第三宙 第一夢 白い蝶(前編)
祁翔たちは、なおも蛛后迷宮の探索を続けていた。
その時、一匹の白い蝶が祁翔の目の前をふわりと横切る。
祁翔はすぐに狼子の方を見た。
「見えた?」
言葉にする前に、狼子は小さく頷く。
さらに陸達と雁羽へ視線を向けると、二人も同じように頷いた。
どうやら全員が、その白い蝶を見ていたようだ。
「迷宮の中に蝶なんているんだ。なんだか不思議だね。」
祁翔は空を舞う白い蝶を見つめながら言った。
「本当に信じられない光景だ。」
狼子も蝶の動きを静かに観察している。
しばらくすると、白い蝶はふっと前方へ飛び立ち――
次の瞬間、四人の目の前から跡形もなく姿を消した。
突然の出来事に、全員が思わず顔を見合わせる。
「行こう。あの蝶が飛んでいった方向へ。」
祁翔が先頭に立ち、手を振りながら歩き始める。
狼子たちも頷き、その後を追った。
しばらく歩き続けると、一行は広大な広場へたどり着いた。
祁翔が見上げると、そこには想像をはるかに超えるほど高い天井が広がっている。
蛛后迷宮は、彼らが思っていた以上に広く、そして神秘的な場所だった。
四人が思わず天井を見上げて感嘆している、その時だった。
突如、巨大な蜘蛛の巣が天井から降ってくる。
人面食夢蛛が張り巡らせた巨大な罠だった。
祁翔、狼子、陸達、雁羽は一斉に上を見上げる。
しかし、もう避ける時間はない。
その瞬間――
白い蝶が再び姿を現した。
蝶の身体から眩い白い光が放たれる。
四人は思わず目を閉じた。
やがて光が収まり、ゆっくり目を開く。
すると、あれほど巨大だった蜘蛛の巣は、一瞬にして跡形もなく消え去っていた。
一方、白い蝶は傷一つ負った様子もなく、何事もなかったかのように優雅に舞い続けている。
やがて蝶は一枚の扉の前まで飛ぶと――
再び、静かにその姿を消した。
祁翔は呆然と立ち尽くした。
「すごすぎる……。」
「一瞬で、あんな巨大な蜘蛛の巣が消えたんだ。」
「あの白い蝶、一体何者なんだ……?」
驚きを隠せない声だった。
狼子も同じように驚いていた。
しかし、説明できる答えは持っていない。
彼は静かに首を横へ振るだけだった。
一方、雁羽は楓葉を腕に抱いたまま白い蝶を見送る。
しかし、その表情に驚きはない。
それよりも夢中で楓葉を撫で続けていた。
陸達は相変わらず『蔚沁之盾』を構え、周囲を警戒している。
雁羽を守るように立ち、『沁藍之宙』を展開したまま周囲を見渡す。
危険が去ったことを確認すると、静かに『沁藍之宙』を解除した。




