第三宙 第二夢 《宙之曆》、登録、夢宙値?
戦いが終わった後、四人の目の前には、人面食夢蛛が人間の美夢を喰らった後に残した霧が、一面に広がっていた。
祁翔たちはその霧をすべて集め終える。
その時――
突然、耳元に大きな音が響き渡った。
四人が驚いて顔を上げると、先ほど白い蝶が消えた扉の前から、かすかな光が漏れている。
そして、今まで固く閉ざされていた扉が、ゆっくりと開き始めた。
祁翔は目の前の扉を見つめる。
「そろそろ蛛后の後室に近づいてきたのかな? この迷宮、本当に思っていた以上に広いな。」
狼子は首を横に振った。
「入ってみるしかないだろ。どうなるかなんて、誰にも分からない。」
そう言いながら、狼子はゆっくりと先頭を歩き始めた。
「ちょっと待ってよ!」
祁翔も頷き、狼子の後を追う。
陸達と雁羽も、その後ろからついていった。
その時――
『レベルアップに必要な夢宙値に達しました。レベルアップしますか?』
突然、祁翔の《宙之曆》から声が響いた。
祁翔は目を丸くする。
「えっ?」
とても不思議に思いながら、彼は《宙之曆》の内頁を開いた。
そこに表示された選択肢を見て、祁翔は迷わず選ぶ。
「はい。」
祁翔が「はい」を選択した瞬間――
《宙之曆》から紫色の光が一気に放たれた。
しかし、祁翔にはそれが何を意味するのか分からない。
彼は狼子の方を振り返った。
「狼子、これって――」
だが、質問するより先に、狼子は首を横に振った。
祁翔は仕方なく尋ねるのを諦める。
(まあ、後で分かるだろう。)
そう思い直し、再び歩き始めた。
すると――
『巨大人面食夢蛛の新情報を《宙之曆》へ統合し、登録しますか?』
《宙之曆》が四人へ同時に問いかけた。
祁翔は「はい」を選択する。
続いて狼子、陸達、雁羽も、それぞれ「はい」を選んだ。
『情報の登録を受け付けました。』
四人の《宙之曆》が同時に淡い光を放つ。
祁翔の《宙之曆》は紫色。
狼子の《宙之曆》は湛藍色。
雁羽の《宙之曆》は桃虹色。
陸達の《宙之曆》は沁藍色。
それぞれの光が静かに輝いた。
祁翔は《宙之曆》の内頁を確認する。
すると、そこには巨大人面食夢蛛に関する情報が新たに表示されていた。
そして、その登録者の欄には――
祁翔。
狼子。
陸達。
雁羽。
四人の名前が並んでいる。
祁翔は目を輝かせた。
「なるほど! これが狼子が前に言ってたやつなんだ!」
「《宙之曆》に食夢蛛の情報を登録したって言ってたよね!」
狼子は少し照れくさそうに頷いた。
『登録が完了しました。登録者は平均して夢宙値を獲得できます。適切にご利用ください。』
「夢宙値?」
祁翔は再び困惑した表情を浮かべる。
「夢宙値って……一体何に使うんだ?」
狼子は答える。
「外に出てから教えてやる。」
祁翔は頷いた。
「うん。」
確かにそうだ。
今、一番大切なのは、この《蛛后迷宮》を突破することだった。
祁翔は歩きながら壁に手を触れる。
巨大な迷宮を見渡しながら、改めてこの場所の異様さを感じていた。
最初に見つけた食夢蛛の洞窟と壁画。
その後に現れた豪華な大扉。
そして、先ほどの異常なほど高い天井。
この迷宮には、想像を超えるほど不思議なものが多い。
しかし――
ここまで歩いてきたというのに、食夢蛛が一匹も現れない。
祁翔は次第に不安を覚え始めた。
そして、少しずつ気づき始める。
これは、明らかにおかしい。
なぜなら、ここは《蛛后迷宮》なのだから。
その時――
目の前を黒い影が一瞬だけ横切った。
祁翔はすぐに狼子を見る。
「今の、見えた?」
狼子は頷いた。
陸達もわずかに頷く。
しかし、雁羽だけは楓葉を抱いたまま、相変わらず夢中になって撫でていた。
彼女は何も感じていないようだった。
「じゃあ……あれは……?」
祁翔の声は、わずかに震えていた。
四人はそのまま歩き続ける。
すると――
突然、一つの人影が彼らの目の前へ現れた。
そこに立っていたのは、一人の男だった。
黒いタイトなシャツ。
黒い長ズボン。
そして黒いマント。
漆黒の髪。
雪のように白い肌。
その顔には、どこか妖しく邪悪な笑みが浮かんでいる。
その表情を見ただけで、身体の奥から寒気が走った。
狼子は即座に戦闘態勢へ入る。
《湛滅之劍》を握りしめ、黒衣の男を鋭く見据えた。
陸達も防御態勢を取る。
一瞬たりとも目の前の男から視線を外さない。
雁羽はそっと楓葉を下ろした。
両手で《霧纓之杖》を握り、表情を一変させる。
先ほどまでの穏やかな雰囲気は消え、真剣そのものだった。
祁翔も《紫靈之杖》を構える。
四人全員が理解していた。
目の前の相手を、決して甘く見てはいけない。
その時――
黒衣の男が突然、狂ったように笑い始めた。
「ハハハハハハ!」
その傲慢な笑い声が、瞬く間に迷宮全体へ響き渡る。
反響した声が何度も耳元へ戻ってくる。
「まさか、四妹の《美夢幻境》を突破できる奴らがいるとはな。」
黒衣の男は妖しく笑いながら言った。
その瞬間――
狼子の背後に、黒い影が一瞬で現れた。
女だった。
彼女は狼子の首元を挑発するように、指先で軽く弄ぶ。
狼子がすぐさま剣を振ろうとした、その瞬間――
女は一瞬で四人の目の前へ移動した。
「そんなに怖い顔しなくてもいいじゃない?」
妖艶な笑みを浮かべながら、彼女は言う。
しかし次の瞬間には、まるで別人のように可愛らしく無害な表情へ変わった。
彼女は手元にある細い糸を、楽しそうに弄んでいる。
祁翔が目の前の女を見つめていると――
突然、頭上に無数の蜘蛛の糸が現れた。
祁翔と狼子は同時に顔を上げる。
その瞬間――
絹のように細い一本の糸が、天井からゆっくりと降りてきた。
そして、その糸を掴みながら、一人の男がゆっくりと降下してくる。
その男も黒いタイトなシャツに黒い長ズボンを身につけていた。
手には無数の細い糸を操っている。
男が目の前へ降り立った瞬間――
陸達はさらに警戒を強めた。
《蔚沁之罩》を展開する。
巨大な防護結界が祁翔たち四人を包み込んだ。
その直後――
ドンッ!
何かが《蔚沁之罩》へ激しく衝突する音が響いた。
三人の目の前に、再び一つの人影が現れる。
「おや?」
男は自分の腕を見つめる。
先ほど不意に《蔚沁之罩》へ衝突したことで、腕には傷がついていた。
男はその傷から流れ出た血を舌で舐める。
そして、不敵に笑った。
「ほう……防御型の《宙之曆》を使える優秀な奴がいるとはな。」
祁翔は心の中で思った。
(よかった……。)
(さっき陸達が防護結界を展開してくれていたから助かった。)
(こいつら……移動してくる時も、まったく気配がなかった。)
(完全に察知できなかった……。)
祁翔は狼子を見る。
狼子のマスクの下――
その首筋には、なんと冷たい汗が流れていた。
どうやら、今まで遭遇した敵とは明らかに違う。
本物の強敵なのだ。
狼子でさえ、これまで以上に慎重になっている。
彼は《湛滅之劍》を強く握りしめた。




