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紫竜の花嫁  作者: 秋桜
第24章 豊編
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走馬灯

「わ!?」


芙蓉は驚いた。

寝ていたはずなのに、芙蓉はいつの間にか・・・寝ている自分を見下ろしていた。


これが魂が肉体から離れた状態!?

自分を見下ろしているなんて不思議なんて言葉では言い表せない。


夫たちにも鳳雁にも浮いている芙蓉は見えておらず、芙蓉の声も聞こえていないようだ。


芙蓉がカモミールを見ると、


「あ!」


見えた。

寝ているカモミールの身体から細いオレンジ色の糸?が空に向かって伸びている。


これをたどればカモミールの魂がいる!?



芙蓉は改めて自分の姿を見てみた。

両手は半透明だけど、不思議なことに左手は鳳雁の羽を握っている。

芙蓉はふわふわと宙に浮いていて、自由に動けるけど、夫にもベットにも触れない。

なのに、左手の羽だけはしっかり感触がある。


だけど、寝ている芙蓉の肉体も左手に鳳雁の羽を握ったままだ。

芙蓉の肉体からは真っ赤な糸が伸び、芙蓉に繋がっていた。

この糸を辿れば芙蓉は自分の身体に戻れるのだろう。



時間がない。

芙蓉はカモミールのオレンジの糸が伸びる先に向かって飛んだ。

本家の天井を抜け、糸は雲の上に向かって伸びている。

外はもう日が暮れて暗いのでオレンジの糸がよく見えるけど、



本当に空の上にあの世があるのだろうか?

芙蓉は帰ってこれるよね!?



どんどん目の前に雲が迫ってきて、芙蓉は不安になったけど、次の瞬間には雲の上に来ていた。



「わあ!?」



星が驚くほど近い。

雲の上から見る星星は地上から見るよりもずっと明るくて、色もよく見える。


芙蓉はついつい魅入ってしまい、ふと我に返った時にはオレンジの糸を見失っていた。


「え!?やだ!どこ!?」


慌てて探すと、芙蓉の足元よりも下にあった。

無意識に星に向かって上昇しすぎたらしい。



芙蓉がゆっくりと降下していくと、オレンジの糸は左に向かって伸びていた。

芙蓉は今度はオレンジの糸と並走して魂を目指した。


おそらく驚くほどのスピードが出ているようで、雲が一瞬で過ぎていく。

だけど、芙蓉は風も感じない。


カモミールの魂もこうして飛んでいったのだろうか?

どこに?

ここはまだ空の上だけど、あの世はどこ?



芙蓉には時間の感覚も距離も分からない。

ひたすらオレンジの糸と並走していると、不意にオレンジの糸が消えた!?


いや違う。

垂直に曲がって地上に向かっている。



「え!?下!?」


芙蓉は不思議に思いながらも糸を追って地上に向かう。

これまたすごいスピードで落ちている?んだろうけど、風も重力の抵抗も感じない。



地上はいつの間にか昼になっている。

次第に建物が見えてきたけど、ここはどこだろうか?

建物の感じから人の町ではないけど・・・建物の屋根が目の前に迫って来る頃、芙蓉の視界のすみに象族の旗が見えた。



「え!?象族領!?」



芙蓉が驚いている間にオレンジの糸を追って目の前の建物の中に入ってしまった。



~???~


「え!?」


芙蓉が入った建物の中には象の母子がいた。

けど、母子は半透明で、その回りは白いもやに覆われているので現実の景色でないことが分かった。



「母さん!」


「なあに?カモミール?」


母子はどうやらカモミール母子らしい。

象の子は芙蓉よりも背が低く、幼く見える。


これはもしかしてカモミールの記憶!?



子どものカモミールは母に抱きついて甘えている。

母象はカモミールには全然似ていない。可愛らしい顔のつくりも、女らしい雰囲気も。



ふいに母子の姿が消えて、今度は外の景色になった。

芙蓉は似たものを見たことがある。


かつて記憶を失った三輪を治した藍亀の(まじな)いでも三輪の記憶の断片を芙蓉は見ることが出来た。


じゃあこれは鳳雁の術?



カモミールの記憶はどんどん場面が切り替わり、カモミールは次第に大きくなっていく。

 子どもの頃のカモミールは、活発で男勝りな性格で、でも母親のことは大好きで甘えん坊だったようだ。

 そんな母象は病気で亡くなり、カモミールは町の女たちの勧めで軍隊に入った。

飾り気のない軍服を着て泥だらけ、傷だらけで訓練をうけているカモミールはまるで別人のようだけど、記憶の中のカモミールは充実した表情をしている。


ワニの地下道でのカモミールも時おり、こんな顔をしていた。


きっと彼女は豪華なドレスや宝石で飾り立てられた紫竜の妻よりも、軍隊の方が性にあっていたようだ。



カモミールの記憶はワニの地下で水に沈んだところまで再生され、芙蓉の目の前には白いもやだけになった。



「これはもしかして走馬灯!?」



芙蓉ははっとなった。

人は死ぬ前に自分の半生を思い出すとか聞いたことがあるけど、もし今のが走馬灯ならカモミールの死が近いということだ。


オレンジの糸は、カモミールの魂はどこ?



芙蓉はキョロキョロと回りを見渡したけど、オレンジの糸は見当たらない。

白いもやしか見えない。



「どうしよう!?」



芙蓉は宙を見上げたり、周囲を飛び回って見たけど、オレンジの糸はどこにもない。



「カモミールさん!どこ?」



意味があるかは分からないけど、芙蓉は周囲に向かって叫んでみた。

返事はない。



芙蓉は絶望した。

もうカモミールの魂は肉体から完全に切り離されてしまったのだろうか?



「・・・!」


ふわりと水の匂いがした。

この姿になってから匂いを感じたことはなかったのに、どこから?



芙蓉が振り返ると、なんと少し離れた場所に大きな湖が現れた。

いつの間に!?


湖面は穏やか・・・というか何の動きもない。

生き物の気配もしないけど、カモミールの記憶の続きだろうか?



芙蓉が湖に近寄ろうと一歩踏み出したところで左手に激痛が走った。


「いた!」


驚いて左手を見ると、なんと鳳雁の羽から火が出て芙蓉の手を焼いている!?



芙蓉は思わず羽を離そうとしたけど、燃える羽は芙蓉の手のひらに張り付いて離れない。

左手は燃えているように痛いけど、焦げた匂いはせず、半透明な左手の見た目も変わっていない。

 芙蓉が手をぶんぶん振り回していると、不意に羽の火が消えて、左手の痛みもなくなった。



「な、なんだったの!?」



芙蓉は意味が分からない。

今のは一体なんのメッセージ!?



「は!」



その時、湖の方向にオレンジの糸が見えた。


「カモミールさん!」


芙蓉が叫ぶと、湖に向かって伸びていたオレンジの糸は消え、半透明なカモミールの魂が現れた。


だけど、カモミールは湖の方を向いていて、今にも湖に飛び込んでしまいそうだ。



「ま、待って!カモミールさん!迎えに来たの!」


芙蓉はカモミールの魂に向かって叫びながら駆け出した。

また左手が痛み出したけど、今は気にしていられない。



「・・・」



カモミールは立ち止まり、無言で芙蓉の方を向いてくれたけど、目の焦点があってない。

芙蓉が見えているだろうか?


少なくとも芙蓉の声には反応してくれた。



「カモミールさん!私よ!芙蓉よ!」


芙蓉は駆け寄りながら叫ぶしかない。



「・・・ふ、よ!?」



カモミールの魂はまた反応してくれた。

瞳に光が戻り、芙蓉と目があった。



「芙蓉様!?」



ついにカモミールの声が聞こえた。


「よかった!カモミールさん!一緒に帰りましょう。」


芙蓉は立ち止まった。まだカモミールとは3メートル以上距離があるけど、左手が燃えるように痛いのだ。

なぜだかカモミールに近付くほど痛みは強くなる。



「帰る?芙蓉様は・・・どうしてここに?」


カモミールは状況がわかってないようだ。



「カモミールさんのおかげで助かったの。朱鳳の力を借りて迎えに来たの。」



芙蓉が答えると、カモミールはぱっと笑顔になり、しっかりした声で言った。


「よかった!」



こんなに嬉しそうなカモミールの顔は初めてだ。

芙蓉はほっとした。


これで2人で・・・



ブツン



嫌な音が響いた。



「え!?」



音はカモミールの方から!?


カモミールの魂がぐにゃりと歪み始め、オレンジ色の火の玉になったかと思うと、その火の玉は湖にダイブして見えなくなってしまった。

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