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この校舎は既に閉鎖されています。  作者: トランス☆ミル
ゲーム

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10/19

Day8 賭け

 明け方。今日は久しぶりに不気味なチャイムで目を覚ます。


 初めてのベッドということもあるだろうが、保健室のベッドは寝心地がいい。


「今日で8日目か……」


 僕はポツリと呟く。


 時間では4日だが、体感ではもう1週間も過ぎていた。


 隣のベッドでは、桐谷がゆっくりと上体を起こしていた。


 岩倉も目を擦りながら起き上がる。


「おはよう」


 僕が声をかけると、桐谷が小さくうなずいた。


「……おはよう」


 声は淡々としている。もう、感情の揺らぎはほとんど感じられない。


 岩倉が軽く肩を回しながら言った。


「昨夜、身体測定やってみたけど……何も起こらなかったな」


「うん。失敗だったかもしれないわね」


 僕も同意するようにうなずいた。


「まぁ、試してみる価値はあった。今日のタスクを開いたら、また何か変わるかもしれない」


 3人とも、それ以上の会話はしなかった。


 前日の深夜に先取りした身体測定が無駄だったかもしれないという思いは、すでに心の底に沈めている。



◇◇◇◇◇◇



06:00:00



 視界が歪み、教室の自席に固定される。


〔――Day8。朝になりました。〕


 いつもの合成音声。


 僕たちはおもむろに端末を開き、タスクを確認した。



〖第三グループ:タスク〗


《・保健室で身体測定を行い、記録を用紙にまとめる。》✓


・3-Cの教室の黒板を綺麗にする。


・2階収納部屋からテントを回収。


・屋上にテントを設営。


・屋上にある旗を2階収納部屋に運ぶ。



「あっ、1つ終わってる判定にはなってるわね」


「今日は比較的シンプルだな」


 だがその瞬間、タスク画面に被せるように、青いウィンドウが新たに展開された。



〖タスク進行:1/5〗



〖隠し要素『前日の深夜にタスクを先取りする』を達成。隠し能力が付与されました。〗



〖隠し能力:2時間無敵(レア度★★★★☆)〗


・発動タイミング:任意


・効果:発動から2時間、グループ全員が無敵状態になる。


・発動可能回数は1回(グループ共有)。



 桐谷と岩倉の端末にも同じ表示が出ているのがわかった。


「これって……!」


 桐谷が驚いた声を漏らす。


「……来たか」


 僕は小さく息を吐いた。


 岩倉が息を飲む。


「これは……とんでもないぞ。今日使うか?」


 僕は即座に答えた。


「いや、今日は使わない方がいいと思う。使用が一番好ましいのは明日――ドゥームズデイの夜だ。この能力が明日に持ち越し可能かどうかは分からないけど、そこは賭けだ。今日使って無駄にするよりは良い」


 僕は真剣な眼差しで、思考を巡らせる。無敵を知った今、敢えて使わない。


 桐谷と岩倉は少し驚いた顔をしたが、すぐにうなずいた。


「わかった」


「了解」


 2人は短く告げると、昼までの間を黙々と待っていた。



◇◇◇◇◇◇



〔昼になりました。行動を開始してください。〕



【Day8:昼】(07:00:00〜11:59:59)



「よしっ、行こうか」


 昼。僕たちは立ち上がると、タスク場所へ向かった。


「しかし、本当にタスクが簡単だなぁ。これも隠し要素なのか?」


 岩倉が呟く。


 提示されているタスクは、どれもDay1やDay2並の単純さだ。


「そうかどうかはわかんないけど、これはチャンスだ。8時……殺人鬼が動く前にタスクを終わらせよう」


 僕たちはまず、別校舎にある3年C組の教室に向かう。ちなみに、僕の通っている学校は中高一貫校なので、中学3年生の教室だ。


 教室に着くと、扉を開け中に入る。


 黒板にはまだうっすらと、授業の形跡が残っていた。


「綺麗に拭くだけか。意外と楽そうだな」


 岩倉が黒板消しを手に取りながら言う。


 僕たちは3人で分担し、黒板を丁寧に拭き始めた。


 誰も喋らず、ただ淡々と手を動かし続ける。



〖タスク進行:2/5 完了〗



 次は2階収納部屋へ移動した。


 埃っぽい部屋の奥に、折り畳まれた小型のイベントテントが置いてあった。


「これを屋上に運んで設営するのか……」


 岩倉が天幕を抱え上げる。僕は骨組みを持つ。意外と重い。


「これ、案外大変だなぁ」


 岩倉はそう呟きながら、3人で横並びになりながら階段を上る。


 やがて屋上に出ると、白い虚無が再び視界を埋めた。


「この旗は別のグループが上げたのか」


「風がないのに揺れてるな」


 僕はポールを見上げながら、その傍にテントを広げ始めた。


 設営は単純作業だった。


 3人で骨組みを組みを立て、天幕を張り、最後に立てる。



〖タスク進行:4/5 完了〗



 時計は7時57分を示していた。


 あまりにも順調すぎる故に、僕は少し物足りなさを感じていた。


「早く旗も運びましょう」


「そうだね」


 僕はロープに手をかけ、旗を下ろす。


 そして旗を抱えて屋上を後にした。


「もうすぐ8時だ。急ごう」


 僕たちは急いで階段を降りる。だが、3階の踊り場に差し掛かったその時、


 ――シュン……


 と、突然、辺りが完全な闇に包まれた。停電だ。


「来た……!」


 僕たちは即座に身を低くした。


(ちゃんと安全確認はした……標的は僕たちではないはず……)


 そんなことを考えていると、2階の廊下を走る足跡が聞こえた。殺人鬼だ。


 同時に、


「うわぁ!?」


 という叫び声が響く。


 それから一瞬の間を置いて、身体が倒れる重い音だけが響いた。


 停電が終わると同時に、僕は階段からそっと廊下を覗いた。


 そこには倒れている被害者と、今にも強制招集をかけようとしている犯人の姿があった。


(今だ!)


 僕はそれよりも早く端末を操作する。強制招集が発動し、僕たちは教室の席に転送される。



【緊急会議】



 黒板が赤く点滅する。


〔死亡者が確認されました。第二グループ:西口 涼介。〕


 合成音声が淡々と告げる。


〔強制招集が発動されました。発議者は議論を開始するか、執行官、殺人鬼、殺人犯のいずれかを指名してください。


 追放に成功した場合、発議者は2日間の安全が保証されます。失敗した場合、発議者が処刑されます。制限時間は10分です。〕


 発議者として、僕の名前が表示された。


 僕は立ち上がり、教室を見渡した。


「殺人鬼による殺人が起こった。犯人は――」


 僕は教室の対角線上にいる犯人を指さす。


「第十グループ、藤原 蓮だ」


 それを受け、藤原はガタンッと音を立てて、勢いよく立ち上がった。


「ちょ、ちょっと待てよ! なんでそうなる? 状況の説明をしろよ!」


 それに続き、もう一人のメンバーである石田 沙羅さらも立ち上がる。


「そうよ。証拠を出しなさいよ」


 僕はゆっくりと息を吐くと、少し声色を低くして口を開いた。


「証拠? そんなもの出して、なんになるんだ」


「は……?」


「誰を納得させるために、証拠を出すんだ? 僕はこの目で見た。それが何よりの証拠。みんなが状況を理解する必要なんてない。ただ、僕が死ぬか、君が死ぬか――それだけだよ」


 僕はそう言うと、再び藤原に指を向けた。


「藤原を追放する」


 その言葉を聞いた藤原の目が見開かれる。


「おい、待てよ! 本当にいいのか? 間違えたら死ぬんだぞ!」


 最後のあがき。見飽きた光景。


「何を今更……覚悟はできている」


〔最終確認。藤原 蓮を追放しますか?〕


「はい」


 僕は冷静に呟く。だがその瞬間、藤原は不意に真顔になると、ニヤリと笑った。


「覚悟か……それなら俺も、できている!!」


 藤原はそう叫ぶと、端末に手をかける。


「……そう来るか」


 僕が呟くと同時に視界が白く染まり、メインアリーナの中央に転移させられた。


〔デスマッチが発動されました。発動:第十グループ。対象:第三グループ。〕


「ハハハッ、どんなルールでも来い! スポーツで負ける気がしねぇ!」


 Day4の北村みたく、一発逆転に賭けてデスマッチが発動される。


「おい、どうする越宮くん! 隠し能力はデスマッチ中は発動できないぞ!」


 岩倉は珍しく焦っている様子で、僕に話しかけてきた。


「いや、問題ない」


 だが、僕は冷静にそう告げる。


 僕の視線の先――巨大スクリーンにはルールが表示されていた。



【デスマッチ】

 

・競技内容:チェス

 

・形式:ラピッド(30分)

 

・参加者以外の介入は禁止



「は……? チェス?」


 藤原は競技内容を見て、思わず声を漏らした。


「チェスなんて、やったこと――」


「どうしたんだい? 覚悟はできてるんだろ?」


 僕は用意された席に座り、藤原を少し煽る。


「チッ、まぁいい。どうせお前だってほぼ初心者だろ?」


「まぁ、多少経験はあるけどね」


 藤原が対面に腰を下ろすと、


「越宮……お前、ずいぶん余裕そうだな」


 と、何かを探るような目つきでそう言ってきた。


 やがて試合が始まると、お互いに駒を進め始めた。


 藤原がなんの問題もなく進めていることから、どうやら最低限のルールは共有されるらしい。


 藤原は先手。初手から積極的に攻めてくる。e4にポーンを進め、すぐにf3にナイトを展開。僕のキングサイドを狙う、かなり攻撃的な序盤だ。


 僕は淡々と対応する。


 シシリアン・ナイドルフに持ち込み、守りを固めながらカウンターの準備をする。


 5手目。具体的な戦術を知らない藤原は少し焦れたのか、早めにビショップを突っ込んできた。f1からb5まで動かして、僕のキングを狙う。


 だが、僕はそれをa6にあったポーンで取った。


「ちっ……斜めに取れんのか」


「ポーンはむしろ正面のは取れないからね」


 藤原の表情が初めて歪む。


 中盤に入り、盤面は複雑になってきた。


 藤原はクイーンを積極的に使い、僕の陣地に侵入しようとする。


 しかし、僕は一手一手正確に守りながら、徐々に彼の陣形を崩し始めた。


 25手目。藤原のクイーンが、僕のルークに狙われた。藤原は慌てて逃がそうとしたが、すでに遅かった。


 僕はルークでクイーンを捕らえた。藤原の顔から血の気が引く。


「……嘘だろ」


 藤原の声が震えた。


 そして終盤。僕のキングは安全圏にあり、藤原のキングはほとんど裸同然になっていた。


 残された駒も、僕の方が質・量ともに優位だった。手元のチェスクロックは、まだ半分しか進んでいない。


 そして38手目。


「チェックメイト」

 

 僕は最後のチェックメイトを決めた。藤原のキングが右端――a2に追いやられ、僕のクイーンとルークがそれぞれb5、a6に構える。


 スクリーンが赤く点滅する。


〔デスマッチ終了。第三グループの勝利です。〕


 藤原は椅子から立ち上がり、呆然と僕を見つめていた。


 僕は静かに立ち上がった。


 藤原は唇を震わせ、笑おうとしたが、笑えなかった。


「クソ……最悪だ……」


 藤原の声は、すでに力がない。


 体育館の空気が、重く淀んでいた。


 僕の胸の奥では、静かな満足感と、同時に「もっと大きな賭けをしたい」という、抑えきれない欲求がゆっくりと広がっていた。


 この賭けは勝った。しかし、ゲームはまだ終わっていない。


〔敗北グループより、ランダムで1名を処刑します。〕

 

 やがて処刑する人を決めるルーレットが開始する。名前が高速で回る。

 

 停止。



【石田 沙羅】



〔これより、第十グループ:石田 沙羅を処刑します。〕


「は? えっ、ちょっと!? なんで私……」


 光の鎖が石田を捕らえる。


 藤原はただ呆然としてそれを眺めている。


「なんで……アンタが負けたんだから、アンタが死になさいよ!! クソッ! こんなの――」


 石田の言葉を待つことなく、光が吹き上がった。粛清の光は、肉体を浄化する。


 次に、


〔第三グループに、2日間の無敵効果を付与します。〕

 

 と、スピーカーの音声と共に、青い光が僕たちの体を包んだ。


「ナイス! 越宮くん!」


 岩倉は安堵したような表情で、僕の元に歩み寄ってきた。


〔デスマッチ終了。お疲れ様でした。〕


 デスマッチが終了すると、視界が白くなり、教室に転移される。


 そして、会議が再開された。それと同時にスピーカーの声が響いた。


〔第十グループ:藤原 蓮は殺人鬼でした。よって、殺人鬼:藤原 蓮の処刑を執行します。〕


 今度は藤原が固定される。


「なッ!? しまった! 忘れてた!! クソがァ!!」


 叫びも虚しく、藤原の体は粒子のなって消えていった。


 その姿を、第六グループがなんとも言えぬ顔で見つめていた。


(賭けに勝った者と負けた者で、ここまで結果に差が出るか……本当に勝てば天国、負ければ地獄だな)


 僕はそんな第六グループを見て、デスマッチの残酷さを改めて認識する。


〔これで、緊急会議を終了します。〕


 こうして無事緊急会議も終わり、僕たちはタスクを再開させたのだった。



◇◇◇◇◇◇



〔夜になりました。〕



【Day8:夜】(00:00:00:〜00:59:59)



 窓の外は深い藍色に染まっていた。教室は強制着席され、誰もが黙々と次の展開を待つ。


 殺人鬼はすでに昼の緊急会議で処刑されたため、夜の脅威は執行官のみだった。


 合成音声が淡々と告げる。


〔処刑対象を発表します。〕


 黒板に名前が浮かび上がった。



【指名対象:第十二グループ『高杉 蒼』】



(え……?)


 僕は一瞬動揺する。隣を見ると、岩倉も驚いた表情を見せていた。


 しかし、僕はすぐに期待をやめた。


 高杉はゆっくり立ち上がらされた。表情はいたって冷静。動揺は見せない。


 高杉は適当に指名し、外れた。


〔――よって、被指名者:高杉 蒼の処刑を執行します。〕


 合成音声の声が響く。しばしの沈黙が流れた。


 そして――


〔第十二グループ:高杉 蒼は無敵期間保持者であるため、処刑が無効化されました。〕


 合成音声が告げ、高杉は処刑を免れ静かに席に戻った。


 僕は高杉の横顔をじっと見つめ、心の中で推測した。


(なるほど……アイツの追放成功による無敵は既に解けている。つまりアイツは免罪者だ。執行官はおそらく第十二グループ内にいる。正体がバレやすくなっている今、高杉を狙うのは合理的な作戦だ)


 誰も話さない。安堵することもない。ただ、時間が過ぎるのを待っている。


〔深夜まで、今しばらくお待ちください。〕


 僕は窓の外の漆黒を見つめながら、静かに息を吐いた。



◇◇◇◇◇◇



〔深夜になりました。明日も06:00:00にDay9が開始されます。生存者は、期待していてください。〕



【Day8:深夜】(01:00:00〜05:59:59)



「さて、今日もやりますか」


 今日は図書館。今回も僕たちはタスクの先取りに挑戦する。


「と、言ってもどうするよ。今まで図書館は何回か来てるけど、タスクのバリエーションが多すぎるんじゃ……」


 岩倉は周りを見渡しながら、そう弱音を吐いている。


「そうだね。まずは保健室の時みたいに、違和感を探そう」


 やがて僕の提案で、3人は図書室内の散策を始めた。


 深夜では距離制限がなくなるので、僕たちはなるべく離れて違和感を探す。


 すると、5分も経たないうちに桐谷が声を上げた。


「ねぇ、これかもしれない!」


 僕と岩倉は桐谷の元へ駆け寄る。


「どれだ?」


「これよ」


 桐谷が見つけた違和感は、カウンターに置かれた数冊の本だった。


 僕たちはおもむろに本を手に取ると、ページをめくる。


「返却日は9月28日……僕たちがゲームに巻き込まれたのが9月19日だったから、明日の日付ってことなのかな?」


 僕は本を眺めながら、そう考察する。


「ということは……タスクは返却処理ってことかしら?」


「いや、おそらく配架までがタスクだろう」


「よしっ、そうとわかれば、さっそくやろうぜ!」


 こうして僕たちは、今回もタスクの先取りに挑戦した。


 本のバーコードを読み取り、棚に一つ一つ収納していく。


 そして、最後の1冊を岩倉が収納した。相変わらず何も起こらない。


「これで合ってくれてればいいんだがな……」


 岩倉がため息をつく。


「まぁ、合ってると信じましょ」


「今日はもう寝よう。明日はドゥームズデイだしね」


 僕はそう促すと、布団へ向かう。


 タスクの先取りが成功していることに賭けて、僕たちは布団に入り、眠りについた。


 明日で9日目。残りは15人。ゲームも終盤に差し掛かり、さらに混沌を極めていくのだった。


少しでも、


「面白い!」「展開が気になる!」


と思ったら、ぜひ☆☆☆☆☆評価、感想で応援お願いします。


ブックマークがいただけると、大変励みになります。



【生存者:15/36】


【脱落者】


〈Day1〉

第二グループ:水嶋 恒一


〈Day2〉

第五グループ:佐伯健人

第一グループ:長谷川 莉乃


〈Day3〉

第十一グループ:板橋 直斗

第五グループ:辰島 雅人/野口 佳奈(全滅)


〈Day4〉

第九グループ:佐藤 愛楽


〈Day5〉

第四グループ:田中 悠人

第八グループ:神谷 篤志


〈Day6〉

第七グループ:高波 遥斗

第十グループ:佐々木 煌

第二グループ:安元 寛治

第八グループ:牧野 亜美/定方 美来(全滅)


〈Day7〉

第一グループ:斎藤 学

第九グループ:村田 那海/永谷 翔吾(全滅)

第十一グループ:小町 朝陽


〈Day8〉

第二グループ:西口 涼介(全滅)

第十グループ:石田 沙羅/藤原 蓮(全滅)

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