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紫竜の花嫁  作者: 秋桜
第6章 望郷編
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龍緑の気遣い

~龍緑たちの客間~

「なんですか?もう妻に仕事はさせませんよ。」龍緑は不機嫌な顔で客間から出てきた。

「妻じゃない。族長の説得にいくから一緒にきてくれ。」

「俺は補佐官じゃないんですが・・・」

「いまは龍栄様が動けんのだ。それにさっきの龍希様の様子を見ただろう。説得には骨が折れそうだ。」

龍海はそう言ってため息をつく。

「はー。分かりました。少しだけ待っててください。妻に声をかけてきます。」そう言って客間の中に戻った龍緑は2~3分ほどで出てきた。

「・・・」

「なんだよ?その顔は?」龍緑は龍海についてきた龍景を睨む。

「いえ、意外でした。てっきり奥様のおそばにおられるのかと。」

「俺は一緒に居たいけど、俺がそばにいたら妻が休めないだろ。」

「・・・自分の言葉に傷ついてません?」

「うるせぇ」

「なんかすみませんでした。龍希様なんかと一緒にして。」龍景は素直に謝った。


「全くだよ!二度と言うなよ!

それより、なんの説得にいくんですか?」龍緑は龍景から龍海に向き直って尋ねる。

「ああ、あの人族は生かしておく方がよさそうだ。だが、龍希様は殺せと命じるだろうからな。」

「なるほど。俺の妻も生かしておいてほしそうでしたし、急いで殺す理由もなさそうですからね。龍希様は何をあんなに心配されてるんですか?」

「分からん。あの方は奥様というか人族のことになるとなぁ・・・」龍海は困った顔になる。



~族長執務室~

 執務室では龍算と龍灯が待っていた。

「あれ?早かったですね。龍緑の説得に30分はかかるかと思いました。」龍灯はそう言って愉快そうに龍緑を見る。

「失礼ですね。俺は妻を1人でゆっくり休ませるくらいの気遣いはしますよ!」龍緑は龍灯を睨む。

「龍希様にも見習ってほしいよ。いつリュウカの部屋からお戻りになるやら。ま、それまで作戦会議だ。」


龍緑は龍海たちの向かいのソファーに座った。

龍景は補佐官用のワインセラーから酒を持ってきている。

「あの人族の話はどこまで信用できると思う?」龍灯が尋ねる。

「白鳥領で人族の奴隷が逃げ出したかどうかなんて調べようがないからなぁ。白鳥も数年前まで人族と小競り合いをしてたから人族に殺された白鳥なんていくらでもいるし。」龍算の意見に龍海と龍緑は頷いた。

「でも、シレイカンって名の人族は、白猫領の地下室にいたカラスの話にも登場しましたよね?同じ奴かは分かりませんが。」赤ワインが入ったワイングラスをソファー前のテーブルに置きながら龍景が口をはさむ。

「ああ、もしも元妻ココの居場所を知ってる人族のことなら、なおさらあの人族を殺すわけにはいかない。シレイカンを誘き寄せるエサになるかもしれんからな。」龍海はそう言ってワインを飲む。

「妻たちは否定していましたが、他の獣人と協力している人族は確かにいますからね。」龍緑は龍算、龍灯に続いてワインを飲んだ。

それを見て、龍緑の横に座った龍景もワインを飲み始める。

「ああ、この数年で人族も大きく様変わりしたと竜紗たちも驚いていたからな。」

「でもなんで・・・あれ?」

「ん?・・・驚いたな!お早いお帰りだ。」



拗ねた顔をした族長が執務室に戻ってきた。

「ん?どした?あ!龍算の赤ワインなら俺にもくれ」

「残念ながら龍海様の赤ワインを飲み終わったところです。」

「えーなんだよ!お前らだけずるいぞ」

「族長の冷酒がありましたよ!」

龍景は抜け目がない。

「ちっ!しょうがねぇな。取ってこい!」

「さっすが龍希様!ご馳走さまです。」

龍景は立ち上がって冷酒とグラスを取りに行った。


「随分早いお帰りですね。」

「悪かったな。疲れたから静かに休みたいと妻に追い出されたんだ。」

族長が拗ねている理由はこれらしい。

「奥様のご意見を聞くこともあるんですね。」

「あ?喧嘩売ってんのか?」族長は龍灯を睨む。

「いえ、誉めてます。ちなみに龍緑は奥様に言われなくても自分から出てきましたよ。」

「お前、なんであいつの尻にしかれてんだ?」


「俺の妻をあいつ呼ばわりするのは止めて下さいって言ってるじゃないですか!あと、俺は尻に敷かれてません!妻を思いやってるだけです!」


龍緑は怒り出した。

「そうかあ?」

「まあまあ、族長」龍景がそう言いながら冷酒を注いだグラスを族長の前に置く。



「んで、お前ら何の用だっけ?」

「先ほどの人族をいかがしましょうというご相談です。」龍海が切り出す。

「あーあれか。さすがに雛は殺せねぇや。直接、俺の妻に悪さした訳でもねぇし。」

「え?雛なんですか?」

「俺の妻がたぶんそうじゃないかと言っててな。かなり幼く感じたんだと。14~15歳くらいじゃないかって。」

「ええ・・・俺何しにきたんですか?」

「は?何が?お前は何の用なんだ?」族長は首をかしげて龍緑を見る。

「俺は父上の付き添いです。」

「え?お前らまだ親離れしてねぇの?」

「違いますよ。てっきりあの人族を殺すと譲らないかと思いまして。息子にも助力を頼んだのです。」

「んーどうでもいいかなー。竜湖がほしがるならやろうかなぁ。」

「なんか拍子抜けというか・・・意外です。」

「ん?何が?龍景、お前がほしいのか?」

「結構です!」龍景は即答した。


「しかし、ならばなぜ奥様をあんなに急いでリュウカの部屋にお戻しに?」龍算が問いかける。

「ん~」

族長は言いたくなさそうだ。

 だが、族長の扱いは皆、慣れている。黙って族長の冷酒を飲みながら待っていたら、案の定、5分と経たずに沈黙に耐えきれなくなった族長は喋り始めた。

「なんというか・・・俺の妻は同族の奴隷が他の獣人に売られてるって話が嫌いなんだよ。前にあい・・・三輪から聞かされた時には涙目になってたし。」

「そうなのですか?先ほどはそんな様子は全く・・・」

「お前らの前で妻は弱ったところなんか見せないよ。相変わらず警戒心が強いからな。」

「しかし、なぜですか?正直、獣人のどの種族でも奴隷はいますのに・・・」


「分からん・・・あ~でも、俺が悪いのかなぁ。芙蓉のような花嫁を欲しがって獣人たちが人族の若い娘を買うようになったって言ったから。」


族長はそう言って頭を抱える。

「あ~いまだに奥様をどこで買ってきたのかってきいてくる奴らもいますもんね。」

「は?どいつだ?ぶち殺してやる!」

急に族長がキレた。

「え?いや、向こうも冗談で言ってるんですよ!本気にしないで下さい!」龍景は慌てている。

「ですが、一昨年ころから人族の奴隷売買は縮小しているようですよ。人族の奴隷はすぐに死んでしまうし、他の獣人との間に子ができた例もないそうで。」龍海が助け船を出した。

「あ~妻も言ってたな。人族は他の獣人の子は産めないって。」

「俺の妻もそう言ってました。人族では常識なのに、それを隠して獣人たちに奴隷を売る悪い人族(どうぞく)がいると。そいつらが取引でトラブルを起こして妻の故郷はマムシ族に滅ぼされたって。」

「ああ、手付金の話な。マムシだっけ?カモメじゃなかったか?」

「カモメは妻の両親と兄家族、あと上の姉の仇ですよ。ワニは下の姉家族の仇で、故郷の町を滅ぼしたのがマムシです。」

「え?その三種族が手を組んだのか?」

「いえ、マムシとの戦争で故郷の町から逃げ出して、カモメ領近くの人族町に逃げたそうです。その町に嫁いだ上の姉がいたそうで。下の姉はワニ領近くの人族町に嫁いでいたらしいです。」

「・・・龍緑の奥様は結婚前の話をしてくれるんだね。」龍灯は族長を横目に見ながらそう言ったが、族長はそっぽを向いてしまい、いくら待っても答えることはなかった。

 

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