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この校舎は既に閉鎖されています。  作者: トランス☆ミル
ゲーム

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7/19

Day5 消えゆく感情

 明け方。今日もチャイムが響く前に起きる。


「今日は一番か……」


 そう呟いて、時計を見る。



05:24:19



 桐谷と岩倉はまだ寝息を立てている。


 僕はそっと起き上がると、窓から外を見下ろす。外は明け方のような、淡く橙色に染まっている。


「……よしっ」


 僕は両手で頬を軽く叩いた。気合を入れるために。


 昨日デスマッチが解禁され、状況が一変した。みんなもルールに適応し始めている。


 故に、ここからが本番だと、僕は自身に言い聞かせていた。



◇◇◇◇◇◇



06:00:00



〔――Day5。朝になりました。役職を配布します。〕


 いつも通りの声。むしろ落ち着くまである。


 教室には7つの空席。目に見えて減っている。



【Day5:朝】(06:00:00〜06:59:59)



(今日の役職は……)


 画面を開く。



〖役職:探偵〗



 思わず息を飲んだ。初めての能力者。


 無敵期間は今日までなので、殺人が起きれば僕の独壇場だ。


 急いでみんなに伝える。


 桐谷と岩倉も端末を確認し終えると、すぐにこちらを見た。


「零……探偵?」


 桐谷の声が少しだけ震えている。まだ完全に感情を捨て切れていない証拠だ。


「そうだ。殺人が起きたら、僕が現場を解析できる。証拠、時刻、位置……犯人を特定できる可能性が高い」


 岩倉は小さく笑った。


「いいね。無敵が切れる今日だからこそ、ちょうどいいタイミングだ。ノーリスクで犯人を追放できるわけだしね」


 教室全体を見渡す。共有中は何も聞こえないが、初日のように泣き声や怒号を発している様子は微塵もない。


 "適応"は、静かに、確実に広がっている。


「タスクを確認しよう」


 僕は端末を開く。



〖第三グループ:タスク〗


・物理準備室から、ばね定数測定の実験セットを回収。


・ばねのばね定数を測定する。


・屋上の旗を回収し、理事長室へ運ぶ。



「実験……かなり大変そうね」


 桐谷が小さく呟く。


 そしてまたしても昨日の就寝スペースだ。


 就寝スペースとタスクの連動は、もう驚きではなく、ただの事実になっている。


「順序は物理準備室→測定→屋上→理事長室でいいな。測定は時間がかかるから、早めに済ませよう」


 岩倉がうなずき、桐谷も無言で同意する。


 3人とも、もう言葉を多く必要としない。


 合理的で、最短の道筋だけを共有する。



◇◇◇◇◇◇



〔昼になりました。行動を開始してください。〕



【Day5:昼】(07:00:00〜11:59:59)



 黒板の表示が変わり、扉のロックが外れる音が響く。

 

 僕たちはすぐに教室を出て、3階北側の物理準備室へ向かった。


 物理準備室の扉を開けると、昨日まで僕たちが寝ていた教室と同じ匂いがした。

 

 埃っぽい空気と、金属の冷たさ。

 

 棚には、ばね、スタンド、分銅入った箱が整然置いてある。


「これだ」

 

 岩倉がばね定数測定セットの箱を引き出す。

 

 端末が反応し、淡い光が走る。



〖タスク進行:1/3 完了〗



「次は測定だな。越宮くんは物理専攻だったよね」


「うん。任せて」


 僕たちは実験セットを机に置き、すぐに実験を始めた。

 

 ばねに分銅を吊るし、伸びを測る。

 

 重さを変えて複数回繰り返し、グラフの傾きからばね定数を求める。

 

 単純作業だが、集中力が試される。

 

 桐谷が分銅を一つずつ乗せていく。


 僕はデータをメモし、計算する。


「k = 9.8N/m……」


 僕は計算を終えると、端末に数値を打ち込んだ。

 

 

〖タスク進行:2/3 完了〗

 


 時間は8時24分頃。予想より速く進んでいる。


「次は屋上だ。旗を回収して2階へ運ぶ」

 

 僕たちはセットをそのままにした状態で、階段を上り始めた。

 

 廊下では、他のグループも黙々と動いている。

 

 目が合っても、誰も挨拶しない。

 

 ただ、互いに"敵か味方か"だけを測るような視線が交錯するだけだ。

 

 屋上へ続く扉を開けると、白い光が一気に視界を埋めた。

 

 3日ぶりの光景。無機質な白の世界。

 

 中央のポールには、白い旗が風もないのに微かに揺れている。


 僕たちがあげた旗。信号灯もまだある。


「よしっ、急ごう」

 

 僕はポールに近づき、ロープを緩めて旗を下ろした。

 

 久しぶりの感触。布地は意外に重く、折り畳むとずっしりと手にのしかかる。


 そして僕たちは旗を抱え、階段を下り始めた。

 

 あとは理事長室へ運ぶだけ。あと少しでタスクは完了する。

 

 しかし、階段を降りたところで、突然、どこからともなく鈍い音が校舎に響いた。

 

 ――ボォンッ!

 

 手榴弾でも爆発したかのような、重く、大きな音。


「きゃぁぁぁぁ!!!」


 悲鳴は遅れて聞こえてきた。

 

 桐谷が小さく息を飲む。


「今のは……」


 南階段の踊り場。3階――1つ下の階から、血の臭いが微かに漂ってきた。

 

 屋上の旗を回収し、2階へ向かう途中――ここで、殺人が起きた。


「……行こう」


 僕たちは、旗を抱えたまま急いで階段を降りた。


 時間はまだある。優先順位は探偵の能力を駆使し、犯人を見つけること。


 これ以上、無敵期間保有者が増えるのは危険だ。


(みんなのリミッターが外れていっているのを感じる)


 僕たちは旗を抱えたまま、音のした方向へ急いだ。


 階段を1フロア降りた踊り場——3階と2階の間。


 そこに、血だらけの人間が倒れていた。


 第四グループの田中 悠人ゆうとだ。


 右足がほぼ吹き飛んでおり、床は赤黒い血と肉片で汚れている。


 床には金属板が置いてあり、周囲には小さな金属製の欠片が転がっていた。


「地雷……トラップか」


 岩倉が低く呟いた。


 桐谷は一瞬顔を背けたが、すぐに視線を戻した。もう、悲鳴も上げない。


「田中……田中くんが……!」


 同じ第四グループの女子は、手で口を抑え取り乱している。


 その隣に立っている女子も、声こそ出さないが顔面蒼白だ。


 僕は急いで端末を起動する。



〖探偵能力:解析を発動します〗



 視界の端に、次々に青いウィンドウが展開される。



〖死亡推定時刻:09:47:12(約1分前)〗



〖証拠解析〗


・被害者右足部に爆発痕。システム改良型地雷トラップにより即死。


・トラップは「踏んだ本人以外を殺傷しない」仕様。


・トラップの欠片より指紋検出。

 ⇒ 〔一致率98.7%〕第八グループ:牧野 亜美。



「第八か……」


(へぇ、意外だな)


 僕はそう呟くと、続けてマップの能力を使う。


 "マップ"とは、探偵の能力の1つで、半径15m以内にいる人を立体的なマップに映し出すことのできる能力だ。


 マップには、既に僕たちのグループと、第四グループしか写っていない。


「犯人わかったか?」


 岩倉が声をかけてくる。


「いや、第八がやったことは間違いないが、誰がやったかまでは分からないな」


 そんなことを考えつつ、僕はふと足跡鑑定を使った。


「……ははっ、なるほど」


 ――決定的証拠。


 僕はそこに映ったものを見て、不敵に笑うと、


「今から招集をかける」


 と言い、強制招集を発動した。


 視界が白く弾け、一瞬で教室の席に固定される。


 黒板が赤く点滅する。



【緊急会議】



 教室の空気が、一瞬で張り詰めた。誰も大声を出さない。


〔死亡者が確認されました。第四グループ:田中 悠人。〕


 合成音声が不気味に響く。


〔強制招集が発動されました。発議者は議論を開始するか、執行官、または殺人犯を指名してください。


 追放に成功した場合、発議者は2日間の安全が保証されます。失敗した場合、発議者が処刑されます。制限時間は10分です。〕



【00:10:00】



 カウントダウンが始まる。僕はゆっくりと立ち上がり、教室を見渡した。


 第八グループの牧野は、顔を青ざめさせて俯いている。その隣に座る神谷は、平静を装っているが、指先が微かに震えていた。


 僕は立ち上がると、議論を開始した。


「今、殺人事件が発生した。被害者は第四グループの田中くん。死因はシステム改良型地雷トラップ。踏んだ本人以外を殺傷しない仕様だった」


 ざわめきが広がるが、すぐに静まる。みんな、もう「誰が死んだか」より「誰がやったか」にしか興味がない。


「COする。僕は探偵だ。能力で解析した結果、死亡推定時刻は9時47分。トラップの欠片から指紋が検出され、一致率98.7%で第八グループの牧野さんと一致した」


 牧野が顔を上げ、慌てて声を上げた。


「ち、違う! 私、そんなもの置いてない! 指紋がついただけだよ……誰かが私の指紋を使って……!」


 周囲の視線が集中する。第八グループの他のメンバーも、牧野を庇うように口を開く。


「牧野はそんなことしないよ……」


「確かに指紋は残るけど、証拠としては弱いんじゃない?」


 僕は静かにうなずいた。


「確かに、指紋だけなら偽装可能だ。だから協力して欲しい」


 そして僕はそう言うと、第八グループへと歩み寄った。


「ちょっといいかな」


「な、なんだよ……」


 僕は第八グループの前に立ち、端末を軽く掲げた。


「スリッパを見せてくれ。足のサイズを測るだけだ。探偵の補助機能で、靴底の形状とサイズを即座に記録できる。協力してくれれば、すぐに終わる」


 神谷が一瞬、眉をひそめた。しかし、周囲の視線が集中している。


 拒否すれば、それだけで疑いが深まる。


「……別にいいけどよ」


 神谷が渋々スリッパを脱ぎ、床に置いた。牧野も、震える手で自分のスリッパを差し出す。そして、もう1人のメンバーも。


 僕は端末をスリッパにかざした。青いスキャン光が靴底をなぞり、数秒でデータを取得。



〖足サイズ記録:神谷 篤志 26.0cm〗


〖足サイズ記録:牧野 亜美 23.5cm〗


〖足サイズ記録:定方 美来みらい 25.0cm〗



「ありがとう」


 僕はそう言って席に戻ると、視線を教室全体に回した。


「今から、南階段の2階から3階間を通ったグループに聞く。正直に答えてくれ。嘘は、探偵のマップと足跡でバレる」


 静寂が広がる。


 まぁ、嘘がバレるというのは半分ハッタリだ。足跡鑑定は過去1時間のものしか映し出さない。


 最初に手を挙げたのは、第五グループの女子だった。


「私たち、2階の教室に用があったから、南階段使ったよ。でも、3階までは行ってない」


「いつ?」


「7時台だったとは思う……」


 次に、第七グループの男子。


「俺らも南階段使ったけど、2階で止まった」


 一人ずつ、淡々と答える。誰も感情を露わにしない。ただ事実だけを述べる。


 そして、神谷が口を開いた。


「……俺ら第八も、南階段使ったよ。でも、2階で用が済んだから、3階までは行ってない」


「いつ頃使った?」


「たぶん40分前くらいかな……?」


 僕は静かにうなずいた。


「そうか。じゃあ、最後に一つ確認する」


 僕は端末を操作し、マップのデータを投影するように黒板に映し出した。


 青い立体マップが教室に浮かぶ。


「これは探偵の位置マップと足跡鑑定の結果だ。現場は南階段の2階から3階の踊り場。トラップが設置されていた場所の周囲に、複数の足跡が残っていた」


 教室の緊張が高まる。みんなの息を飲む音が聞こえてくるようだ。


「現場の足跡をよく見てくれ。トラップが設置されていた踊り場の周囲に、複数の足跡がある。第八グループの足跡だ。


 第八グループは踊り場に到達後、不自然に折り返しているのがわかる。3階へ上がる痕跡がない。つまり、犯人は第八グループの誰かだ」


 第八グループの顔が青ざめる。


「3人のうち2人の足跡は踊り場半ばで止まっていた。だが一つだけ、踊り場先の階段の手前まで来ていた足跡があった」


 僕は神谷の方を向いた。


「神谷くん。君のだ」


 神谷の目が見開かれる。


「な、何言ってんだよ……! 俺はそんなところ行ってない!」


 そう叫ぶ神谷に、僕は淡々と説明を始めた。


「足跡鑑定は、過去1時間以内につけられた足跡を解析し鑑定する能力。あの場には他に6人の足跡が残されていた。6つの上から下に下っている足跡は、僕たち第三グループと被害者の第四グループだ。そして、下から上に上がっているのが、君たち第八グループの」


「いやいや、他のグループの可能性だって……」


「さっき、2階まで上がったのがおよそ40分前だと言った。そして、1階から2階まで上がる足跡は3つしかついていない。つまり、その証言が嘘でない限り、第八以外ありえないんだよ。更に付け加えると、マップの残像と第八の足跡のサイズが完全に一致する」


 教室が静まり返る。神谷は唇を噛み、視線を逸らした。


「牧野さんの指紋をつけて欺こうとしたんだろうけど、この場合の最善は、即強制招集を発動することだったね」


 「う、嘘だ……」


 神谷は絶望の表情で頭を抱える。もうこれ以上ごまかせないと思ったのだろう。


 僕はそこで、更にダメ押しの言葉を投げかけた。


「神谷くん。君、執行官でしょ」


 その瞬間、神谷の目が見開かれる。


 桐谷や岩倉も驚いた表情で、僕を見た。


「……なんで……」


「2日目に佐伯くんに指名されたのがトラウマだったのかな。正直、みんなの警戒度がMAXのこの状況での執行官はハズレだ。不審な動きを見せただけで、指名してなくても追放されるかもしれない恐怖。それから早く解放されたかったんだな」


「そ、そうだ! お前も俺の気持ちがわかるか!」


 神谷はここに来て開き直る。もう僕の慈悲に縋るしか道はない。


 僕の言葉を聞き、神谷は全力で訴えてくる。


 しかし僕に、慈悲や躊躇いといった感情は既になかった。


「……越……宮?」


「ごめんね神谷くん」


 僕は静かに指を差す。


「おい、越……宮……嘘だよ……ね?」


 神谷はもう息の仕方も忘れ、絶望で震えている。


「神谷くんを殺人犯として追放します」


〔最終確認。神谷 篤志を追放しますか?〕


 僕は迷わずうなずいた。


「……はい」


〔第八グループ:神谷 篤志は殺人犯でした。よって、殺人犯:神谷 篤志の処刑を執行します。〕


 神谷の身体が、光の鎖で拘束される。


「うっ……や……や……だ。死にたく……ない!」


 神谷の声も虚しく、無慈悲な光が噴き上がり、神谷の輪郭が崩れていく。


 粒子になって溶け、何も残らない。椅子だけが、空席になった。


〔処刑が完了しました。緊急会議を終了します。〕


 教室に、重い沈黙が落ちた。


 もう誰も泣かない。誰も怒鳴らない。


 ただ、淡々と次の行動を考えている。


(ふぅ。これで……無敵期間保有者が増えるのを防げた)


 胸の奥で、何かが微かに疼いた。それは、もう恐怖でも罪悪感でもなかった。


 ただの、静かな満足感だった。



◇◇◇◇◇◇



〔深夜になりました。明日も06:00:00にDay6が開始されます。生存者は、楽しみにしていてください。〕



【Day5:深夜】(01:00:00〜05:59:59)



 深夜。執行官が死んだため、この日も夜の処刑は行われなかった。


「今日は音楽室か。少し落ち着けそうだな」


 岩倉はそう軽口を叩きながら布団に横になる。


「明日はドゥームズデイだけど、僕が追放成功で無敵だから、投票は問題なさそうだね」


「そっか、零の無敵期間は今日までだったから、ちょうど良かったわね。安心だわ」


「……」


 僕は黙って桐谷の横顔を見つめる。


 基本深夜は大人しくなる桐谷が、今日はよく喋ることに少し違和感を覚えたからだ。


「いつもは落ち込んでるのに、今日は余裕そうだね。あんなグロい死体を見たのは初めてだったんじゃない? 今日こそ落ち込むべきでは?」


「落ち込むべきって何よ」


 僕の言葉に、桐谷は微笑む。


「なんか、零が言ってた合理性を考えたとき、いちいち凹むのは2人の足を引っ張っちゃうかなって思ったの。ゲーム内時間では5日、現実時間では2日ちょっとしか経ってないけど、もう慣れたわ」


「……そう」


「桐谷さんも腹括ったんだね」


「えぇ、生き残るためにやれることは、とことんやりましょ!」


 その日僕たちは、久しぶりに笑いながら、夜通しで和気あいあいと話続けた。


 まるで、お泊まり会でもしているかのような、異様な雰囲気がその教室内に充満する。


 それは、僕たちの中の何かが、確実に消え去ってしまった瞬間だった。


少しでも、


「面白い!」「展開が気になる!」


と思ったら、ぜひ☆☆☆☆☆評価、感想で応援お願いします。


ブックマークがいただけると、大変励みになります。



【生存者:27/36】


【脱落者】


〈Day1〉

第二グループ:水嶋 恒一


〈Day2〉

第五グループ:佐伯健人

第一グループ:長谷川 莉乃


〈Day3〉

第十一グループ:板橋 直斗

第五グループ:辰島 雅人/野口 佳奈(全滅)


〈Day4〉

第九グループ:佐藤 愛楽


〈Day5〉

第四グループ:田中 悠人

第八グループ:神谷 篤志

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