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この校舎は既に閉鎖されています。  作者: トランス☆ミル
ゲーム

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18/19

Day15+1/APOCALYPSE

 ――懐かしい。最初に感じたのは、それだった。


 目を開け、窓の外を見た瞬間、息が止まる。


「空……」


 視界に飛び込んできたのは、若干夕暮れに染まりつつある、放課後の空だった。


「これは……」


 白い雲。夕日に染まり始めた街並み。住宅街。遠くを走る車。風に揺れる木々。


 当たり前の景色。だけど、もう二度と見ることはないと思っていた景色だった。


「おい、マジかよ……」


 隣から声が聞こえる。岩倉だ。


 その声は震えていた。窓を見つめ、唖然としている。


 さらに反対側を見ると、桐谷も窓の外を眺めていた。


「戻って……きたの?」


 桐谷が小さく呟く。


 僕は返事をしなかった……いや、できなかった。


 ただ窓の外を見つめる。


 鳥の鳴き声。風の音。廊下を歩く足音。


 世界は確かに存在していた。


「終わった……のか?」


 岩倉がぽつりと呟く。誰も答えられない。

 

 教室を見渡すと、そこには見慣れた机と椅子が並んでいた。


 何の変哲もない教室。何事もなかったかのような教室。


 だが――


「……」


 人がいない。教室には僕たち3人しかいなかった。


「誰も……いないか」


 岩倉も、教室を見渡しながら眉をひそめる。


 机はある。


 だが鞄はない。教科書もない。ロッカーは空。


 ただ机だけが整然と並んでいる。まるで最初から誰もいなかったかのように。


 あのゲームで死んだ者たちは戻っていない。それだけは、一目で分かった。


「……」

 

 僕は視線を落とす。


 解放されたはずだった。生き残ったはずだった。


 なのに胸の奥は妙に重かった。


「とりあえず……」


 長い沈黙の後、岩倉が口を開く。


「帰ろっか。ここにいても仕方ないだろ」


 その言葉で、僕たちは我に返った。


「そうだね」


「えぇ」


 桐谷もうなずく。


 僕たちは最後にもう一度教室を見回し、荷物をまとめ、静かに扉へ向かった。


 そして、教室の扉を開け、放課後の廊下へ足を踏み出した。



◇◇◇◇◇◇



 廊下を歩きながら、おもむろにスマホを開く。


 日付は9月19日。僕たちがゲームに巻き込まれた日。


「本当に……戻ったんだな」


「そうだね」


 そんな会話をしながら廊下を歩き、階段を降りると、2階の廊下から1人の男の声がした。


 見ると、2階廊下の曲がり角から一人の男子生徒が歩いてくる。


「零先輩じゃないですか」


「……天虎てんこか。久し――いや、なんでもない」


 そこにいたのは、御越神おこしのかみ 天虎。中学校からの後輩で、生粋の厨二病の男だ。


 まぁ、名前も神々しくて眼は赤く、身長も180cmと高身長なため、自分を特別だと感じるのは不思議ではない。実際、特別なのは事実。


 独りがかっこいいと思っているタイプで、人と滅多に話さないが、何故か僕にだけは懐いている。


「どうしたんですか? 顔色悪いですよ」


 天虎は心配そうに言った。


「美桜先輩も元気ないですし」


「色々あってね」


 桐谷が曖昧に笑う。


「そちらは?」


 天虎が岩倉を見る。


「あぁ、こっちは岩倉 健くん。友達だよ」


「初めまして」


「どうも」


 軽い挨拶。本当に何気ない放課後の会話だった。


 まるで、あの16日間など存在しなかったかのように。


「それにしても3人とも元気ないですね」


 天虎は顔を覗き込むように話す。


「あぁ……テスト勉強で……地理の問題が難しかったんだよ。でも、お前が前に言ってた『太陽の都市』が出たから助かった」


「あぁ、ヘリオポリスですか」


 僕は困惑しながら、意味不明な理由を述べた。


 だが、天虎は納得したようにうなずく。


「そんなに難しかったんですか?」


「まぁ、それなりには」


「へぇ」


 天虎は小さく笑った。そして、


「なんか、生死を賭けた脱出ゲームくらいの変わり様ですね」


 と、一言。


「――え?」


 思わず声が漏れた。


 その瞬間だった。


 ――ビリビリッ


 天虎の足元。伸びた影が一瞬だけ揺らいだ。


 まるで映像が乱れたように、ノイズとグリッチが発生する。


「――ッ!?」


 僕は目を見開く。目の前の景色も歪んで見えた。


 だが次の瞬間には、影は元通りになっていた。


「先輩?」


 天虎が不思議そうな顔をする。


 気付いていない。


 岩倉も。桐谷も。誰も。


「いや……なんでもない」


 そう答えながら、僕は天虎から目を離せなかった。


 胸の奥が嫌な音を立てる。


(この世界は――本当に現実なのか?)


 まだ準備期間『APOCALYPSE』。現実に戻ったからと言って、ゲームが終わったわけではない。


 だが、この違和感は、そんなものではなかった。

 

 もっと単純な、もっと嫌な予感。


(もしかすると、この世界そのものが――)


 予感。


 しかし、僕が考え終わる前に、


「それじゃあ、僕はこれで!」


 という天虎の声で引き戻される。


「あぁ、うん。またね」


「また会いましょう、先輩方」


「天虎くん、気をつけてね」


「わかりました。美桜先輩」


 天虎は、そう言って駆けていく。


 足音はすぐに遠ざかり、やがて聞こえなくなった。


「僕たちも行こうか」


 僕がそう言うと、2人とも静かにうなずく。


 そうして、僕たちは校舎を後にした。



◇◇◇◇◇◇



 学校を出た後。僕たちは、学校の近くにあるハンバーガーショップへ立ち寄った。


 放課後ということもあり、店内は学生で賑わっている。


 僕たちは窓際の席に座る。


 よく部活仲間と来る憩いの場。テーブルの上にはハンバーガーとポテト、それにドリンク。


 ほんの数週間前まで当たり前だった光景。


 だけど今は、それが妙に懐かしく感じられた。


「なんか変な感じだな」


 岩倉がポテトを摘まみながら呟く。


「こうして飯食ってるだけなのに」


「わかるわ」


 桐谷も苦笑した。


「つい最近まで、殺し合いをしていたなんて信じられないもの」


「最近どころか、数時間前だよ」


 僕が言う。すると、3人とも思わず笑ってしまった。


 それはゲームが始まって以来、初めての穏やかな笑いだった。


 少しの沈黙。窓の外では、夕暮れの街がゆっくりと流れている。


「結局、生き残ったんだな」


 岩倉がぽつりと呟く。


 あの16日間で失われたものは、あまりにも多かった。


「でも――」


 岩倉が顔を上げる。


「俺、後悔はしてねぇよ」


「え?」


「みんな本気だっただろ。だったら、俺たちも最後まで生きるしかなかった」


 その言葉に、桐谷は静かに目を伏せた。


「そうね」


 そして、小さくうなずく。


「きっと、それしかなかったのよ」


 再び沈黙。


 やがて、岩倉がストローを咥えながら言う。


「それでさ」


「ん?」


「結局、アポカリプスってなんなんだ?」


 その言葉に、僕と桐谷は顔を見合わせた。


「わからない」


 僕は正直に答える。


「準備期間って言ってたよな」


「えぇ」


 桐谷もうなずく。


「つまり、本番が別にあるってことになるわ」


「そもそも、このゲームが始まる時、合成音声――仮にゲームマスターと呼ぶが、ヤツはこのゲームを『生存選抜』だと言った。選抜……考えうる最悪は、先のゲームが序章――ただの予選に過ぎないという場合」


 僕の言葉に、一瞬空気が凍りつく。


「勘弁してくれよ……」


 岩倉が頭を抱える。


「でもさ」


 僕は窓の外を見ながら言う。


「もし終わってないなら、どうして僕たちを外に戻したんだろう」


「確かに」


「それに、学校も元通りだった」


「人だけが消えていたわね」


 桐谷の言葉に、僕は天虎のことを思い出した。


 あの違和感。あの影。あの一瞬のノイズ。


 嫌な感覚が胸の奥に引っかかる。


「零?」


 桐谷がこちらを見る。


「……いや、なんでもない」


 僕はそう答えた。まだ確信はない。


 ただ一つだけ言えることがある。ゲームは終わっていない。


「アポカリプス――天虎はギリシャ語で黙示という意味だと言っていた。現代では世界の終末という意味が強いらしいけど……準備期間。神の啓示……」


「まぁ、あそこまで非現実的なことが起こってるんだし、今更考えても無駄でしょ。もう何が起きても不思議ではないし、私たちは流れに身を任せるしかないわ」


 桐谷は冷静に口を開く。僕たちはもう、動揺することもない。


「そうだね」


「何が起こるかは、お楽しみってことで」


 店の外では、夕日がゆっくりと沈み始めていた。


 世界は平和そのものだった。


 だからこそ、その平和がどこか作り物のようにも見えてしまう。


 僕たちは誰も、そのことを口にはしなかった。



◇◇◇◇◇◇



 ハンバーガーショップを出た頃には、空はすっかり茜色に染まっていた。


「じゃあな」


「また明日」


「えぇ」


 交差点で別れ、僕たちはそれぞれの帰路につく。


 いつもと変わらない帰り道。


 信号機。車の走行音。犬の散歩をする人。買い物帰りの主婦。


 何もかもが当たり前だった。


 だが、その当たり前が今の僕には眩しく見えた。


 家に着く。玄関のドアを開ける。


「ただいま」


 返事はない。


 当然だ。元々、父も母も仕事で帰りは遅い。


 だけど――その静けさが妙に安心できた。


 靴を脱ぎ、自室へ向かう。


 部屋も何一つ変わっていなかった。


 本棚。机。ベッド。ゲーム機。


 全てがゲーム開始前のままだ。


「……」


 僕はベッドへ腰掛ける。


 そして天井を見上げた。


 静かだった。本当に静かだった。


 あの校舎では常に誰かの気配があった。


 死への恐怖があった。ゲームへの快楽があった。


 だけど今は何もない。だからこそ、逆に落ち着かなかった。


「終わったんだよな……」


 呟く。返事はない。


 しばらくスマホを眺めていたが、気づけば瞼が重くなっていた。


 疲労は限界だった。ゲーム時間で16日間。体感では数ヶ月。


 張り詰め続けた神経が、ようやく解放されたのだ。


「少しだけ……寝るか」


 そう呟き、僕はベッドへ倒れ込んだ。


 意識はあっという間に沈んでいった。



◇◇◇◇◇◇



 ――その日、僕は夢を見た。気が付くと、僕は真っ白な空間に立っていた。


「――ここは」


 床も空もない。上下左右の感覚すら曖昧な白の世界。


 どこかで見たような光景。校舎の外に広がっていた虚無空間のような。


 だが、あのゲームとも違う。


「夢……か?」


 妙な感覚。


「越宮くん!」


 そんな中、聞き慣れた声が響く。


 振り向くと、そこには岩倉がいた。


「岩倉くん?」


 さらにその奥には桐谷の姿もある。


「どういうことなの……?」


 桐谷も困惑していた。


 3人とも状況を理解できていない。


「夢……なのか?」


 岩倉が周囲を見回す。


「でも、妙に感覚がはっきりしてる」


「明晰夢みたいね」


 桐谷が呟く。確かにそうだった。


 身体の感覚がある。意識もはっきりしている。


 夢というには、あまりにも現実的だった。


「これもゲームの続きか?」


「わからない」


 僕は首を振る。だが、一つだけ確かなことがあった。


 ここに呼ばれたのには意味がある。


 そんな予感がしていた。

 

 その瞬間だった。空間の奥で光が生まれる。


「ッ!?」


 あまりにも眩しい光。まるで太陽そのものが現れたかのようだった。


 光は徐々に形を成していく。


「……女の子?」


 それは少女の姿だった。いや、少女のように見えた。


 背中には巨大な円環。その円環から6枚の翼が伸びている。


 神々しく、幻想的で、どこか現実離れした存在。


 だが、光のモヤに包まれ、その表情だけが認識できない。


「やぁ」


 やがて、少女は楽しそうに笑った。


 初対面のはずなのに、まるで旧友へ話しかけるような口調だった。


「生存競争の頂点に立った気分はどう?」


「……誰だ」


 僕は警戒しながら尋ねる。


 少女は答えない。代わりに、楽しそうに両手を広げた。


「貴様たち、すっごい活躍だったな!」


 無邪気な声。まるで、好きな映画の感想を語る子供のようだった。


「特に最後なんて、最高だったよ!」


 少女は笑う。


「我の予想を裏切るとは、これは期待できそうだ!」


「おい、待て」


 岩倉が一歩前へ出る。


「お前は何者なんだ」


「んー?」


 少女は小首を傾げた。


「そんなことはどうでもいいかな。あ、でも一応自己紹介は必要か。よく聞け。我はラ――じゃなかった。我はゲームマスターだ」


「「げ、ゲームマスター!?」」


 少女――もといゲームマスターの発言に、僕たちは驚愕する。


「じゃあ、あのゲームの……」


「あー、あのゲームを作ったのは我だが、ゲームマスターというのはこれからの……いや、ネタバレは野暮か。そんなことは、どうでもいいんだよ」


 軽い口調。本当にどうでもいいと言わんばかりだった。


「大事なのは結果だよ」


 ゲームマスターはそう言うと、ゆっくりと僕たちを見回した。


 顔は見えない。なのに視線だけは感じる。


「君たちは勝った。だから資格を得た」


「資格……?」


 桐谷が眉をひそめる。


「うん」


 ゲームマスターは嬉しそうにうなずく。


 そして――


「さぁ」


 一歩前へ出た。


 同時に、6枚の翼が光を放つ。空間そのものが震え始める。


「準備は整ったよ」


 ゲームマスターは笑った。まるで、これから遠足にでも出かけるような気軽さで。


「行こうか。『神』のゲームへ――」


 その瞬間。世界が光に包まれた。


「なッ――」


 言葉を発するより早く、視界が白く染まる。


 身体の感覚が消えていく。意識が薄れていく。


 何かが始まる。そんな予感だけを残して、光は全てを飲み込んだ。


 そして――僕たちの意識は完全に途絶えた。


少しでも、


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【生存者:0/36】


【消失者】


〈Day1〉

第二グループ:水嶋 恒一


〈Day2〉

第五グループ:佐伯健人

第一グループ:長谷川 莉乃


〈Day3〉

第十一グループ:板橋 直斗

第五グループ:辰島 雅人/野口 佳奈(全滅)


〈Day4〉

第九グループ:佐藤 愛楽


〈Day5〉

第四グループ:田中 悠人

第八グループ:神谷 篤志


〈Day6〉

第七グループ:高波 遥斗

第十グループ:佐々木 煌

第二グループ:安元 寛治

第八グループ:牧野 亜美/定方 美来(全滅)


〈Day7〉

第一グループ:斎藤 学

第九グループ:村田 那海/永谷 翔吾(全滅)

第十一グループ:小町 朝陽


〈Day8〉

第二グループ:西口 涼介(全滅)

第十グループ:石田 沙羅/藤原 蓮(全滅)


〈Day9〉

第一グループ:川島 奏叶(全滅)

第十一グループ:櫻木 沙友理(全滅)


〈Day10〉

第十二グループ:菅 友彦

第四グループ:東 ゆら/渡辺 美香


〈Day11〉

第十二グループ:鳴川 和葉

第七グループ:早坂 響子


〈Day12〉

第十二グループ:高杉 蒼(全滅)

第七グループ:三上 彩花(全滅)


〈Day15〉

第六グループ:北村 志穂/池田 茂人/大森 秋(全滅)


〈Day15+1〉

第三グループ:越宮 零/桐谷 美桜/岩倉 健


【ARMAGEDDON】


〈Day13〉

第三グループ(1):第六グループ(0)


〈Day14〉

第三グループ(1):第六グループ(1)


〈Day15〉

第三グループ(2):第六グループ(1)


【勝者:第三グループ】

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