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紫竜の花嫁  作者: 秋桜
第6章 望郷編
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龍雲の思い出話

「さて、龍雲。カバ族をどうしたい?」

執務室に二人きりになったところで龍希は尋ねた。

「え?ど、どうと言われましても・・・なんかあのカバが気の毒で。」龍雲は困った顔になる。

「まあなぁ。お前の希望どおり、あのカバは無罪放免だ。しかし、お前、つくづく妻運がないな。2人続けて不妊の妻とは・・・」龍希は心底同情した。

「族長、美味しい酒で慰めてください。」

「お前もちゃっかりしてんなぁ。仕方ねえ。そっちの棚からお前の好きな酒どれでも取ってこい!2本までだぞ。」

「やった!さすが龍希様!ご馳走さまです!」

龍雲は笑顔になって棚に向かった。


「にしてもカバ族長には参ったな。うちに何の恨みがあるんだ?」龍希は首をかしげる。

「うーん、恨みなんですかね?何がなんでも龍景の妻を取り返したかっただけなのでは?正直、うちに何か悪さをしたいにしてはお粗末すぎます。」龍雲は棚の酒を選びながら答える。

「だが、そのカバはワシに拐われたんだ。族長がその後、娘を嫁がせた理由はなんだ?」

「拐われただけで殺されてないなら、身代金払うなりして取り戻す方法はありますよ。それに一度約束した縁談を取り消しなんてなかなかできないのでは?カバ族は内紛中ですし。」

「内紛中だからこそだ。これがバレたらカバ族長は終わりだろ?」

「獣人ですよ~そんな後先のことを考えて行動できます?」

「うーん、そうかあ?」

「しかし、カバとまで取引を打ち切るわけにはいきませんよね?」

「俺は構わないけどな。しょせん年300個程度の取引先だ。てか内紛始まってカバの財政がもつのかも分からんし。」

「え?そうなんですか?いや、でも鹿に続いてカバとも絶縁なんて、俺、そんな重い決定はできないですよ!族長にお任せします。」龍雲は龍希に向き直って、情けないことを言い始めた。

「はあ?お前が被害者だろ?カバ族本家に乗り込んで族長をぶち殺してくる!くらい言えよ!」

「ええ!?いや、俺の父親みたいなこと言わないで下さいよ。あいつはなんでも暴力で解決しようとして失敗ばかりしてたんですから。」

「そうなのか?」

「そうですよ。俺も年々、記憶が曖昧になってますが、とにかく子どものころから苦労させられてきました。逆らったら殴られるし、あ~思い出しただけで涙が出ます!」涙目になった龍雲はまた酒の棚の方を向いた。


「しかしなぁ。さすがに結納金の倍返しだけで終わらせる話じゃねぇだろ?カバ族長と側近の首と・・・なんかいい制裁ねぇかな?」龍希は頭をガリガリとかく。

「カバ族長は殺す前に龍景の元妻誘拐のことを問い質しませんと。自作自演の可能性が高いんですよね?」

「お前のカバを拐ったのもワシだからな。だが、拐う理由がなくね?妻にするために龍景に金を積んだのに。」

「まあ、確かに。誘拐がなければ内紛も起きてないですもんね。たぶん。」

龍雲も首をひねりながら、酒瓶二本とグラスを持ってきた。

「ちっ!いいやつ選んだなぁ。今回限りだからな。」

龍希はそう言いながら、龍雲が注いだ酒を飲み始めた。

「こんなこと次はごめんですよ。ご馳走様です。」龍雲も酒を飲む。



「族長!失礼します!」龍緑がノックもせずに入ってきた。

「ん?いいとこに来たなぁ。お前も龍雲のために知恵出せ!」

「は?龍雲なんてどうでもいいです!そ、それよりご報告が!」

「え?ひどい」龍雲はショックを受けている。

「妻の妊娠が分かりまして!出産は11月ころの予定です!」

「まじ?」龍希は驚いた。

「おーおめでとうございます!そりゃ俺なんてどーでもいいですね」龍雲は本物の笑顔だ。

「はい!ついさっき分かって!俺もようやく」龍緑はもう泣きそうだが、

「いや、まだ半年以上先だろ?落ち着けよ。一緒に飲むか?」

「いえ、ご報告がすんだのでもう妻のところに帰ります」龍緑はそう言うなり執務室を出ていった。

「ええ・・・あいつあんなに忙しない奴だっけ?」龍希は呆れた。


「やっぱり人族の奥様は早いですね。まあ、龍緑殿の力が強いことも大きいんでしょうが。羨ましいです。」龍雲はそう言って2本目の酒を開けている。

「次も巫女は俺の娘だろうなぁ。11月かぁ・・・なら夏にもっかい家族旅行に行こうかなぁ。」龍希は新しい酒を飲みながら独りごちる。

「・・・龍希様も再婚してからすっかり変わられましたよね。」

「そうか?」

「はい。家族旅行なんて言葉が出てくることにびっくりです。しかも、この間行かれたばかりじゃないですか。また行くんですか?」

「ああ、人族のせいで台無しにされたからな。今度こそ妻を楽しませたい。」

「え~なんでそんなに奥様の機嫌をとるんですか?」

「は?当たり前だろ。大切な妻を喜ばせたいじゃないか。」

「・・・」

「なんだよ?その顔は?ぶん殴るぞ!」

「ひえ!勘弁してください。再婚前とのギャップが凄すぎて驚いただけです!さ、族長、もう一杯どうぞ。」龍雲は慌てて龍希のグラスに酒を注ぐ。

「なあ、龍雲。俺はなんで前の妻と離婚したんだ?」

龍希は全く覚えていないが、どうやら一族の話しによれば龍希から離婚を希望したらしい。

「え?なんですか急に?」

「いいから。当時、俺はなんて言ってた?」

「え?もう何年も前ですが、初夜から喧嘩売られてうぜえ、主要取引先の族長娘なのに妻になる覚悟もねぇ、教養もねぇ、妻の役目を1つも果たさないうちから文句と要望ばっかりでうぜえ・・・とかとにかく愚痴が凄かったですよ。まあ、上手い酒飲めるんで俺は夜通し付き合いましたけど。」

「やっぱ全く覚えてねぇなぁ。」


「今の奥様を選んだ決め手はなんだったのですか?」今度は龍雲が質問してきたが、龍希は返事に困った。

「え?」

「それは覚えておられますよね?」

「あ~うん、まあな。」

「どうされました?」

「いや、ほら、妻は可愛いし、頭がいいし、口うるさくもねぇし、文句の付け所がなかったからな。」

「え?いつからのお知り合いなんですか?」

「え?いつから?」

「黄虎の谷の帰りに出会ってすぐに結婚されたのではなかったですか?」

「え?ああ、そうだけど・・・」


「じゃあどんな性格かは結婚時点では分からないじゃないですか。」


「あ~うん」龍希は困った。

「・・・」

「なんだよ?その目は?」

「いえ、その・・・」龍雲は目を泳がせる。

「いいから言え!怒らねぇから!」

「えーと、その、お、怒らないで下さいよ。その・・・今の奥様と再婚するために、龍希様はカラス妻と離婚したんだなんて噂が」

「はあ!?妻と出会ったのは離婚した後だよ!」龍希はキレた。

「わ、分かってます!俺じゃないです!俺は信じてないです!噂ってか悪口です!ただ、ほら、その・・・離婚の正式報告が12月で、でも奥様は10月から枇杷亭に居られて・・・だから、その、」龍雲は龍希の顔を見て、どんどん声を小さくする。

「なんだ?」

「いや、だから、その・・・別居というかカラスが実家に帰ってた隙に今の奥様を枇杷亭に連れてきて、それで12月に奥様が妊娠したからカラスと別れて再婚することにしたんだと。だから、奥様は再婚の正式報告が半年近く遅くなったことに文句も言わないんだって・・・俺じゃないです!俺は言ってないです!」龍雲は龍希の顔を見て真っ青になる。

「どいつだ?そんな噂流してんのは?」

「いや、その・・・」

「言え!」

「ほ、本家の使用人の噂話ですよ。よくある、なんの根拠もない廊下での無駄話です!」

「ちっ!」龍希は舌打ちした。

「俺のことが嫌いだからって妻まで悪く言うなんて許せねぇ」

「全くです!本家の使用人たちは調子にのっているんです!」龍雲は青い顔で同意した。


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