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この校舎は既に閉鎖されています。  作者: トランス☆ミル
ゲーム

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3/19

Day1 絶望の幕開け

 明け方。聞きなれない電子音で、みんなは目を覚ます。



06:00:00



 昨日のタイマーは、いつの間にか時計に変わっていた。


 あんなことがあって眠れるはずもなく、僕は目を擦りながら、ふと窓の外に目をやる。


 そこには、日常の内から見える、非日常が広がっていた。


 淡い光が、窓から差し込んでいる。外はうっすらと明け始めたような色。


 しかし、外は色だけが存在する虚無空間のような、何も無い空間が広がっているだけだった。


 やがて、スピーカーの音声が教室の静けさを切り裂いた。微かなノイズの後、合成音声が流れる。


〔――Day1。朝になりました。役職を配布します。〕


 黒板の文字が静かに光を帯びる。



【Day1:朝】(06:00:00〜06:59:59)



 その表示の下に、役職の一覧と説明が次々に現れる。



【役職】


〈〈執行官〉〉:その日処刑する1名を指名する。ただし、被指名者に正体を暴かれると、逆に処刑される。指名は絶対。夜までに指名しないと処刑。昼に対象を5秒間、直接指差すことで指名完了。


〈〈探偵〉〉:殺人が起きた場合、死亡推定時刻や証拠の解析、鑑定が可能。特定範囲内にいる人を移すマップを開ける。


〈〈免罪者〉〉:その日1日は絶対に死なない。


〈〈守護者〉〉:1人を守れる。


〈〈一般人〉〉:特別な能力なし。



 そして最低限のルールと詳細も書かれていた。



【ルール】


・夜までにグループごとに与えられた『タスク』をこなさなければならない。できなければ、グループ内の1人処刑。


・殺人を犯した際、バレなければ、その日を含め3日間絶対に死なない。バレれば即処刑。


・全員に1日1回の強制招集の権限が与えられ、そこで殺人犯などを追放することができる。間違えたらその人が処刑。成功すれば、その日を含め2日間絶対に死なない。



【その他】


・能力者(執行官や探偵などの特殊役職)は1名ずつ。


・武器はランダムにスポーンする。


・グループのメンバー同士は一定以上離れられない。



 役職、執行官、タスク、殺人――処刑。


 淡々とした言葉の羅列が、妙な不気味さを放っている。


「じ、冗談だろ……」


 みんなの絶望的な声。


 そんな中、グリッチと共に、腕に何やら電子腕時計のような端末が出現した。


 起動して見ると、目の前におそらく自分にだけ見えるウィンドウが表示される。



〖役職:一般人〗



 ホッとしたような、してないような、変な感情。


 だがそれと同時に、新たに合成音声響いた。


〔――それでは、共有を始めてください。〕


 その瞬間、音が消えた。いや、正確には人の声だけが聞こえなくなった。


(共有……グループメンバーでの話し合いか?)


 とりあえず僕は、メンバーの桐谷の元へ向かった。


 周囲はざわついているようだが、声は届かない。教室の空気は同じだが、他グループの声は壁に吸い込まれたように聞こえない。


 まるで、この教室の中で別々の空間にいるみたいだ。


「昨日、寝れた?」


 桐谷の元へ行くと、僕はそう話しかける。


「そんなわけないでしょう……」


 桐谷は眠そうな目をしながら、ダルそうに答えた。


「……昨日のこと、まだ信じられないな」


 続けて、桐谷は小さな声で呟く。


「そうだね」と僕は答え、そっと黒板の光を見上げる。


 文字はもう目に馴染んでいた。


 役職、ルール、タスク、処刑――淡々と並ぶ言葉が、胸の奥にじわじわと重くのしかかる。


 そんな話をしていると、もう1人のメンバーがやってきた。


「なんだか、とんでもない事になっちゃったね」


 そう口にしながら、近くの椅子に座る。


 岩倉 健。昨日の夜、多少の人となりはわかったが、まだまだわからないことが多い。


「で、役職は? 私は……一般人ね」


 桐谷が少し肩をすくめる。安心していいのか、緊張すべきなのか、微妙な空気だ。


「俺も一般人だよ」


 岩倉もそう言う。


「みんな一般人のようだね。今日は執行官に警戒しつつ、タスクをこなさなきゃならないな」


 僕は冷静に言いながらも、視線は教室全体に走らせる。


 他のグループは、どんな反応をしているのか。聞こえないが、感じるものはある。


「他のグループの声は聞こえないのね」


 桐谷が視線を前方に泳がせる。僕はうなずく。


「同じ教室にいるのに、まるで別の部屋みたい。声も届かないし、聞かれない」


 僕は、ふと窓の外を見る。外は虚無。何もない。


 窓の外に広がる虚無を眺めながら、そっと息を吐いた。


 淡い光は差しているが、世界はどこまでも空白だった。色だけの存在。


「さて、タスクを確認しようか」


 気を取り直して、僕がそう言うと、桐谷と岩倉はうなずいた。


 端末の項目からタスク確認を選択する。



〖第三グループ:タスク〗


・屋上のポールに旗を1枚揚げる。


・図書館で指定の本を探す。


・中庭の祭壇に指定の本を設置する。



 タスクは軽めといっても、中々大変なものだった。


 校舎は広く、4階まであり、屋上や中庭までの移動にも時間がかかる。

 

 ちなみに、僕たちの教室は3階の南側だ。


「行動に制約があるから、分担する訳にも行かないし、3人で協力するしかないわね」


 桐谷が小さく呟く。岩倉もうなずいた。


「まずは順序を決めよう。屋上の旗がどこにあるか不確定だから、まずは図書館と中庭のタスクを済ませ、旗を探すというのはどう?」


「いいと思うわ」


 桐谷が答える。岩倉も同意する。


「昼になったらすぐ行動開始だ。時間に余裕はない」


 岩倉が時計をちらりと見た。


 黒板の表示は、6時15分を示していた。


「あと45分弱で、昼のフェーズが始まってしまう……」


 そして、岩倉はそうぽつりと呟いた。


 黒板の文字が微かに光を揺らす。タスクをこなさなければ、夜には処刑対象になる。失敗した場合、誰が処刑されるかはランダムだという。


「……実感湧かないけど……怖いな」


 桐谷も小さく呟く。僕も心の中でうなずいた。


 僕だって怖いといえば怖い。しかし、感情に飲まれていては何もできない。


 故に僕は、合理的で最善な判断を模索することに集中した。



◇◇◇◇◇◇



 僕たちは、最後にタスクの持ち物やルートを確認した。


 すべての準備を終えると、教室は静まり返る。外の光は少しずつ明るくなっているが、それでも校舎の外には何もない。


「よし、昼になったら移動開始だ。全員で行動する」


 僕は静かに告げる。桐谷も岩倉もうなずいた。


 教室の時計は、もうすぐ7時を示す。


「昼フェーズ……行動開始か」


 僕は小さく息を整え、椅子を立つ。


 みんなは物々しい表情で、時計を眺めている。


 共有フェーズは終わり、教室に再び不安の声が満ちていた。


「残り、10秒……」


 窓の外の虚無と光を最後に眺め、深呼吸する。


 そしてついに、


〔昼になりました。それでは行動を開始してください。〕


 と、アナウンスが流れると同時に、教室の扉が一気に開放された。



【Day1:昼】(07:00:00〜11:59:59)



 黒板の表示も変わる。


「よし、行くぞ」


 そして3人で、初めての行動を開始するために歩き出した。


 廊下に出た瞬間、空気が変わった。


 窓の外は、朝の淡い色ではない。完全な白。


 影すら曖昧になるほどの、均一な光。


 空も地面も境界がない。ただ"白"という概念だけが広がっている。


「……目が痛いな」


 岩倉が目を細める。


 その白さは、安心感のある光ではない。逃げ場のない無機質な明るさだった。


 僕たちは足並みを揃えて廊下を進む。


 グループのメンバー同士は一定以上離れられない――試しに岩倉が少しだけ前に出ると、引き寄せられるように僕たちの元に帰ってきた。


「やっぱりか」


 半径はだいたい4、5m程度。


 3人は自然と密集する形になる。


 まるで見えない鎖で繋がれているようだ。


 そんな調子で、まずは3階東側にある図書館へ向かう。


 共有は終了しているため、他グループの声が普通に聞こえる。


「執行官、誰なんだよ……」


「今日のうちに指名されるのか……?」


 不安と疑心が廊下を満たしている。


 誰かがこちらを見る。一瞬だけ目が合う。


(今、この中に執行官がいるかも知れないな……)


 昼のフェーズの、5秒間の指差しで処刑対象が決まる。


 無防備に立ち止まるのは危険だ。


「立ち止まらずに、急ごう」


 僕は小さく言う。3人で足早に図書館へ。


 廊下をすぐ左に曲がったところに、図書館はある。扉に手をかけ、カラカラっと開ける。


 中は異様に静かだ。白い光が窓から流れ込んでいる。


 僕たちが図書館の中へ足を踏み入れると、端末が振動した。



〖指定図書:13番目の証言〗



「良かった、タイトルは出るんだな」


「探そう」


 3人で棚を分担する……と言いたいところだが、距離制限があるため大きく広がれない。


 3人が横並びになり、ゆっくりと棚を移動する。


「数万冊の中から、1つの本を探すなんて……」


 僕は本棚の隅々まで探す。


 時間がかかる。端末の時計を見る。



08:13:12



「まだ余裕はあるけど……油断はできない。」


 それから数分後。


「あった!」


 桐谷が声を上げる。手に取った本の背表紙に、淡い光が走る。


 そして、ウィンドウが開き、表示が現れた。



〖タスク進行:1/3 完了〗



 3人同時に、小さく息を吐いた。



◇◇◇◇◇◇



 続いて僕たちは、突き当りにある東階段を降り、中庭に向かった。


 中庭に出ると、そこだけは校舎の影が落ちている。


 中央には石造りの小さな祭壇。


 端末が指示を表示する。



〖指定位置に本を設置してください〗



 桐谷がゆっくりと本を置く。


 その瞬間、淡い光が祭壇を包み、音もなく消えた。



〖タスク進行:2/3 完了〗



「あと1つ……」


 岩倉が呟く。


「執行官が見ているかも知れない。急ごう。」


 2つ目のタスクは難なくクリアし、僕たちは最後のタスクへ向かった。



◇◇◇◇◇◇



 残るは旗。だが問題は、旗がどこにあるか不明なことだ。


 屋上へ続く扉を開けると、強烈な白が視界を覆った。眩しい。


 空も地平線も存在しない。


「やはり、脱出は不可能っぽいな」


 屋上の縁に向かうと、その先は見えないバリアのようなものが張ってあり、向こうには行けなくなっている。


 屋上の中央には、ポールが立っている。先の尖ったような独特な見た目に、周りに9本の小さなオブジェが立てられていた。


 だが――


「旗がない」


 ロープだけが垂れている。


「どこかにあるはずだ」


 僕たちは端末を操作してみる。


 ウィンドウのタスクの項目をタップすると、新たなウィンドウが表示された。



〖アイテム(旗):屋上〗



「屋上にあるのか……校舎のランダムな場所とかじゃなくて良かった」


 岩倉は、ホッと胸を撫で下ろす。


 それから探すことおよそ数分。給水タンクの裏に、折り畳まれた白い旗があった。


「急ごう」


 ロープを通し、3人で引く。


 白い世界の中、白い旗がゆっくりと上がっていく。そして、頂点へ。


 風はない。なのに旗は、かすかに揺れている。



〖タスク進行:3/3 完了〗


〖第三グループ:タスク達成〗



 時刻は8時46分。


「……終わった」


 思ったより早い。だが、徐々に難易度が上がっていくのなら、初日でこれは不安が拭えない。


「これからどうする?」


「無駄に動くのは危険だ。ここ、屋上は執行官の脅威が限りなく少ないから、ここで夜まで耐えよう」


 そうして、タスクを終えた僕たちは、そのまま夜まで潜伏することにした。



◇◇◇◇◇◇



 屋上で、ただ時間が過ぎるのを待つ。


 白い世界は徐々に闇へと変わっていく。


 そんな中、風もないのに旗だけが微かに揺れていた。


 時計は静かに進み続ける。



11:58:50



11:58:51



「……もうすぐだな」


 岩倉の声は乾いていた。


 僕も、桐谷も、何も言わない。



00:00:00



 そして、12時になったその瞬間、視界が歪む。


 足元が消え、重力が反転し――次の瞬間、僕たちは教室の席にグループごとに固まって座っていた。


 窓側前の席から第一、第二……と順に並んでいるようだ。



【Day1:夜】(00:00:00:〜00:59:59)



 窓の外は、朝や昼とは違う。紺色の夕闇が、校舎を包んでいる。


 深く、重い青。だがその向こうは、やはり虚無だ。


 教室の空気は冷たい。


 全員が強制的に着席させられているらしい。立とうとしても身体が動かない。


「タスクは……?」


「終わった……はずだ……」


「夜って、まさか……」


 ざわめきが広がる。


(今気づいたけど、1日が12時間になってるな……)


 僕は心の中でそう呟いた。


 それから程なくして、スピーカーからノイズが走る。そこから、あの感情のない合成音声。


〔夜になりました。本日の処刑対象を発表します。〕


 教室が凍る。黒板に、ひとつの名前が浮かび上がった。



【処刑対象:第二グループ『水嶋 恒一』】



「……は?」


 誰かの声が漏れる。


 第二グループの一角。水嶋という男子が、ゆっくりと立ち上がらされた。


 顔は青白い。目は見開かれている。


「な、なんで……俺は……!」


 合成音声が続く。


〔執行官による指名が確認されました。被指名者は、執行官を特定できます。外れた場合、執行は確定します。〕


 ざわめきが爆発する。


「当てれば助かるのか……? 外したら――」


 水嶋は荒く息をしながら、教室を見回す。


 恐怖と焦燥が滲んだ目。


「……お前だろ……?」


 震える指が、ひとりの男子を指す。


「第四グループの……いや、第一か? 昼、ずっとこっち見てた……!」


 指された男子が叫ぶ。


「は!? 違う!! 俺じゃないぞ!」


 教室は混乱の渦。


〔最終確認。斎藤 まなぶを追放しますか?〕


 水嶋は、必死に叫ぶ。


「こいつだ! 絶対こいつが執行官だ!!」


 一瞬の沈黙。永遠のような数秒。


 そして――


〔第一グループ:斎藤 学は執行官ではありませんでした。よって、被指名者:水嶋 恒一の処刑を執行します。〕


「待て、待ってくれ!! やり直しは――」


 次の瞬間。水嶋が光の鎖で拘束され、足元から白い光が噴き上がった。


 鋭く、純粋で、容赦のない光が水嶋の身体を包み込む。


「嫌だああああああああああ!!」


 叫びは途中で掻き消える。光は、炎のように揺らめきながら水嶋を焼く。


 だが焦げる匂いも、血も、悲鳴の余韻も残らない。ただ、浄化するように。


 輪郭が崩れ、粒子になり、光の中へ溶けていく。


 そして――何も残らなかった。椅子だけが、そこにある。


〔処刑が完了しました。深夜まで、今しばらくお待ちください。〕


 静寂。誰も、声を出せない。


 さっきまでそこにいた人間が、跡形もなく消えた。


 ゲームじゃない。脅しでもない。


 本当に――死んだ。


「……うそ、だろ……」


 誰かが呟く。


「「いやぁぁぁぁぁぁ!!!」」「「うわぁぁぁぁぁぁ!!!」」


 それから間を置いて、悲鳴が上がり始めた。


 耳を、心をつんざくような悲鳴。教室の絶望はピークに達していた。


 桐谷の指が、震えているのが見えた。岩倉は唇を噛み締めている。


 昼間はどこか現実感がなかった。


 タスクをこなすことに必死で、処刑という言葉を"ルール"として処理していた。


 だが今、目の前で人が消えた。


 逃げ場のない教室。紺色の闇に包まれた窓の外。


 これが、この世界の現実だ。


 教室には、嗚咽が混じり始める。


 泣き出す者。呆然と天井を見上げる者。誰かを睨みつける者。


 疑心と恐怖が、ゆっくりと広がっていく。


 執行官は、今もこの中にいる。今日、人を一人殺した存在が。


 そして、明日もまた――


 全員が疑心暗鬼になる。


 窓の外の紺色は次第に濃くなり、やがて完全な漆黒へと沈んでいく。


 次のフェーズが始まるまでの時間は、途方もなく長く感じられた。



◇◇◇◇◇◇



〔深夜になりました。明日も06:00:00にDay2が開始されます。生存者は、覚悟してください。〕



【Day1:深夜】(01:00:00〜05:59:59)



 覚悟。その言葉が、やけに重く響く。


 僕は拳を握りしめた。


(……これは、本当に殺し合いなんだ。)


 実感が、遅れて胸に突き刺さる。


〔深夜は互いに干渉不可能な時間です。それでは、就寝スペースへ転送します。〕


 そして、スピーカーがそう言うと、僕たちはたちまち他の教室へ転移した。


「……化学室……」


「他の人たちはいないみたいだね……」


 僕はおもむろに、扉に手をかけた。開かない。


 ここのゲームでは飲食や排泄などが必要ない。


 だが――


「眠いわね」


「そうだね。睡眠不足は判断力を欠くから、早めに寝よう」


 僕たちは用意されていた布団に潜ると、明日のことを考え、震えながら眠りにつくのだった。


 ――絶望の幕開け。


 こうして、Day1が終わった。


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【生存者:35/36】


【脱落者】


〈Day1〉

第二グループ:水嶋 恒一

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― 新着の感想 ―
Xから来ました! ここまで読ませていただきました。 人狼やAmong Usのような要素がうまく取り入れられていて、とても面白かったです。 特に執行官という役職が物語の鍵になりそうですね。 中庭や屋…
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