竜湖の策略
翌々日、龍希は一族会議を召集した。
竜湖は奴隷を得ることはできなかったが、思うところがあったらしくあの人族の雌から聞いた話は報告しなかった。
「人違いって・・・そんな出来すぎた話がありますか?」
「嘘みたいな本当の話よ。タンチョウ族に確認とったら、確かに族長たちが宿泊した夜に隣の山にあった人族の別荘が燃えたそうよ。ただ、人族たちが探してた長女家族とやらは昨日時点でもタンチョウの宿あたりで目撃されていないわ。」
「なぜ人族が人族の別荘を燃やしたのですか?」
「別荘の持ち主は奴隷商人で、獣人相手に売買をして儲けていたかららしいわ。赤子まで皆殺しにした上で火をはなって奴隷売買で得たものを全て灰にしたかったんだって。」
「それはまた・・・」ドン引きしているのは龍海だけじゃない。
「まあ、人族らしいですね。奴隷になることを拒んで自殺するというのは他の獣人たちからも聞いています。異種族を憎むのは人族の本能なのでしょう。」竜色は相変わらずだ。
「しかし、異種族相手に商売をしたり、奴隷を売っているのも同じ人族ですよ。」龍緑が不愉快そうに反論する。
「あの、それよりも熊とカバとのつながりは?」龍景が話題を変えた。
「それがねぇ。熊とカバの匂いがついてたのはタイチョウって名前の雄だけだったんだけど、一番最初に自殺しちゃったのよ。私たちのミスじゃないわ。全裸にして手足を拘束してたのに、舌を噛みきって死ぬなんて予想できないじゃない。」竜湖はそう言って悔しそうに唇を噛む。
「しかし、ワシと人族が組んで熊やカバを拐うなんて・・・」
「ワシの匂いはしなかったな。」龍希は口をはさんだ。
「少なくとも熊とカバはタンチョウ領にいるということですか?」
「分からん。使用人に命じてあのあたりを見張らせているが、今のところどちらも見つかっていない。」
「そうですか。」
「奥様は、その、落ち着かれましたか?」龍緑が心配そうに尋ねる。
「まだなんとも。昨日から三輪ちゃんに来てもらって、龍陽たちも励ましてるんだけど、やっぱりショックが大きいみたいでね。」
「しかし、人違いだったんですよね?奥様と若様たちが狙われていたわけではなく。」
「ええ。その話もしたわ。でも、龍希だけじゃなく私のことも全く信用してないからねぇ、族長の奥様は。ついでに龍緑の奥様も私たちの説明は全く信じてなかったわ。」竜湖はそう言って肩をすくめる。
「だ、大丈夫ですよね?」
龍灯がチラチラと龍希を見ながら尋ねてくるが、
「何がだ?」龍希は龍灯を睨んだ。
「え、いえ、何がといわれますと・・・お、奥様の御心情はとしか言いようがないですが・・・」
「ああ、芙蓉ちゃんは自分が側にいたから子どもたちが狙われたって自分を責めててね。参ったわぁ」
竜湖の言葉にほとんどの奴が下を向いてしまった。
「まだ大丈夫よ。母親が居ないと子どもたちが生きていけないって、芙蓉ちゃんは分かってるから。」
「まだって何ですか?子離れしても芙蓉は俺の側から離れませんよ!」
龍希は竜湖を睨んだ。
「し、しかし、族長も若様たちもおそばに居られたのに、人族たちは喧嘩を売ってきたのですか?」龍海が慌てた様子で尋ねる。
「ううん。隠れて芙蓉ちゃんを覗いてたのを龍希たちが気づいたのよ。さすがに龍希たち相手に仕掛けてくるつもりはなかったみたい。」
「ああ・・・やはりそうですよね。」
『伯母様はやっぱり頼りになるなぁ。』
龍希たちを人族と勘違いしていたことも隠してくれた。
龍希は竜湖を睨むのを止めた。
「しかし、族長も若様たちも側にいたのに、なぜ人違いに気づかなかったのでしょう?」
竜紗が余計な質問をしてきやがった。
「人族は目もそんなに良くないからねぇ。」
「な、なるほど・・・」竜紗はそう言うもののなにやら考え込んでいる。
「じゃあ、そろそ・・・ん?」
閉会しようとした龍希は廊下を歩いてくる匂いに気づいた。
扉に近い龍兎に指示して、廊下で待っていた疾風を中に招き入れた。
「会議中に申し訳ございません。タンチョウの宿を見張っていた使用人が人族を2匹捕まえてきました。どうやら先日捕まえた奴らの仲間のようです。」
「なに!?まだいたのか?」龍希は驚いた。
「はい。自殺されないよう人族の睡眠薬で眠らせて、今は柳が見張っておりますが、いかがいたしましょう?」
「族長、疾風を下がらせて会議を続けましょう。」竜湖の提案に龍希が頷くと疾風は会議場を出て、扉を閉めた。
「この2匹からはもう少し情報が引き出せますかね?」
「期待薄ねぇ。またすぐ自殺するでしょうね。でも、同族相手なら別かも。」
竜湖が嫌な笑みを浮かべる。
「ど、どういう意味ですか?」
嫌な予感がしてるのは龍希だけではない。
質問した龍緑は顔色を変えている。
「龍緑、あんたの奥様はお喋り上手じゃない。」
「はあ!?絶対にダメです!そんな危険なまねさせませんよ。」龍緑は激怒して立ち上がった。
「うーん、どうしましょ?もう2匹捕まえたと言ったら、芙蓉ちゃんが志願するかもしれませんね。」
「ふざけんな!俺の妻には近寄らせない。」龍希は竜湖を睨む。
「でも芙蓉ちゃんをこのままにしておくわけにはいかないでしょう?三輪ちゃんだって、人族たちに将来、自分の子どもが狙われるかもって不安になってるのよ。三輪ちゃんはまだ子どもっていう足枷もないし・・・結婚期間も短いからねぇ。」
「な!?だ、だからってそんな危険なまね・・・」龍緑は今度は青い顔になった。
「危険?捕まえた人族たちを全裸にして縛っておけば、三輪ちゃんたちに手を出せないわ。その上で私たちが隣の部屋に控えてれば大丈夫よ。なんなら、2人に武器を持たせておいてもいいし。」
「は?2人?三輪だけでいいでしょう?」龍希は竜湖を睨む。
「じゃあ、あんたがそう言って芙蓉ちゃんを説得しなさいな。私は嫌よ。これ以上嫌われたくないから。」
「う・・・」
妻が知れば、三輪1人にさせるとは思えない。
いや、自分一人ですると言い出すかも・・・
龍希が困って、龍緑を見ると、龍緑も眉間にシワを寄せて悩んでいる。
「うう・・・」龍希は頭を抱えた。




