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紫竜の花嫁  作者: 秋桜
第24章 豊編
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補佐官の妹

~別荘~


「参ったな。」


豊は部屋で一人呟いた。

龍希の馬車に乗せられて紫竜領に入ったらしいが、解放軍は本家には入れられないと、この別荘とやらで馬車を降ろされた。


ここには鶴の使用人が居り、豊は客間の一つに案内された。

とりあえずは紫竜族長の客人との扱いらしく、部屋は広くて豪華で人用の家具が揃えられている。

出てきた食事も人用だった。



最近、水連町に帰ってきた芙蓉の父は、しばらく龍希の元にいたようなので、この部屋に居たのかもしれない。


ワニの子は別の部屋に連れて行かれたようだけど、豊としてはどうでもいい。

それよりも、ここから脱出するのは無理にしても何かあった時の隠れ場所くらいは確保しておきたい。



豊はそんなことを考えながら鶴が居なくなった後で部屋の中を調べてみたけど、部屋の扉は外からしか鍵が掛けられなくなっていて、部屋の中のトイレの扉には鍵すらない。


部屋のベッドは低く、下には隠れられそうにない。

隠れられるのは備え付けのクローゼットくらいだけど、中は空っぽなので、クローゼットの扉を開ければ丸見えだ。



豪華な造りにはしているけど、やはり実態は監獄だ。

たぶん壁に打ち付けられた大きな鏡はマジックミラーになっているのだろう。

鶴の使用人が隣の部屋で見張っているのだろうか?



部屋の中を調べ終わり、豊は仕方なくベッドに入った。

空飛ぶ馬車の乗り心地は悪くなかったけど、浮上と着陸の時の浮遊感は怖かった。

鳥の獣人に運ばれて飛ぶ時とは全く違う。もう二度と乗りたくない。


というか豊は生きて帰れるのだろうか?

龍希は、解放軍からの借り物なので用が済めば豊を帰すとは言っていたけど、芙蓉がいたので調子のいいことを言っていただけかもしれない。

 それに龍希はその気でも、他の紫竜の思惑は違うかもしれない。

獣人と同じで族長だから何でも思いどおりになる訳ではないはずだ。



ずっと緊張していて疲れているはずなのに、豊は眠れない。

解放軍に入ってから幾度となく修羅場をかいくぐり、休める時に休めるほど図太くなったつもりだったのに、紫竜の恐怖は全くの別物だ。




「・・・」


何時間経っただろうか?

豊は浅い眠りから覚めた。


というよりも目覚めさせられた。

わずかに殺気を感じた。



誰かが部屋の中にいる



寝ている間に扉を開けて入ってきた?

その時に目覚めなかったなんて、豊はまだまだだ。

なんて反省している場合ではない。


幸い、寝たときのままの体勢で銃は手元にあるし、外からの光で部屋は真っ暗ではなくなっているので、豊の目でも見える。



しかし、相手はかなりの手練れだ。

部屋の中にいるのに殺気は極限まで抑えていて、足音や呼吸音は全く聞こえない。


それに2匹いる。

片方はベットの右側に、もう片方は豊の足側だ。

片方に応戦した隙に、もう片方に殺られる。


どうす・・・



豊の考えがまとまる前に、右側からの殺気が強くなり、豊は反射的に引き金を引いた。



ダーン



「がは!」


この距離では外さない。

油断もあったのか豊を襲おうとした獣人はその場に倒れて動かなくなった。


と、同時に豊はベットから転がり降りた。



ザシュ



数秒の差でベットの上から刃物が刺さった音がした。

もう片方の獣人が飛びかかったのだ。


床に転がり落ちた豊が体勢を立て直して銃を上に向けるのと、その獣人がベットから豊に飛びかかるのはほぼ同時・・・いや、獣人はわずかに早かった。


銃を持ったまま伸ばした豊の両腕は獣人の羽に払われて、豊は激痛で銃を落とし、両腕が床に落ちた。



『・・・あ、死んだ』



豊は自分の息の根を止めようとする獣人を呆然と見上げるしかなかった。



ゴッ



「が・・・」


ドサッ



豊は何が起きたか分からなかった。

目の前の獣人が突然消えた!?


いや、音のした方を見ると、床に落ちている。

血の匂いが漂ってきた。



何が起きた?



「生きてる?」


女の声だ。

だけど、芙蓉じゃない。

豊の知らない声だ。



「・・・」


敵か味方か?

豊は返事ができない。



「あ~やば。人族の血の匂いがする。シュグ呼んできて。」


女は誰かに命じているようだ。


「え?も、申し訳ございません、竜礼様。族長からここを離れるなと厳命されており・・・」


こっちの女の声は鶴の使用人だ。

てっきり襲ってきた鳥の獣人がこいつだと思っていたのに違ったようだ。



「侵入を許した上、人族を怪我させたことがバレたら族長に殺されるわよ。私に逆らうなら庇ってあげないけど?」


「ひ!ひい!ただいま!」


鶴の怯えた声とともに飛んでいく羽音が聞こえた。



「さてと、生きてるでしょ?ごめんなさいね。悪いおじさんがあなたを殺そうとしたの。

私は族長側だから、あなたの敵じゃないわ。というか命の恩人なんだから返事くらいしなさいよ。」



豊に意識があることはリュウレイという女にはバレているようだ。

銃は吹き飛ばされ、豊はおそらく両腕の骨が折れている。

リュウレイも名前的に紫竜だろうから逆らうメリットはない。



「危ないところをありがとうございました。

寝たままで申し訳ありません。両腕がやられて自力では起き上がれないのです。」



豊は観念して返事をした。



「あらやだ。医者を呼んだから待ってて。動かさない方がいいかしら?」


「いえ、頭はうっていませんので、手を貸して頂けるなら。」


姿の見えない紫竜との会話は怖い。

こんな要求をしては怒らせるかもしれないが、女から殺気は感じないので殺されることはないだろう。



コツコツ



ヒールの足音が近づいてきて、豊の視界に現れたのは人でいえば40代くらいの髪の長い中年女だ。

ウエーブのかかった髪を無造作に垂らしている。



リュウレイは片手で豊の身体を持ち上げると、ベットそばにある肘置付きの椅子に座らせてくれた。



「ありがとうございます」


「お安い御用よ。死にそうな怪我ではないわよね?」


「はい。お陰様で。」


「あ~よかった。間に合って。」

リュウレイは本当にほっとしている様に見えるけど、


「どうして助けて下さったのですか?」


豊は不思議で仕方ない。



「族長の客人だもの。私は族長命令に従ってるだけ。命令に背いた悪いおじさんは族長からかなりの制裁を食らうわよ。」


「その男の仕業だと証明できますか?襲ってきた獣人たちは死にましたけど・・・」


「問題ないわ。族長が嘘を見抜く力は一族一なの。今はもう誰も族長を騙せない。」



豊は思いがけず、龍希の特技を知った。



「・・・としても、貴女はその悪い男に恨まれませんか?」


「いいのよ。今回ばかりは私も我慢ならなかったの。龍算兄ちゃんが苦労して保護してきた人族なのに。」



「リュウサンにい・・・?あ!?補佐官殿のご令妹でしたか!?」



豊は驚いたけど、リュウレイは一瞬キョトンとした顔になったと思ったら腹を抱えて笑いだした。



「ご、ご令妹!?あはは!そんな呼ばれ方初めてよ。族長の親族でもないのに!?

あ~おかしい!そんな言葉使うなんてさすがは人族の(おさ)の息子ねえ。」



豊には全く理解できないけど、リュウレイのつぼにはまったらしい。

それよりも、嫌な呼ばれ方だ。

豊の出自は解放軍の上層部しか知らないのに、桃が龍希たちにバラしたせいだ。



「実家はとうに消滅しましたので、今はただの人族ですよ。補佐官殿・・・兄君には大変お世話になりましたので。」



「うん。ユタカの有能ぶりは兄ちゃんから聞いてるわ。西の貴族の息子なの?」


「私の出自などお知りになっても何の役にもたちませんよ。」


紫竜にこれ以上知られるのは勘弁だ。

元貴族の息子という肩書きでも利用価値を見いだすやつはいる。


「ふ~ん。違うんだ。北の貴族ならわかるのかしら?」



「・・・」


豊は思わずリュウレイを睨んでしまった。

今は消滅した貴族の隠し子、かつてワニに誘拐された・・・これだけの情報があれば、他の貴族なら豊の素性を突き止めるかもしれないのだ。



「私に何をお求めですか?」


「あらやだ。そんな怖い顔しないでよ。他の取引先ではうちの担当者の素性が知れないなんてことないんだから。」


「私は解放軍ですよ。元貴族の息子として連絡係になったわけではございません。」


「それは分かってるわ。でも~あ!」



リュウレイが振り返ると同時に部屋の扉が開いて龍サンが入ってきた。



「竜礼!?何があった!?」


「見てのとおりよ~。というか早くない?」


「ここに来る途中で鶴の使用人を見かけて驚いたぞ。」


どうやら龍サンは元々、こちらに向かって来ていたらしい。

今は何時だろうか?

もう外はかなり明るくなっている。



「うん、シュグを呼びに行かせたの。骨が折れてるし、出血してるし、放置できないわ。」


「鶴から事情を聞いてそのまま本家に向かわせたよ。龍海のヤロウ!」


龍サンは怒っている。

龍カイというのが豊を暗殺しようとした紫竜のようだ。



「ふふ。鶴を脅して本家に行かせたんだもの~今頃大騒ぎね。族長にも隠せないわよ~」


リュウレイは邪悪な笑みを浮かべている。

この女は敵に回してはいけないタイプだ。



「・・・お前は俺の指示でやったことにしろ。」


「ヤダ」


「いや、なんで!?」


「も~落ち着いてよ、補佐官殿。報告は道中でするから、ここは執事に警護させてね。」


龍サンは妹を庇おうとしたようだけど、リュウレイはきっぱり拒否した。

龍カイの恨みを買うのは怖くないのだろうか?


「あ、ああ。」


龍サンは我に返ったのか豊をチラリと見ると、廊下に控えていたワシの執事に警護を命じて、リュウレイと出ていった。


豊は聞き耳を立てていたのに、リュウレイは隙がない。

アーストの言っていたとおり、雌竜の方が厄介なようだ。

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