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紫竜の花嫁  作者: 秋桜
第24章 豊編
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口封じの呪い 

~???~


「・・・ん?」


芙蓉は目を覚ました。

部屋は明るいけど、見慣れない天井だ。



「・・・あれ!?」


芙蓉が上体を起こすと、ここは・・・医務室だ。

元はシュシュ医師の、今はシュグ医師の第2医務室として使われている。



でも、芙蓉はリュウカの部屋の自分のベッドで寝ていたはずなのに!?

医務室には誰もいない。



「シュン?モカ?」


芙蓉が扉に向かって声をかけると、すぐにノックしてシュンが入ってきた。


「奥様!?お目覚めに!」


シュンは大袈裟なほど喜んでいる。



「どうしたの?なんで私はここに?」


「奥様は丸4日お休みだったのです。朱鳳様の神業によりお身体がお疲れとのことで、族長の要請で毎日朱鳳様が様子を見に・・・」


「えええ!?」



芙蓉は驚きのあまり大声が出た。

そんなに長く寝ていた感覚はないのに・・・というよりものすごく頭がクリアで身体は軽い。


だけど、そう言われるとすごくお腹がすいてきた・・・



ドタドタ



シュンがお粥を持ってきてくれるのを待っていると、外から走る足音が聞こえていた。

この音は夫だ。


「芙蓉!」


扉が勢いよく開いて夫が駆け込んできた。


「あなた、ごめんなさい。ずいぶん寝ていたみたいで・・・」


芙蓉が言い終わる前に夫に抱き締められた。


「よかった・・・」


夫は絞り出すような声だ。またかなりの心配をかけてしまった。



コンコン



「奥様、お邪魔致しますよ」


ノックして入ってきたのは、鳳雁だ。

シュンが言っていたのはやはりこの方のことだったようだ。


「すみません、ご心配をおかけしました。」


「いえいえ。本来はこの2倍はお休み頂くのですが、夫竜が煩いので回復の助力を致しました。」


鳳雁はさらりと言うけど、魂を身体から離すのはかなり大変なことだったらしい。

事前に聞いていたら、夫は許さなかっただろう。芙蓉が寝ている間、どれほど荒れたのやら。

鳳雁が毎日芙蓉の様子を見に来るなんて、相当夫の相手が大変だったようだ。



「お身体はもうよろしいですか?」


「はい。もうすっかり。ありがとうございました。」


芙蓉はベッドから降りて鳳雁に頭を下げた。


「では私は失礼しますので、奥様への説明をよろしくお願いしますよ、紫竜族長。藍亀族長たちが首を長くしてお待ちですので。」


「え!?」


藍亀族長も来てるの!?

芙蓉が夫を見ると、夫は渋い顔で、驚くべきお願いをしてきた。




~応接室~


翌日、芙蓉は、龍陽と一緒に藍亀族長のいる応接室に来ていた。

夫は2時間前にリュウレイ山に向けて出掛けていった。

芙蓉が記憶を失うのを嫌がって口封じの呪いを希望したからだ。


口封じの呪いは藍亀族長にしかできないらしい。

妻に命の危険が迫ると、夫竜は理性を失って襲いかかる危険があるので、藍亀族長は夫が本家を離れることを呪いの交換条件にしたのだ。


当然、夫の反対はすさまじかったけど、芙蓉と子どもたちでなんとか宥め、龍陽と龍緑が呪いの立会をすること、藍亀族長が呪いにあたって芙蓉の身体に触れることはないことを条件に、夫は渋々応じたのだ。


深夜にまで及ぶ説得だった。

龍緑まで巻き込んで申し訳ないけど・・・夫は普段は龍海に任せるのに、龍海は今忙しいのだろうか?



「おはようございます、奥様」


「藍亀族長様、お待たせして申し訳ございません。」


「とんでもない。頭をあげて下さいませ。夫竜をご説得頂きありがとうございました。」


新しい藍亀族長は営業スマイルを浮かべている。

彼がまだ族長後継だった頃は、夫に遠慮している節があったのに、族長となった今はそんな素振りはない。



「さて、では早速ですが、呪いの説明を致します。」


藍亀族長がそう言うと、3歩後ろにいた雌の藍亀が藍色の風呂敷を藍亀族長に渡した。


藍亀族長は風呂敷から手のひらサイズの小刀?を取り出した。

骨から彫り出されたのか真っ白な小刀だ。表面に細かい模様が彫ってある。



「ふ~」


藍亀族長が小刀に息を吹き掛けると、小刀は藍色の光に包まれた。


「では、奥様、左手の手のひらを出して下さい。この小刀を乗せます。」


「は、はい。」


芙蓉が左手を差し出すと、藍亀族長は小刀を手のひらに乗せた。


「では、奥様、小刀にむかって、『私は朱鳳のストールの治癒能力を終生、誰にも明かしません。この命をもって誓います。』と声に出してご誓約ください。」



「私は朱鳳のストールの治癒能力を終生、誰にも明かしません。この命をもって誓います。」


芙蓉が小刀に向かって声に出すと、小刀は赤色に輝いた後、また藍色の光に包まれた。


『まさかこれで終わり?』


芙蓉は拍子抜けしたのだが、



「では奥様、その小刀を今度は右手でお持ちください。」


「は、はい。」


まだ終わりではなかったらしい。

芙蓉は言われたとおり、右手の親指と人差し指で小刀を持った。



「小刀を奥様の左胸、心臓の上に当てて下さい。」


「はい。服の上からでよいですか?」


「ええ。」


芙蓉は着物の上から小刀を左胸に当てた。


藍亀族長は何をさせるつもりなのだろう?



「その小刀は奥様の身体を傷つけることはありませんので、そのまま身体の中、心臓まで突き刺して下さい。」



「え!?」


「は!?」


芙蓉と同時に息子も声をあげた。


「どういうことだ?母上の身体を刃物で刺すのか!?」


「奥様の肉体は傷つきませんよ。ただ、小刀が心臓に到達すると痛みは生じます。」


藍亀族長は営業スマイルのまま説明するけど、芙蓉は怖い。


心臓に刺す?

この小刀を?自分で?



「心臓に刺さった小刀が奥様を傷つけることはありませんよ。誓約を破らない限り。」



藍亀族長は嘘は言っていないのだろうけど、文字通り命がけの誓約なんだろうけど、芙蓉が自分で刺すの!?


芙蓉は恐怖で手が震え始めた。



「母上!?大丈夫?」


息子が心配そうに覗き込んできたけど、芙蓉は笑顔をつくれない。



頭の中にこの小刀が心臓に突き刺さって・・・自分が死ぬ姿が浮かんできて、消えてくれない。



カラン


右手の小刀を落としてしまい、芙蓉は拾おうとしゃがんだけど、手だけでなく身体全体が震えてきて、芙蓉は床に座り込んでしまった。



「奥様!?」


いつの間にか来ていた竜礼がかけよってきた。

龍緑も近くまで寄ってきたけど、芙蓉とは距離をとっている。



「無理はなさらない方がいい。」


藍亀族長の声で、芙蓉が顔をあげると、藍亀族長は営業スマイルを辞めて、哀れむような顔になっている。



「この呪いは獣人向けではないのです。獣人は本能的に死を怖れる。私は紫竜の花嫁に干渉はできませんが、別荘の人族には、この呪いはやめて、記憶喪失の呪いを受けるよう助言しました。」



藍亀族長の言う別荘の人族とは豊さんのことだろう。

やっぱり彼も呪いの対象になったようだけど、芙蓉と同じく口封じの呪いを希望したみたいだ。



「別荘の彼はどうしたのですか?」


「まだ悩んでおります。記憶を失うことも簡単なことではないでしょうが、こればかりは朱鳳も紫竜も譲れないでしょうから、巻き込まれてお気の毒です。

だけど、命まで懸ける必要はない、と別荘の人族には申し上げておきました。」



藍亀族長はこんな言い方をしているけど、芙蓉に助言してくれているのだ。

だけど、芙蓉は記憶を失くすのは困る。三輪の時と違い、一度失えば二度と戻らないのだ。




「・・・奥様、少し休憩してはいかがです?」


竜礼が遠慮がちに提案してきた。


芙蓉はまだ震えて床からも立ち上がれないので、小さく頷くと、藍亀たちは応接室から出ていった。



「母上!?大丈夫?」


息子が床に跪いて尋ねてきた。


「だ、大丈夫。ちょっと、だけ、怖くなったの・・・」


芙蓉はなんとか声が出た。



「昨日、別荘のユタカも同じような反応で、藍亀族長が中止しましたの。」



竜礼が教えてくれた。

豊さんは藍亀のことすらろくに知らないかもしれない。芙蓉よりももっと怖いことだろう。


芙蓉が怖じ気づいてる場合ではないのに・・・床に落ちた小刀に触れるのも怖い。



「今日は中止して、族長を呼び戻しましょうか?」


龍緑が遠慮がちに提案してきたけど、芙蓉は今は夫よりも・・・


「豊さんと話をしたい・・・」



「え!?いや、それは族長が・・・」


龍緑は困った顔だけど、


「いいじゃない。同族と話せば奥様も落ち着けるわよ。ユタカは奥様に狼藉なんてしないけど、念のため、若様と龍緑と、私も立ち会います。

族長には、後から奥様がお話し下さいますよね?」


なんと竜礼は乗り気だ。


夫には悪いけど、夫が居たら豊さんと話はできないかもしれない。



「龍緑様、お願いします。あとで、私が夫に話しますから。」


芙蓉が頼むと、龍緑は渋々ながら頷いて、馬車の手配をしてくれた。


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