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紫竜の花嫁  作者: 秋桜
第24章 豊編
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記憶喪失の呪い

疲れた様子の妻をリュウカの部屋まで送り、龍希は鳳雁の待つ応接室に戻った。


少し前に藍亀が到着したとのことで、龍灯と龍景が応接室に案内してきたのだが、なんと依頼した雌亀だけでなく、藍亀族長も来ている。



「どうも。紫竜族長、鳳雁殿」


「まさか藍亀族長自らお越しとは!?」

鳳雁にとっても予想外だったらしい。


「ストールの約束は我が一族も関与しておりますからね。朱鳳族長もお越しになったとなれば、傍観はできませんで。」


やはり藍亀も昔の約束の経緯を覚えているらしい。



「早速だが、そちらの雌亀が獣人の記憶に干渉できるんだな?」


龍希は本題に入った。


亀青(きせい)と申します。ご依頼内容の確認ですが、ストールの秘密を目撃した獣人の記憶を奪えばよいのですか?」


この若い雌亀は、三輪の記憶喪失を治したらしい。

 


「ああ。ストールの秘密を見た記憶だけ奪ってくれ。」


龍希の返事に亀青は困った顔になった。


「なんだ?」


「申し訳ないですが、記憶の一部だけを切り取るのは無理です。全ての記憶を奪うことになりかねないので、獣人の同意がないと出来ません。」


「はあ!?できないのか!?」


龍希にとって想定外だ。


「一部の記憶だけを狙って奪うことはできないですね。一族の誰もできません。」

藍亀族長も断言する。



「・・・話が違うんですけど」



鳳雁が龍希を睨んできた。


「いや、こっちは出来ると聞いてたんだ。なら、どうすりゃいいんだ?」


龍希は龍灯と龍景を見たが、2人も困った顔になっている。



「・・・事情がよく分からないんですが、妻以外の獣人にストールの治癒能力を知られたのですよね!?」


藍亀族長から尋ねてきた。


「ああ。」


「口封じではダメなんですか?」


「・・・ワニの子はできなくはないが、人族はダメだ。借り物なんでな。」

龍希は渋々答えた。 


「借り物?紫竜の使用人ではないのですか?」


「ああ。」



「我らは妻以外の獣人にも口封じの(まじな)いはできますけど、朱鳳的にダメなんですか?」



「なんだ、それは?」

龍希には藍亀族長の言いたいことが分からない。


「・・・え?なんだって何が?」

藍亀族長は困った顔で龍希と鳳雁を交互に見てきた。



「紫竜にはかつての約束が正しく伝わっていないようですぞ、藍亀族長。」


鳳雁は呆れた顔で答えたので、こいつには藍亀の話が理解できているようだ。


「え?伝わってない?口封じの呪いが何か分からないってこと・・・ですか?」

藍亀族長は驚いている。


「悪かったな。こっちはお前らより寿命が短いんだ。」

この2人相手にハッタリは通用しないので、龍希は素直に認めた。



「・・・えーと、どこから説明しましょう!?紫竜と朱鳳の約束では、妻と使用人以外の獣人にはストールの治癒能力は明かさないこととし、ストールの治癒能力を知った妻と使用人には口封じの呪いを施すことになっています。

妻でも使用人でもない獣人に知られた場合には紫竜が始末をつけることにもなってますね。」



藍亀族長の説明も初耳だが、なぜか鳳雁も驚いている。


「お待ち下さい、藍亀族長!妻にもストールの治癒能力は知らせない約束では!?」


「え?いや、そんな約束はないですね。というか無理でしょう。驚異的な治癒をうけた妻は不審に思うでしょうから。」


鳳雁の疑問を藍亀族長はきっぱり否定した。


「いや、しかし、私の知る限り、紫竜は妻にも知らせないようにしてきましたよ。」


「・・・それは妻に口封じの呪いをするのが嫌だからでは?」



「口封じの呪いとはなんだ?」



龍希が気になるのはこれだ。


「その名のとおりです。妻がストールの治癒能力をほかの獣人に話したら、妻の命を奪う呪いですよ。」


「はあ!?」


龍希は驚きのあまり大声が出た。



「ええ!?本当に何も伝わってないんですか?紫竜と朱鳳で最後までもめた部分だと私は聞いてますけど!?」


藍亀族長は嘘をついていないけど、龍希の祖先は妻の命を奪いかねない呪いを許したなんて信じられない。



「あ~なるほど。妻に呪いをかけさせるくらいなら、初めから知らせない方がましってことですか。安直なことだ。」


鳳雁は納得したらしい。



「・・・かつての約束的に、妻から記憶を奪うのはダメなのか!?」



「朱鳳次第では?」

藍亀族長は反対するつもりはないらしい。


「・・・構いませんよ。」

鳳雁はあっさり同意したけど、


「奥様ご本人の同意がないと、私の呪いは発動しません。」

亀青が久しぶりに喋った。


「・・・妻は今日は疲れてるんだ。明日、俺から話す。」



「構いませんよ。それより、紫竜の使用人でもない獣人たちはどう始末をつけるんですか?」


鳳雁が尋ねてきた。


「・・・人族は借り物だからな。どちらの手段をとるかそいつの上司と話をつける必要がある。」


龍希はめんどくさいが、筋は通さなければならない。


「・・・なんとも慈悲深くなられたことで。妻の同族だからですか?」


鳳雁はなぜか驚いている。



「妻は関係ない。紫竜族長として、用が済んだら人族は返すと約束してるんだ。」


「では、ワニの子は?」


「子どもに死の呪いはなあ。記憶を奪ってくれ。」


「ワニの子が同意することが条件です。」

亀青は念押ししてくる。


「分かってる。そのへんは雌竜(うちのおんな)たちに説得させる。」



「・・・ちなみに、口封じの呪いをする場合の費用は紫竜と朱鳳の折半との約束もありますけど。」

藍亀族長が口を挟む。


「妻でも使用人でもない人族は紫竜が始末をつける約束なんで、紫竜の負担でしょう!?」


鳳雁はニヤリと笑い、


「構わん。うちからの依頼とする。」


龍希も異存はない。



「・・・」

藍亀の2人だけが渋い顔だ。

要するにタダ働きになるわけだ。



~豊の客間~


「・・・マジ!?」


気持ちよく目覚めた豊は、両手を見て、驚愕していた。

朝方、獣人に襲われて両手を骨折し、午後になって、竜礼兄妹とともにやってきた朱鳳の治癒を受けて・・・豊は治癒の途中で眠ってしまったらしい。


目を覚ますと、ベッドに寝かされていて、部屋には誰もいなかったが、そんなことよりも


両手の骨折が治っている。


傷の跡すらなく、今朝、骨折したばかりだと言っても誰も信じないだろう。

というか、豊自身、怪我は夢だったかと思ったが、客間の壁に銃による穴が空いているので、夢ではなかったようだ。


それに朱鳳の驚くべき治癒能力はあのストールで象妻が生き返ったところを見たので、信じざるえない。



コンコン



ノックして入ってきたのは、あの鶴の侍女だ。

どうやら豊が襲撃された件で殺されはしなかったらしい。リュウレイが庇ったのだろうか?


タイミング的に部屋の外から豊を監視していたようだ。



「起き上がれますか?」

鶴の侍女が尋ねてきた。


「ええ。」

豊はベッドから降りた。


身体が驚くほど軽い。

両手の骨折だけでなく、全身の疲労感や慢性的な痛みまでなくなっている。



「この後、補佐官様と竜礼様がお越しになります。風呂に入って、食事もできそうですか?」


「はい。先に風呂がいいです。」


龍サン兄妹がまた来るらしい。

豊の怪我を治療してくれたこともあるので、龍希が豊を生きて帰すというのは信用しても良さそうだ。



豊は鶴の案内で風呂に入り、その後は食堂で食事をとった。

日の高さ的にもう昼すぎのようなので、豊はほぼ丸1日眠っていたらしい。


そのせいか異様にお腹が空いていて、おかわりまでもらってしまった。

ただでさえ、ここは食事の量が多い上、贅沢なおかずまであるのだ。


これに慣れたらヤバイ。


そう思いながらも、身体は異様なほど食事を欲している。

病み上がりでこんなに食べても大丈夫か?


豊は自分の身体のことなのに分からなかった。




「おはよ、ユタカ」


豊が客間に戻ってから30分もしない内にリュウレイとリョクがやって来た。補佐官というのは龍サンのことではなかったらしい。



「お待たせして申し訳ありません。」


「いいのよ~ユタカを怪我させたのはうちの落ち度なんだから。身体はもう大丈夫そうね。3日も寝てるから心配したわ」



「3日!?」



豊は驚きのあまり大声が出た。

流石にリュウレイの冗談だと思いたいが、誰も否定しない。



「族長からユタカに大切な話があるの。補佐官殿が今から伝えてくれるわ。」


リュウレイはそう言って、リョクより後ろに下がった。



「お前を解放する前に、ストールで象妻を治療した記憶を消させてもらう。

ただ、お前の全ての記憶を消すことになる。」


リョクは予想外のことを言い出した。

ストールのことを口止めされると思っていたけど、記憶を丸ごと消される!?


「なぜ全ての!?ストールの部分だけというのはできないのですか?」


「できないそうだ。本来はストールのことを知った獣人は始末することになってるんだ。族長の精一杯の温情だ。」


「・・・では記憶を消すことを拒否したら、私は殺されるということですか?」



豊の問いにリョクは渋い顔になった。

やはりこいつは顔に出やすい。



「なんだ?ほかに方法があるとでも?」


「ないのですか?」


豊の問いにリョクは黙り込んだ。



「・・・」


5分近く沈黙が続いた頃



「ぶ~龍緑の負け~」



突然、リュウレイが笑いだした。


「竜礼殿。これは私の仕事・・・」


リョクこと龍リョクは不愉快そうにリュウレイを睨む。


「無理無理!ユタカに腹の中読まれてるわよ。下手くそすぎ!」


リュウレイは大笑いだ。

補佐官の龍リョクよりも立場は上のようだ。



「人族を買いかぶりすぎですよ。」


龍リョクはそう言うが、リュウレイの言う通りだ。

こいつが隠し事をしていることは分かっている。

だけど、豊からはそれを指摘しない方がいい。


龍リョクのような生真面目お坊っちゃんには逆効果になる。



とはいえ、このまま睨みあっても仕方ないので、豊は黙ったまま、営業スマイルを浮かべることにした。



「・・・ストールのことを口外しないと、命をかけて誓えるか?」



龍リョクは観念したのか問いかけてきた。


「誓えますが、言葉だけでは信用されないことも分かっております。」


豊は正直に答えた。

こんな口約束で豊を解放できる問題ではないはずだ。



「そういう(まじな)いをかけられる知り合いはいる。その呪いをかけたらお前は解放するが、記憶を消す方法もあるんだぞ?」



「・・・記憶は差し上げられません。呪いを希望します。」


豊ははっきりと答えた。

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