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紫竜の花嫁  作者: 秋桜
第24章 豊編
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誕生プレゼント

~紫竜本家~

魂の旅を終えた芙蓉が眠っている頃、本家では竜礼、竜染、竜冠が会議をしていた。



「ハクトウワシ族から族長妻にお礼の品が届いています。」


竜染はそう言って壁際の机に置いた大きな木の箱を指差した。



「お礼?お詫びじゃなくて?」


「族長妻がケープを治療した礼だそうです。竜礼様」


「あ~そういえば。ケープは生き延びたの?」


「そのようです。羽を失っても生き延びた鳥族なんて前代未聞ですけど、なにせ族長妻自ら助命手術をしたので、表だって非難する種族はいないようです。」


「ふふ。ケープは気にしないでしょ。大したものねえ。龍算兄ちゃんの子どもさえできてれば文句のない妻だったのに。」


竜礼から見て、ケープは歴代の妻の中でもっとも夫婦仲がよかった。

というか、よく立場を弁えていた。


当時からケープはワシ族の中でも弱小だったハクトウワシ族の権威をあげるため、後継候補の妻としての役割を心得ていた。

 当然、若い兄との子作りにもよく付き合っていたが、ケープは何年たっても子を成せなかった。


だけど、離婚後にケープはハクトウワシの子を産んでいるので不妊ではなく兄との相性の問題だったようだ。



「竜礼様はまだ怒ってます?龍希が無理矢理、離婚させたこと?」


竜染がつまらない質問をしてきた。


「まさか。むしろ感謝してるわ。兄ちゃんも妻を変えて子を授かったんだから。」


兄がケープとの離婚後に迎えた鹿妻はとんでもないハズレだったけど、その次の狼妻は跡取り息子に加えて娘も産んでくれた。



兄の子達は竜礼の宝物だ。



「龍算様はまだ子をお望みなのに、相変わらず良い縁談が・・・」


竜冠が話題を変えた。

やはりこの娘は竜染よりもよほど空気が読める。



「そうなのよね~龍算兄ちゃんは取引先のランクにはこだわらないって言うけど、年齢的に子ができてもできなくても最後の妻になりそうじゃない!?

兄ちゃんは龍賢の後継補佐官になるんだから、足を引っ張るような妻は困るのよね。」



「そうですか?不要になったら狼妻のように切り捨てる可能性も・・・」


竜冠はなかなか切り込んでくる。

正直、兄が狼妻との離婚を望んだのは意外すぎた。


2人の幼い子どもたちには母はまだ必要だったのに、それよりも兄は子作りできる新妻を望んだのだ。


兄なら子が3人でも養えるだろうけど、今の2人でも十分なのに!?



「確かにね~今の族長はとにかく離婚に寛容だからな~」


先代族長とは大違いだ。

まあ先代の時は竜湖の影響も大きかった。


朱鳳に嫁いで4人の子を産んだ竜湖は、とにかく離婚に否定的だった。

おかげで竜礼はかなりの嫌がらせを受けてきたのだ。



「ねえ、なんで龍算兄ちゃんはまだ子がほしいのかしら?」



この2人から答えなんて返ってくるはずないけど、竜礼はつい尋ねてしまった。



「直接お尋ねにならないのですか?」


竜染がまたつまらない返事をしてきた。

竜冠は渋い顔になるも、竜染に指摘する勇気はないらしい。



「きいたわよ。『いいだろ、別に。』だって。

兄ちゃんは私に大切なことほど教えてくれないのよ~」


竜礼はいつまで経っても兄に信頼してもらえない。

かつて、兄の鹿妻の産んだ子が兄の子ではないとの疑惑が持ち上がっていた時、兄はそのことを龍希や竜染には相談していたらしい。


竜礼には、「心配するな」としか言わなかったのに、悩んでいる姿なんて一度も見せてくれなかった。


龍希や竜染なんかより竜礼の方が役に立てるのに!

と思っていたが、鹿妻の陰謀を暴いたのは龍希の妻で、竜染も重要なアシストをしたから、兄が選んだ相談相手は正解だった。



「そうなのですか!?」


竜染だけが驚いている。

他の女たちは、竜冠ですらとっくの昔に察しているのに、こいつはとにかく頭が悪いのだ。



「一族の子不足解消のためでは?龍算様は責任感の強いお方ですから。」


竜冠の回答はありきたりすぎる。

それもなくはないだろうけど、それなら若い龍灯や龍景にプレッシャーをかける方が効率がいい。


正直、兄の年齢的に兄自身が再婚して子作りをするのは賢いやり方ではないのだ。


兄は他竜の夫婦問題には口を挟まないとの立場で、自分より若い雄竜たちに何も言わないところを見ると、一族の子不足問題に熱心というのは違和感があるのだ。



「あ!そうですわ!オオワシ族とイヌワシ族から縁談がきております。」



竜染が話題を変えてしまった。


「龍算兄ちゃんはダメね。」


「えっと、竜礼様にです。」


「え!?私?もうキツイかな~産卵は」


竜礼は今は独身だ。

数年前、最後の夫との間に子を授かったが、卵詰まりを起こして死にかけたのだ。

 シュグたちは竜礼の身体は妊娠による死のリスクが高いと診断し、今の族長は竜礼の離婚を許してくれた。



「どちらのワシ族も子どもは望まぬそうです。雄竜との縁談が難しいことは承知しているのでしょう。竜礼様の最後の番に選んでもらえないか?と打診してきました。」


「ふっ。よく言うわ。もう子どもを作るのが難しい雄を体よく押し付けたいだけでしょ!?なめられたものねえ。」


「竜礼様。ワシ族の子はしばらくおりませんので龍陽の縁談相手を確保しておきたいのです。」


「分かってるわよ、竜冠」



竜礼は分かっているのだ。


雌竜の縁談は途切れることがない。

雌竜からは夫の種族の子しか産まれない上、雌竜が死ねばその財産を子が相続することもある。


雌竜は結婚しても一年の大半を紫竜本家で過ごすので夫のストレスは、紫竜の妻とは比べ物にならない。


だから昔から取引先は、花嫁候補を差し出す代わりに雌竜との縁談を要求してきたのだ。


だけど、竜礼には元夫たちはもちろん産んだ夫の子にもなんの興味もない。

財産は、兄の子たちに残すつもりなのだ。



「ちょっと考えさせて。もう身体の衰えは受け入れてるつもりなんだけど、子を産まない前提の結婚なんて、私はすぐには受け入れられないわ。」


「竜礼様はもう十分すぎるほど子を産んでこられました。ご自愛してくださいませ。」


竜冠も竜染もすがるような目で見てくる。



雌竜の死因の第一位は妊娠出産だ。

竜礼の下には竜染と竜冠しかいない。

危機的な子不足も原因だけど、竜礼の同世代の女は何人も妊娠出産により死んだ。

龍栄の姉の竜帆もその一人だ。


竜帆は竜礼よりも強い力を持っていたのに、最初の妊娠で卵詰まりを起こして呆気なく死んでしまった。



「分かってるわ。もう年寄りだから無理しないわよ。」


竜礼は受け入れるしかないのだ。

分かっているのに、すぐには決断できない。



~竜礼の部屋~


竜礼が会議を終えて自室に戻ると、リボンのついた大きな箱が届いていた。


「今年も?」


竜礼は呆れ半分、嬉しさ半分だ。

中身は見なくても分かる。


兄からの誕生プレゼントだ。

兄は毎年欠かさずドレスを贈ってくる。


もう誕生を祝ってもらう年齢じゃないのに。



「もうとっくに大人なのに・・・」



そう言うものの、竜礼は今年も泣いてしまった。

嬉し涙だ。



竜礼は親から望まれぬ子だった。

仕方ない。

父は当時、後継候補で、2人目の息子を熱望していたのに、ワニの母もそうだったのに、


娘が産まれてしまった。



母は絶望し、父は怒って母と離婚したらしい。

後継候補としては正しい選択だったのだろうけど、そのせいで、兄は生母を失い、竜礼はワニ族に恨まれることになった。


父は産まれたばかりの竜礼の養育を守番に任せ、早々に再婚するなり、兄と竜礼を自分の巣から追い出した。


新妻との子作りに邪魔だったからだ。

だから、幼い竜礼の記憶の中に父はほとんど居ないし、父の巣の記憶も、母の記憶も皆無だ。


同じ後継候補でも、娘も大切に育てた龍峰とは大違い。

だけど、竜礼には兄がいた。


3歳上の兄はいつだって竜礼のそばに居てくれた。

ワニの母に教われなかったことはすべて兄が教えてくれた。


龍峰が族長になって後継争いに決着がつき、兄が10歳になった時、父は跡取りの兄だけを巣に呼び戻そうとした。


だけど、兄は拒否したのだ。

竜礼とともに本家住まいを続けると言って、父は反抗する兄を殴ったらしいが、龍峰や龍賢が止めに入ったらしい。


兄と竜礼の両方を巣に呼び戻すか、2人ともをこのまま本家に置くのか選べと。


意外にも龍峰は族長権限を使ってまで竜礼たちの父を抑えつけたらしい。



父は兄のついでに竜礼も呼び戻すと言ったらしいけど、兄がまた拒否した。

守番とともに龍峰に直訴して竜礼との本家住まい続行を認めさせたらしい。


ただ、父からシリュウ香作りを教わるので、反抗的な兄は隠れて殴られていたに違いない。


兄は父から必要とされているのだから、父の巣に戻ればいいのに。


竜礼は一度、そう訴えたことがあった。

兄と離れるのは嫌だったけど、兄は竜神から役割を与えられ成獣したら後継候補になると言われていることは知っていた。


父は最悪の男だったけど、元後継候補だったので、父から多くのことを学んだ方が兄は生きやすくなるはずなのに。


竜礼は本家に一人残されても、守番も居たし、父は竜礼に興味がないだけで殺すつもりはなかったので、竜礼は一人でも育つことはできた。


だけど、兄は竜礼から離れなかった。


唯一の家族だから、兄だから竜礼が大人になるまでそばで育てるのだと言って。

10歳になってシリュウ香作りを始めてお金を稼ぐようになると、これからは自分の金で竜礼の誕生日を祝ってやると言って、プレゼントとケーキを毎年買ってくれるようになった。



竜礼が大人になってもずっと。

竜礼の誕生が嬉しかったから、そのお礼だ、なんてキザなことを言うのだ。


竜礼は親からは望まれない子だったけど、愛してくれる兄はいる、幸せな妹だ。


だから、竜礼は兄が大好きだ。


だけど、同時に兄は竜礼の重荷にもなっていた。

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