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紫竜の花嫁  作者: 秋桜
第24章 豊編
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族長妻のプレゼント

~リュウカの部屋~

宴会の翌日、芙蓉がお茶会に向けて化粧をしているところに、夫がやって来た。


「何もなかったの!?」


「ああ。例の香水瓶は無事だ。倉庫に運び込んでから今まで窃盗どころか不法侵入すらない。

香水瓶の管理をしていた使用人と、わざと瓶を割った際に掃除を担当した使用人にも確認したが、何も工作はしてない。」


夫は狙いが外れてがっかりしている。



「怪しまれたのかしら?」


「そんなことはないと思うぞ。少なくとも妻たちはあの香水瓶が芙蓉からのプレゼントだと浮き足立ってるらしいし、熊族はすでに香水の量産を始めたんだと。」


どうやら芙蓉の予想以上に期待が高まっているようだ。

一言もあの香水瓶がプレゼントだと公表はしていないけど、勘違いさせる目的でやっているから、芙蓉は心がいたい。



「まあ、一回でうまくいかないこともあるさ。熊族の香水瓶はどうする?

異常はないし、このまま妻たちに配るか?」



「そう、ね・・・」


それが他の妻や熊族に迷惑をかけない後始末だけど、だけど・・・芙蓉は何か落ち着かない。


香水瓶は本当に問題なしなのだろうか?



「芙蓉?」


夫が心配そうに覗き込んできたので、芙蓉は夫に笑顔を向けようと顔をあげると、ふと壁に飾った羽が目に入った。



あれは昔、ケープからもらった羽だ。

龍風がおもちゃにしようとするので、額に入れて壁に飾ったのはもう何年も前のこと。

飾っていることすら芙蓉は忘れていたのに、夫の背後の壁に飾られた羽がなぜか目に入った。



「あ・・・ケープの点滴」



同時に芙蓉は思い出した。

イヌワシ族本家で、ハクトウワシの医師が持ってきた点滴袋にいつの間にか毒が混入されていたことを。


あの時は鳳雁の羽によって危険が分かり、ワシたちは中身を調べると言っていた。



「は?ケープ?天敵?」


夫は首を捻っている。



「あなた、お願いがあるの。」


「ん?なんだ?ケープなら順調に回復してるらしいぞ。」


「今はそっちじゃないわ。香水瓶の中身に変な物が入ってないかを調べてもらいたいの。」


「・・・香水瓶の蓋は開けられてないぞ。外から壊した形跡がないことも確認してる。」


夫は乗り気じゃないみたいだけど、



「ケープの点滴袋も見た目は異常なかったのに、鳳雁様の羽が光ったわ。」



「そういえば、そうだったな。ワシたちは人族に調査させると言ってたし・・・分かった。」


夫が納得してくれたところに、竜礼がやって来た。



「族長、奥様~お邪魔いたします」


「どうした?」


「朝顔亭の奥様に打診して参りました。お茶会の後のトモエとの面談に参加されるそうです。

それと、香水瓶の中身に異物が混入されている可能性があるので、調べてほしいそうです。」


ユリも芙蓉と同じ懸念をしているらしい。



「芙蓉も香水瓶を調べてほしいと言ってるんだ。竜礼、北の貴族に調べさせろ。」


「畏まりました、族長。」


竜礼はリュウカの部屋を出ていき、芙蓉はそれからまもなくお茶会会場に向かった。




~お茶会会場~


宴会の翌日、クルンは族長妻主催のお茶会に参加していた。

龍韻の妻なので序列は低いが、熊族の妻は2人、今年、熊族は初めて当代族長夫婦の公式訪問を受けて、主要取引先としての地位を回復してきている。


それに加えて、熊族からの前情報では、族長妻は熊族から最高級香水を1ダース仕入れたそうだ。

量的にプレゼント用だろう。


本家の使用人の間でもそんな噂が広まっており、香水瓶が割れた後、族長妻は追加で購入までしたそうだ。


熊族は今日のお茶会で族長妻から他の妻たちに贈られると見込んで、すでに量産を始めているらしい。


龍希と熊族の不仲は有名だが、族長妻はいつもお茶会ではクルンと熊族商品の話をしているので、妻は気に入っているのだろう。



狼族が主要取引先から転落し、今は白鳥族と熊族が主要取引先の順位を争っている。

白鳥妻は2人となった上、クルンよりも序列が高いので、油断できないのだ。



族長妻がやって来た。

今日もフクロウ侍女を連れている。


昨日の宴会の着物も見事だったが、今日の着物も相当高価なはずだ。


熊族の公式訪問時の着物も大層な物だったそうで、熊族は改めて龍希の財力に歯軋りしたらしい。



今となっては、先代族長の熊妻が、龍希の母孔雀と露骨に対立したのは失策だった。

仲良くは出来なくとも、孔雀族を懐柔して距離感を保つことは可能だったろうに。

そうしておけば、龍希と露骨に対立することは避けられたろうに。


希代の賢女と讃えられた先代族長妻は、嫉妬に狂って未来を見誤った。


今さらこんなことを考えても仕方ないけど、龍希の妻はどの妻とも対立していない。

敵を作らない立ち回りは見事だ。



「そうだわ。今日は皆さんにプレゼントがあるの。」


お茶会の終わり、族長妻がついに切り出してきた。

フクロウの侍女が壁際のテーブルにむかう。

お茶会の最初からこのテーブルには何かが置かれ、上から紫色の風呂敷がかけられていたのだ。



「まあ!?なんでございましょう?」


白鳥妻のアイーダはわざとらしく驚いている。

熊族の香水瓶のことを知らない妻はいないはず・・・



「え!?」



フクロウ侍女が風呂敷をはずし、現れた物を見て声をあげたのはクルンだけではなかった。


テーブルに置かれているのは香水瓶ではなかった。

熊族の商品ですらない。


これは・・・



「象族のボディークリームなの。皆さんのお好みに合うかは分からないけど、以前のお茶会でお騒がせしたから、そのお詫びもかねて。」



族長妻がそう言うと、壁際に控えていた侍女が序列順にフクロウ侍女の元に行き、ボディークリームの瓶をもらって来て、担当妻の前のテーブルに置くけど、クルンはまだ信じられない。



熊族の予想が外れた!?


そんな!?今更・・・

勘違いでしたなんて、熊族は笑い者になるだけではすまない。



だけど、誰も族長妻に事情を聞ける訳もない・・・



「あの、族長の奥様?」


凍りついた空気の中、声をあげたのは睡蓮亭の人族妻だ。



「なあに?」


「興味本位のご質問になるのですが、どうして象族の商品を?実は今日のプレゼントは熊族の香水じゃないかとの噂がありまして・・・」



『ぶっこんだなぁ!?』



クルンは驚きのあまり睡蓮亭の妻を凝視してしまった。

いくら族長妻の同族で、龍緑の子を3人産んで、古参の妻になってきたとはいえ・・・プレゼントに難癖をつけていると思われても仕方ない質問をしている。



人族妻の隣の龍空の新妻白鳥は驚きのあまりポカンと口を開けて、人族妻を見ている。



「あら、そうなの?

今回はわざと妻の出身種族以外の商品から選んだの。妻の務めとして夫の一族の序列には従うけど、特定の妻の種族を贔屓していると噂されたら困るから。」



族長妻は驚いているけど、これは演技だとクルンにも分かった。

この噂が族長妻の耳に入っていないはずはない。



『所詮は龍希の妻か!』



クルン悔しくて仕方ないが、態度には出せない。

族長妻に喧嘩を売ったなどと言われては、クルンは即離婚させられる。


序列が低く、嫁いで何年も妊娠しないクルンの立場はもろいのだ。




~別荘~


お茶会を終え、芙蓉は夫と別荘に来た。

別の馬車でユリと龍景も来ている。


昨晩からここで巴衛が待たされているらしい。



別荘に入り、廊下を歩いていくと、少し前まで豊さんがいた客間の前には龍算がいる。

ここに巴衛が滞在しているらしい。



「芙蓉、お願いがあるの。」


客間の扉を開ける前にユリが話しかけてきた。


「なに?」


「先に少しだけ、私が話をしてもいい?」


ユリは不安そうな顔だ。

ユリは解放軍を辞めたと言っているけど、龍景との結婚の経緯からすれば、巴衛と話をつけて辞めたわけではないはずだ。



「もちろん。私はユリのことは何も伝えてないの。」


芙蓉は微笑んで、ユリに譲った。



芙蓉がユリ夫婦に続いて客間に入ると、巴衛は立ち上がって部屋の中央辺りで待っていた。


ユリを見ても驚いてはいないから、豊さんから事前に聞いていたのかもしれない。



「司令官」


ユリは巴衛に駆け寄っていき、泣き始めた。


「元気そうでよかったわ。」


巴衛は優しく微笑んで両手を出すと、ユリはその手を握った。

芙蓉の思ったとおり、巴衛は解放軍を辞めたユリのことを怒ってなんかいないのだ。



「すみません。あんなにお世話になったのに、私・・・私・・・」


ユリはボロボロと涙を流して謝っている。

芙蓉がちらりと龍景を見ると、怖い顔で巴衛たちを睨んではいるものの、ユリを引き離すつもりはないらしい。


いや、龍景のすぐ前で夫と龍算が警戒した視線を龍景にむけているので、油断はできない。

 


「謝ることはないわ。あなたの人生に解放軍が不要になったなら、それはいいことよ。」



巴衛の穏やかな言葉を聞いて、ユリは両ひざを床についた。両手は巴衛の手を握ったまま泣き続けている。


普段は気丈に振る舞っていたけど、ユリには解放軍に対する負い目がずっとあったのだろう。



芙蓉はユリが泣き止むまで黙って待っていた。

夫たちも何も言わず2人を見ている。 



「・・・すみません」


ユリが泣き止んで立ち上がると、竜礼が背後から近寄っていって、ハンカチを差し出したので、ユリは巴衛の手を離してハンカチで涙を拭いた。



「終わったか?」


夫が問いかけると、ユリは頷いて、龍景のとなりに戻った。



「族長、俺からもこの人族に一つだけ質問したいことがあるのですが」


龍景は巴衛を睨んだまま、意外なことを言い出した。


「妻たちの話の後にしろ。」


「すぐ終わります。お願いします、奥様」

龍景は今度は芙蓉を向いて頼んできた。



今日は、芙蓉と巴衛の面会の場なので、決定権は芙蓉にあるということだろうか。



「どうぞ、龍景様。」


これ以上、龍景の機嫌が悪くなると怖いので、芙蓉は譲ることにした。



「結太が居た水洞町の神社を燃やしたのは解放軍か?」



「え!?」


龍景の質問に芙蓉だけでなくユリも驚いている。


「・・・結太の居た神社は知りませんが、水洞町の光石神社の火災なら策士の仕業です。」


巴衛は無表情で答えた。


「ミツイシ神社!?そこです!そこに結太が!」


ユリが叫ぶ。



「これは火災の後に捕えた策士の部下の話ですけど、その神社の神主夫婦は策士と繋がっていて、紫竜の探すハヤブサを匿っていたそうです。

ところが、紫竜がそれを嗅ぎ付けてきて、ハヤブサを始末したそうで、神主夫婦から自分のことがばれることを危惧した策士は、部下に始末を命じたそうです。

・・・ただ、神主の息子は桃が誘拐したと。息子はシリュウ香を持っていたので、桃は紫竜に密告した人族だと思ったとか・・・」



「そんな・・・」


ユリは驚いているけど、芙蓉も言葉が出ない。


結太を神社で見つけ、シリュウ香を渡したのは龍陽だ。

息子はハヤブサのことなんて何も言ってなかったので無関係だろうけど、息子たちが神社を訪ねたせいで、シリュウ香のせいで、結太の神社は焼かれ、養父母は殺されたのだ。



「嘘はないな。」

夫が教えてくれたけど、巴衛が嘘をついてないことは分かっている。


「紫竜がユリの息子を利用してハヤブサを始末したのではないですか?」


今度は巴衛が芙蓉の夫に尋ねてきたけど、


「ハヤブサは関係ない。ユリがうちの一族に有益な情報を持ってきたから、謝礼金代わりに息子を探してやったんだ。」


夫は否定するけど、言葉がよくない。



「情報はゴリラ族の避妊薬のことよ!解放軍は関係ない。」

芙蓉は思わずフォローしたけど、


「分かってるわ。ユリは仲間を売ることはしないって。」


巴衛は微笑んだ。


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