74 作戦
村の入口付近にて多数の魔物を相手取っていたが、俺達の総攻撃により残り数体の魔物を残すのみとなった。
しかし依然として村からは魔物の気配が消えることはない。
まだ村には多数の魔物が存在し、俺達がここで戦っている魔物は氷山の一角にしか過ぎないことを物語っている。
それを知ってか知らずか、調子に乗り始めた剣児とナックルは、残り数体の魔物へ攻撃をしながら村の方へ威嚇を始める。
「おいこらー!お前らの仲間は倒されたぞー!悔しかったら出てこーい!お尻ペンペーン」
「おーい!おら達にビビってんのがー?おめぇの母ちゃんでーべーそー!」
こいつらは本当に馬鹿だなとつくづく思う。
たまにそれで助かることもあるが、他の皆はあまりいい気はしていないようだ。
本当は俺もそこに参加したいところではあるが、法子に叱られた直後にそんな行動を取る事はさすがの俺にもできない。
俺は先程の法子の正論に結構傷付いたのだ。
パーティの輪を乱さぬよう適切なタイミングで俺に問いかけ、パーティの安全の為にも俺へしっかりと教育を施す。
そしてゴブリン語を話すだけではなく、他の種族の言語も理解しているときた。
もうどうしようもないくらい惨めな自分を呪った。
「【連射】!」
ザザザッ
真弓が連続して放った矢がキノコ法師の頭に突き刺さると、そのままキノコ法師は地に倒れこんだ。
「ふぅ、一先ず片付いたわね」
残った最後の一匹を葬り去ると、真弓は一息ついた。
一回の戦闘という括りでは、森の中で戦った魔物よりも数も多く多種多様な魔物相手だったので、皆の表情にも疲れが見える。
村からは今のところ魔物が出てくる気配がない。
やや後方で支援をしていた侶春らも合流し、傷付いた仲間達を魔法で回復し始め、次なる戦闘への態勢を整える。
「チェリーさん、この村には他にも魔物がいましたか?」
ゆうなは疲労を表に出すことなく、目線を村の入口から外さずチェリーに問いかけた。
「たたたた多分いるね!ぼくが入った時、今よりもいっぱいいた気がする!そしてね、村の中央で、色んな魔物がくっついたようなライオンみたいな魔物と、その横にフードを被った小さい魔物がゴブリン達を並ばせて何かしてたんだ!多分処刑っぽいけど分からない。ヤバいなーって思った時には、その小さい魔物がぼくに魔法で攻撃してきて……」
「ゴブリンが処刑?変ですね。魔物同士で争うなんて」
「おいおいそれ何かの見間違いじゃねーかぁ?」
「嘘じゃありません、本当なんですぅぅぅ!」
ナックルが疑ってかかるとチェリーは兜が揺れに追いつかないくらい首をブンブン振ってそれを全力で否定した。
確かに人間側からすれば、魔物同士が争う事など知りもしないだろう。
かつて魔王同士の縄張り争いがあった時代も、魔物の居住区で行われていたので人間界には一切被害が及ばなかった。
当然知る由もない。
現存している魔王はただ一人、魔王グレンヴァのみだ。
グレンヴァは、昔縄張り争いが頻発していた時のように仲間ではない他の種族を根絶やしにするつもりなのだろうか。
「皆様、それについて少しお話があります」
話が平行線を辿る中、唯一理由を知る法子がこの均衡を破る。
意外な人物からの突然の発言に皆は意を注ぐ。
「魔物同士で争っているのは紛れもなく事実です。実は私も出野さん同様、魔物の言語を理解しています。先程、出野さんの背負っているゴブリンとこの村で起きている出来事をお話しました」
皆は不意を突かれたのか、目を丸くして発言の続きを待っていた。
俺はというと、俺の嘘を否定することなく、思いを汲み取って立ててくれたことに感動していた。
天才は天才なだけある。
天才は、自然と最良の答えを導きだしてくれる。
「ど、どういうことだよ」
「皆様も一度は耳にしたことがあるでしょう、魔王ハーデスという名を。魔王グレンヴァが現れる前の絶対的魔王……、そして私の初恋の相手です。きゃっ」
真剣な表情をして語っていた法子がいきなり赤面し、顔を手で隠したのを目の当たりにした皆は、どういう反応をしていいか分からず固まっていた。
確かに魔王である俺と初めて会った時もこんな感じだったなと妙に懐かしさを覚えた。
「こほんっ。失礼致しました。話を戻しますが、以前この村はハーデス様の領地でした。しかしグレンヴァが現れ、ハーデス様が行方をくらましたのでこの村が襲われたという事です。ここのゴブリンはハーデス様の意思を継ぎ、人間に危害を加えることはありません。皆様の力をお借りして、この村を奪還したいと思っているのですがいかがでしょうか?」
真剣な表情に変わり、皆に己の感情を全面に出し懇願する法子。
俺には個人的な感情で皆を危険に晒すなと言っておきながら、当然のようにその禁忌を犯す姿は圧巻である。
そして俺がそれを指摘しようもんなら、嘘をついていた事実を暴露するといった保険もかけているようなものだ。
やはり天才は天才なだけある。
俺の思考では考えられない不可思議な牽制を平気でやってのける。
「どちらにしても、これは見過ごすわけにはいきませんのでここの魔物は排除します。その上で、ゴブリン達を救うということでいいんですかね?出野さーん、最初からちゃんとそう伝えてくださいよー」
リーダーであるゆうなが法子の提案を飲み込みつつ、嘘をついた俺へと半ば呆れ気味に進言した。
「えぇ。ちなみに出野さんは、ゴブリンからそれを聞いた上で、皆を巻き込まないよう一人で片を付けようとしていました。だからあんな変な言い方になったのだと思います。ですよね、出野さん?」
「そ、そうだ」
俺が考えていたことなど一言も話してはないが、奇跡的に最終俺が考えていたことを代弁してくれた形となった。
他の仲間も呆れたように納得している様子だ。
法子の思考回路がどのようになっているのか、人間への興味という部分では、一番気になる存在である。
村からは一向に魔物が出てくる気配はない。
一時的に処刑は中断されていると見越し、俺達はチビゴブリンを交え簡単な作戦会議をした。
◇◇◇◇◇◇
俺と侶春、侶子以外の仲間は、中の魔物に悟られぬよう村の入口横の塀に張り付き待機している。
俺達三人は皆から離れた後方に待機。
作戦内容は銀次と法子が考案したのだが、至って単純だ。
まず、残されたゴブリン達の救出を最優先にした。
理由としては、単に戦いやすくする為である。
群れた魔物の中、ゴブリンだけに攻撃を当てないようにしながら戦うのは至難の業だ。
だからこそまずは救出対象のゴブリンを村から出し、そこに待機してもらってから本当の戦いを始めようという魂胆である。
チビゴブリンからの情報では、おそらく村のゴブリン達は入口から近い広場に集められているとの事だ。
その広場とは、かつてカッキォが王の座をかけ力比べをした場所。
広場の奥にはゴブリンの居住区が広がり、藁で出来た簡単な棲み家がそこには建ち並んでいるという。
ゴブリン達には悪いが、そこまでは守りきれないので救出後はおそらくそれをぶち壊しながら魔物と戦闘をすることになる。
そして中の魔物を全滅させ、晴れて奪還完了となる。
聞こえは簡単であるが、ではまず始めにどうやってゴブリン達を村の外に出すか。
俺は侶春、侶子と共に作戦の開始を待っていると、ナックルの馬鹿デカイ声が響き渡り早速作戦が始まった。
次回予告
ゴブリン救出作戦が開始された。重要な役割を任されていたハーデスであったが、いつもの如く空回りしてしまい混乱を招くのであった。
次回 ~救出~




