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紫竜の花嫁  作者: 秋桜
第23章 ジュウゴ編
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ロケットペンダント

~倉庫~

「冷た!」


芙蓉は足元を見て悲鳴をあげた。

いつの間にか床が水没している!?


水位はまだ芙蓉の靴の高さを越えたくらいだけど、靴の出来がいいせいか、芙蓉が集中しすぎていたせいか水に気付かなかった。



「芙蓉様!?大丈夫ですか?いつの間にか水が!」


カモミールがバシャバシャと駆け寄ってきた。

彼女も気付いていなかったらしい。


「水はどこから?」


芙蓉が倉庫を見渡すと、芙蓉たちが入ってきた回転扉の壁の隙間から水が入ってきている。



「ワニの仕業ですか?」


カモミールはまた怖い顔になっている。


「どうしましょう!?まだ毒の資料が・・・」


芙蓉は一つ前のファイルから睡眠ガスの資料をやっと見つけたところなのに!?



「あ!そうです!それらしきファイルを見つけました!」


「え!?本当!?」


芙蓉はカモミールに案内された棚に駆け寄り、ファイルを読み漁った。



「・・・」


芙蓉様がファイルを熱心に読み始めたので、カモミールは脱出経路を確保することにした。


こんなに水が入り込んでくるまで気づかないなんて!?



カモミールの感覚も鈍ったものだ。

象族長の娘にされて現場を離れて数年、龍栄に嫁いで体力も奪われていき、カモミールは今、かなり疲れていた。



教養を身につけるためにたくさんの本を読まされ、活字には慣れてきたつもりだったのに、ファイルの文字を読みすぎて眠気がすごかった。

だけど、水のおかげで眠気は吹き飛んだ。



カモミールは入ってきた回転扉のある壁まで行き、隙間から入り込んでくる水の匂いを嗅いだけど、ワニの匂いはしない。

扉の前でワニたちが待ち構えているわけではなさそうだ。

ならば・・・



「ふ・・・ん!」


カモミールは扉を再度回転させようと壁を押したけど、今度はびくともしない。

先程のワニの子は難なく回転させて外に逃げて行ったのに!?


「やはり閉じ込められた。」


カモミールの嫌な予感は的中した。

ワニの子が大人しく逃げる訳はなかった。

外からこの扉に細工したのだろう。



カモミールは知るよしもなかった。

扉が開かないのはワニの子の仕業ではなく、湖から溢れた水が右の道に流れて回転扉の前に溜まり、回転扉の半分以上の水位に達したせいで、水の重みで回転しなくなっているなんてことは。



カモミールは仕方なく、他の出入口を探すことにした。

倉庫の中には扉がもう一つ。

鍵がかかっているので、カモミールは扉に体当たりして無理矢理開けた。




~???~


ここは・・・あのワニの子の部屋のようだ。


粗末なベッド、簡易なテーブルと椅子、小さなタンスしかない。床はむき出しでカーペットどころか敷物の一つもない。

壁紙は至るところが破れており、奥の壁には黄ばんだ布が掛けられている。


カモミールが産まれ育った母の家より粗末だ。



「エリートの妹がこんな部屋に?」


カモミールは疑問に思いながらも、壁にかけられた布を剥ぎ取った。

布が隠していたのはドアノブのない鉄製の扉だ。

扉は1メートルほどの高さしかなく、床からは50㎝ほど上に位置している。



カモミールは試しに扉を押してみたけど、動かないので、再び体当たりした。


バン

バン

バン


2回目の体当たりで扉は大きく歪み、3回目で壁から外れ、向こう側の床に落ちた。



「う・・・」



扉の向こうはワニの子の部屋の3倍の広さはある。

床にはカーペットが敷かれ、それなりにできのいいソファーと机がある。

石の机には彫刻が施され、どうやらここは応接室だったようだ。


中からしか開けられない扉が、資料室の奥の奥に隠されていたところからして密談用の部屋だったのだろう。


窓はないけど、右手側の壁には別の扉がある。

だけどその扉はもう何年も使われていないようだ。


扉の前にはワニの死体がある。

死体といっても干からびてミイラのようになっており性別すら分からない。


ただ、死体は白衣を着ているのでここの研究者だったのだろうか?

カモミールは死体の遺留品を探した。



いつ死んだのか分からないけど、一年ほどではミイラにはならないだろうから・・・もっと昔に


「ん?」


ワニの首にはコインのペンダントがかかっているが、コインの縁には切れ目が入っている。


「ロケットか?」


ワニの諜報員は秘密のメモをロケットに隠して運ぶと聞いたことがあるので、カモミールはワニからペンダントをもぎ取ってコインの切れ目に歯をたてた。

カモミールの指では小さなコインを開くのは難しそうだったのだ。


パカッ



コインが開いた。

やはりロケットになっていた。

だけど、中に入っていたのは秘密のメモではなく写真だった。


若い雄ワニが小さな子ワニを抱っこして笑っている。

この子ワニは先程の倉庫番だ。


となれば、このワニのミイラは


「倉庫番の兄か!?」


カモミールは思わず呟いた。



ワニの子の話しぶりから兄が死んでいるとは思っていたけど、まさかここに死体があるとは。

たしか、この兄は策士とジュウゴらしき人族をあの倉庫に案内したこともあったらしいけど、その後、策士たちにここで暗殺されたのだろう。


ワニの仲間割れならここに死体を放置するはずがない。

他のワニに気づかれないようにここに死体を放置していったようだ。



「カモミールさん?」


芙蓉様に呼ばれてカモミールは振り返った。

いつの間にか芙蓉様は、カモミールが壊した隠し扉の前まで来ていた。


「は!すみません!出口を探していて・・・」


「ううん。私こそごめんなさい。毒のファイルは見つかったの。でも水が・・・」


ファイルを4~5つ抱えた芙蓉様は不安げに足元を見る。

水位はどんどん上がり、もう芙蓉様の膝下まで来ている。


カモミールは芙蓉様に手を差し出して隠し扉を越えてもらった。

隠し扉は床よりも高い位置にあるおかげでこちらの部屋にはまだ水は入ってきていない。

でも時間の問題だ。



「この死体は・・・?」


芙蓉様はワニの死体に気づいたようだ。


「あの倉庫番の兄のようです。」


カモミールはロケットペンダントを芙蓉様に差し出した。


「そうやっぱり。」


芙蓉様も兄の死を察していたらしい。


「今度またあの子に会えたら渡してあげましょう。」



芙蓉様は片手でロケットペンダントを受け取ると、キョロキョロと部屋を見渡して、テーブルに近寄り、抱えていたファイルを置いた。


それからソファーに掛けられている布を剥ぎ取ると、床に広げて半分に折り始めた。

もう一度折ると、布の真ん中にファイルとロケットペンダントを置き、布で包んで背中に背負うと、布の端と端を首の前に持ってきて結んだ。



「は!すみません!私が持ちます!」



カモミールはようやく芙蓉様が布を風呂敷代わりにしてファイルを運ぼうとしているのだと分かった。


「大丈夫よ。ワニがどこから来るか分からないから、カモミールさんは身軽でいて。」


「そ、そうですか?重くなったらいつでも代わりますので。」



カモミールは出口探しを急ぐことにした。

ワニの死体を横に移動させて、扉のドアノブを回すと鍵はかかっていなかったようで、あっさり扉は開いたけど


「ひっ!」


体勢を崩して落ちそうになったカモミールは思わず変な声が出た。



なんと扉の向こうに床はなかった。



「だ、大丈夫?カモミールさん?」


芙蓉様が駆け寄ってきた。


「大丈夫です。変な声を出してすみません」


カモミールはなんとか笑顔を作って答えると、落ち着いてもう一度扉の向こうを見た。



直径1.5~2メートルほどの円柱のような空間だ。

下を見ると、底は見えないが、1メートルほど下まで水が迫ってきている。


上は・・・


「あ!空!」


なんと空が見えた。

20~30メートルほど上には空が見える!


カモミールが左右の壁を見渡すと、なんと右側の壁にはカタカナのコの字形の金属が等間隔に打ち付けられている。

それも地上まで!

まるで梯子のように。



「これはワニの避難口でしょうか?」



カモミールは希望が見えてきた。

登るのは大変そうだけど、来た道はもう戻れないのだ。

ここからなら脱出できそうだ。



「あ!水が!?」


芙蓉様の悲鳴でカモミールは振り向いた。

とうとう水がこの部屋にまで入ってきた。



「芙蓉様、こちらから登れそうです。私はファイルを背負って追いかけますので、先に登って下さい。」


「え!?」


芙蓉様は驚いた顔でカモミールのところに来て、空を見上げ、下の水を見て青い顔になった。


「芙蓉様?」



「ごめんなさい。カモミールさんがファイルを持って先に登って。私は時間がかかるから追いかけるわ・・・」


芙蓉様の顔は真っ青で指先が震えている。

怖いのだろう。

無理もない。もし踏み外して水に落ちれば死んでしまうのだ。



「芙蓉様、私の背中に掴まってください。背負って登ります。」



「え!?ううん。そんな・・・私は大丈夫。」


芙蓉様は首を横にふるけど、大丈夫な顔色ではない。


「芙蓉様を置き去りにしては私が龍希に殺され・・・いえ、私が嫌なんです。

芙蓉様と一緒に地上まで戻りたい。私のワガママを聞いてくださいませ。」



カモミールが微笑みながら手を伸ばすと、芙蓉様は悩んだ顔になったけど、


「ごめんなさい。お願いします。」


そう言ってカモミールの手を握り返してくれた。

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