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この校舎は既に閉鎖されています。  作者: トランス☆ミル
ゲーム

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8/19

Day6 悪夢

 明け方。今日もチャイムが響く前に目が覚めた。


 布団の中で、僕は天井を見つめる。


 昨夜、ここで桐谷が笑っていたことを思い出す。


 時計を見る。



05:31:47



 胸の奥が妙に静かだ。


 僕はそっと起き上がり、隣を見た。桐谷は膝を抱えて座っていた。


 目は開いているが、焦点が合っていない。岩倉は天井を眺めながら、指で布団の端をいじっている。


「おはよう」


 僕の声に、桐谷がゆっくり顔を上げる。


「……おはよう」


 桐谷の声は、昨日より少しだけ軽い。


 相変わらず、3人とも言葉は少ない。でも、その少ない言葉の中に、昨日までとは違う空気が流れている。


 それは、恐怖の終わりではなく、何か新しいものが始まった証拠だった。


 僕は窓の外を見る。外は、まだ淡い橙色。


(適応は、もう止まらない。僕たちだけじゃなく、みんなが)



◇◇◇◇◇◇



06:00:00



〔――Day6。朝になりました。本日は『DOOMSDAY』です。〕



【Day6/DOOMSDAY:朝】(06:00:00〜06:59:59)



 合成音声が、いつもより少しだけ低く響く。


 教室には、昨日よりさらに空席が増えている。7つだった空席が、今は9個。


 黒板が赤く染まる。


〔本日、執行官は存在しません。夜にて、グループ単位での投票を行います。そして、最多票を獲得したグループを消去します。


 守護者に守られた人、免罪者、殺人により無敵期間を保有している人物が、被指名グループに1人でもいる場合、投票は無効となり、再投票を行います。〕


 ざわめきはない。ただ、静かに息を吐く音だけが聞こえる。


 桐谷が小さく呟く。


「……今日で、また1グループ消えるのね」


 岩倉が肩をすくめる。


「まぁ、そうなるね。でも、無敵があるうちに、できるだけ盤面を狭めておこう」


 僕はうなずいた。


「そうだな。まずはタスクを終わらせて、状況を見極める」


 端末を開く。今日も一般人。


 タスクを確認する。



〖第三グループ:タスク〗


・音楽室で楽譜を50音順に並べ替える。


・メインアリーナのステージにマイクスタンドを5本設置。


・図書管の指定書架に本を戻す。



「軽めだな」


 岩倉がボソッと言う。


 教室の空気は、もう冷たいだけじゃない。そこには、静かな覚悟が混じっていた。



◇◇◇◇◇◇



〔昼になりました。行動を開始してください。〕



【Day6/DOOMSDAY:昼】(07:00:00〜11:59:59)



「……行こうか」


 僕たちは立ち上がり、静かに教室を後にする。


 そして、最初に音楽室へ向かった。


 廊下は静かすぎる。


 他のグループの足音すら、ほとんど聞こえない。


 誰も、無駄な動きをしない。無駄な言葉も発しない。


 ――ギィィィ……

 

 第二校舎。音楽室の扉を開けると、埃っぽい空気と古いピアノの匂いがした。


 棚には楽譜が乱雑に積まれている。


 50音順に並べ替えるだけ——単純だが、量が多い。


「分担しよう」


 僕は棚の左側を担当し、桐谷が中央、岩倉が右側。


 距離制限があるため、3人で横並びになりながら棚を移動する。


 楽譜を一枚ずつ手に取り、50音順に並べていく。


「『あ行』『か行』『さ行』……」


 指先が紙を滑る感触だけが、静かに続く。桐谷がぽつりと呟く。


「……これ、昔音楽の授業でやったことあるよね」


「あったな。でも、あの時は先生に怒られてたな」


 岩倉が小さく笑った。


「今は怒る先生もいないけどね」


 軽口を挟みつつ、淡々と作業を進める。



〖タスク進行:1/3 完了〗



 次は図書館へ向かう。


 ――ガラガラ……


 扉を開け中に入ると、机の上にいくつかの本がまばらに置いてあった。


「これを本棚に戻せばいいんだな」


 置いてある本は12冊。


 本を手に取ると、本棚を指定するウィンドウが表示された。



〖指定書架〗


・南側の一番左



 指定された棚へ行くと、一箇所だけスペースが空いている。


 僕はそこにそっと本を差し込んだ。



〖配架:1/12〗



 どうやらあっていたっぽい。


「よしっ、どんどんやろう」


 そうして僕たちは、次々と本を棚に戻していった。



◇◇◇◇◇◇



「これで最後だな」



〖タスク進行:2/3完了〗



 無事、図書館のタスクを終え、最後にメインアリーナへ向かう。


「次は体育館だ。マイクスタンド5本」


 メインアリーナの扉を開けると、懐かしく、どこか新鮮な空間が広がる。


 見慣れた場所なはずなのに、ゲームで新しいマップが解放されたかのような。そんな感じだ。


「……あれか」


 ステージの上にマイクスタンドが乱雑に置かれている。


 5本を正しい位置に立てるだけ。


 岩倉が一つを持ち上げる。


「これ、意外と重いな」


 桐谷が隣のスタンドを掴む。


「このバツ印に並べればいいのかしら?」


「たぶんね」


 僕たちは黙々とスタンドを並べていく。


 カチ、カチ、と金属音が響く。



〖タスク進行:3/3 完了〗



 タスクは終了した。


 時間は8時3分。過去最速だ。


「じゃあ、残りの時間はここで潰すか。ここは屋上同様、死角が少なく、入口も少ないから比較的安全だ」


 僕はそう言うと、ステージに腰を下ろす。


 それに続きみんなも腰を下ろすと、話題は夜フェーズへと移った。


「グループ投票……零が無敵だから私たちは安心ね」


「そうだね。問題はどのグループを追放するかだな」


 生き残る為には、僕たち同様頭のキレる危険分子を排除する必要がある。


「今後、脅威となる可能性が高いグループか……それならアイツとかは? 確かグループは第――」


 岩倉が口を開いた、その時だった。


 ――ピリリリリ……


 端末から不気味なアラームが響く。


 僕たちは、たちまち教室へ転送される。


〔強制招集が発動されました。発議者は議論を開始するか、殺人犯を指名してください。


 追放に成功した場合、発議者は2日間の安全が保証されます。失敗した場合、発議者が処刑されます。制限時間は10分です。〕


 教室に転送されると、みんなはザワついている。


「あ、あれ!? 佐々木は……?」「えっ、今……」


 特に困惑しているのは、第十グループと第七グループだ。


〔死亡者が確認されました。第七グループ:高波 遥斗はると。第十グループ:佐々木 こう。〕


(2人……)


 僕は眉間にシワを寄せる。


〔強制招集が発動されました。発議者は議論を開始するか、殺人犯を指名してください。


 正解した場合、発議者は2日間の安全が保証されます。不正解の場合、発議者が処刑されます。制限時間は10分です。〕


 間もなくして合成音声が響くと同時に、1人の男子が立ち上がった。


 ――第十二グループの高杉 蒼だ。


 メガネをかけ、凛々しい表情。典型的な学級委員長タイプの男だ。実際、学級委員長でもある。


 僕と岩倉が恐れていた、完璧、超合理主義の厄介な敵だ。


「今回議論をしたいのは、高波くんの殺人についてだ。すまないが、佐々木くんについては後にする」


 やがて高杉は口を開くと、議論を開始した。


「まずは、みんなが今いた場所を教えて欲しい。他グループとアリバイが取れるなら、それも一緒に」


 最初に手を挙げたのは、第六グループの池田だった。


「俺たちは3階のテラスにいたよ。9時半くらいまでずっとその付近でタスクやってた。誰ともすれ違ってないが、俺たちは全員無敵だから殺す動機がないはずだ」


 訴えかけるような声。


「確かにそうだな。だが、無敵期間を利用して、今のうちに人を減らそうとしたとも考えられる。それだけで白を出す訳にはいかないな」


「確かに……」


 高杉の言葉に、池田はうつむく。高杉は議論を続ける。


「まぁいい。次」


 次に、第四グループの渡辺 美香みかが小さく手を上げる。


「……私たちは1階――保健室にいた。多分、1階にいたのは私たちと第八グループだけ……」


「それは私たちも確認している」


 第八グループの牧野も続いた。


「なるほど」


 高杉は静かにうなずく。


 続いて、第三グループの僕が口を開く。


「僕たちはメインアリーナにいた。その周辺にはおそらく僕たちしかいない」


 他のグループも、次々と淡々と証言を始める。


「第九グループは3階の教室でずっと作業してた。第七グループとすれ違ってる」「私たちは……2階の西階段近くにいたけど、事件の音は聞こえなかった」「第二グループは4階の廊下」


 高杉は一つずつうなずきながら、メモを取っている様子だった。


 表情は冷静で、感情の揺らぎがほとんど見えない。


 高杉の瞳には、僕が見慣れた「合理だけを突き詰めた冷たさ」が宿っている。


 やがて、ほとんどのグループが証言を出した頃、1人の男子が高杉に、


「第十と第七グループ、そしてお前たちはどうなんだよ」


 と、少し強めの口調で尋ねた。第二グループの安元 寛治かんじだ。


「そもそもどうやって殺されたんだよ! まずは詳細を説明すべきじゃないのか?」


「別に先に話そうが後に話そうが変わらない。まぁ、殺人犯なら、詳細を先出しされた方が都合がいいのかもな」


 高杉はそうやって軽く安元を牽制すると、本題について話し始めた。


「殺人が起きたのは、3階南階段付近の廊下だ。殺人方法はスナイパーライフルによる狙撃。割れた窓と高波くんの頭部を結ぶと、場所は中庭を挟んだ先――北側の屋上からだと推測された。つまり、犯行当時近くにいた僕たち第十二グループと、第十、第七グループは白だと断定できる」


 高杉の声が重く響く。誰もが息を飲んで、その話を聞いていた。


「ちなみに音がしなかったのは、おそらくシステムによってそういう細工をされた武器だからだ。僕たちも同じような武器を見た」


「それならかなり絞れそうだね」


 高杉の説明に岩倉が割って入る。


「あぁ、今のところ容疑グループの候補は、第二、第三、第六、第十一だ。だが、第六と第三はおそらく違う。なぜなら早出しの情報は、嘘がバレるリスクが高いからだ。


 つまり、1番可能性が高いのは、その時4階にいたという第十一グループと、第二グループに絞ることができる」


 高杉は説明を終えると、第十一グループと第二グループに視線を向ける。


 第十一グループの櫻木が慌てて手を挙げた。


「私たち、ずっと南側の教室にいたよ! タスクをしてて、屋上には一度も行ってない!」


 第二グループの男子も声を上げる。


「俺らも4階の廊下にいたけど、屋上の方には近づいてない。証言できる奴がいるはずだ!」


 高杉は静かにうなずきながら聞いている。表情は一切変わらない。


 その時、岩倉が小さく呟いた。


「……安元くん、さっきから右肩を庇ってるみたいだけど、どうかしたの?」


 教室の視線が一斉に安元に向く。


 安元は一瞬、肩を強張らせた。


「別に……何でもないよ。ただ、ちょっと疲れただけだ」


 高杉の目が細くなる。


「……そうだな。安元くん、ちょっと見せてくれ」


「見せる必要なんて……」


 安元が拒否しようとした瞬間、高杉は素早く近づき、安元の右肩を軽く押さえた。


 安元が顔を歪める。


 シャツを少しめくると、右肩に淡い青黒いアザが広がっていた。


 明らかに、強い反動を受けた痕だ。


 高杉が静かに言った。


「現場に落ちていた弾丸は、.30-06スプリングフィールド弾。ライフリングは右転。おそらくボルトアクションライフルだな。レミントンM700みたいなタイプかもしれない。


 ド素人がフルパワーで撃てば、肩に確実に反動が来る。君はそれを知らなかったんだろう?」


 高杉はミリタリーオタクでもあり、その知識を活かした推理を披露する。


 安元が唇を震わせる。


「ち、違う……! 俺は撃ってない!」


「屋上から中庭を挟んで東階段の廊下を狙うには、絶好の位置だ。君が『4階の廊下にいた』なんて曖昧な位置を言ったのも、実は屋上へ上がるための嘘だったんだろう?」


 安元の額に汗が浮かぶ。


 高杉は淡々と続ける。


「安元くん。君は高波くんを狙撃した。佐々木くんの方は、おそらく別の誰かがやったんだろうが……少なくともこの一件は、君の仕業だ」


 教室が静まり返る。


 安元はもう言い訳をしようとしなかった。


 ただ、唇を噛みしめ、恨めしげに高杉を睨んでいる。


 高杉は静かに口を開いた。


「安元 寛治を殺人犯として追放する」


〔最終確認。安元 寛治を追放しますか?〕


 スピーカーの声が響く。


「まっ、待ってくれ!! やめてくれよ!!」


 安元は絶望の顔で叫ぶが、高杉は表情を変えることなく小さくうなずいた。


「……はい」


〔第二グループ:安元 寛治は殺人犯でした。よって、殺人犯:安元 寛治の処刑を執行します。〕


 その瞬間、光の鎖が安元を拘束した。


「くそ……っ! お前らも……いつか同じ目に遭うぞォ……!」


 叫びは途中で掻き消え、安元の身体が白い光に包まれる。


〔処刑が完了しました。緊急会議を終了します。〕


 教室に、再び重い沈黙が落ちた。


 誰も悲鳴を上げない。誰も泣かない。


 ただ、淡々と「また一人減った」と受け止めている。


 僕は席に座り直しながら、高杉 蒼の横顔をじっと見つめていた。


(……厄介な奴だ)


 胸の奥で、静かな興奮が広がっていく。


 やがて、みんなはランダム転送され、僕たちは2階の教室前にいた。


「煌を殺ったのって高杉……もしくは他の第十二グループのヤツだよな」


 2階の廊下を歩いていると、おもむろに岩倉が口を開いた。


「あぁ、十中八九そうだろうな。会議が始まった直後の反応から、佐々木は直前まで生きていたはずだ。


 アイツは『無音の武器』を知っていた。システムに書いてあったのか、実際使ったからなのか……これはやられたな」


「煌……いい奴だったのに……」


 岩倉は拳を握り、珍しく憤りを露わにする。


 この殺人事件は、高杉 蒼という強敵の存在を、僕も、岩倉も、桐谷も確実に認識した一件となったのだった。



◇◇◇◇◇◇



〔夜になりました。グループ投票を開始します。〕



【Day6/DOOMSDAY:夜】(00:00:00〜00:59:59)



 黒板が深紅に染まる。地獄の投票が始まった。



【グループ投票】



〔最多票を獲得したグループを処刑します。投票は匿名です。制限時間は5分です。〕


 教室全体が静まり返る。誰も声を上げない。ただ、端末を操作する指の音だけが微かに響く。


 僕たちは無敵期間中だ。第三グループに票が入っても無効になる。


 問題は、誰が「目立つ」かだった。


 投票が終了すると、黒板に集計結果が表示された。


 

 ――第八グループ:6票

 ――第十一グループ:3票

 ――第二グループ:2票



〔投票の結果、第八グループの処刑が決定しました。〕


 第八グループの残り2人——牧野 亜美と定方 美来が、ゆっくりと立ち上がらされた。


「え……なんで……私たち……?」


 牧野の声は震えていたが、すでに絶望の色が濃い。


 隣の定方も、唇を噛みしめて俯いている。


「まぁ、そうなるわよね」


 桐谷が静かに呟いた。


「本来なら3人生存のグループを狙うべきだけど、第三、第六、第十二はいずれも無敵期間保有者がいるから、2人グループの中で成績上位の2人を狙うのは妥当かもね」


「まぁ、私情も入ってると思うけどな」


 岩倉がそれに続く。


「はぁっ!? なんでよ! アタシたち何もしてないじゃない!!」


 そんな中、僕たちの右の方で定方は訴えるように叫ぶ。


 しかし、光の鎖が二人を拘束した。


 抵抗する間もなく、白い光が足元から噴き上がる。


「ハハハ……これは悪い夢よ……悪夢だ!!」


 最期の牧野の叫びは途中で途切れ、2人の身体が粒子となって溶けていく。


 椅子が2つ、空いた。


「悪夢……ね」


 僕はボソッと呟く。


(そうだよ。これは現実じゃない。ただのゲームだ。だから……ただ楽しめばいいんだよ)



◇◇◇◇◇◇



〔深夜になりました。明日も06:00:00にDay7が開始されます。生存者は、期待していてください。〕



【Day6/DOOMSDAY:深夜】(01:00:00〜05:59:59)



 僕たちは、薄暗い食堂に移動した。


(高杉……か)


 あの男は、今日の会議で安元を完璧に追い詰めた。しかも探偵の役職なしで。


 僕と同じ匂い——冷徹で、合理的で、感情を捨てた人間。


(あいつは……厄介だ。いつか、ぶつかることになる)


 僕はゆっくり息を吐いた。


 無敵は今日で終わる。明日からは、また「狩られる側」にも「狩る側」にもなれる。


 ――悪夢はまだ、始まったばかりだった。


少しでも、


「面白い!」「展開が気になる!」


と思ったら、ぜひ☆☆☆☆☆評価、感想で応援お願いします。


ブックマークがいただけると、大変励みになります。



【生存者:22/36】


【脱落者】


〈Day1〉

第二グループ:水嶋 恒一


〈Day2〉

第五グループ:佐伯健人

第一グループ:長谷川 莉乃


〈Day3〉

第十一グループ:板橋 直斗

第五グループ:辰島 雅人/野口 佳奈(全滅)


〈Day4〉

第九グループ:佐藤 愛楽


〈Day5〉

第四グループ:田中 悠人

第八グループ:神谷 篤志


〈Day6〉

第七グループ:高波 遥斗

第十グループ:佐々木 煌

第二グループ:安元 寛治

第八グループ:牧野 亜美/定方 美来(全滅)

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