしまって・・・」


「ワニ領で何かあった時には、紫竜と協力して芙蓉を助けるよう命じたのは私よ。

それに豊は芙蓉に感謝してたわ。私たち解放軍の目的は獣人に囚われた人の解放だから、紫竜に囚われた人が初めから居なかったなら、よかったって。」


巴衛はそう言うけど、豊さんは芙蓉を嫌ったりはしなかったけど、ほかの解放軍の人たちはどう思っているのだろうか?



「司令官、私が芙蓉のふりをして水連町に行ったら、ジュウゴをおびき出せますか?」



「ちょっ!ユリ!許さないよ!」


誰よりも早く龍景が反応した。

芙蓉が見ると、立ち上がって怒る龍景を芙蓉の夫が引き留めている。



「無理ね。芙蓉とユリでは紫竜の匂いの種類が違うのでしょう?」


「で、でも!ジュウゴを始末しないと結太は安全に暮らせない!」



「ユリ、落ち着いて。ユリにそんなことをさせるくらいなら、私が行くわ。」



「は!?芙蓉!?」

今度は夫が叫ぶ。



「2人は解放軍じゃないから危険な囮役なんて頼まないわ。ただ、ジュウゴを一刻も早く始末するために何か協力をお願いできないかと思って。」


「何でもするわ!」


「まだ作戦を思い付いてる訳じゃないの。ただ、ジュウゴは豊の暗殺に失敗してるから、たぶんまた狙ってくる。だから豊を囮にしてジュウゴ自身を誘き出せないかと考えてる・・・」


芙蓉は巴衛に協力したい。

芙蓉がジュウゴ狙われているせいで、父も結太も巻き込まれているのだ。


だけど、どうしたら?

ジュウゴはどうして芙蓉を狙っているのだろう?


ジュウゴが兄だとしても、芙蓉を殺そうとする理由が分からない。

兄は芙蓉のことを嫌っていたけど、殺すほど恨まれた覚えはないのだ。


芙蓉を遊郭に売ったことがバレて投獄されたことを恨んでる?


でも、兄は釈放されて解放軍のジュウゴとして生きていたなら、今更、夫の一族を敵に回してまで、巴衛たち解放軍と対立してまで芙蓉を殺そうとしているのは違和感がある。



「ジュウゴは出てきますか?水連町にはジュウゴの部下の人間もいるんですよね?」


ユリが尋ねる。


「鷺領とワニ領では芙蓉を狙ってジュウゴ自身が来ていたみたいよ。それにワシの桃は死んだみたいだから、ジュウゴの獣人の手下はかなり減ってるはず。人の部下は獣人ほど手荒なことには協力しないはずよ。

放火や殺人がバレたら、ジュウゴの部下だとは分からなくても、水連町で暮らせなくなる。」


「水連町の人はどうしてジュウゴに協力を?私のせい?」


「芙蓉は関係ないわ。解放軍を嫌う人間は昔から居るの。仕方ないわ。私たちはかなり過激なことをしてきたからね。恨みをもつ遺族は多いし、奴隷商人との取引がなくなって没落した商家も少なくないの。

それに水連町には方々から住民が流入してきてるから、よくも悪くももう芙蓉の知る町ではなくなってるわ。」



「・・・ねえ、あなた?ジュウゴを始末して結太を守る限りで、私には危険がない方法なら解放軍と協力するのはアリ?」


ユリが龍景に問いかけた。


「妻の家族の警固には妻自身は関与しないよ。護衛を雇う金なら出すから・・・」


龍景は嫌そうだけど、


「ジュウゴを始末するために解放軍を利用するのは構わない。だが、妻の安全に関わることなら族長の俺と夫の龍景の判断に従ってもらう。」


なんと夫は許すらしい。



「族長!?」


「龍景、解放軍がユリを連れ戻すつもりがないなら、妻たちが利用するくらいいいだろ。ジュウゴの始末が最優先だ。」



「あなた、大好き」


芙蓉は感動した。

あんなに頭が固く、芙蓉のことしか考えていない夫だったのに、なんと成長したことだろう!?



「え!?もう一回言って!」


りりしい顔で龍景に話しかけていたのに、夫は一瞬でだらしない顔になってしまった。



「芙蓉、司令官に香水瓶のことを相談してみない?」


「え?」


ユリが意外なことを言い出した。


「私は一連の窃盗が策士と無関係とは思えないの。司令官の勘はすごいのよ。」


「そ、そう?」


芙蓉は半信半疑だけど、巴衛が応じてくれたので、昔から芙蓉や三輪たちのものが盗まれていた事件や今回香水瓶の罠をはったけど失敗したことを巴衛に伝えた。



「・・・なるほど。おそらく策士の部下が紫竜本家に使用人として潜入してるはずよ。昔から策士は独自のルートで紫竜の情報を持ってきていたし、策士の部下獣人が紫竜の匂いを区別できるようになったのは最近のはずだから。

芙蓉たちの私物を盗んで、人目のない温室で匂いを覚えていたのかも。」


「やっぱり!芙蓉の推察は正しかったのよ!」


ユリは嬉しそうだ。



「でも香水瓶の罠は失敗したわ。何が悪かったのかしら?」


「・・・芙蓉が他の妻にプレゼントすることはよくあるの?」


巴衛が尋ねてきた。


「たまに、ね。でもお茶会でプレゼントを配るのは初めてだったから怪しまれたのかも。」


「温室で盗品が見つかったことを盗人が把握してるならその直後の香水瓶作戦は余計に警戒されたのかもしれないわね。

でも、作戦自体はいいと思う。何度か繰り返せば罠にかかるかもしれないわ。」


「司令官、香水瓶の中身になにか仕込まれてる可能性はどうですかね?見た目には分からないらしいんですけど、熊族から仕入れてしばらく本家の倉庫に置いていたらしいです。」



「熊族!?」



巴衛は眉をしかめた。


「熊族に何かあるの?」


「・・・芙蓉は知ってるのよね?ケープが点滴薬に混入された毒で殺されかけた事件のこと」


「知ってるわ。もしかして、あの点滴薬も熊族なの!?」


芙蓉は驚いた。

まさに昨日、そのことを考えていたのだ。



「ええ。熊族の工場で作られて、オオワシ族に売られたものだったらしいけど、ハクトウワシの依頼で北の貴族の研究所が調べたところ、解放軍の毒が見つかったそうよ。

その発表をうけて、熊族から同じ点滴薬を仕入れた複数の種族でも調べたら、毒が検出されたらしいわ。

そのことから、毒は熊族の工場で混入されたと噂になって、熊族長は工場の調査を命じたらしいわ。」


「熊!?熊がケープを殺そうとしたの!?」


芙蓉とユリは驚いた。



「オオワシ族が点滴薬を仕入れたのは、芙蓉の公式訪問が発表される前だったらしいから、ケープを狙ったとは思えないわ。

これは推測だけど、熊族を狙う策士の残党の仕業かもしれないわ。」


「え?ジュウゴとは別ってこと?」


芙蓉はよくわからない。



「ええ。策士は元々、熊族に恨みを抱いて解放軍に協力したの。紫竜のことも嫌いだったけど、策士の標的は熊族だった。

熊族の商品に毒を混入して世界中にばら蒔いて熊族の取引信用を落とそうとしてる可能性が高いわ。」


「・・・じゃあ、芙蓉を狙った訳じゃないけど、その毒が熊族の香水瓶にも混入されてる可能性はあるってことですか?」


「あくまで推測だけど、香水瓶は調べてるの?」


「昨日、お願いしたところなの。」


芙蓉が夫を見ると、


「今朝、北の貴族宛に持っていかせた。明日の晩までには結果が出るそうだ。」


夫が教えてくれた。



「そんなに早いの!?」


ユリは驚いている。


「俺の妻の頼みだぞ。手数料上乗せして最優先させるのは当然だ。」


夫は誇らしげだけど、芙蓉はそこまで頼んでないのに。



「にしても、もしも熊族の工場で毒が混入された香水瓶を芙蓉に売ったとなれば、策士の残党の仕業だとしても、熊族長には責任がないとは言えないな。」


夫は怖い笑みを浮かべている。

夫は熊族が大嫌いなのだ。



「あなた、私は熊族長の命は望みませんからね。」


芙蓉は心配になってきた。


「ん?ああ、熊の首なんて使い道ないからな。そうじゃなくて、策士の別の残党が熊族を狙ってんなら、ジュウゴの捕獲に熊を利用できそうだと思ってな。

だから、芙蓉、北の貴族が結果の報告に来るまでトモエをここに留めておかないか?」


夫が想定外のことを言い始めた。



「えっと、何日もは・・・」

芙蓉は困って巴衛を見たけど、


「私は構わないわ。水連町は豊に任せてあるから。他の幹部もいる。」


巴衛は意外にも応じてくれた。

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