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76 老ゴブリン

 俺は救出対象の全ゴブリンを村の外へと吹き飛ばした事を確認し、侶春と侶子がいた場所へ急いで戻る。


 戦況を見る限り、俺がしょうかんしたゴブリンちゃん達はあと少しで全て消え去るだろう。


 ゴブリンちゃん達は圧倒的な数の暴力で中の雑魚を全て狩り尽くし、残る親玉っぽい二匹にも果敢にゴブリンパンチを繰り出していたが多分効いていない。

 後ろ姿しか見えなかったが、ライオンもそれに股がった小さな魔物もゴブリンパンチを受けても微動だにせずその場から様子を伺っていた。

 手下の魔物が続々とやられているのにも関わらず参戦しようともせず、手下に対して何とも思っていないような佇まいは特段異様な雰囲気を醸し出していた。



「出野さん、無事だったんですね!俺っち心配してたんだぜー。だって出野さんがどこか行ってからすぐにゴブリン達が上から飛んできたんだから!出野さんも飛ばされてくるかもって」


 俺が戻ると侶春が真っ先に声をかけてきた。

 まぁ飛ばしていたのは俺なんだがな。

 その事には気付いていない様子だった。


「そういえば出野さん何してたんですかー?何かボソッと言っていなくなったから、うちら心細かったですぅ」


 侶子がきょとんとした顔で俺に聞いてきた。

 あの時俺は二人に伝えたつもりだったが、ゴブリン達の雑音で聞こえていなかったんだな。


「とりあえず中の様子見てきた。もうそれはそれは俺のゴブリンちゃん達の活躍っぷりが凄かったぞ」


 そんな事を二言三言交わし周りを見ると、救出されたゴブリン達が一つの場所にかたまっているのが目に入った。

 捕らわれていた身なのにも関わらず意外にも元気そうだった事に意識が向いた。


「あれが村のゴブリン達だな。元気そうで何よりだ」


「そう、うちが傷を治してあげたんだよ」


「侶子、俺っちもやっただろ!」


「侶春は最初どうしていいか分からなくておどおどしてたくせにー」


 ほう、この二人が傷を癒してくれたのか。

 相手が魔物だというのに恐れもせず、自分達の役割を理解し、出来ることをする。

 いいじゃないか。


「二人ともありがとな。これで戦いの準備は整った」


 ブーブー言い合う二人の頭に手を乗せ、俺は村へと目を向ける。

 侶春も侶子も俺の方を向き一瞬ニコッとし、大人顔負けの真剣な表情で戦いの場へ目を向けた。


「出野さん、ここのゴブリン達はどうしますか?」


「んー、とりあえず置いていく。多分大丈夫だろう。一応ゴブリン達に伝えてくるわ」


 俺はここのゴブリンが森の魔物に襲われぬよう結界を張る為、集まっている場所へ足を運んだ。


 元気ではあるが、何が何だか訳の分からないといった表情をしているゴブリン達の顔を見ると魔王時代の感覚が蘇る。


 ゴブリンは決して強い種族だとは言えない。

 かと言って弱い種族でもないが、魔法を使えない為、己の身体と拳のみ使うような肉弾戦以外はめっぽう苦手である。


 魔法を使う魔物に占拠され、怖い思いをしただろうななどと思っていると、年老いた一匹のゴブリンが俺へと近付いてきた。


「あなた様は……、魔王ハーデス様ではございませんか?」


「えっ?」


 侶春と侶子の位置を確認し、この会話が聞こえていないのを確信した後に続ける。


「お前、喋れるの?」


 ハーデスじゃないかと言われたことよりも先に、知能あるゴブリンがいた事に驚いた。


「はい?」


「いやだから、お前喋れるの?」


 耳が遠いのか聞こえていないようだったので、語気を強めて再度聞いた。


「はい。この村で私奴(わたくしめ)が唯一言語を理解しています」


 俺がカッキォを迎え入れて間もなく、新しいゴブリンの村を作ったから言語が失われたと思っていた。


 俺達魔物は、大きく分けて二種に分かれる。

 共通言語を理解し他種族とも交流できる知能ある魔物と、野生的で他種族との共存を嫌う知能なき魔物だ。

 知能ある魔物も、他種族との交流をやめ、自分達の種族のみで生活していくと次第に共通言語を使用しなくなり、徐々に野性的になっていくというのが俺達の常識である。


 ここの村は元々俺の管轄であったが、カッキォを配下に迎えてからは足を運ぶことがなくなった。

 なぜなら、新しい村にカッキォがほとんどの村民を連れてきたからだ。

 その時聞いた話では、王の座をもつゴブリンとその一部の仲間がカッキォに反発し、その場に残るといった決断を下したという。

 勝手に俺は、平和を望まぬ者など配下ではないと判断した。

 その生き残りが今いるゴブリン達で間違いない。


「そうか。そうだ俺が……、いや、我こそ魔王ハーデスである。お前はなぜ我がハーデスだと気付いたのだ?」


「はい?」


「いや、だーかーらー、俺はハーデスだ。なぜ俺がハーデスだと気付いたんだ?」


「や、やはりそうでしたか。恐れ多くも私奴は、先代のゴブリン王の末裔にございます。先代が旅先で戦死した後は、この村は王制度を無くし、残ったゴブリンで細々と暮らしておりました。先代からハーデス様のお話はよく聞いておりました。風貌を初め、数々の伝説を」


 老ゴブリンは少し間を置き、息を整えた。

 目を閉じ、当時を思い出すかのようにゆっくりと話し始める。


「先代はハーデス様が来なくなってからは、カッキォ殿とよりを戻し、生活を共にしたいと頻りに言っておりました。しかし、自分はゴブリン王の称号をハーデス様から直接頂いたのだからここを守らねばと何かにつけて責任を感じていました」


 チビゴブリンが俺の意思を継ぐ平和主義者だという話を聞いた時、なぜ俺が介入しなくなってからも俺の意思を継いでいるのか分からなかった。


 平和を望まぬ集団であるのに、今更なぜ?と。


 しかし今更ではなく、今も尚といったところであったのだ。

 俺は自分のした過ちを少し後悔した。


「思いが強くなり意を決してカッキォのところへ向かったそうですが、そこで先代は命を落としてしまいました。先代がいな

「ちょっと話が長いな。とりあえず、結界張っとくからここから動くなよ。あと、俺今訳あって人間側についてるから、ハーデスってことは黙っといてな」


「…それからは私奴がその意思を

「ダメだこりゃ」


 まだ目を閉じて喋り続ける老ゴブリンを無視し、ゴブリン達にまとめて結界を張りその場を離れた。


 侶春と侶子は村の中の様子を伺いながら俺を待っていた。


「すまん、ゴブリンの話が長くて遅くなった。じゃあゆうな達のところへ行くか。付いてこい!」


「「はい!」」


 村へ入ると、息絶えた魔物達がゴロゴロと転がっており、俺達はそれを避けながら、時に踏みながら先を急いだ。

 俺のしょうかんしたゴブリンは皆役目を終えて消えている様子で、半壊したゴブリン達の棲み家が先程までこの村で起きていた事象を物語っていた。


 残る魔物の気配は二体。

 おそらく俺が目にした村の奥にいた魔物二体であろう。

 この状況に危機的な状況にも臆せず、絶対的な自信を放つその背中を見たので間違いない。


 村の奥へ進むとゆうな達がその魔物二体と対峙している姿が視界に入った。

次回予告

 仲間から遅れてハーデスが前線へと向かうと、ゆうな達が魔物と対峙していた。まだ戦闘は始まってはいない。魔物が放った一言はハーデスを怒らせた。そして戦いの火蓋が切られた。


次回 ~十一対一~

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