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紫竜の花嫁  作者: 秋桜
第6章 望郷編
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カバの後妻

~族長執務室~

「失礼します。参りました。」

3月のある日、龍雲がカバ妻を連れてやってきた。

「ああ、まあ座れ。」龍希は2人に向かいのソファーを進め、2人が座ると、龍希の隣に竜紗が座った。

「奥様、ご足労いただきすみません。どうしても奥様にお伺いしたいことがございまして」竜紗が切り出す。

カバ妻は無言で頷いた。

「失礼ながら、どうして奥様がうちに嫁がれることになったのですか?」

「・・・分かりません。誰も教えてくれませんでした。」カバ妻の声はとても小さく、隣の龍雲は落ち着かない様子で妻と竜紗、龍希を交互に見ている。

「うちとの縁談を聞いて、カバ族にお戻りになったのですよね?」

「・・・いいえ。」先ほどより少し大きな声でカバは答える。

「ではどうして前の嫁ぎ先からカバ族にお戻りに?」

「それは、カバ族長にお尋ねください。」

「ダメなのですよ。今のカバ族長は隠し事をしてこちらを騙そうとしてきた前科がありますので」

「え?」カバ妻が驚いた顔になる。


「ご安心ください。奥様とは無関係のことですので。ですが、奥様ご自身のことは奥様から教えてくださいませ。」竜紗はそう言ってじっとカバ妻を見る。

カバ妻は無言で下を向いてしまった。

「はー」龍希は大きなため息をついた。

カバ妻が怯えたような顔になる。

「ちょ!族長!」龍雲があわてて龍希を見るが、

「お前の妻はいい度胸してるな。この俺を待たせるなんて。」龍希はそう言ってカバ妻を睨んだ。

「ひ!」カバは怯えて椅子の上で小さくなる。

「そ、そんな顔で睨まないでください!妻が怯えます!」龍雲は慌てて龍希を見るが、龍希は無視してカバを睨み続ける。

「わ、私は何も聞いておりません。ヌ、ヌー族領の家にいたところを突然拐われて、し、紫竜の命令だからと、こ、ここに連れてこられたのです。」カバは下を向いたまま、震えながら喋りだした。

「確かに、こちらから今の族長の娘との縁談を打診したが、カバ族長からは、1人娘がうちとの縁談を希望して実家に戻ってきたから嫁がせると聞いた。だが、族長の嘘なんだな?」

龍希はカバを睨むのを止めて、先ほどよりも優しい声で問いかける。

「は、はい。私はそんなこと一言も・・・」

「そんなに怯えなくても本当のことを喋るなら殺さない。となりの龍雲に気をつかう必要もないぞ。妻の様子がどうもおかしいと相談してきたのが、そいつだからな。」

「え?」龍希の言葉にカバは驚いた顔で龍雲をちらりと見た。

龍雲は無言で頷く。


「あ・・・も、申し訳ありません。わ、私、本当に何も知らなくて・・・族長のこともカバ族の現状も・・・」

「構わん。質問されたことに答えればいい。お前を拐ったのはカバ族長のワシか?」

「わ、分かりません。雄ワシの獣人に突然拐われて、私はそ、空の上で気絶してしまって。目が覚めたらお、檻の中に入れられていて、族長の側近と名乗るカバからし、紫竜に引き渡すから、逆らうな、逆らえばこ、殺すと脅されて・・・そ、それから何日かして檻から出されてカ、カバ族本家に連れて来られたとお、思ったら、り、竜紗様に引き渡されて・・・は、初めて結婚することを知らされて・・・」泣きながら話すカバに龍希たちは皆険しい顔になった。


 取引先の娘がうちとの縁談を嫌がるのは普通だが、結婚することすら知らされずに嫁がされるのは論外だ。


「実はヌー族から熊族を通じて問合せがありましてね。カバ族長からカバの妻を返せと突然要求されて、拒否したらその妻がワシに拐われてしまったと。」

「え!?カバ族からそんな話が?ヌーの夫たちからはそんなこと一言も・・・」カバ妻は驚いている。

「君は被害者だ。正直に話してくれるなら何もしないよ。俺が嫌うのは嘘をつくやつと我が一族に害意をもつ奴だ。」龍希は営業スマイルでカバに微笑みかける。

「わ、私はう、嘘なんて。し、紫竜にが、害意なんて全く。」

「じゃあ、このまま質問に答えてくれ。君が今のカバ族長の娘なのは間違いないか?」

「はい。わ、私の母は今の族長の側室をしておりました。」

「最後にカバ族長に会ったのは?」

「え?た、確か10歳の時です。は、母が離婚してカバ領を離れましたので。」

「今いくつだ?」

「20歳です。」

「ヌーとの結婚の経緯は?」

「16歳でせ、成獣すると同時には、母から家を追い出されては、働き口を探してヌー領に入った時に夫と知り合いました。」

「その結婚について父親のカバ族長から何か言われたか?」

「いいえ。カバ族長は離婚した妻の子には興味もなく、いえ離婚前から私には全く関心がなく、ろくに会話した記憶もありません。ですから、結婚の報告もしておりませんし、あちらから何か連絡が来たこともありませんでした。で、ですからどうして私がヌー領にいることを知ったのかも分かりません・・・」

「母親は今どこに?」

「2年前に死にました。」


「ヌーの夫のところに帰りたいか?」

龍希のこの質問にカバは真っ青になる。

「遠慮はいらん。というよりも、結婚することすら知らされずに拐われて連れてこられた娘をうちにはおいておけない。ただ全責任はカバ族長にある。君にもヌーにも何もしない。むしろ君が望むなら無条件でヌーに返してもいい。」

カバは驚いた顔で龍希と龍雲を見るが、龍雲は無言で頷いた。

「い、いえ。た、大変ありがたいお話なのですが、も、元々私は今年の春に離婚することがき、決まっていたのです。で、ですからヌーに戻る気もなければ、戻る場所もなくて・・・」

「子どもはいないのか?」

「娘が一人おりますが、ヌーの子なので夫が引き取ることに決まっていました。」

「離婚の理由は?」

「わ、私は娘の出産で、子が産めない身体になりましたので。」

「そのことをカバ族長は知っているのか?」

「はい。知っているはずです。もう子どもが産めないと診断したのはカバ族本家の医者です。」


どうやらこのカバはカバ族長の共犯ではないようだ。悪意を感じない。


 龍希はちらりと隣の竜紗を見る。

竜紗は頷いて、机の引き出しから診断書を出した。熊族長から高値で売り付けられたものだ。

「奥様、これに見覚えは?」カバに診断書を見せる。

「あ!どうしてここに?ヌーの夫が持っていたはずなのに。私を診断したカバの医者が作ったものです。これのコピーをカバの医者は持っているはずです。」

「ご安心を。ちゃんとした方法で買い取ったものです。さて、ではお疲れ様でした。カバ族長と話がつくまではここ、本家にご滞在頂きます。

ただ、族長が言ったとおり、あなたを殺すことはしませんし、カバ族と話がつけば解放しますので変な気は起こさないように。」竜紗がそう言うと、カバは素直に頷き、竜紗について執務室を出ていった。

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