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紫竜の花嫁  作者: 秋桜
第24章 豊編
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未練

~紫竜本家 医務室~



「芙蓉は大丈夫なのか!?」


龍希は鳳雁に詰め寄っていた。

鳳雁の術で妻が意識を失ってから5時間近く経ったころ、突然、妻の持つ鳳雁の羽が燃え始めたのだ。

妻の身体には燃え移ってはいないけど、明らかに異常な炎だ。



「大丈夫です。私の羽が奥様を傷つけることはありません。」


「じゃあなんで燃えてるんだ!?」


「羽が奥様に危険を知らせているのですよ。」


「危険!?何が起きてる?」


龍希は真っ青になった。



「おそらく奥様の魂は、あの世とこの世の狭間まで行ったのでしょう。うっかりあの世に連れていかれないように羽が警告しているのだと思います。」


「おそらく?思います?」


「私には想像することしかできませんので。」


「龍栄の妻が芙蓉を道づれにすることはないんだよな!?」


「奥様がそう仰っていたので、そうなのでしょう。」


「なのに、なんで羽が警告してるんだ!?」


「奥様が危険なところまで追いかけてしまったのでしょう。」



「や、やっぱり俺も追いかけ・・・」



龍希が叫んだと当時に、寒気を感じた。

これは・・・



最悪だ。

龍希が龍栄の妻を見ると、朱鳳のストールが床に落ち、妻の身体を包んでいた光が消えている。


龍栄の妻が死んだのだ。



龍栄は声を出すこともなく床に崩れ落ち、竜縁が跪いて父の身体を支えた。

竜縁は龍応と本家の客間で龍栄の帰りを待っていたが、龍応が寝たからと2時間ほど前にここに来ていたのだ。


龍栄は意識を失ってはいない。

幸いにも象妻とは連れ添って間もなかったからだろう。

としても立ち直るにはしばらくかかるに違いない。



「・・・芙蓉は大丈夫だよな!?」


異母兄よりも自分の妻だ。

妻の魂はいつ戻ってくるのだろうか?

鳳雁の羽は今も燃え続けている。



「・・・余計なお世話ですが、獣人の死体からは離した方がいい。放心しかけの竜からもね。」


鳳雁はそう言って竜縁を見るが、竜縁は動かない。


「・・・族長命令だ。龍栄は離れた部屋で休め。竜縁、シュグに妻の遺体を運ぶよう伝えたら、龍栄の付き添いをしろ。」


「畏まりました、族長」


竜縁は今度はすぐに動いた。龍栄も正気は保っているようで、竜縁に促されるままに別室に移動して行った。


シュグが象妻の遺体を運び出し、医務室には龍希、妻と鳳雁だけになった。



「龍栄の妻は死ぬと分かってたのか?」


「いいえ。」

鳳雁は即座に否定した。


「なら、なんで龍栄を追い払った?」


「族長の奥様の安全のためですよ。」


「は!?龍栄はさすがに、俺の妻に八つ当たりは・・・しないぞ。」


「どうですかねえ。妻を失いたての竜なんざ信用なりません。」


「・・・芙蓉は間に合わなかったのか?」



「さあて。紫竜の妻にはもったいないほど賢いので気付いたのかもしれませんよ。」



鳳雁は意味深なことを言う。


「何をだ?お前らは何を隠している?」


「お前ら?私1人ですよ。」


「俺に誤魔化しがきくと思うなよ。お前のとこの族長もグルだろ?」


「言葉を選んで頂きたい。あんたら兄弟のせいで族長にお出ましいただくことになってしまったんですから。」


「ストールのことなら、俺たち兄弟に責任とらせれば済むだろ?」



「済む訳ないだろ!龍栄の妻が死んだからよかったものを、一歩間違えばワニ毒以上に獣人の世界を歪めるところだったんだぞ!」



鳳雁は急にキレた。


「は?なんで?」


龍希は訳が分からない。

鳳雁が怒っているのは、ストールをほかの妻には使わないという約束を破ったからではなかったか?


「なんでだと!?族長のあんたはどの竜よりも分かってるはずだ!」


「朱鳳との約束違反だろ?どの竜も分かってるよ。」


「・・・」


「なんだ?」


「かつて、我が一族は紫竜の妻にストールを贈るどころか、妻の治療を拒否していたことはご存知で?」


「は!?なんだ急に?いつのことだよ?知らん。」


朱鳳とは寿命が違いすぎるのだ。こいつらの昔話は何代前のことやら?

それに龍希は歴史の勉強は苦手だ。


「つい462年前のことですよ。」


「知らん。なんでそんなことを?」


「は~。信じられん。どうやら本当に・・・ストールを巡る約束の理由を知らんのか?」


鳳雁は呆れている。


「話を聞いたら思い出すかもしれないな。」


「誤魔化しは結構。妻を治療しない理由は簡単ですよ。夫竜のせいです。」


「意味が分からん。」


誰よりも妻の治療を望んでいるのは夫竜なのに?


「でしょうね。獣人には定まった寿命がある。我らには獣人には治せない傷や病も癒せるが、そんなことをすれば獣人の世界の秩序を乱してしまう。だから、我らの祖先は獣人の治療はしなかった。我一族と(つがい)になった獣人を除いてはね。」


「・・・(つがい)になって獣人の世界からはみ出た鳥だけは特別ってわけか!?」


「その通り。ですが、我らには分別がある。その(つがい)が治療ではなく死を望むならその意思を尊重しますよ。」


「理解できんな。自分の妻を見殺しにするなんざ。」


「でしょうね。紫竜とは相容れない考え方だ。」


「なのになんで今は妻の治療を引き受けるんだ?」


「紫竜の妻の中にはごくまれに、死よりも我らの治療を望む獣人が居たからですよ。」


「そんなのどうやって分かるんだ?」


「少なくとも鳥の獣人たちは我らに嘘をつきませんから。」


「なるほどな。で、それがストールと何の関係がある?」


「妻の治療を引き受けるうちに、紫竜に嫁いだが故に危険に晒される獣人を憐れに思う同族が現れてね。ある時、重傷を負った白鳥妻の家族に懇願されて、1人の朱鳳が自らの羽で作ったスカーフを贈ったのですよ。愚かなことだ。彼女は防具として贈ったのに、紫竜は治癒能力の方に目をつけてしまった。」


「は?スカーフやストールは治療の道具だろ?」


「・・・ちっ!我らにはストールの能力なんて必要ないのですよ。」


急に鳳雁の歯切れが悪くなったので、龍希はピンときた。



「お前らまさか治癒能力があることを知らなかったのか!?」



「・・・白鳥が死んで、我が一族はスカーフを回収しようとしたが、紫竜は渡さなかった。我らの治療の力を紫竜に悪用されるのは困る。そこで苦肉の策としてスカーフは贈った妻にしか使用しない、贈った妻が死んだらそのスカーフは我が一族に返却するとの約束をしたのですよ。」


「へ~」


「本当に伝わってないのか!?たった462年前の話だぞ!?」


鳳雁は驚いているが、龍希は初耳だ。

これでも後継候補と族長の教育は受けている。

こんな話があればさすがに忘れない。



「こっちじゃ何10代前のことだと思ってんだ?お前らがスカーフやストールを贈る妻を選り好みすることは知ってるが、その理由は初耳だ。」


「は~信じられん。我らはたった1人の過ちの後始末を今もさせられているというのに。藍亀もまだ覚えているぞ。」


「藍亀も知ってるのか!?」


「そうだよ!当時の紫竜も強欲でな!藍亀の力も借りざる得なかったんだ!」


「・・・」


つまり龍希たちの祖先は藍亀と朱鳳の脅しに屈して約束をさせられ、スカーフを返却したということだ。

道理で伝わってないはずだ。



「んで、お前らは藍亀のおかげで贈る妻を選り好みする権利を得たと?」



「紫竜との約束で、だ!」



「それで、その話が俺の妻と何の関係がある?」


「まだ分からんのか!?象妻は我らの治療を受けてまで紫竜の妻で居続けることを望んではいなかった。なのに!お前らが無理やり生かしたんだ!」


「やっぱお前らは初めから見殺しにするつもりだったな!?」


「そんな必要はない。我らとて万能ではないのだよ。いくらストールを使って肉体を癒しても、死を受け入れた魂を留められはしない。

なのに、なぜか象妻の魂は肉体と繋がりを切らなかった。

こんなこと前代未聞だ。私では理由が分からなかったから族長に頼るほかなかったのですよ。」


「そういうこと!?」

龍希はようやく繋がった。



「ん?でも結局は妻の肉体が死んだから魂が離れ・・・」


龍希ははっとなって時計を見た。

鳳雁はあと半日と言っていたけど、まだそこまで経っていない。



「象妻の魂は自ら死を受け入れて肉体を離れた。それは私には分かる。感謝して下さいよ。龍栄殿の前で明かさなかったこと。」



鳳雁はニヤリと笑うが、龍希は笑えない。

こんな話を龍栄が聞いていたら、芙蓉が妻を殺したと思われかねない。

だが、



「芙蓉は象妻を殺したりしないぞ。」



「ならば、奥様に何があったのか教えて頂きましょう。」


鳳雁が妻を振り返ると同時に妻の手がぴくりと動いた。


「芙蓉!?」


龍希が妻の手を握ると、先ほどよりも温かい。

体温が戻ってきたのだ。

そして、妻が目を開いた。


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