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紫竜の花嫁  作者: 秋桜
第6章 望郷編
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鹿族長の涙

~族長執務室~

 4月に入ってすぐ、龍光が執務室にやってきた。


「族長、失礼いたします。」


「お!龍久は元気になったか?」


龍光の息子の龍久は先月から風邪をこじらせて10日以上寝込んでいたと聞いている。守番の竜色は娘の死で動けないので、龍光が巣に篭って看病していた。



「はい。もうすっかり元気になりました。今日は本家で竜縁様に遊んで頂いております。」

龍光は顔を綻ばせる。


「そりゃあ良かった。それで、なんの用だ?」


「はい。実は人族と鹿族についてのご相談です。」


「は?人族と鹿?」


「はい、龍算様の花嫁替玉事件から絶縁しております鹿族ですが、鹿領のすぐ近くにある人族町が年々、大きくなってきております。どうやらその町は他獣人の戦争がなかったので、周辺の人族町から避難民が入ってきたり、商人たちの取引場所になったりして拡大していったらしいのです。

周辺での戦争が軒並み終わり、その町では他の獣人との商取引も盛んになっており、多くの種族が行き交っているそうです。

鹿領の隣のマムシ領には、竜湖様たちが発見された人族町跡地の地下室がありますし、近くにはジャガー領とカバ領もありますので、シレイカンとかいう人族がこの人族町に潜んでいる可能性があるのではないかと思いまして。

ただ、この人族町は鹿領を通らないとたどり着けないのです。

鹿どもが龍算様にしたことは許せませんが、人族町の変化に鑑みて、関係の見直しをご検討頂きたく。」



「う~ん。お前の言いたいことはよく分かった。だが、龍算は鹿についてなんて言ってんだ?」


「龍算様はもう鹿の前妻のことはお忘れですし、この度龍示様が転変なさり、もう鹿に興味はないので族長の判断にお任せするとのことです。」


「なるほどなー。確かにその人族町を調べる価値はあるな。」


龍希は両腕を組んで考え込んだ。


鹿の前妻が龍算にしたことは許せない。不要な柘榴亭での守番までさせられ、一族全体にも迷惑をかけられたのだ。

 だが、鹿族は前妻の悪事には関与していない。ジャガーやカバのように悪意をもって不妊の妻をよこした訳でもない。



「補佐官や女たちの意見も聞かないとな。それに絶縁を見直すにしても、こちらから声をかけるわけにはいかないし・・・」


「はい。1つのご提案ですが、マムシ族と龍兎の縁談が進められております。マムシ族と鹿族は仲がよいのでマムシに仲介させてはいかがでしょうか?」


「さすがだな。」

龍希は感心して龍光を見る。


「恐れ入ります。」



「やっぱりお前が族長やらね?」



「ご冗談を。私はあれこれ策を考えるのは好きですが、緊急事態への対応や現場指示などとっさの判断は苦手なのです。族長の適性はございません。」

龍光は断言した。


「俺にだってねぇよ。族長の仕事はめんどくさくて敵わねぇ。俺は命令に従って身体動かしてる方がむいてんのに・・・」


龍希は拗ねた顔になる。


「ははは!何を仰います?あの竜紗殿ですら途方にくれた難問をいくつも解決なさってきたくせに。龍希様ならどんな相談も対処して下さると一族は皆信頼を寄せております。」


龍光は笑いだした。


「難問を解決したのは妻だよ!俺は何にもしてねぇ。」


「その奥様をお選びになったのはあなたです。それに奥様がわが一族に貢献してくださるのも夫である龍希様がうまく立ち回っておられるからですよ。」


「そうかあ?」


「そうです。それよりもカバ族の件はいかがなさるのですか?龍雲は族長にお任せしたと申しておりますが。」


「カバなぁ。お前の意見は?」



「個人的な意見としては替玉より悪質です。娘を持つ身としては許せません。何も知らない娘を拐ってくるなど!

私は竜冠が嫌がる縁談なら、先代族長と喧嘩してでも反対する覚悟でした!」



龍光は本気で怒っている。


「まあな。俺も気分が悪い。」


「離婚に応じた龍景を騙そうとした件もありますので、カバ族長の首と金だけでとても容赦できるものではありません!」


「お前も補佐官たちと同意見か~

よし!鹿はそろそろ許して、カバ族と絶縁する方向で一族会議にかけるか!」


龍希は決めた。


「さすがの決断力ですな。」


「んな感心すんな。悩んだってどうせ俺の結論は変わんねぇからな。龍光、明後日会議を開くと一族に連絡しといてくれ!」


「畏まりました。」

龍光は一礼して出ていった。



~鹿族本家~

「ほ、本当ですか?」


鹿族長のソゾムは涙目になって、マムシの使者に確認した。


「はい。来月、わが一族と龍兎様の縁談協議のために竜波様がマムシ本家に来られます。その時に、鹿族長に謝罪の機会を与えてもよいと紫竜から返答がございました。わがマムシ族長の顔をたててくださるようです。」


「あ!ありがとうございます」


ソゾムは大泣きだ。


先代族長が花嫁の替玉なんてやらかしたせいで、紫竜一族から絶縁され、信用が失墜した鹿族は多くの取引先を失った。他種族から離婚されたケースは数知れない。

 ソゾムはクーデターで実権を握った後、当時の族長をはじめとする関係鹿を全て処刑し、新体制を築いて一から信頼を取り戻していくしかなかった。

だが、あの紫竜を欺いて絶縁を言い渡されるほどの怒りを買った影響はすさまじく、マムシなど数少ない取引先に依存せざるをえない状況が続いていた。



「わが一族は場をお貸しすることしかできませぬ。あとは鹿族長殿の手腕にかかっております。」

マムシの使者は念押しする。


「分かっております。すでに震えが止まりませんが、マムシ族の恩に報いるためにも大役を果たす所存です!」


ソゾムはそう言ってマムシの使者に深々と頭を下げる。



 本来、使者よりも族長の方が立場が上なのだが、ソゾムは気にしていない。鹿族を守るために、どんな相手にも頭を下げ、跪いてきたのだ。族長になったソゾムの戦い方だ。



マムシの使者が退室すると、ソゾムは族長室のそばの中庭に向かった。中庭には黄色の小さな祭壇しかない。


祀られているのは、鹿族を守るために遠い紫竜領で戦死したソゾムの戦友だ。


 彼女は花嫁替玉事件を紫竜相手に自白し、関与した責任をとって自殺した。彼女が自白せず、紫竜が独自に替玉に気づいていたら・・・鹿族は族滅させられていたかもしれない。


だが、ソゾムは今も悔しくて仕方ない。彼女が死ぬ必要なんてなかった。当時の族長に替玉になれと命じられては断る術などない。断れば彼女は口封じに殺され、別の憐れな娘が身代わりにされる。

 しかし、替玉なんて遅かれ早かれバレる。彼女には身代わりになっても断っても、死ぬ運命しかなかった。


それなのに、彼女は最後まで鹿族を守るために戦ってくれた。紫竜相手にたった一人で。



彼女のおかげで、ソゾムたちによるクーデターは無血で実現した。紫竜に喧嘩を売り、絶縁を言い渡された当時の鹿族長たちのために戦う同族など居なかった。むしろ本家の護衛たちは、武器を持ってやってきたソゾムたちを両手を挙げて歓迎した。



「俺たちも死ぬまで戦うよ。故郷を奪われる屈辱は俺たちで最後だ。お前の死は絶対に無駄にさせない。」


ソゾムは、もう二度と会えないソルを思い出して号泣しながら誓った。


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