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この校舎は既に閉鎖されています。  作者: トランス☆ミル
ゲーム

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6/19

Day4 快楽

 明け方。今日はチャイムが響く前に起きていた。


 天井は昨日と違う。少し高い。


 体感時間は2倍になっているとは言え、ものすごく眠い。睡魔は判断力を鈍らせる。


 時計を見る。



05:42:21



 隣で桐谷が膝を抱えている。目は開いているが、遠くを見ている。


 昨日より、口数が少ない。


 反対側では岩倉が、机に肘をつきながら言った。


「おはよう」


 いつも通りの声。


 だが昨日までと決定的に違うのは――誰も、罪悪感の話をしないことだ。


 僕もしない。昨日、僕は撃った。そして生き残った。


 その事実は、もう議論の対象じゃない。


 空気は重くない。ただただ、冷たかった。



◇◇◇◇◇◇



【Day4:朝】(06:00:00〜06:59:59)



〔――Day4。朝になりました。本日より、新エリアを解放します。渡り廊下を通じて、総合体育館への移動が可能です。〕


 いつもの合成音声。僕は反射的に窓の外を見る。


 中庭を挟んで、屋上の上に見える『ARENA』の文字。総合体育館。


 存在していなかった建物が、そこにある。


 誰かが呟く。


「……昨日まで、なかったよな?」


 ざわめき。


 世界が広がったわけじゃない。盤面が、拡張された。


 そして黒板の表示が反転する。赤が、より濃くなる。


〔続いて本日より、新システム『デスマッチ』を解禁します。〕


 一瞬、空気が凍る。


〔デスマッチは、グループが他グループに挑む決闘です。〕


 黒板にルールが並ぶ。



【新システム:デスマッチ】


・発動は昼のみ可能(ただし殺人犯、強制招集を発動中のグループ、無敵期間保有者は発動不可)。


・緊急会議に被せて発動可。


・デスマッチ中は強制招集、能力使用不可。


・対戦形式はランダム(1vs1 or 2vs2 or 3vs3)。


・競技内容はランダム。


・敗北グループからランダムで1名を処刑。



 教室に、どよめきが広がる。だが、まだ終わらない。



・勝利グループには、その日を含む3日間の無敵期間を付与。


・一方または両方のグループが全員無敵の場合は発動不可。



 沈黙。誰かが小さく息を呑む音がした。


 3日間の無敵。個人ではなく、グループ全員。


 つまり、勝てば神。


 岩倉が苦く笑う。


「これは……極端だな」


 桐谷は黒板から目を離さない。


「負けたら1人死ぬ。勝ったら3日無敵……」


 僕は静かに計算する。


 グループ投票は運に近い。だが、デスマッチは能動。


 勝てば確定で安全圏。


 無敵グループには投票が通らない。無敵中はデスマッチも発動不可。


 つまり、一度勝てば盤面の外に出られる。


 それは、あまりにも強い。


 教室には昨日とは違い、焦燥が見える。"挑むか挑まれるか"が新たに加わった。


 昨日までは、誰が疑われるか。今日は、誰が仕掛けるかだ。


 タスクを確認する。



〖第三グループ:タスク〗


・職員室から蛍光灯を12本回収。


・1-2の教室の蛍光灯を全て取り替える。


・サブアリーナでスリーポイントシュートを5回決める。


・下駄箱にある来客用スリッパの数を数える。


・来客用スリッパを職員室まで運ぶ。



 今までより明らかに多い。そして大変だ。


(これは大変だな……)


 僕は心の中でそう呟いた。



◇◇◇◇◇◇



〔昼になりました。行動を開始してください。〕



【Day4:昼】(07:00:00〜11:59:59)



 今日も全員一般人だ。僕は無敵。


 教室を出て、中庭に架かる渡り廊下を進んでいると、岩倉がこちらを向く。


「越宮くん。どう見る?」


 桐谷も、静かにこちらを見る。


 僕は渡り廊下を渡り終えると、一度、窓の外の体育館を見た。


 3階から架かる、開放感のある階段と柵、屋根だけの渡り階段と4階から繋がる渡り廊下。白い虚無の中に浮かぶ箱。


(勝てば天国。負ければ地獄)


 単純で残酷。そして合理的。


(……これは処刑じゃない。競技化された淘汰だ)


 僕は心の中で呟く。


「とにかくやることは変わらない。執行官に警戒しつつ、急いでタスクをこなそう」


 それから僕たちは、タスクへ急いだ。



◇◇◇◇◇◇



 職員室から蛍光灯を12本回収し、4階へ登る。


 1年2組の教室の扉を開けると、何やら久しぶりな光景が広がっていた。


「……やはり、昨夜の就寝スペースか」


 僕たちは軽く深呼吸すると、蛍光灯を取り付ける準備を始める。


「零が1番身長高いんだからよろしくね」


 桐谷の身長は162cm。岩倉は173。僕の身長は178。3人の中でいちばん高い。


「わかってるよ」


 案の定、取り付け役は僕に決まった。


 職員室からついでに持ってきた脚立にまたがると、蛍光灯を一本ずつ差し込んでいく。


 カチッ、と乾いた音が響く。


「昨日ここで寝てたんだよね」


 桐谷がぽつりと呟く。


「一体、どんな意図があるんだろうね。ただの遊び心かな」


 岩倉は少し冗談交じりに言う。


 僕は最後の一本をはめ込む。


 パチン、と通電。


 教室が均一な光に満たされる。



〖タスク進行:2/5完了〗



 端末に表示が出る。


「残りは体育館とスリッパだな」


 岩倉が言う。


「先にスリッパのタスクからやろう。スリーポイントは運が絡むから、無駄に時間を吸われる可能性がある。だから、確実なものから潰す」


 僕の意見に2人とも賛成し、1階の下駄箱へ向かう。



◇◇◇◇◇◇



 来客用の下駄箱。その中には、異様なほど整然と並ぶ来客用スリッパ。


 静まり返った空間に、3人分の足音だけが響く。


「数えるよ」


 桐谷の声は淡々としている。


「「「1、2、3、4――」」」


 下駄箱からスリッパを取り出し、そこにあったコンテナに入れていく。


 単純作業だが、こういう時が一番思考が回る。


 デスマッチ。無敵。


 焦って勝ちに行くやつから死んでいく。


(全容がわからない今は、動くべきじゃないな)


 僕はそんなことを考えながら、スリッパを数えていく。


「――76、77、78――」



◇◇◇◇◇◇



「256足ね」


 最終的に合計を出す。



〖来客用スリッパ:合計 256足〗



 端末に入力。



〖タスク完了:3/5〗



 次は運搬。3つのコンテナをそれぞれ抱え、再び職員室へ向かおうとした。


 その時だった。


 ――ピリリリリ……


 端末からの鋭いアラーム。空気が震える。


 岩倉が舌打ちする。


「……こんな時に強制招集か」


 視界が歪む。転送。白く弾ける視界。次の瞬間、全員が自席に固定されている。


「ま、またかよ!?」


「今度は何!?」


 教室は相変わらずザワザワしている。


〔強制招集が発動されました。発議者は議論を開始するか、執行官、または殺人犯を指名してください。


 追放に成功した場合、発議者は2日間の安全が保証されます。失敗した場合、発議者が処刑されます。制限時間は10分です。〕


 そんな中、スピーカーの説明が終わるや否や、1人の男子が立ち上がった。第九グループの永谷 翔吾だ。


「こいつだ……こいつが執行官だ! 今、俺を指さしてた!」


 そう言って、永谷が指名したのは、第六グループの北村 志穂だった。


 丸メガネをしている、大人しい子だ。


「ち、違う……違うよ」


「いいや、こいつだ」


 北村が弱々しく反論するも、永谷は確信した眼差しで北村を見つめる。


「み、見間違いじゃないのか?」


「そうだ! 2日目の佐伯くんを見てただろ? 早とちりだ!」


 北村のグループメンバーは、必死に北村を庇う。しかし、それは苦しいものだった。


〔最終確認。北村 志穂を追放しますか?〕


 永谷はゆっくりとうなずく。


「……あぁ」


 それを聞いて、北村は泣き崩れる。


「もう、やだよ……気付かれずに5秒なんて……無理だよぉ……」


 教室は一瞬静寂する。


 そして、


〔第六グループ:北村 志穂は執行官でした。よって、執行官:北村 志穂の処刑を執行します。〕


 と、スピーカーの声が響く。


 誰もが息を飲んだその瞬間、北村はなにかに気づいたように口を開いた。


「デスマッチ……!? デスマッチは緊急会議に被せて発動できる!」


 その言葉に、みんなはハッとする。


 北村は何やら端末を操作している。


「なッ!? そ、そんなこと――」


 永谷は驚いたように声を出すが、それに被せるよう北村が叫ぶ。


「対象第九グループ! デスマッチ発動!」


 その瞬間、アラーム音と共に視界が白飛びした。


〔デスマッチが発動されました。発動:第六グループ。対象:第九グループ。〕


 白が剥がれ落ちるように消え、次の瞬間、僕たちはメインアリーナのギャラリーにいた。

 

 床は磨かれた木目。天井は高く、証明が規則的に並んでいる。

 

 中央には一面だけ、ネットが張られていた。



【デスマッチ】

 

・競技内容:バドミントンダブルス

 

・形式:15点先取、デュースなし

 

・参加者以外の介入は禁止

 


 舞台のスクリーンに文字が浮かぶ。


「バドミントンって……運動神経ゲーじゃない?」


「いや、素人なら運だろ……」


 全員未経験者。ざわめきが広がる。

 

「ご、ごめんなさい。つい……怖くて……」


 そんな中、北村はメンバーに謝っている。


 これで負けたら関係の無いメンバーが死ぬかもしれないため、当然と言えば当然だ。


「大丈夫だって! 俺たちチームなんだろ? なら、1人も死なせられないよ!」


 そんな北村に、メンバーは優しく声をかけている。


 そして、代表が決まり、4人が中央に集まる。



【第六グループ代表】

池田 茂人しげと/大森 秋



【第九グループ代表】

永谷 翔吾/佐藤 愛楽あいら



 スクリーンには名前が映し出される。比較的運動ができるメンバーだ。


「これは、面白そうな組み合わせだな」


 隣にいる岩倉は、ちょっと楽しそうだ。


「くそっ、これで負けたら……」


 しかし、当人である永谷たちは、気が気でない様子。


 そんな中、ついにスピーカーの声が空間に響き渡る。


〔それではこれより、デスマッチを開始します。サーブは第六グループから。〕


 そうして、運命のデスマッチが幕を開けた。



◇◇◇◇◇



 代表はラケットを持ち、構える。


 シャトルを持った池田が深く息を吸う。

 

 体育館は異様に静かだった。ギャラリーにいる30人近い視線が、コート中央の4人に突き刺さっている。

 

 床板が軋む音すら、大きく聞こえる。


〔サーブ。第六グループ。〕

 

 ピッ、という電子音。池田が軽くシャトルを上げ、打つ。

 

 高いロブ。緊張からか、やや甘い。

 

 永谷が前に出る。

 

 ――パシン!

  

 強いスマッシュ。


「うわっ……!」

 

 大森が反応できず、床に白い羽が落ちる。



【0-1】

 


 スクリーンにスコアが表示される。

 

 ざわめき。


「やっぱ永谷のほうが動けるな」


「第九有利じゃね?」

 

 永谷は歯を食いしばる。


「このまま押し切る……!」

 

 だが、2点目。

 

 永谷のレシーブがネットにかかる。



【1-1】

 


 緊張で距離感が狂っている。

 

 大森が小さく息を整える。


「……力まなくていい。拾えばいい」

 

 北村がコートの横で両手を握りしめている。

 

 北村の処刑が、まだ保留状態であることを誰も忘れていない。

 

 長いラリー。素人同士故に、スマッシュよりも"落ちない"勝負。

 

 シャトルが高く上がるたび、天井の蛍光灯がちらつく。

 

 池田が体勢を崩しながらも返す。

 

 永谷の強打。アウト。



【2-1】

 


 徐々に、流れが第六へ傾く。

 

 永谷は焦っている。負けたら自分のグループから誰かが死ぬ。それは俺かもしれない。その重圧が、プレーを荒らす。

 

 対して池田は、口数が減り、呼吸だけに集中している。

 

 点差は、



【5-3】

【8-5】

【11-7】

 


 と、差が開く。

 

 観客席がどよめく。


「第六、安定してるな……」


「永谷、打ち急いでる」

 

 零は腕を組んだまま、静かに見る。


(技術差じゃない。完全に精神差だな)

 

 このゲームは、能力の優劣ではない。

 

 恐怖への耐性。それが勝敗を分ける。

 

 終盤。



【14-11】

 


 マッチポイント。

 

 永谷の顔は真っ青だ。永谷は歯を食いしばる。


「まだだ……!」


 サーブは第九。佐藤が打つ。


 ネット際に落ちる良いコース。


 大森が滑り込み、ギリギリで拾う。

 

 高く上がる。甘い。

 

 永谷が跳ぶ。渾身のスマッシュ。

 

 ――しかし。

 

 わずかに、ラケットの芯を外す。

 

 シャトルはネット上部に当たり、ふわり、と失速し、第九側のコートに落ちた。

 

 静寂。そして、


〔終了。15-11で第六グループの勝利。〕

 

 と言う音声と共に、ビーっと電子音が、無情に鳴り響く。

 

 永谷がその場に膝をつく。


「……くそ……」

 

 佐藤が唇を噛む。スクリーンが赤く変わる。


〔敗北グループより、ランダムで1名を処刑します。〕

 

 ギャラリーが凍る。名前が高速で回る。

 

 永谷。佐藤。もう一人のメンバー。停止。



【佐藤 愛楽】



〔これより、第九グループ:佐藤 愛楽を処刑します。〕


「……え?」

 

 佐藤が小さく声を漏らす。永谷が顔を上げる。


「ちょっと待って!! なんであたしが……!!」


「待てよ! 俺が――!」

 

 必死の叫びも虚しく、光が佐藤を包む。

 

 佐藤は一瞬、永谷を見る。何かを言おうとしたが、音は届かない。

 

 次の瞬間、佐藤は消えた。

 

 体育館に、重たい沈黙が落ちる。


「ッ……くそったれがァァ!!」


 永谷は拳で床を強く叩く。悲痛の叫び。

 

 北村は安堵からか、その場に崩れ落ちる。

 

 そして次に、


〔第六グループに、3日間の無敵効果を付与します。〕

 

 と、スピーカーの音声と共に、青い光が第六のメンバーを包む。

 

 歓声はない。だが、空気が変わる。"完全安全圏"が誕生した。

 

 観客席にいる生徒たちの視線が、第六グループへと集中する。

 

 羨望。嫉妬。警戒。

 

 零は小さく息を吐く。


(勝者は守られる。だが、目立つ)

 

 岩倉が低く笑う。


「これで第六は触れない……だが、夜の投票材料にはなるな」

 

 桐谷はただ、コートを見つめている。床にはまだ、白い羽が転がっていた。

 

 それはただの道具のはずなのに、誰かの命と等価になった証のように見えた。


 そして、その傍らにいる北村の表情は、どこか笑っていた。


(……いい顔だな)


 その表情は、絶望や恐怖を乗り越えた先にある――圧倒的快楽。


 ギャンブルと同じで、この快感は忘れられない。


〔デスマッチ終了。お疲れ様でした。〕

 

 そして次の瞬間、視界が白く弾ける。

 

 体育館の空気が消え、再び教室へ。


〔緊急会議を再開します。第六グループ:北村 志穂は無敵期間保持者であるため、追放が無効化されました。これで、緊急会議を終了します。〕


「なッ!? そんな風になるのか」


「なんか、ズルくない?」


 北村の大逆転劇に教室が騒めく。



【緊急会議終了】

 

 

 昼はまだ、終わっていない。だが確実に、盤面は動いた。

 

 強者が生まれ、敗者が消えた。

 

 そして、観戦していた全員が理解した。このゲームは、ただ生き残るだけでは足りない。勝たなければ奪われると。



◇◇◇◇◇◇



 その後、夜フェーズは誰も処刑されることなく終わった。


〔深夜になりました。明日も06:00:00にDay5が開始されます。生存者は、楽しみにしていてください。〕



【Day4:深夜】(01:00:00〜05:59:59)



 深夜。今日は物理室。天井からは、いくつかのリーラーコンセントがぶら下がっている。


「デスマッチ……恐ろしいわね」


 桐谷は少し冷静に、そう口にする。


「執行官、殺人、追放、デスマッチ……無敵。ここから加速するぞ」


「そうだね。明日は何人死ぬのやら」


 岩倉はいつも通り、余裕そうな表情だ。


 どこか達観した口調。でも、その奥には確かな覚悟が感じられた。


「私たちを除いて、残りは26人。あと何日ここに居ればいいんだろう」

 

 僕たちを除き残り26人。数字は減っているのに、圧迫感は増している。

 

 今日、俺たちは何もしていない。ただ観ていただけだ。


 だが確実に、このゲームの"形"を理解し始めている。それはみんなも同じ。


 最後に見せた北村の表情。みんなの中から、何かの感情が消えようとしている。


 それは、みんながゲームに適応し始めているということ。


 勝てば守られる。負ければ削られる。そして、観ているだけでも、心は削れる。

 

 桐谷はもう何も言わない。岩倉も目を閉じた。

 

 静寂の中、俺は天井を見上げる。この盤面は、まだ広がる。

 

 ゲームは楽しんだ者勝ちだ。ならば僕は、このデスゲームを楽しむ他ない。

 

 合理的に。冷静に。不要な感情を殺し、最後の1グループになる、その瞬間まで。


少しでも、


「面白い!」「展開が気になる!」


と思ったら、ぜひ☆☆☆☆☆評価、感想で応援お願いします。


ブックマークがいただけると、大変励みになります。



【生存者:29/36】


【脱落者】


〈Day1〉

第二グループ:水嶋 恒一


〈Day2〉

第五グループ:佐伯健人

第一グループ:長谷川 莉乃


〈Day3〉

第十一グループ:板橋 直斗

第五グループ:辰島 雅人/野口 佳奈(全滅)


〈Day4〉

第九グループ:佐藤 愛楽

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