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紫竜の花嫁  作者: 秋桜
第6章 望郷編
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竜色の匂い

 龍緑が妻を連れて馬車に戻った時には日暮れまで1時間を切っていた。 

宿までは馬車で3時間はかかるのに・・・

さすがにマムシ族の宿をとるほど無神経じゃない。

とはいえ、隣の鹿族とは絶縁状態が続いており、カバ族は内紛中だ。なので離れているが南のジャガー領を通過してカラス領の宿を取っていたのだが・・・


「まずいな」


馬車に乗ってまだ30分ほどしか経っていないのに・・・

雨の匂いを感じて龍緑は頭を抱えた。

これではカラス領に入れない。

もう日が暮れそうなのに・・・


「どうされました?」

雨の匂いが分からない妻が不思議そうな顔で尋ねる。

「いや、雨が降ってて宿に着けそうになくてね・・・急きょ新しい宿を探さなきゃいけないけど・・・」


『参ったな。ここから近いのはジャガー領だ。龍雲の前妻の件は族長命令で公にしていないが、大切な妻には近づけたくない。だけど、他には・・・カバと鹿よりはましか?』


「若様!そんなお顔を奥様に見せないで下さいませ!」

険しい顔になった龍緑をクーラが一喝してきた。

「え?あ、ごめん」龍緑は慌てて笑顔を作る。

「いいえ。私がグズグズしてたせいでごめんなさい。」妻が落ち込んでしまった。

「え?三輪は何も悪くないよ。大丈夫!すぐにジャガー族長に使いを出すから!」龍緑はすぐに御者台の執事に命じて、マムシ領の端にある休憩所に馬車を止めさせ、ジャガー族長に使いに行かせた。



~休憩所~

「ご、ごめんな、三輪。平気かい?」

龍緑は心配そうに妻に問いかける。

 マムシ族を妻の視界に入れない予定だったが、ジャガー族長の了解なくジャガー領に馬車を降ろすわけにはいかない。

とはいえ日が暮れて外はかなり寒いので、妻を馬車の中で待たせるわけにもいかなかった。

仕方なくマムシ領の休憩所に入って、運良く個室の部屋をとれたのだが、お茶を運んできたマムシの従業員を妻の視界に入れないことは不可能だった。

「大丈夫です。お気遣いありがとうございます。」妻は作り笑顔でそう答えると、温かいお茶を飲んで一息ついている。

「奥様、果物はいかがですか?」

有能な妻の侍女は、個室の入口でマムシから果物を受け取って、妻に運んできた。

「ありがとう。頂くわ。」

「申し訳ございません。ここでは人族用の食事は用意できないようで。」

「ううん。急に来たのに果物を用意してもらえただけで十分よ。」


妻は大丈夫そうだな。

マムシを見て泣き出したらどうしようかと思った・・・


 龍緑はほっとして妻と一緒に果物を食べた。

妻は故郷にいた頃のことを沢山話してくれたが、妻の方からいつもよりも密着してくれていることが嬉しくて、龍緑は妻の話が半分も頭に入ってこなかった。



 2時間ほどしてようやく執事が戻ってきたのだが、

「若様、奥様、お待たせして申し訳ございません。ジャガー族長がここから30分ほどの宿を手配してくれました。ただ、その、明日、族長がご挨拶したいので、本家までご足労頂けないかと言われまして・・・」執事は困った顔で龍緑を見る。


『やっぱりか~』

龍緑はげんなりした。


 龍雲の前妻の急死で、ジャガーの妻がいなくなり、ジャガー族からは早速縁談がきているらしいが、族長はジャガーとの縁談は拒否している。

宿の恩にかこつけてその話をしたいのだろう。

龍緑にはなんの権限もないのだが、父が補佐官筆頭になったせいで勘違いしている獣人が多くて困る。


「ご迷惑をおかけしたのですから、挨拶するのは当然ですね。」

「え?あ、うん、そうだね。」

妻にそう言われて龍緑は慌てて同意した。


 そうだ。妻は知らないのだ。ジャガー妻のキンシンなんとかの疑いを持ったのは族長の妻だけだった。

龍緑の妻は成獣年齢の偽装を予想しただけだったので、ジャガー族にそれほど嫌悪感はないのだろう。



~ジャガー族の宿~

 急きょ用意してもらった宿にしては悪くない。

やや狭いが、他の獣人の客とは違う建物に客室があり、品数は少ないが妻が食べられる食事が出てきた。

妻は相当疲れていたのだろう、遅い夕食を食べて、お風呂の中ではかなり眠そうにしており、客室に戻るとクーラが髪をとかしている最中にソファーに座ったまま寝てしまった。


 うん、今朝は出発も早かったし、故郷の跡地を見て沢山泣いてたし、急きょ宿の変更もあってもう深夜をすぎたし・・・仕方ない。

寝ている妻を起こすなんて絶対にダメだ。一晩くらい我慢しないと・・・あ~でも妻は朝からするのは嫌そうなんだよなぁ。いや、でも今夜はゆっくり休ませないと。疲れてるんだから!


龍緑は自分にそう言い聞かせて、眠っている妻を布団に運んで、その隣で横になったのだが・・・10分ほどして1人で外に出た。

 外の冷気を浴びて頭を冷やそう

というかもういっそ冷水の中を泳ごうかな・・・

いや、でも俺が川に入ると生き物も獣人もしばらくその川に近寄れなくなるからなぁ。


龍緑がそんなことを考えながら宿の裏山をうろうろ散歩している時だった。

「ん?」


かすかだが、これは・・・竜色(りゅうし)の匂いがする。


それに獣人の血の匂いも。

「嘘だろ?なんで?」

竜色はジャガー族の担当ではないはずだ。

それに取引以外ではジャガー族とは関わるなと族長命令が出ているので、今回のような緊急事態でもなければ、ジャガー領に入ることすらないはずなのに・・・

「うーん。」

面倒事には関わりたくないが、竜色は反族長派だしなぁ。

だからってジャガーと密通なんてさすがにないとは思いたいけど・・・

龍緑は好奇心に負けてかすかな竜色の匂いを辿っていったのだが、竜色の匂いは弱いままなのに獣人の血の匂いと死臭がどんどん強くなる。

まさか竜色が始末した獣人の死体でもあるのか?

いや、ジャガー領でなんでそんなこと?



「ここだ。」

龍緑は山の中の大きな杉の木の下で立ち止まった。

匂いはこの地面の下からだ。

やはり獣人の死体が埋まっているようだ。

「穴堀りは得意じゃないんだよなぁ。」龍緑はため息をついた。

とはいえさすがに執事を起こして掘らせるのは気の毒だし、というかなんで深夜に、寝ている妻を放って散歩してたのかとかきかれたら面倒くさい。

妻の犬の侍女は穴堀りが得意そうだけど、龍緑の命令には従わないし、妻の侍女を泥だらけにするわけにもいかないし。

 掘らなくてもいいか。明日、睡蓮亭に戻ってから族長に報告して本家の使用人にでも掘りに来させれば・・・うん、そうしよう。

龍緑はめんどくさくなって宿に戻ろうと踵を返した。

と、足に何かが当たった。

「ん?なんだこれ?」

拾い上げたそれを見て、龍緑は血相を変えた。



~ジャガー族の宿~

「ん~よく寝た。」

三輪が起きるともう10時だった。

いつの間に寝たのか記憶がないが、夫は拗ねているに違いな・・・あれ?隣にいない。

いつまでも寝ている私に呆れて先に起きたのかな?

三輪は寝室を出て、もう一つの部屋に行ったのだが、侍女のクーラしかいない。

「奥様、おはようございます。ご体調はいかがですか?」

「うん、沢山寝てすごく元気よ。それより夫はどこ?」

「若様は急用でたった今お出掛けになりました。奥様にはこちらでお待ち頂きたいとのことでござ・・・」クーラが言い終わる前に驚いた顔で客室の扉を見る。

三輪がクーラの視線の先を見たのと同時に扉をノックして、なんと竜波(りゅうなみ)が入ってきた。

「え?」

「奥様、お邪魔いたします。突然申し訳ございません。」

竜波はそう言って深々と頭を下げるが、三輪は焦った。


起きたばかりで着替えどころか顔すら洗ってないのに!


「あ、いえ、すみません。こんな格好で。」

「いえ、突然お邪魔したのですから、どうぞお気になさらず。龍緑殿の代わりに警護のため参りました。申し訳ございませんが、この部屋でご一緒することをお許し下さい。」

「え?警護?何かあったのですか?」

「いえ、ご心配なく。奥様のご安全を脅かすことは何も起きておりません。それでも本来、旅行先の他族領で奥様の側を離れるなどあってはならないことなのですが、どうしても緊急の用事が龍緑殿に出来てしまいまして。龍緑殿がお戻りになるまで代わりにお側に控えさせて頂きます。」

「あ、え、そうでしたか。こちらこそよろしくお願いいたします。すみません。身支度を整えて参りますね。」三輪はそう言って洗面所に向かった。


何があったんだろう?


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