第四宙 第一夢 蜘蛛糸の分身
「吾が名はイース。夢宙者よ! お前たちは、本当に夢が叶うと信じているのか? 夢など、人間が抱く最も可笑しな幻想に過ぎない。」
蜘蛛后イースは、目の前の祁翔たち一行を見下ろしながら言った。
祁翔は目を大きく見開き、目の前の蜘蛛后を信じられないという表情で見つめていた。
つい先ほどまで一人の幼い少女だったのに、どうして一瞬にして、これほど巨大な蜘蛛后へと変わってしまったのだろう。
その眼差しも鋭く、まるで目の前にいる全員を滅ぼそうとしているかのようだった。
狼子は目の前の強敵を相手に、決して油断しなかった。
両手で湛滅之剣を強く握り、宙語を唱え始める。
「夢よ! 儚く虚ろに見える夢も、信じれば必ずそれを実現する力を得られる。今こそ、我を真実の彼岸へと導け!」
狼子の足元に湛藍之宙が現れ、ゆっくりと湛滅之宙へと変化していった。
湛藍之宙と湛滅之宙の違いは、前者が湛藍色の光だけを放ち、宙陣も一層しかないのに対し、湛滅之宙はさらに高位の宙であり、二層の宙陣を持っていることだった。
二つの宙陣が地面の上で回転しながら強い光を放ち、その輝きもさらに強大だった。
陸達の沁藍之宙と蔚沁之宙、雁羽の桃虹之宙と霧纓之宙も同じ原理だった。
蜘蛛后は目の前の狼子を見て言った。
「ほう、どうやら多少は実力のある夢宙者のようだな。」
蜘蛛后がそう言い終えると、彼女の周囲に無数の人面食夢蜘蛛が現れた。
その悲鳴が絶え間なく響き渡る。
蜘蛛后は一声、命令を下した。
「行け、私の僕たちよ。」
無数の人面食夢蜘蛛が一斉に猛スピードで突進していく。
中には跳び上がって襲いかかるものもいた。
「くそっ! かなりの人間の美夢を食べたんだろうな。だから、こんなにも悲惨で恐ろしい悲鳴を上げているんだ!」
祁翔は怒りを露わにして言った。
「私はただ、彼らの身の程知らずな夢を食べただけ。私が何を悪いことをしたというの?」
蜘蛛后イースは言った。
そして蜘蛛后イースは再び続ける。
「彼らのような、儚く虚ろで、目にも見えず、手にも触れられない美夢など、もともと私たちの餌になるべきものなのよ。」
祁翔は聞けば聞くほど怒りが込み上げてきた。
隣にいる狼子も湛滅之剣を強く握りしめている。
表情は見えないものの、その怒りは十分に伝わってきた。
目の前に広がる大量の人面食夢蜘蛛。
その光景に、雁羽はひどく不快な気分になり、思わず口にした。
「早く終わらせて。気持ち悪すぎる。」
陸達は頷き、雁羽の前に蔚沁之盾を掲げ、宙語を唱え始めた。
「夢よ! いつまでも大声で憧れを叫び、勇敢に前へ進め。前へ、さらに前へ。決して後退せず、嘲笑う声に抗い、すべての攻撃を打ち砕け! そして最後には、真実の力を手に入れる!」
陸達は蔚沁之宙を展開した。
すると、強大な蔚沁之罩がその力を発揮し始める。
無数の人面食夢蜘蛛の攻撃を防ぎ、人面食夢蜘蛛が蔚沁之罩に触れた瞬間、次々と消滅し、一団の煙へと変わっていった。
「ほう、どうやら本当に多少は実力があるようだな。」
蜘蛛后は目の前の陸達を見ながら、軽蔑するように言った。
すると蜘蛛后の周囲から、無数の白い蜘蛛糸が放射状に伸び始めた。
蜘蛛糸はどんどん集まり、さらに増えていく。
そして、それ以上集まらなくなった瞬間――
四つの蜘蛛糸の塊が、伊幽、伊無、伊盡、伊希へと姿を変えた。
四伊衆だった。
しかし、違うところが一つあった。
彼らにはほとんど生命力が感じられず、まるで操り人形のようだった。
祁翔は目の前の四伊衆を見て、信じられないという声を上げた。
「どうして……? 彼らは僕たちが倒したはずだろ? 僕たちの宙之曆には、彼らの魂の欠片や、特別報酬の武器まで残っているのに。」
狼子は祁翔に答えた。
「奴らは蜘蛛后イースが生み出した複製品にすぎない。」
「ほう、なかなかやるな。私の技能を見抜くことができるとは。だが、こいつらと実際に戦ってみるがいい!」
蜘蛛后は、やや見下すような眼差しで言った。
そして蜘蛛のトーテムが刻まれた杖を掲げる。
杖から暗黒の光が放たれた。
その光が四伊衆の身体へと集まる。
すると四伊衆の身体に変化が起こった。
彼らは次々と白い蜘蛛糸を吐き出し、やがてその手の中に、本体とまったく同じ武器が形作られていく。
それは――
白幽刀、白無鞭、白盡刀、白希網だった。
祁翔は目の前の光景を見ながら思った。
――どうやら、かなり手強い敵みたいだ。
狼子は呼吸を整え、少しでも冷静に、落ち着いていようとしていた。
雁羽は霧纓之杖を掲げ、宙語を唱えて霧纓之宙を展開した。
すると、無数の桃虹色の光が祁翔、狼子、陸達の身体を包み込んでいく。
雁羽はまず、全員に増幅効果の宙技を施した。
陸達は増幅効果によって蔚沁之罩をさらに強化した。
彼は、これは厳しい戦いになると理解していた。
だからこそ、全力を尽くさなければならなかった。
その時――
目の前の分身・伊幽と伊盡が白幽刀と白盡刀を手に取り、祁翔と狼子へ向かって突進してきた。
伊幽たちは全力で攻撃し、祁翔と狼子を守る蔚沁之罩へと斬りかかる。
狼子は蔚沁之罩の内側で湛滅之剣を一度振るった。
湛滅之宙が湛藍色の光を放つ。
無数の湛藍の光が徐々に伊幽と伊盡を凍らせていく。
おそらく分身だからなのだろう。
凍結するのも本体より遥かに容易だった。
彼らの動きはどんどん遅くなり、蔚沁之罩への攻撃もほとんど効果を発揮しなくなっていく。
さらには白幽刀と白盡刀までもが、音を立てて折れ、そのまま消滅した。
祁翔は、これはチャンスだと思った。
彼は宙語を唱えた。
足元に紫燦之宙が現れる。
そして手にした紫靈之杖の紫水晶球に、無数の紫色の光が集まっていく。
光はどんどん一点へ集中し――
次の瞬間、二本の紫靈炮が発射された。
それは正確に分身・伊幽と伊盡を直撃した。
瞬間、彼らの身体は無数の白い糸へと変わり、ゆっくりと地面へ落ちていった。
そして、人影は完全に消滅した。
蜘蛛后は目の前を凝視した。
自分が生み出した伊幽と伊盡の分身が、まさかこれほど簡単に彼らによって消滅させられるとは。
蜘蛛后は信じられないという思いを抱く一方で、心の中の怒りを急速に膨れ上がらせていった。
そして片手で杖を振るう。
すると、分身・伊無と分身・伊希の身体に、無数の暗黒の光が現れた。
祁翔はそれを見て、隣の狼子に尋ねた。
「彼らの身体から黒い光が出ている。何か罠があるんじゃないか?」
狼子は頷き、祁翔に答えた。
「油断するな。よく見てから動け。」
祁翔は頷いた。
手にした紫靈之杖を強く握る。
しかし、その手のひらには、いつの間にか汗が滲んでいた。
分身・伊無が白無鞭を振るう。
すると無数の人面食夢蜘蛛が現れた。
伊希は手にした白希網を編み上げていく。
祁翔は思った。
――こいつらは本体と同じ技能を持っている。
しかも、その効果までまったく同じだ。
だが、それならそれでいい。
なぜなら祁翔と狼子、雁羽、陸達は、本物の四伊衆を協力して倒した経験がある。
祁翔はこの戦いにかなりの自信を持っていた。
狼子が先手を取った。
分身・伊無へ向かって突進する。
走り出した瞬間、宙語を唱えて湛滅之宙を展開した。
空気中に冷たい気配が満ちていく。
分身・伊無はゆっくりと凍りついていった。
次の瞬間――
狼子は正確に分身・伊無を貫いた。
分身・伊無は一団の白い糸へと変わり、そのまま完全に消滅した。
そして、目の前に残ったのは分身・伊希だけだった。
彼女はどうやら、祁翔たちに白希網を使って美夢幻境を仕掛けようとしている。
「でも、この技はもう僕たちには効かない。」
祁翔は分身・伊希に向かって言った。
祁翔は宙語を唱えた。
すると足元の紫燦之宙が回転しながら、無数の光を放ち始める。
紫燃之隕がゆっくりと分身・伊希へ向かって落下していった。
それが命中すると同時に、祁翔は多重技能を発動する。
紫靈炮が放たれた。
分身・伊希は祁翔の連続攻撃を受け、直撃した瞬間、白い糸へと変わって消滅した。
蜘蛛后は、自分が生み出した四伊衆の分身を見つめた。
まさか、これほど簡単に目の前の夢宙者――祁翔たち一行に倒されるとは。
次の瞬間――
蜘蛛后は耳をつんざくような怒号を上げた。
その咆哮は迷宮全体を激しく震わせた。
祁翔、狼子、雁羽、陸達は、蜘蛛后のあまりにも鋭い声に耐えきれず、思わず両手で耳を塞いだ。




