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紫竜の花嫁  作者: 秋桜
第6章 望郷編
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真矢の話 後編

~紫竜本家 控えの間~

「お待たせ。」

芙蓉に続いて侍女たちの待つ部屋に戻ってきた三輪が扉を閉めてくれた。

「奥様!お疲れ様でございます。」

シュンが芙蓉が被っていた布をとり、ククが着物を着せてくれた。

 隣では三輪の茶犬の侍女が三輪に着物を着させ、三輪は濡れタオルで顔を拭いている。

「ごめんね、三輪。あなたにだけこんな・・・」


芙蓉は申し訳なくて仕方ない。

三輪はリアリティーを出すためと、顔色を悪く見せる化粧をし、髪の艶を消すために油を塗って髪をわざとぐしゃぐしゃにして、手首足首に縄の跡まで・・・

龍緑は涙目で何度も止めようとしていたけど、三輪が睨んで黙らせていた。


「大丈夫です。小学校の演劇を思い出しました。」

三輪は笑顔でそう答えると新しい濡れタオルで髪を拭いている。



「芙蓉!」

隣の部屋から夫たちがやってきて、夫はいつもどおり芙蓉に抱きついてきた。

「ごめんな。大丈夫か?」

「私は何もしてませんわ。それよりも大した話は聞き出せず・・・」

「十分すぎるわ。さすがねぇ。」竜湖は珍しく本当の笑顔だ。

「あの子・・・真矢はどうされるのですか?」三輪も気になるようだ。

「うーん、私の一存ではなんともねぇ」竜湖は濁した。

『・・・まだ子どもなのに。でもお兄さんの死を知らないまま死ねるならそれも彼女の幸せかも・・・』

芙蓉は真矢の話を聞いて落ち込んでいた。


 タンチョウの宿で捕まったリーダーらしき男がおそらく真矢の兄なのだろう。

芙蓉たちを利用してでも、後から捕まった真矢から何か聞き出そうとしているということは先に捕まった8人はもうこの世にいないということだ。

真矢もきっとこの後・・・でもここで若い娘が生きていくためには・・・彼女はどちらを選ぶんだろう?

いや選択肢すら与えてもらえないかも。

解放軍なんて無謀な話でも、私の夫はきっと・・・



「さ、芙蓉。リュウカの部屋に帰ろう。」

案の定、夫は芙蓉の肩を抱いて連れ帰ろうとする。

「ちょ!龍希待ちなさいよ!まだ芙蓉ちゃんたちにききたいことがあるの!」竜湖が慌てた様子で立ちふさがる。

「もう十分ですよ!これ以上はダメです!」

「あんたは余裕なくしすぎ!芙蓉ちゃんは子どもたちを置いてどこかに行ったりしないわよ!ねぇ、芙蓉ちゃん、あの人族の話はどこまで信用できそう?」


「え?私にはなんとも・・・獣人と戦って奴隷を解放するなんてとても・・・すぐには信じられません。」


「うーん、三輪ちゃんはどう?」

「もしも、対獣人用の武器を手に入れることでもできたら、全く不可能な話ではないかもしれませんが、そんな寄せ集めの軍隊に伝手なんてあるはずないですし。人の奴隷商人を襲うだけならともかく獣人相手に、というのは私も信じがたいです。」

「うーん、そいつらが他の獣人と手を組んでたらどう?」

「え?」芙蓉も三輪も驚いた顔になる。


「あり得ません。獣人なんかと協力するなんて。」


「私も同意見です。」


芙蓉と三輪は各々即答した。

「なるほどねぇ。ありがとう。」竜湖はいつもの作り笑顔だ。

「あなた、三輪をお風呂に行かせてあげてください。それに私の代わりに沢山苦労をかけたのですから、褒美をあげてくださいませ。」

「え!?奥様、そんな申し訳ないです!」

「ん?ああ、お前はもう行っていいぞ。なんか欲しいものあるなら後で言え。何でも用意してやる。

さ!芙蓉、もう帰ろう!」

夫はそう言うとさっきよりも強い力で芙蓉の肩を抱いて部屋から連れ出した。



「全くもう!」

族長たちが出ていった後、竜湖様はため息をついた。

『なんで族長はあんなに焦ってるの?』

三輪は不思議で仕方ない。

「三輪、お風呂に行こう。ごめんな。こんな、こんな仕事させて・・・」夫はまた涙目になってる。

 まあ、早くこの髪を洗い流したいけど・・・

「あなた。」

「ん?なに?」

「あの子・・・真矢から血の匂いはしますか?」

「え?」

夫は困った顔になる。


この顔は・・・どうやらこの質問には答えられないらしい。


「いえ、あの子が怪我をしてないか心配で」

「あ!ああ・・・怪我はないよ。竜湖様たちが調べてるから。」夫はほっとした顔になる。

「なら良かったです。私も退室しても失礼にはなりませんか?」

「大丈夫だ。むしろ引き留めてしまってすまない。お風呂に入って客間でゆっくり休んでおくれ。」答えたのはお義父さんだ。

「ありがとうございます。では、失礼いたします。」三輪は一礼すると夫に連れられて部屋を出た。



「龍緑は顔に出しすぎねぇ。三輪ちゃん勘づいちゃったじゃない。」竜湖は龍海を睨む。

「いや・・・なんというか・・・申し訳ありません。」龍海は困った顔になる。

「三輪ちゃんは知能が高いことに加えて、言葉巧みだからねぇ。こんな妻はじめてよ。」

「まあ、さっきの名演技を見ると正直怖いっす。アドリブであそこまで・・・本当に獣人ですか?」


「獣人扱いしたら奥様たちに怒られるわよ。あの龍希ですら芙蓉ちゃんの前では気を付けてるもの。」


「あー獣人なんかとか言ってましたね。」

「しかし、龍希様は焦りすぎじゃないですか?白鳥から奴隷一匹逃がしたからと言って、族長の妻を拐えるわけがない。心配する必要なんてないでしょうに。」龍算も呆れている。


「龍希は芙蓉ちゃんのことを全く信頼してないからねぇ。あの人族も殺すって騒ぎ出すわよ。あんたたち止めてね。あいつは生かしておかなきゃ。カイホウグン?とかいう人族のエサになるかもしれないし、芙蓉ちゃんたちへの牽制にも使えそうだから。」


「マジですか?龍栄様なしで?」龍景はげんなりしている。

「竜縁が毎日話しかけてるし、あと数ヶ月で復帰できそうよ。問題は・・・龍緑がどっちにつくかね。」

「龍希様と龍緑相手にって話なら無理ですよ!俺はなんの戦力にもなりません!」龍景は青い顔になる。

「龍緑なら大丈夫だ。龍希様と一緒に人族を殺そうとはしないよ。」

「本当ですか!?龍海様」

「ああ。龍希様と同じことをすると妻に嫌われると頭を抱えているからな。」


「・・・それ、本当に大丈夫ですか?」


龍景は呆れた顔で龍海を見る。

「ならいいわ。私はこの人族を眠らせて運ぶから、あんたたちは龍緑連れて、龍希の相手をよろしくね。」

「龍緑がいま妻から離れますかね?」

「その妻を利用しなさい。龍海、頼んだわよ。」

「は!」


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