第三宙 第三夢 四伊衆
祁翔たちは、目の前にいる四人をじっと見つめていた。
一体、彼らは何者なのだろう。
「人面食夢蛛の中に、こんな人型の夢怪が存在するなんて、今まで一度も聞いたことがないぞ!」
祁翔は狼子に尋ねた。
狼子は首を横に振った。
彼にも分からない。
これまで狼子が遭遇してきたのは、普通の食夢蛛。
せいぜい巨大食夢蛛、そして先ほど目にした超巨大食夢蛛への融合段階までだった。
このような人型の夢怪は、今回が初めてだった。
その時――
『四伊衆。蛛后・伊絲が最も信頼する、四人の側近。』
祁翔の《紫靈之杖》となっている《宙之曆》が、突然そう告げた。
祁翔は驚いて、自分の《紫靈之杖》を見つめる。
「えっ、お前知ってたのか? だったら早く言ってくれよ。」
祁翔がぼやいても、《宙之曆》から返事はなかった。
すると、向かいにいる男が口を開いた。
「なかなかやるじゃないか。」
「お前たちの《宙之曆》、少しは使えるようだな。まさか俺たちの存在まで知っているとは。」
その時――
『伊幽。四伊衆の長兄。』
雁羽の《宙之曆》が再び声を発した。
雁羽は自分の《霧纓之杖》を見下ろす。
「お兄ちゃん、あなたのこと知ってるみたいだよ!」
四人の中で唯一の少女が、微笑みながら手にした糸を弄んでいる。
伊幽は無表情のまま、少女を一瞥した。
『伊希。四伊衆の末妹。』
狼子の《宙之曆》が、伊希の言葉に続くように告げた。
伊希は驚いたように、狼子の手にある《湛滅之劍》を見た。
狼子も、自分の《湛滅之劍》を一瞥する。
すると、残る二人の男も興味深そうに口を揃えて尋ねた。
「じゃあ、俺たちは?」
祁翔は心の中で思った。
(目の前にいる二人……本当に好奇心旺盛なんだな。)
どこか妙な二人だと感じた。
『伊無、伊盡。四伊衆の次兄と三兄。』
陸達の《蔚沁之盾》――《宙之曆》の形態が声を発した。
「本当にあるんだ!」
伊無は満面の笑みを浮かべた。
「うん、なかなか大したものだね。」
伊盡は、祁翔たち四人の《宙之曆》――《宙武》形態を見つめながら言った。
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夢宙時空管理局
一方――
夢境時空管理局では、倫薩が《宙之曆》を通して、目の前の光景を観察していた。
「彼らが……四伊衆なのか?」
蛛后の配下の中でも、ほとんど姿を見ることのできない存在。
倫薩は画面を見つめながら考える。
(彼らだけで、無事に四伊衆を倒せるのか?)
今回の任務は、まだ蛛后本人に遭遇してすらいないというのに、すでにかなり厄介な状況になっている。
その瞬間――
《宙之曆》からの通信が突然途絶えた。
倫薩は目の前から消えた映像を見つめ、静かに呟く。
「やはり……《宙之曆》の接続が切られたか。」
「これまでも重要な戦闘に入った時や、王級以上の夢怪と遭遇した時には、必ず通信が中断されていた。」
「彼らが無事に突破して、任務を完了できればいいが……。」
倫薩は立ち上がり、コーヒーを一口飲む。
そして窓の外に広がる夢宙時空の空を見つめた。
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蛛后迷宮
祁翔、狼子、雁羽、陸達。
四人は目の前にいる伊幽、伊無、伊盡、伊希を集中して見つめていた。
すると――
四伊衆の周囲へ、次々と食夢蛛が集まり始める。
彼らは苦しそうな呻き声を上げていた。
どうやら、これまでに多くの人間の美夢を喰らってきたらしい。
その群れの中央に立つ伊幽は、妖しく笑っていた。
その笑みを見た祁翔は、思わず身体を震わせる。
(なんだ……あいつ。)
(邪悪な雰囲気が強すぎる……。)
伊幽の存在そのものが、祁翔に強い恐怖を感じさせていた。
それに気づいた狼子は、そっと祁翔の肩を叩いた。
まるで、
――怖がるな。俺たちがいる。
そう伝えているようだった。
陸達も祁翔に微笑みかける。
雁羽は相変わらず無表情だったが、それでも祁翔を見つめている。
まるで二人も、祁翔を励ましているようだった。
そして楓葉は二尾狐の姿へと変化し、祁翔の隣で尻尾を振っていた。
その時、祁翔はようやく気づいた。
自分はもう、昔の自分とは違う。
もう一人ではない。
(そうだ……。)
(今の僕には、こんなにもたくさんの仲間がいる。)
(昔とは違うんだ。)
祁翔は、心の中で怯えている自分自身へ言い聞かせる。
そして――
その瞳から恐怖が少しずつ消えていった。
代わりに、強い意志の光が宿る。
それを見た伊幽は、妖しく笑った。
「なんと尊い友情だ……!」
「なんと素晴らしい感情だろう!」
伊幽は口元を舌で舐める。
「こんなに素晴らしい感情……きっと、とても美味しいんだろうな?」
嘲笑うような眼差しで祁翔を見つめる。
そして、伊無と伊盡の方へ振り返ると、邪悪な笑みを浮かべた。
祁翔は《紫靈之杖》を握る手を、わずかに震わせる。
しかし、すぐに顔を上げた。
「人を馬鹿にするな!」
「だったら――食べてみろよ!」
その瞬間――
祁翔の《紫靈之杖》の水晶球が、紫色に輝き始める。
その輝きは、まるで色鮮やかな銀河のようだった。
杖へ紫色の光が次々と集まり始める。
光はどんどん一点へ集中していく。
そして――
「はあっ!」
祁翔が杖を突き出した。
強烈な紫色の光が、一気に放たれる。
《紫靈炮》が伊幽へ向かって一直線に飛んでいった。
ドンッ!
直撃。
濃厚な煙が一気に周囲へ広がった。
祁翔たちは息を呑みながら、煙が晴れていくのを見つめる。
そして――
「……え?」
祁翔、狼子、陸達、雁羽の表情が一斉に変わった。
煙の向こうに立っていた伊幽は――
無傷だった。
その前には、何層にも重なった分厚い白い糸が張り巡らされている。
食夢蛛特有の糸。
その糸が、祁翔の《紫靈炮》を完全に防いでいた。
祁翔たちは思わず息を呑む。
(食夢蛛の糸で……攻撃を防いだ!?)
思いもよらない防御能力だった。
四人がその事実に驚いている間に――
先に動いたのは伊希だった。
伊希は手元で無数の糸を編み始める。
細い糸が次々と祁翔たちの頭上へ集まっていく。
そして――
次の瞬間には、上空から一斉に落下してくる。
狼子がそれを見上げる。
「来るぞ!」
狼子はすぐに《宙語》を唱えた。
《湛藍之宙》が展開される。
周囲に無数の湛藍色の光が浮かび上がり、空気全体が凍てつくような冷気に包まれる。
瞬間――
空中に張り巡らされていた糸の一部が凍りついた。
「残りは……俺に任せろ。」
陸達も《宙語》を唱える。
次の瞬間――
陸達の足元に《沁藍之宙》が展開された。
《蔚沁之罩》の範囲がさらに広がる。
巨大な防護結界が祁翔たちを包み込み、残っていた糸を一瞬にして消滅させた。
狼子と陸達は、互いに顔を見合わせる。
そして――
パチン!
二人は手を叩き合わせた。
それを見た伊無は、不満そうに言った。
「君たち、喜ぶのがちょっと早すぎるんじゃない?」
伊盡も続ける。
「ここからは――俺たちの番だ。」
その瞬間――
伊無が祁翔たちの目の前から消えた。
そして次に現れた場所は――
祁翔の背後だった。
「なっ――!」
一方、伊盡は空中へ糸を張り、その糸を利用して空中を自在に移動している。
一瞬のうちに、祁翔たちはどちらを警戒すればいいのか分からなくなった。
陸達は即座に《蔚沁之罩》を展開する。
だが――
伊幽が手元から次々と糸を生み出し、《蔚沁之罩》へ向かって攻撃を始めた。
バシッ!
バシッ!
何度も糸が防護結界へ叩きつけられる。
《蔚沁之罩》の防御力が、徐々に弱まっていく。
陸達は表情を変えた。
(まずい……。)
(このままでは、《蔚沁之罩》が破壊される!)
その時――
楓葉が突然、口を大きく開いた。
「――ッ!」
ゴオオオッ!
楓葉の口から炎が吐き出される。
炎は伊盡の糸を一瞬で焼き切った。
「よくやった!」
祁翔は楓葉へ叫んだ。
伊盡は地面へ落下する。
その顔には、信じられないという表情が浮かんでいた。
「俺の糸が……焼き切られただと?」
祁翔はその隙を逃さない。
「今だ!」
祁翔は《紫靈之杖》を掲げた。
「《紫燃之隕》!」
無数の紫色の隕石が降り注ぐ。
伊無はそれを避けるため、瞬間移動する。
そして再び伊幽の隣へ戻った。
その頃――
雁羽は静かに集中していた。
そして、ゆっくりと《宙語》を唱える。
『夢よ!
夢を追い求めることは、
荒れ果てた砂漠の中で緑洲を探し続けるようなもの。
それでも歩みを止めなければ、
やがて真なる泉を手に入れるだろう!』
詠唱が終わった瞬間――
雁羽の足元から《霧纓之宙》が広がっていく。
それは、以前の《桃紅之宙》よりも遥かに強力な《宙》だった。
祁翔、狼子、陸達。
三人の身体に、淡い桃色の光が浮かび上がる。
そして、その光が三人を包み込んだ後――
静かに消えていく。
狼子は《湛滅之劍》を強く握りしめた。
(……力が増している。)
祁翔も自分の《紫靈之杖》を見つめる。
(なんだ……これ。)
(さっきより、戦う力が強くなっている気がする。)
陸達は《蔚沁之罩》を見る。
その色は先ほどよりも深くなっていた。
防御効果も、明らかに強くなっている。
そして先ほど伊幽の攻撃によって損傷していた部分も、かなり回復していた。
四人の力が、明らかに強化されていた。
その光景を見た伊幽は――
妖しく笑った。
「面白い……。」
「ハハハハハハ!」
「どうやら……本気を出したほうがよさそうだな。」
伊幽の瞳に、これまでとは違う危険な光が宿った。




