表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
紫竜の花嫁  作者: 秋桜
第23章 ジュウゴ編
714/777

桃の狙い

~地下室~


「族長!龍栄様!もう限界です!避難しませんと!」


ようやく龍サンが声をあげた時には、地下室の水は豊の胸の下まで来ていた。

もう豊は歩くこともできない。それどころか龍サンに支えられてなんとか立っている状態だ。



「まだ妻が見つかってないだろ!」


怒鳴る龍希は正気を失いかけている顔だ。

龍エイも怖い顔をしたまま応じない。



『もう無理だろ!』


豊はとっくに諦めていた。

もう床は水のせいで見えない。


仮に妻たちがこの床の下にある地下室に閉じ籠られているなら、残念ながらもう溺死しているだろう。

だけど、それは言えない。

言えば、龍希に殺される。



「奥様方は脱出した後かもしれません!もしくは左右どちらかの道の先にいるとか・・・」


龍サンもおそらく妻たちの死を察しているのだろうけど、言葉を選んで説得しようとしている。



「左の道の先はゴミ捨て場だった。地下室はなかった。」


龍エイが否定し、


「右もだ。すぐに行き止まりだった!」


龍希も否定した。

右の道には入らなかったのに、道の先は見えていたらしい。



「これ以上は危険ですよ!外に出られなくなります!撤退を!」



「うるせえ!妻を置いて逃げられるか!」



龍希は怒鳴るが、宙に浮いた彼の足も水に浸かっている。

こいつらはいいけど、豊は困る。

このままでは溺死してしまう。



龍サンが豊を掴んでくれているのは、豊を連れて逃げるためだと思いたい。

だけど、龍希の許可がないと龍サンも逃げられないようだ。



「お、落ち着いて下さいよ。もうヒントは桃の言葉だけです。もう一度思い出してみましょう。」


豊は龍希に話しかけた。

何も考えはないけど、話しながら考えればいい。


龍希を説得できなれば、豊は死ぬのだ。

命がけの説得だ。



「は!?何をだよ?あのワシが言ったろ!妻たちは地下室に居るんだ!」



キレている龍希は怖い。



「ワシは妻たちが地下室にいるとは言ってませんよ。龍・・・族長のご子息が象の地下室で殺されかけたと・・・」


「象ごときに負けるかよ!息子は自力で脱出したんだ!」


「分かってますよ!僕らもその場に・・・は!」


豊は答えながらハッとした。


「脱出しなければ息子はどうなってたんですか?」


「は!?なんだ?今はどうでもいいだろ!」


龍希はイライラして怒鳴るけど、豊は寒気がしてきた。



桃の言葉に嘘はなかったということは

龍希の息子は()()()()()のだ。



なんで!?

人である水人はあのまま脱出できなければ象の地下室で溺死していただろう。

 龍希の息子は水人を助けるために地下室から脱出したのだと思っていた。


いや、助けるためなのは間違いないのだろうけど、龍希の息子も危なかったのか!?


龍希の息子はピンピンしていた。

身体が冷えきってすぐに気絶した水人とは対照的で、とても死にかけには見えなかった。


だけど、桃の言葉に嘘はない。

それに龍サンの異常な慌て方は・・・まさか!?



「もしかしてここが水没したら紫竜といえども危ないんですか?」



豊の問いに誰も答えなかった。

それが答えだ。


豊はゾッとした。

獣人離れした、いや神獣と呼ばれる龍希たちは水の中でも生きられるのだと勘違いしていた。

だって龍サンはワニのように潜水していたし。


でもその龍サンですら怯えながらも龍希を説得している。


妻を見捨てて逃げろ!


と。それは龍希たち自身に命の危険が迫っているからなのだ。


龍希もわかっているのだろうに、妻を諦めきれないのだ。

このままではヤバイ!


豊まで心中コースだ



「何がいいたい?妻を見捨てろってか?」


「桃の言葉を思い出して下さい。妻たちを地下室に閉じ込めたとは言ってない。それは僕たちの推理です。だけど、別の可能性が出てきた。」


「別?なんだ?妻たちはどこだ?」


「桃は族長の息子が地下室で死にかけたと言った。紫竜が水で死ぬことを知っている。

桃は妻たちには恨みも用もなかった。ワニのエサに利用しただけ・・・」


「何が言いたいんだよ!?」


龍希は怒鳴るが、豊の話は聞いてくれている。

まだ理性は残っているのだ。

だけど、豊はまだ龍希を説得できる理由が見つからない。

思い付いたまま喋っているだけだ。



「族長たちを地下室に誘き寄せる嘘だったのでは!?」



「は!?」


「なんだと!?」


龍希だけでなく龍エイと龍サンも驚いているけど、豊も驚いていた。


『俺は何を言ってんだ!?』


咄嗟に出てきた言葉だったけど、龍希たちの関心はひけた。


「ワシは嘘はついてなかったぞ?」



「はい。でも族長たちは隠し事は見抜けないのでしょう?桃の意図は分からない。

桃は妻たちが地下室にいるとは言ってない。でも象での息子の話をして、まるで妻たちが地下室で殺されかけているかのように誤解させようとしたのなら・・・」



豊は喋りながらまた驚いていた。

思い付きで話し始めたのに、なんだか説得力がある気がしてきた。


「妻たちはどこにいるんだよ!?」


「こんなに探してもいないならここには居ないんですよ!ワニの死体が一つもない。あの手練れの象・・・妻が無抵抗で閉じ込められるなんておかしいと思ってたんです!

思い出して下さい!

妻たちがあの大きな湖を渡ったのかどうかも分からないんですよ!対岸には匂いがなかった。」



豊はなんとか龍希たちを地下室から連れ出したい。

なのに、


「いや、妻たちは3本の道の先にいる。ワシはそう言っていた。」


龍エイに否定された。



「ならば左右どちらかの道かもしれません!道の地面をよく調べましたか?隠し扉や穴がないと言いきれます?妻たちが誘拐されたワニの扉をあなたたちは見つけられなかったでしょう?」



「う・・・」


龍希と龍エイはようやく迷った顔になった。

龍サンは期待に満ちた目で豊を見ている。



「一度地下室から出ましょう!賢い妻と複数のワニを始末できるほど強い妻のコンビなのでしょう?

自力で脱出してるかもしれません。他の道を探しに行きましょう!」



「龍栄殿?どうします?」


なんと龍希はその気になったようだ。

あとは龍エイだ。こいつも象の妻を探しているのだ。正気かどうか怪しい。



「・・・この人族から悪意は感じないですね。こいつの推理で妻たちを追ってこれた」


龍エイはまだ悩んでいるのか結論を出さない。

水はいよいよ豊の首の下まで来ている。


このままではヤバイ!

と思った瞬間、龍サンが豊を抱えて宙に浮いた。



「行きますよ!ここは危険です!」



なんと龍サンは龍希たちの答えを待たずに元来た道に向かって飛んでいく。


豊は意外に思って龍サンの顔を見ると、驚くほど険しい顔だ。

豊はこの顔を知っている。


生き物が死を前にした時の必死の表情だ。


龍サンは限界を向かえたのだ。

これ以上は自分の命がヤバイと。



豊が焦って振り返ると、青い顔をした龍希と龍エイもついてきていた。

潜水が得意な龍サンですらヤバイのだ。


こいつらももうとっくに命の危険を感じていたのだろう。

なのに、螺旋階段を飛んで上がる時も2人はチラチラと地下室を振り返っている。



よほど妻たちに愛情があるのだろう。

豊は胸が痛んだ。


妻との死別

それも殺されたとなれば、その悲しみは計り知れない。

豊はその体験をして二度と結婚できなくなった。

女性と心を通わせることすら無理になったのだ。




~地底湖~

ようやく階段を上がりきって地底湖まで戻ってきたけど、もう湖に掛かった橋は完全に水没していた。


豊の出てきた中央の洞窟は辛うじて水没していなかったけど、左右の道があったはずの洞窟はもう完全に水没していた。

洞窟の高さが違ったのだ。



『あ!あのタンチョウは?』



豊は周囲を探したけど、タンチョウの姿はどこにもなかった。



「そんな!?」


龍希と龍エイは呆然と湖の上に浮いて水没した左右の洞窟を見ている。



「族長!龍栄様!こっちです!」



そんな中で龍サンだけは正気を保っている。

2人を怒鳴り付けて湖の上、空に向かって上昇していく。


豊は心配で下を見たが、龍希と龍エイも遅れて上昇してきた。

だけど俯いているので表情は見えなかった。



桃は紫竜に勝ったのだ。

中央の地下室に惑わされず、左右の道を探していれば妻たちを見つけられたかもしれない。


嘘を見抜く力があるがゆえに、桃の意図に気づけなかった。


万能な生き物なんて存在しないのだ。



それは豊も同じだ。

豊も桃に負けた。


ヨウコを救えなかった。


『すみません。司令官、ヨウコ』


豊は心の中で謝罪するしかなかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ