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紫竜の花嫁  作者: 秋桜
第6章 望郷編
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虎冬の要求

~ジャガー族本家 応接間~

「初めまして。紫竜族長代理殿。虎冬(ことう)と申します。」若い雄の黄虎が龍灯たちを出迎えた。4歩後ろに立つ雌ジャガーが新妻のようだ。黄虎の臭いのせいだろう。ジャガーの顔は真っ青だ。

「この度はご結婚おめでとうございます。紫竜族長からの結婚祝いでございます。」龍灯は営業スマイルを張り付けた顔で紫の風呂敷に包んだ箱を虎冬に手渡した。

「これはどうもご丁寧に。羊族の着物、象族の象牙細工に熊族のガラス細工ですか。」

『相変わらず虎は鼻がいい。中身を見ずに言い当てやがった。』


「これは君にあげるよ。向こうの部屋に持っていって開けてごらん。」虎冬がそう言うと、ジャガー妻はほっとした顔になって部屋を出ていった。紫風呂敷の箱はジャガーの侍女2人が運び出し、部屋の中には龍灯、龍景、虎桔、虎冬だけになる。



「それで、紫竜の用件は?」虎冬は営業スマイルを崩して小馬鹿にするような顔になる。

「ジャガーなんかと縁談を結ぶなんて、黄虎は嫁不足かい?」龍灯も営業スマイルを崩して、虎冬の向かいに座った。

「はん!お前らと一緒にすんな。俺はもう虎の子が3人いるんだよ。

ふーん。なるほどなぁ。ジャガーが縁談の対価に何を持ってきたかを知りたいんだな。」

『さすがはあの族長の弟だ。勘が鋭い。』

龍景は龍灯の隣に座った。正面にはニヤニヤ笑う虎桔が座っている。


「ジャガー族はクーデターが起きそうだったんだ。人族と熊のせいでな。」


「え!?」龍景は思わず声をあげてしまった。

「そ、カバと同じ奴らだよ。バツイチ子なし君」虎冬はそう言ってニヤニヤ笑いながら龍景を見る。

「それで手を差し伸べたと?」龍灯は表情を変えずに尋ねる。

「んな訳ねぇだろ。ジャガー族長がワシを2匹差し出してきたんだよ。中々の経歴だぜ。紫竜とカバに雇われて、雌竜が産んだ熊の子を誘拐したワシ達だ。」

「!」さすがの龍灯も驚いた顔になる。

「何が望みだ?」龍灯は探るような顔で尋ねる。

「ワシたちは黄虎本家だ。あんまり族長を待たせんなよ。」

虎冬の言葉に龍灯と龍景は顔を見合わせた。

どうやら、相変わらずあの女族長は龍希様にベタ惚れのようだ。


 黄虎本家にいるワシたちが、龍雲の元妻カバと竜色の熊娘を拐ったワシに違いない。策士と名乗っていた龍海の妻の兄の行方も知っているかもしれない。ワシたちの身柄の引渡しを受けて訊問したいが・・・


「紫竜族長がワシなんかのために本家を離れるわけねぇだろ。」龍灯は珍しく荒い口調になっている。


「おいおい勘違いすんな。紫竜族長に用はねぇよ。」


「え!?」龍灯と龍景は同時に声をあげてしまった。

「族長は、また賢い奥様とお話ししたいそうです。お茶会の準備をしてお待ちですよ。」虎桔がニヤニヤしながら言った言葉に、龍灯と龍景は絶句した。


『いやいや!族長の奥様!?無理だよ!龍希様が許すはずねぇ!』


「族長の奥様はワシたちに何の興味もないよ。」龍灯は呆れた顔で答える。

「んじゃあ、解放軍って人族はどうだ?本家に居るぜ。」

「な!?」龍景はまた声が出た。

「まさか、その解放軍から話を聞き出すために奥様を?」龍灯は険しい顔になっている。

「ふーん。紫竜はすでに試したわけか。お前らも獣人の妻をこき使うようになったのな。」


虎冬はまた言い当てやがった。

なんでこの会話から勘ぐれるんだよ?


「早く来ねぇと。人族はすぐに死ぬからなぁ。特に解放軍の幹部はすぐに自殺しようとするから、生かしとくのは大変なんだぜ。」

「なぜ幹部だと?」

「はん。ただで教えてやるのはここまでだ。俺が嘘をついてるかどうか分かるだろ。」虎冬はニヤニヤ笑いながら龍灯を見る。

龍灯と龍景は無言のままアイコンタクトをした。

『やっべ~こんな話持ち帰ったら龍希様にぶん殴られる』



~紫竜本家 族長執務室~

 ジャガー本家を訪ねた日の夕方、龍灯と龍景は紫竜本家に戻ってきた。

「ご苦労だったな。虎から何か聞き出せたか?」執務室に入るなり、族長が尋ねてきたが・・・

「龍景、報告は頼んだよ。」

「いやいや、何を仰います。虎どもから話を聞き出したのは先輩じゃないですか。」

龍灯と龍景は青い顔で譲り合う。

「お!さすが龍灯だなあ。何を聞き出してきた?」

「え?あーその、あの、はい。」

龍灯は恨めしげに龍景を見ると、観念して族長に報告した。



「ふざけんな!」

案の定、族長は激怒している。

「俺の芙蓉を二度とあんな場所に連れてくか!カイホウグンとかいう人族とも二度と関わらせねぇ!」

「ぞ、族長、落ち着いて下さいませ。」龍海が慌てて族長をなだめている。

その隙に龍灯と龍景は族長の鉄拳が届かない後方に避難した。

「ふざけやがって!あの虎ども!なんであいつらの情報収集のために俺の妻が呼びつけられなきゃならないんだ!」


「落ち着きなさい、龍希。黄虎がカイホウグンを探ろうとしてる理由は何かしら?

ワシと捕まえたカイホウグンの幹部をうちに高値で売り付けるんじゃなくて、芙蓉ちゃんを使って情報を引き出そうとしてるのは、黄虎も知りたい話があるからじゃない。」竜湖の言葉に族長は驚いた顔になる。

「え?なんで黄虎が?カイホウグンの狙いは俺の妻でしょう?」

「だけど、それならジャガー族でクーデターを起こそうとした理由が分からないわ。うちとは縁談もない弱小取引先なのに。」

「あ・・・確かに。」

族長は冷静になったようで椅子に座った。


「ワシ2匹のために黄虎が族長弟との縁談をジャガーと組んだというのも不自然です。そこまでしなくてもジャガーのクーデターを潰せたはずです。

黄虎はなんらかの理由で相当カイホウグンを警戒しているのだと思います。」

「う・・・確かに。」

龍灯の言葉に族長は両腕を組んで悩み始めた。

「カラスとゴリラの件もありますし、会議を開いて情報を整理しましょう。」

竜湖の提案に族長は頷いた。


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