真矢の話 前編
~???~
「う・・・」
「あ!起きた?ねぇ、あなた大丈夫?」
若い女の声だ。
「ん?ん・・・」
頭が痛い・・・ふらふらする。
真矢は目を開けた。
ここはどこ?
薄暗い・・・
「え!?」真矢は身体を起こそうとしたが、バランスを崩して床に転がった。手足が縛られてる。
「だ、大丈夫?」また若い女の声だ。
真矢が声の方を見ると、薄い着物をきた20代くらいの女が三歩ほど離れたところに座って心配そうな顔でこちらを見ている。
その後の壁の前には頭から白い布を被った人が座り込んでいる。
うつむいて顔が見えないので性別も年齢も分からない。
「だ、誰?どこ?ここ?」真矢はパニックだ。
「私はミカ。後の彼女はヨウ。私たちは獣人に拐われてここに閉じ込められてるの。あなたも少し前に連れてこられたのよ。」娘の言葉に真矢は思い出した。
解放軍の隠れ家で留守番をしていたのに半日たっても隊長たちが戻ってこず、日暮れ前に見張りの男が1人で帰ってきた。
隊長が真矢たちを置き去りにするはずがない。
翌朝、雪が降るなか隊長たちを2人で探していた。するとなぜかタンチョウ領に犬の獣人がいて・・・
「わ、私は真矢。犬の獣人に捕まって・・・それで・・・あ、あいつは?男はいなかった?」
「え?男?犬の獣人が連れてきたのはあなた1人よ。」ミカは驚いた顔で答える。
「そ、そっか・・・」
「お父さん?それとも兄弟?」ミカが尋ねる。
「・・・」真矢は返事に困った。
「あ!ごめんね。いきなり質問責めにして。何か話してないと不安で・・・私は町に向かう途中、雪道で家族とはぐれてさ迷っているところを拐われてきたの。目が覚めたらこの部屋に閉じ込められてて、ヨウがいてね。」ミカは自分のことをそう話すとヨウを見る。
「私は働いていたお屋敷が火事になって、着の身着のまま逃げてきたところを獣人に捕まったの。頭も顔も焼けて醜いからこの布はとらないでね。」ヨウの声から若い女だと分かった。
「あんたたちは縛られてないの?」
「最初は真矢と同じように縛られてたよ。でも数日大人しくしてたら外してもらえたの。ほら!」ミカはそう言って縄の跡が残る手首を真矢に見せる。
「じ、獣人はなんで私たちを?」
「分かんない。」ミカは首を横にふる。
「わ、私は兄たちを探してるところを捕まったの。」真矢は自分の状況がわかって少し落ち着いてきた。
「お兄さん?一緒に拐われたの?」ミカが尋ねる。
「ううん。出掛けたきり帰ってこなくて・・・一晩待って外に探しに行ったら獣人に捕まって・・・一緒に捕まったのは兄を探してた仲間」
「仲間?あなたのお兄さんは商人なの?」
「ううん。私の兄は・・・戦士よ。獣人に売られた奴隷たちを解放したり、奴隷商人をやっつけたり。私はそんな兄さんの手助けをしたくて隊員になったの。」
「タイイン?女は軍隊に入れないよね?」ミカは首をかしげる。
「解放軍って知ってる?」
「ううん。ヨウは?」ミカはそう言ってヨウを見る。
ヨウは無言で首を横にふった。
「そっか。普通は知らないよね。奴隷にされた人たちを解放するために集まった組織よ。獣人との戦争で家族を失ったり、獣人に売られた元奴隷だったり、色んな仲間がいたの。兄は10人ほどをまとめる北の隊長なの。」
「す、すごい・・・じゃ、じゃあもしかして奴隷商人や、じ、獣人とも戦うの?」ミカは先程よりも驚いている。
「うん。兄が武器や道具を本部からもらってくるの。それで司令官から命令された相手と戦うの。」
「司令官?」
「兄はそう呼んでた。私は会ったことないけど。」
「獣人から奴隷を解放するなんて本当にできるの?」質問してきたのはヨウだ。
「信じられないでしょう。でも本当よ。私がその証拠。」
「え?」ミカとヨウの声が重なる。
「私は、さ、親に売られたの。白鳥の獣人に奴隷として。でも兄さんが絶対に助けにいくって言ってくれたから、回りの奴隷仲間たちが死んでいくなか必死で生きて・・・そしたら本当に兄さんは助けにきてくれたの。」真矢は涙ぐんだ。
「うそ・・・獣人の奴隷にされたら殺されるんじゃないの?」
ヨウの声はかなり動揺している。
「私たち解放軍はそんなことしないわ。だって私たちは何も悪いことはしてないもの。悪いのは獣人に売る奴らよ。だからそいつらは皆殺し。例え子どもだって・・・」
「・・・奴隷を買った獣人も殺すの?子どもも?」ヨウの声が大きくなった。
「殺すこともあるわ。でも優先すべきは奴隷の解放だから。あと、獣人の子ども?は私は見たことないわ。あんた変わったこときくわね。殺したい獣人でもいるの?」
「ううん。獣人相手に戦うなんて怖くてとても・・・真矢はすごいわね。すごい勇気。」
「1人じゃ無理よ。私には兄さんが居るから。きっと今回も兄さんが助けに来てくれるわ。だから2人も諦めないで。一緒に生きて待ちましょう。」
真矢は精一杯笑顔を作ってそう言ったのだが、ミカの顔が曇った。ヨウも返事をしない。
「なに?信じてないのね。」
「ううん。真矢の話は信じるよ。嘘はついてないと思う。」ミカはそう言って立ち上がった。その後でヨウも立ち上がる。
「なに?どうしたの?」真矢は思わず身構えた。
「もう隣の部屋に行かなきゃ。」ミカはそう言って、ヨウに続いて扉から部屋を出ていった。
「え?」1人残された真矢は困惑した。
~紫竜本家 覗き部屋~
「・・・」
龍希は自分の見ている光景が信じられなかった。
会議のあと、捕まえた雄の人族が目を覚ますのを待って、龍希が人族のふりをして情報を引き出そうとしたのだが、会話が噛み合わず即バレた。
仕方なく、まだ寝ている雌の人族に追加で睡眠薬を飲ませ、渋々、妻と三輪に話をしに行った。案の定、妻は自分もやると言い、その場で三輪と作戦会議を始めたのだが、その案に驚いた。
2人とも人族の雌と同じく捕まったふりをして、話を聞き出すと言うのだ。警戒心を解きやすいからと言って。
眠りこけている人族の雌と同じ部屋で同じ格好をするというので龍希は慌てた。
人族の雌は檻の部屋に入れて、全裸にして手足を縛ってあった。妻に同じことをなんて無理だ!絶対に!
そうしたら竜湖が急遽、部屋を用意して人族の雌に薄い着物を一枚着せて、妻たちをその部屋に案内したのだが、
妻たちは上の着物を脱いで、手足を縛ってくれというので、また慌てた。というか泣きそうになった。
結局、妻たちは妥協案を出しあってあの格好で落ち着いた。妻は布を被ることに不満そうだったが、万一に備えて隣の部屋には龍緑、竜湖に加えて補佐官たちも待機させることにしたので、龍希は絶対に譲れなかった。
薄着の妻を他の雄の目にさらすなんて冗談じゃない!
いっそ人族の雌に厚着させたかったが、奴隷にそんなことはしないと却下された。
龍緑も妻に布をかぶって欲しかったようだが、めんどくさそうに俺を見る三輪の顔を見て言い出せなかったらしい。
三輪が自分で手首に縄の跡をつけ始めた時には涙目になっていた。
あいつも龍海と同じく恐妻家なのか?
まあ三輪の格好なんてどうでもいい。
それよりも・・・龍希ははじめて、妻と三輪を恐ろしく感じた。
龍希は成獣してから何年も地下の拷問部屋で同じことをしていた。拷問では口を割らないやつには、女たちと協力してアメとムチの役割をしたり、騙したりして情報を引き出すのだが・・・
妻たちが即興でやった演技は、竜湖たちが何日もかけて計画したものの何倍も高度だった。しかも妻も三輪も竜湖以上に嘘をつくのがうまい。
事前の打ち合わせなんてほとんどしてなかったのに・・・
こ、ここまで知能が高いのか!?
隣を見ると、男たちはもちろん、あの竜湖まで呆気にとられている。




