第三宙 第八夢 消えた三人
狼子が湛滅之剣の要求に答えると、手にしていた湛滅之剣が白い光を放った。
突然、伊幽、伊無、伊尽の周囲に大量の濃霧が現れた。
そして、彼らはそのまま祁翔たちの目の前から消えていった。
祁翔は少し嬉しくなった。
彼はまだ、まさか伊希の技能を使えるとは思わず、とても驚いていたが、どうやら「美夢幻境」は効果を発揮したようだった。
祁翔は嬉しそうに尋ねた。
「じゃあ、この戦いは終わったの?」
「たぶん、しばらくの間だけ、あいつらを美夢幻境の中に閉じ込めておけるだけだと思う」
狼子はそんなに簡単ではないと感じていた。
彼は首を横に振りながら祁翔に答えた。
祁翔はこの機会を利用して、雁羽に振り向いた。
「もし、このあとまたあいつらが出てきたら、俺に霧纓之宙の増幅効果を使ってくれる? 『宙技連鎖』と『多重技能』が増幅されたら、伊幽たちを倒せるのか試してみたいんだ」
「うん」
雁羽は頷いて祁翔に答えた。
祁翔は心の中で思った。
――よかった!
もしかしたら、これで無事に彼らを倒せるかもしれない。
しかし、自分自身も一体どんな効果が生まれるのかは分からなかった。
狼子は目の前の祁翔を見つめた。
彼は、祁翔が最初の頃とは少し違ってきたように感じていた。
以前初めて会った時の祁翔は、杖を震えながら握り、戦いとは何なのかもまったく分かっていなかった。
どうすればいいのか分からず、戸惑っていたあの姿。
そんなことを思い出すと、狼子は思わず嬉しそうな笑みを浮かべた。
仮面の下から漏れた笑い声が祁翔の耳に届いた。
「何笑ってるの? 何を考えてるの? そんなに面白いことなの?」
祁翔は不思議そうな表情で狼子の前に立ち、しゃがみ込んで首を傾げながら、下から狼子を見上げて尋ねた。
「何でもない……」
狼子は首を横に振った。
「何それ! 本当に変なの」
祁翔は、狼子は莊洛と同じくらい変なところがあると思った。
その時だった。
目の前の濃霧に、どうやら変化が起こり始めていた。
徐々に祁翔たちの目の前から霧が消えていく。
そして次の瞬間。
なんと、伊幽、伊無、伊尽が再び祁翔たちの目の前に姿を現した。
「憎たらしい夢宙者め!」
「よくも俺たちを弄びやがったな!」
「よりによって、俺たちの妹の技能を俺たちに使うとは!」
伊幽、伊無、伊尽の三人の目に浮かぶ赤い血筋はますます増え、怒りもますます強くなっていた。
「こんなに早く美夢幻境を破ったの?」
祁翔は目の前の三人を見て呟いた。
祁翔は驚きながらも、すぐに笑顔を引き締めた。
紫霊之杖を手に持ち、雁羽を見て言った。
「来るよ!」
雁羽は頷き、宙語を唱えた。
「夢よ! 夢を追い求めることは、荒れ果てた砂漠の中でオアシスを探すようなもの。それでもなお、諦めずに進み続ければ、真実の泉を手に入れることができる!」
雁羽の足元に霧纓之宙が現れ、桃虹色の光を放った。
その光は祁翔の身体へと集まっていく。
祁翔も宙語を唱えた。
「夢よ! 何が幻で、何が真実なのか! 想像の中を翔け、広大なる夢宙時空へと私を導き、本当の真実のすべてを手に入れさせてくれ!」
祁翔の足元に紫燦之宙が現れた。
雁羽の桃虹色の光による増幅を受けながら、祁翔は「宙技連鎖」と「多重技能」を使い、一気に伊幽たちへ攻撃を仕掛けようとした。
伊幽、伊無、伊尽は、祁翔が宙語を唱えている間に攻撃しようとした。
しかし狼子が湛滅之剣を手に宙語を唱え、湛滅之宙を開放した。
氷によって伊幽たちの動きを一時的に鈍らせ、制御する。
陸達は蔚沁之宙を開放し、祁翔の邪魔をしようとする他の白い蜘蛛糸を防いだ。
祁翔の手にある紫霊之杖は、雁羽の増幅効果によって、紫水晶の色がますます深くなっていった。
光もますます強くなる。
水晶球の中では銀河がきらめき、星の光が瞬いていた。
手元に集まる光はどんどん増え、さらに強く凝縮されていく。
その時。
伊幽は白い蜘蛛糸を使って白幽刀を振り回し、伊尽も同時に白い蜘蛛糸を使って白尽刀を振り回した。
二刀を合わせ、狼子を攻撃しようとする。
そして、あと少しで狼子に攻撃が届く、その瞬間。
祁翔は両手で紫霊之杖を強く握りしめた。
次の瞬間。
強大な紫霊炮が伊幽、伊無、伊尽へ向かって放たれた。
三人に正確に命中する。
命中した瞬間、紫霊炮の光線はさらに分散し、交差しながら、まるで侵食する強力な光のように、三人の身体を何度も行き来した。
狼子は祁翔を一瞥した。
その目には、感謝と信頼が込められていた。
祁翔は、自分の増幅された紫霊炮を見つめた。
――やっぱり、威力がかなり強くなっている。
しかし、今はこの勢いに乗って追撃するべきだ。
祁翔は続けて紫霊之杖を高く掲げ、宙語を唱えた。
「夢よ! 何が幻で、何が真実なのか! 想像の中を翔け、広大なる夢宙時空へと私を導き、本当の真実のすべてを手に入れさせてくれ!」
宙語が終わる。
紫燦之宙の光の中から、無数の紫燃之隕が上空に現れた。
そして伊幽、伊無、伊尽の身体へと降り注いだ。
祁翔は連続攻撃を受けている三人を見つめた。
煙が一面を覆い尽くしている。
祁翔は息を切らし、膝に手をついて荒い呼吸をしながら考えた。
――これで終わった……よね?
やがて煙がゆっくりと消えていく。
その先に現れたのは、祁翔たちが予想していなかった光景だった。
伊幽たちは祁翔の連続攻撃を防ごうとしていた。
彼らの目の前には大量の白い蜘蛛糸が張り巡らされていた。
しかし、三体の人面食夢蛛の身体は、それでも徐々に侵食されているように見えた。
そして――。
伊幽の身体はゆっくりと溶けていくように変化し、伊無と伊尽はゆっくりと砕けていくように崩れていった。
三人は徐々に砂へと変わり、消えていく。
最後には、一団の煙だけが残った。
消える直前。
祁翔には、三人の目に浮かんだ、悔しさと憎しみの入り混じった表情が見えたような気がした。
「やった! 成功した! 俺たちの勝ちだ!」
祁翔は思わず嬉しさのあまり飛び跳ねた。
三団の煙は、それぞれ祁翔、狼子、雁羽、陸達が手にしている宙武形態の宙之暦の中へと入っていった。
四人の宙之暦が同時に告げた。
『夢宙者・祁翔、夢宙値、夢宙ポイントを獲得しました』
『夢宙者・狼子、夢宙値、夢宙ポイントを獲得しました』
『夢宙者・雁羽、夢宙値、夢宙ポイントを獲得しました』
『夢宙者・陸達、夢宙値、夢宙ポイントを獲得しました』
祁翔の宙之暦からは、さらにいくつかの言葉が続いた。
『祁翔は、夢怪時空・食夢蛛の巣穴、四伊衆――長兄・伊幽、次兄・伊無、三弟・伊尽――の記憶の魂の欠片を獲得しました。』
『特別報酬:伊幽固有技能「白幽刀」、伊無固有技能「白無鞭」、伊尽固有技能「白尽刀」。』
祁翔はそれを聞いて驚いた。
特殊報酬がこんなにたくさんある。
しかも、どうして彼らの武器なのだろう。
祁翔はそのことにかなり興味を持った。
狼子は首を横に振り、自分も分からないという様子を見せた。
そして祁翔を見て微笑んだ。
「行こう! 蛛后は、きっともうすぐそこにいるはずだ」
祁翔は頷いた。
そして、前へ進もうとしたその時。
祁翔と狼子の宙之暦が突然、同時に言葉を発した。
『四伊衆の魂の記憶の欠片を開放しますか?』
その言葉を聞いた四人は、好奇心と驚きの入り混じった表情を浮かべた。
祁翔と狼子は互いに顔を見合わせた。
二人はしばらく考えた。
そして――。
二人は同時に答えた。
「はい」




