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この校舎は既に閉鎖されています。  作者: トランス☆ミル
ゲーム

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5/19

Day3 合理的判断

 今日も、不気味なチャイムの音で目が覚める。


 眠った感覚はない。昨日と同じ。


 暗い天井。見慣れない教室。硬い布団。


 時計を見る。



05:51:32



 隣では桐谷が静かに座っている。


 目は開いているが、焦点が合っていない。反対側では岩倉が天井を見つめていた。


「……おはよう」


 岩倉が、いつも通りの声色で言う。いつも通り。


 それが逆に、不自然だった。


 誰も、昨日のことには触れない。空気は重くない。


 冷たい。


 昨日までは恐怖があった。


 今日は――覚悟の匂いがする。



◇◇◇◇◇◇



06:00:00



 瞬き。視界が歪む。次の瞬間、教室の自席に固定されている。


 そして、いつも通りの声。


〔――Day3。朝になりました。本日は『DOOMSDAY』です。〕


 ざわめき。その言葉だけで、空気が張り詰める。


(ドゥームズデイ……投票で1グループが処刑される日)


 声は続く。


〔本日、執行官は存在しません。夜にて、グループ単位での投票を行います。そして、最多票を獲得したグループを消去します。〕


 教室にはどよめきが広がる。


〔守護者に守られた人、免罪者、殺人により無敵期間を保有している人物が、被指名グループに1人でもいる場合、投票は無効となり、再投票を行います。〕


 黒板の表示に目が止まる。



【Day3/DOOMSDAY:朝】(06:00:00〜06:59:59)



 静寂。空席が、目に入る。


 水嶋。佐伯。長谷川。


 昨日までは"個人"が消えた。


 だが、今日は単位が違う。


 桐谷が小さく呟く。


「……最大3人、確実にいなくなるのね」


 誰かが震える声で言う。


「執行官いないなら、安全じゃないのか?」


 違う。安全ではない。責任が分散されただけだ。


 僕は端末を開く。



〖役職:一般人〗



 小さく息を吐く。


 岩倉を見る。


「"また"一般人だよ」


「私も一般人だったわ」


 3人とも、一般人。今回は、どうやら本当らしい。


 岩倉の目が一瞬だけこちらを見て、微笑む。


 昨日の深夜の会話がよぎる。


 今日は執行官はいない。いないからこそ、しなければならない。


 ――合理的判断を。


 僕はタスクを確認する。



〖第三グループ:タスク〗

 

・音楽室よりベビーハープの回収。

 

・美術室の天使の像にベビーハープを持たせる。

 

・下駄箱より旗を回収し、中庭に掲揚。



 軽い。昨日より明らかに。


 だが、今日は昼が本番ではない。夜だ。


 教室の空気が変わっている。


 昨日までは、「誰が執行官か」。


 今日は、「どのグループを切るか」。


 視線が、人から"塊"へと変わっている。


 岩倉が小さく笑う。


「今日は平和だな」


「昼はね」


 僕が返す。


 桐谷は唇を噛んでいる。


「……誰かを選ばなきゃいけないのよね」


 否定はしない。できない。


 全ては他人の評価次第。対策も警戒もほぼ無意味。


 僕はここに来て、久しぶりの緊張が走った。



◇◇◇◇◇◇



【Day3/DOOMSDAY:昼】(07:00:00〜11:59:59)



〔昼になりました。行動を開始してください。〕


 みんなは動き出す。


 だが、誰も急がない。誰も笑わない。


 それぞれが、静かに歩き出す。 音楽室は、2階南側にある渡り廊下を渡った先の第二校舎にあるため、僕たちは階段を下りる。


 今日は、執行官はいない。だからこそ、全員が執行官になる。


(投票は他人の評価次第……完全に運任せ……)


 音楽室へ向かう廊下で、ふと足が止まる。


 運。それは合理とは対極にある。


 ここまで生き残ってきたのは、運じゃない。観察と選択の積み重ねだ。


 なのに今日は、最後が他人の気分で決まる。


(3人まとめて消える可能性がある)


 対策はほぼ無意味。


 ――いや。一つだけある。確実に"安全圏"に入る方法。


 胸の奥が、妙に静かになる。


(無敵期間)


 このゲームには、殺人による短時間の保護がある。


 倫理。感情。罪悪感。


 そんな言葉が頭をよぎるより先に、計算が終わる。


 僕は振り返る。岩倉と目が合う。


「……ひとつだけ、提案がある」


 岩倉は数秒黙った後、わずかに笑った。


「ああ。俺も同じこと考えてた」


 迷いがない。


 桐谷だけが、立ち止まる。


「……待って。それって……」


 僕は、できるだけ平坦な声で言う。


「これは感情とか倫理とか、そんな問題じゃないんだよ」


 自分に言い聞かせるように、口を開く。


「ここは、最も合理的な判断をしないといけないんだ」


 桐谷の目が揺れる。


 沈黙。


 やがて、彼女は小さくうなずいた。


「……生き残るため、よね」


「ああ」


 それ以上は言わない。やがて、僕たちは再び廊下を歩き始めた。



◇◇◇◇◇◇



 タスクへ向かっている時。第二校舎3階、音楽室へ行く途中の人気のない空き教室。


 教卓の後ろに、何やら光っているものが見えた。


 ――ガラガラ


 扉を開ける。


「……これで次の段階に進めるね」


 そこには、1つの銃がゲームのように光って浮いていた。


「サイレンサー付きのグロック17か」


 僕はそれを手に取る。現実感が、指先に宿る。


 そして、ウィンドウが表示される。



〖GLOCK17/サイレンサー〗


・サイレンサー付きの銃。


・急所などにクリティカルヒットすれば100ダメージ与えられる(他の場所は50ダメージ)。



「ダメージ?」


 僕は端末を弄ってみる。すると、「状態」という項目に目が止まった。


 開いてみる。



〖状態:越宮 零〗


HP:100/100

 

精神状態:かなり安定



「銃を見て実感が湧いてきたとこなのに、急にゲーム見たいに……調子狂うなぁ」


 岩倉はそうため息をつく。


「ゲーム……」


 桐谷が目を逸らす。


「とにかく、タスクを早く終わらせよう」


 感情を削る。これは選択肢の一つ。ただそれだけだ。


 僕たちは残りのタスクを機械的に終わらせた。


 同じく別校舎にある美術室の像にベビーハープを持たせ、中庭で旗を掲げる。


 中庭を去る際、別のグループと目が合う。


 誰も、僕らを疑っていない。まだ。



◇◇◇◇◇◇



「狙いやすいのは頭。確実に頭を撃ち抜くなら、上からだ」


 僕たちは4階の南階段にいた。3階から4階に上がって来る人を、狙い撃ちする。


 ここなら、一瞬で終わる。


「作戦通り行くよ。桐谷は無理しないでね」


 心拍は上がっていない。妙に静かだ。


 下から、足音。誰かが階段を上がってくる。


 姿が見える。同じクラスの男子。


 名前が一瞬浮かぶ。だが、すぐに消す。


 あれは人じゃない。"条件"だ。


 指が引き金にかかる。躊躇は――ない。


 ――ボンッ!


 小さく、空気が弾けるような音。


 その瞬間、相手の体が崩れる。


 時間が止まる。血が出るよりも先に、岩倉が端末を操作する。


 ――ピリリリリ……


 アラームが鳴り響き、空間が歪み、視界が白く弾ける。


 次の瞬間、全員が自席に固定される。


 証拠も、騒ぎも、途中で切り取られる。



【緊急会議】



 教室にざわめきが広がる。


「強制招集!?」「今、音しなかった?」「なんか聞こえ……」


 そんな中、1人の女子の声が響いた。


「板橋くんが……板橋くんがいない!!」


 遅れて、メンバーの男も話し出す。


「今、どっかで銃声がなった瞬間……板橋が……!」


 そんな中、スピーカーから声が響く。


〔死亡者が確認されました。第十一グループ:板橋 直斗。〕


 初めての殺人。ついに誰かが、一線を越えた事実にどよめきが止まらない。


〔強制招集が発動されました。発議者は議論を開始するか、殺人犯を指名してください。


 追放に成功した場合、発議者は2日間の安全が保証されます。失敗した場合、発議者が処刑されます。制限時間は10分です。〕



【00:10:00】



 カウントダウンが始まる。


 僕はゆっくり息を吐く。心臓が、ようやく強く打ち始めた。


 桐谷は俯いている。


「俺たちはタスクが終わったから、情報収集のため招集をかけたんだ。夜になれば1グループ全員死ぬ。だから投票の前に、全員で話し合いたかったんだ」


 岩倉の言葉に、みんなは沈黙する。


「だが、今は殺人の犯人探しだ。沙友理さゆりたちはどこにいたんだ?」


 少し間を置いて、板橋のグループメンバーの1人――櫻木さくらぎ 沙友理が話し始める。


「私たちは、図書館に向かってる階段の途中で……」


「なるほど……」


 冷静な議論。だがそんな中、ある声が上がる。


「お前が殺したんだろ! 健! タイミングが良すぎるぞ!」


 岩倉はすぐに反論する。


「いや、俺たちは1階の中庭付近にいる。絶対に関与できないよ。多分、第七グループが見てくれてるんじゃないか?」


 岩倉は第七グループに視線を向ける。


「え、う、うん。見たよ。岩倉くんたちじゃない」


 第七グループの女子の1人が岩倉を擁護する。


 中庭から実行までおよそ5分。


 だが、極度の緊張の中、正確に時間を把握、情報を整理し、判断を下すのは不可能に近かった。


「で、でもタイミング良すぎだろ! しかも、なんでそんなに冷静なんだよ! 人が死んでるんだぞ! お前が殺ったんだろ!」


 案の定の罵声。しかし、岩倉は冷静に返す。


「追放したけりゃすればいい。だが、感情だけで判断したらダメだよ。今まで、何人がそれで死んだと思ってるの?」


 それを聞いて、罵声を浴びせた男子は黙った。だが、怒りを顕にしている。

 

「岩倉くんの言う通りだよ。少し落ち着けって」


 その男子のメンバーは、優しくなだめている。


〔これで、緊急会議を終了します。〕


 そうして時間が過ぎ、緊急会議は終わりを迎えた。



【緊急会議終了】



 転移が完了し視界が開けると、そこは他クラスの教室だった。


「……3階?」


 どうやら殺人があった後の転送は、ランダムになるらしい。


 警戒はしていたが、僕は少しホッとした。


 そして、おもむろに僕は自分の手を見る。


 震えてはいない。だが、確実に何かが削れた。


 合理的判断。それは正しかったのか。


 だが僕にとって、疑問を持つことすら非合理的だった。



◇◇◇◇◇◇



〔夜になりました。グループ投票を開始します。〕



【Day3/DOOMSDAY:夜】(00:00:00〜00:59:59)



 昼のざわめきが、まだ微かに残っている。


 だが、容赦なく時間は進む。


 黒板が、ゆっくりと赤く染まる。



【グループ投票】



〔最多票を獲得したグループを処刑します。投票は匿名です。制限時間は5分。〕


 教室のあちこちで、視線が動く。


 僕は端末を起動する。



〖暗殺成功により無敵効果が付与されました〗


〖無敵時間:29:58:41〗



 次に僕は周囲を見渡す。人ではなく、"塊"を見る目。


 昼の件。銃声。強制招集。


 疑いは、消えていない。


 桐谷が小さく呟く。


「……来るかもしれないね」


「多分ね。まぁ、僕たちは昼の件がなくても、おそらく狙われてたよ。桐谷がいるから強いと思われてそうだし」


「どうだろうね。人気者の桐谷さんが抑止力になってたんじゃない? まっ、逆に女子が私怨で入れるか……」


 岩倉は、いつも通りの声で言う。


 僕は再び端末を握る。


 画面に、投票画面が表示される。



【投票先を選択してください】



 指先が、わずかに冷たい。


 理屈の上では、僕たちは消えない。問題は、それを誰も知らないことだ。


 教室が静まり返る。タップ音すら聞こえない。共有フェーズのように、声が遮断されている。


 たった5分が、やけに長い。


〔投票を終了します。〕


 黒板に、集計が表示される。



 ――第一グループ:2票

 ――第五グループ:3票

 ――第三グループ:7票



 どよめき。最大票。やはりだ。


「……7グループも……」


 桐谷の肩が小さく震える。


 だが僕は冷静だった。


 声が続く。


〔投票の結果、第三グループの処刑が決定しました。〕


 一瞬、間が空く。そして――


〔被指名グループ内に、無敵期間保有者を確認。投票を無効とし、再投票を行います。〕


 ざわめきが爆発する。


「は!?  無敵って何だよ!」「守護者!?」「ふざけんな!」


 岩倉は、静かに目を伏せている。


 再投票。今度は、迷いが混じる。


 第三グループは無効。ならば、次に危険な塊はどこか。


 感情が混ざる。昼に声を荒げたグループ。情報が曖昧だったグループ。


 責任の押し付け合いが、目に見えない形で始まる。


〔投票を終了します。〕


 表示。



 ――第一グループ:1票

 ――第五グループ:6票

 ――第七グループ:4票



 黒板が、赤く点滅する。


〔投票の結果、第五グループの処刑が決定しました。これより、被指名グループである第五グループ:辰島 雅人まさと/野口 佳奈の処刑を執行します。〕


 第五グループ――佐伯のいたグループだ。


「ちょ、待てよ……」


 席から立ち上がろうとする辰島。


 拘束がかかる。隣の野口が泣き出す。


「なんでよ……私たち、何もしてないじゃん……!」


 辰島が叫ぶ。


「無敵とか意味わかんねぇよ!  じゃあ最初から言えよ!」


 だが、処刑は止まらない。光が第五グループを包む。


 消える直前。


 辰島が、こちらを睨んだ。


「くそっ! お前らのせいだー!!」


 教室に響く、最後の叫び。


 ふと、黒板の端の小さな表示を見る。



【生存者:30/36】



 静寂。今日は合計で、3つの席が空になった。



◇◇◇◇◇◇



〔深夜になりました。明日も06:00:00にDay4が開始されます。生存者は、楽しみにしていてください。〕



【Day3/DOOMSDAY:深夜】(01:00:00〜05:59:59)



「ッ!? 楽しみに――」


 桐谷がそう口を開いた瞬間、転送される。


 今日はどっかの教室。広い。


「いま、セリフが変わって……」


「おそらく、ドゥームズデイの山場を超えるごとに、難易度も上がっていくんだろう。もう覚悟の段階じゃないんだよ」


 僕はそういうと、ため息をつく。


 それから少し間を置いて、再び口を開いた。


「……思ったんだけど、Day1の時は化学室が就寝スペースで、次の日化学室のタスクがあった。昨日――Day2は美術室で、今日美術室のタスクがあった……これって偶然かな?」


「確かに……でもどうだろうね。タスクの先取りみたいな、隠し要素があるのかな?」


 岩倉は、教室の天井を見上げたまま答える。


「偶然じゃないなら……"慣らしてる"ってことだろうね」


「慣らす?」


 桐谷が聞き返す。


「自分たちが寝てる場所に、意味を持たせる。翌日のタスクと繋げる。つまり――」


 岩倉はゆっくりこちらを見る。


「この時間も全て、"ゲームの一部"ってこと。ただの休憩時間や準備時間じゃない。朝、昼、夜同様に」


 静かに、言葉が落ちる。


 僕は周囲を見渡す。薄暗い空き教室。


 机の配置。窓の位置。黒板の端のヒビ。


(ここが、明日の盤面になる可能性がある)


 偶然なら考えるだけ無駄だ。


 だが、もし必然なら――差がつくのは、"気づいた側"だ。


 僕は窓際まで歩く。外は相変わらず、真っ黒だ。


 空でもない。夜でもない。ただの、塗りつぶし。


(盤面は、毎晩リセットされていない。中庭の祭壇は未だにあった。昨日も、屋上に旗が残ってた)


 人が減る。疑念が増える。ルールが開示される。


 そして僕たちは、少しずつ適応していく。それが一番、恐ろしい。


 桐谷が、ぽつりと言う。


「……今日のこと、後悔してる?」


 問いは軽い。だが重い。


 少しだけ考える。


 撃った瞬間。崩れる身体。無敵の表示。


 心は揺れなかった。今も、揺れていない。


「後悔は、合理的じゃない」


 それが答えだった。


 桐谷は何も言わない。岩倉が小さく笑う。


「越宮くんは、ほんとブレないな」


 違う。ブレないんじゃない。ブレないようにしているだけだ。


 静寂が落ちる。


 遠くで、どこかの壁が軋む音がした気がする。まるで、校舎が生きているみたいだ。


 36人で始まったゲーム。今は30人。


 明日は、もっと減る。やがて――最後のひとつになるまで。


 僕は横になる。天井を見つめる。


(合理的に。冷静に。最短距離で)


 それだけを考える。


 意識が薄れていく直前、関係ないはずの空き教室の黒板に、淡い文字が浮かんだ気がした。


 もう、精神がゲームにのめり込んでいる。


 それと同時に、自分のものかわからない感情が込み上げて来た。ほんの少しだけ。


 殺しを経て、リミッターが外れたのか。こんな感情、持っていては行けないのに。


(――楽しい)


少しでも、


「面白い!」「展開が気になる!」


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【生存者:30/36】


【脱落者】


〈Day1〉

第二グループ:水嶋 恒一


〈Day2〉

第五グループ:佐伯健人

第一グループ:長谷川 莉乃


〈Day3〉

第十一グループ:板橋 直斗

第五グループ:辰島 雅人/野口 佳奈(全滅)

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