第四宙 第十夢 白宙の地
「噩夢蛇の資料は手に入ったけど、俺たちはどうやってもう一度、夢怪時空へ行けばいいんだ?」
祁翔は困惑した表情を浮かべながら、狼子に尋ねた。
狼子が答えるより先に、そのとき祁翔の宙之曆が口を開いた。
「夢宙者・祁翔、狼子、雁羽、陸達は、夢怪時空へ通じる資格をすでに取得しています。いつでも転送門を開き、白宙の地へ向かうことができます。そこには夢怪時空へ通じる入口があります」
宙之曆の言葉を聞いた祁翔は言った。
「なるほど、前に転送されたあの場所って、『白宙の地』っていう名前だったんだ?」
「開いて……」
祁翔が言いかけたところで、狼子が彼を制した。
「どうしたの?」
祁翔は困惑した顔で狼子を見た。
狼子は宙之曆を開き、先ほど雪のように白いラッコのような生き物から渡された書物を開いた。そして地図を指さしながら言った。
「見てみろ。噩夢蛇の生息地はこんなにある。十数か所も印があるんだ。向こうへ行ったとして、どこから探し始める?」
祁翔は少し考えてから答えた。
「そうだよね。そこまで考えてなかった。じゃあ、どうすればいい?」
祁翔たちはソファに座り込み、頭を悩ませた。
気づけばかなりの時間が経っていた。
そのとき祁翔は、A級夢宙者に昇格したことで、どのような機能が追加されたのかを確認してみようと思いついた。もしかしたら、自分たちに必要な機能があるかもしれない。
祁翔は宙之曆を開いた。
すると、内頁には新しい項目が追加されていた。
「A級夢宙者機能を開放しますか?」
宙之曆がそう告げた。
祁翔はその機能を見つめ、困惑した表情を浮かべた。そして狼子たちのほうを見た。
狼子は祁翔に向かって頷いた。
まるで、「開いてみろ」と言っているようだった。
祁翔も狼子に頷き返した。
「はい」
祁翔が宙之曆の問いに答えると、宙之曆は祁翔の天賦を象徴する紫色の光を放った。
「A級夢宙者専用『時空の書』を開放しました」
宙之曆が告げた。
祁翔の宙之曆の内頁には、さまざまな時空の物語が表示された。
そこには、宙之曆が現在把握している数多くの時空について、詳しく記されていた。
夢宙時空。
夢怪時空。
現実時空。
……。
しかし、それだけではなかった。
宙之曆には、まだ記録されていない未知の隠された時空も、数多く存在していた。
祁翔はそこに書かれている内容を見て驚愕した。
こんなにも多くの時空が存在していたのだ。
しかも、宙之曆にすら記録されていない隠された時空まである。
「わあ……。こんなにたくさんの時空が……」
雁羽は、ぎっしりと並ぶ時空の一覧を見ながら、珍しく感嘆の声を漏らした。
「特定夢怪追跡システムを起動しますか?」
宙之曆が口を開いた。
「これは何?」
祁翔は隣にいる狼子に尋ねた。
「たぶん、俺たちが噩夢蛇を追跡するのに役立つ機能だ」
狼子が答えた。
祁翔は少し考えたあと、宙之曆に答えた。
「はい」
宙之曆は再び光を放った。
「夢宙値を消費し、追跡効果を発動します。追跡対象の夢怪を指定してください」
「噩夢蛇」
祁翔は答えた。
「A級夢宙者・祁翔の要請を受理しました」
宙之曆は再び光を放った。
その光は、まるで狼子の宙之曆とつながったように見えた。
狼子の宙之曆に表示されていた地図を見ると、先ほどまで十数か所あった噩夢蛇の印のうち、残っているのは三つだけだった。
しかも、その三つだけが光を放っていた。
狼子は地図を見ながら言った。
「光っている噩夢蛇の印は残り三つだ。じゃあ、この順番に調べていこう」
狼子は少し首をかしげた。
「……でも、どうして三つあるんだ?」
祁翔は冗談っぽく言った。
「まさか、狡兔三窟ってやつじゃないよね?」
狼子は答えた。
「どうであれ、少なくとも三つまで絞れた」
陸達は頷いた。
雁羽もそれに続いて言った。
「じゃあ、出発しよう」
「白宙の地への転送門を開いて」
祁翔は宙之曆に告げた。
すると、祁翔の手にある宙之曆が白い光を放った。
次の瞬間、彼らの目の前に白い光の転送門が開いた。
祁翔は狼子たちを見た。
四人は互いに視線を交わし、頷き合った。
そして、一人、また一人と転送門の中へ入っていった。
転送門を抜けた先には、前回と同じような一面の白い世界が広がっていた。
そして、夢怪時空へ通じる転送門の前には、前と同じように守衛が立っていた。
守衛は彼らの姿を見ると、微笑みながら言った。
「また君たちか。今回も一番乗りだね。相変わらずすごいな」
祁翔は信じられないという表情で言った。
「本当ですか? 他の夢宙者たちは、まだ出発していないんですか?」
守衛は頷いた。
「夢怪時空へ向かうのかい? 今回は前回とは少し違う。今回はランダム転送だ。噩夢蛇の巣穴を無事に見つけられることを祈っているよ」
祁翔は頷いた。
すると守衛は転送門を開き、言った。
「夢怪時空、ヘルム大陸への転送門を開放しました」
守衛がそう言うと、祁翔たちは一緒に転送門の中へ入っていった。
祁翔たちが転送門の中へ消えたあと、守衛は微笑みながら小さく呟いた。
「本当にすごい子たちだな。前回、まさか蛛后伊絲の討伐に成功するなんて……」
――夢怪時空。
四人が転送門を抜けると、祁翔たちの目の前にあった白い光の転送門は、次第にその姿を消していった。
再び夢怪時空へやって来た祁翔たちは、周囲を見回した。
前回訪れた場所とは、まったく違っていた。
前回は雑草が生い茂る森だった。
しかし今回、彼らの目の前に広がっていたのは、見渡す限りの広大な草原だった。
遠くには、いくつもの山々が連なっていた。
狼子は地図に表示されている、光る噩夢蛇の印を見つめた。
そして周囲の環境と地図を照らし合わせる。
しばらくしてから、祁翔、雁羽、陸達に向かって言った。
「ついて来い。たぶん、こっちだ」
祁翔は頷いた。
そして一行は、狼子の後について歩き始めた。
「少し遠そうだ。飛んで行こう」
そう言うと、狼子はゆっくりと宙へ浮かび上がった。
祁翔、雁羽、陸達も彼に続き、空へ飛び上がった。
狼子は宙之曆の地図ナビゲーションを起動した。
そのとき祁翔は、雁羽たちに興味津々な様子で尋ねた。
「そういえば、この飛行スキルも狼子が二人に教えたの?」
雁羽は頷いた。
陸達も答えた。
「うん」
祁翔は心の中で思った。
(狼子って、本当に見た目はクールなのに、内心はすごく優しくて、熱い人なんだな……)
祁翔は微笑みながら狼子を見た。
すると狼子が後ろを振り返った。
狼子の顔には、疑問の表情が浮かんでいた。
祁翔たちが何の話をしていたのか、狼子にはまったく分からなかった。
なのに、三人ともなぜか楽しそうに笑っていた。




