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73 激突

「チェリーさん!待って!」


 ゆうなの制止も虚しく、空腹状態の野生の生き物はこんなにも俊敏に動くのかと感心するくらいのスピード感でチェリーは村へと走っていった。


「はぁ。本っ当にあいつは。後でぶん殴ってやらないとね」


 幼馴染みだからか、チェリーに対してだけ異常に態度がきつくなる真弓は、怒りで身体が震えている。


 しかしまずい、魔物の巣窟にチェリー一人では身に危険が及ぶな。

 よし、俺も後を追うか。


「俺はチェリーの後を追う。みんなは待っててく

ドゴォォォン!


 響き渡る轟音。

 何かが爆発したように村の方から煙が上がる。

 その煙は皆の視線を独占した。


「あああああ話が違ーう!神様ー!仏様ー!南無阿弥陀仏南無阿弥陀仏ぅぅぅう!」


 村の方からチェリーは多数の魔物を引き連れ逃げ帰ってきた。

 デビルモンキーや角虎といった魔物の他にも、怪力の【インパクトゴリラ】や魔法を得意とする【キノコ法師】といった魔物もいる。


「これはゴブリンの罠!?」


「おいおい俺達を罠に嵌めたのかこの糞ゴブリン!」


 ナックルがチビゴブリンの帽子を引っ張り上げると、チビゴブリンは身体をバタつかせ必死に抵抗する。

 刺子と法子はすぐに臨戦態勢を取った。


「……デブちん」

「チェリーさん邪魔ー!火属性魔法【ゴウゴウ】!」


 鎧に収納された翼を起動した刺子は、近くの木に飛び移り、レイピア片手にそのまま魔物の集団に向け突っ込む。

 法子の横に広がる火属性魔法は、地を這いながら敵に向かって行く。

 このままではその炎はチェリーにも襲いかかる。


「【マミズアブラ】!」


 天才魔法師である法子はチェリーに向け何か魔法を唱えると、チェリーの周りは見えない壁に包まれた。


「ちょ、ちょっとちょっとちょっとー!」


 半べそをかきながらチェリーは後方からの脅威と前方からの脅威に挟まれた。


 ほう、さすがは天才だと言われるだけあるな。


 法子が放った炎は前列の魔物を焼き払う。

 チェリーの元へと向かった炎は、見えない壁に跳ね返されこちらに向かってきた。


「氷属性魔法【ジャッキン】!」


 その炎を今度は氷魔法で上書きし打ち消す。

 鋭利な氷山と化したその塊に対し更に風魔法を使い、右へ左へと魔物に向け氷柱を放り込む。

 人間の割に事の顛末が見事なまでに完成されている。


 刺子はというと、飛行しながら残党をレイピアで突いている。

 そこに剣児、銀次、真弓も追って参戦する。

 その背中を目で追うゆうな、ナックルも武器を手にする。


「侶春君、侶子ちゃんはチェリーさんを回復後、後方からサポートを!私も前線へ急ぎます!」


 ゆうなはそう指示を残し魔物の群れへと突っ込む。


「この糞ゴブリンめ!まぁいい、こいつは殺しておくか」


 ナックルがチビゴブリンを殴ろうとするのを俺は止める。


「ナックル、こいつは俺達を罠に嵌めたりはしない。本当にこいつは悪くないんだ」


「魔物の肩持つなんてどうかしちまったんじゃねーか、おい。とりあえずこいつの処理は任せたぞ!俺も戦いたくてウズウズしてんだ、先に行ってるぞー!」


 さっきまでの怒りはどこへやら。

 戦闘狂かの如く走り出したナックルと入れ替わるようにチェリーが息を切らしながら戻ってきた。

 所々から血を流している姿から、魔物の攻撃を受けダメージを負っているようだ。


「あああああ、早く早くー!血、血ぃぃぃい!」


「回復魔法【ゴクン】!」


 異常事態に動揺しながらも侶子は回復魔法を使い、チェリーの傷を癒す。

 どうやらこの『ゴクン』という聞き慣れない回復魔法は、『ヌリリ』の上位互換だったようだ。

 侶子にとってはこれが初の回復魔法実践となるが、落ち着いて自分の役割を全うしていた。

 俺も前線へ向かおうとするが、このチビゴブリンをどうしようかふと考える。

 とりあえず、ここにいても邪魔になるかと思い、しどろもどろになっているチビゴブリンを背負った。


「お、俺っちと侶子はここにいればいいのかな?」


 侶春も侶子と同様に、この緊急事態に混乱をしている様子だ。

 ここに来るまでに弱い魔物との戦闘しか経験していないから当然だろう。

 俺は先輩として指示を出す。


「あぁ、お前達はここにいて何かしら魔法を打っておけ。よく分からないがレベルが上がって、その分魔法を覚えてるんだから何かできるだろう?とりあえず頼んだ!あとチェリーが回復したら伝えておいてくれ。チェリーも後方から攻撃するようにとな」


 完璧だ。

 おそらくゆうなでも同じような事を言うだろう。


 俺は最強であるが故、これまでいつも一人で戦ってきた。

 冒険者として経験を積むにつれ、何となく群れて戦うということを分かってきた気がする。


「チビゴブリンちゃん、しっかり掴まってろよー」


 俺は背中に原因の基を乗せ、前線へと繰り出した。



 仲間が戦っている場所は村への入口前の平地だ。

塀に囲われている為ここからでは中の様子は分からないが、チェリーを追いかけてきた魔物を見る限り、別の種族に占拠されたというより魔王軍の手が伸びているような気がする。


 法子がやや離れた距離から魔法で攻撃を仕掛けている横につき、俺もしょうかんを放つ。


「オーガアターック!」


 裂けた空間からオーガが登場し大乱戦の中、突進していく。


「法子、俺もここで戦うぞ」


 次々と魔法を放ちながら法子は頷いて返事をした。

 チェリーを追いかけてきた魔物の群は半分以上が地に倒れ、こちら側の優勢を物語っている。


「チビゴブリンちゃん、ここに仲間はいるのか?」


 俺は背中で背負うチビゴブリンに向け声をかけるが、人間の言葉が分からないので当然のように黙って前を見据えている。

 するとそれを見た法子が信じられない行動をとった。


「▽※◇▲○●*@◎?」


 チビゴブリンに向け、意味不明な言語で話し始めたのだ。

 チビゴブリンは一瞬身体をビクッとさせると法子に向けて話し始めた。

 法子とチビゴブリンは意味不明な言語で何度かやり取りをすると、法子の表情が憎しみを帯びた表情に変わる。


「出野さん、ここは元々ゴブリンの村だったそうですが、今の魔王軍により乗っ取られたようです。かつては敬愛なるハーデス様の領地だったそうで、ハーデス様の為にも取り返したいと言っています。私の個人的な理由で申し訳ございませんが、ここのゴブリン達の為にも皆様にもご協力してもらいたいです」


 やはりそうかと思う前に、何故法子がゴブリンと話せるのかが気になった。


「法子、ゴブリンの言葉が分かるのか?」


「えぇ。ゴブリンの言葉だけではなく、ハーデス様が従えていた種族の言葉は独学で勉強しましたのでほとんど理解しています。このゴブリンはハーデス様の意思を継ぐ平和主義者だと言っていました。人間に危害を加えることはありません。ですので、是非ともご協力を」


 ほう、俺の為にここまで自分を磨いているとはな。

 というか、このチビゴブリン、平和主義者だと言う割に俺を殴ってきたのはどういうことだ?

 これは流石に見過ごすわけにはいかない。


「協力してもいいが、一つ確認したい。人間に危害を加えないと言っていたそうだな?それなのに俺を殴ってきた理由は何だ?」


 法子がチビゴブリンと言葉を二三交わして、俺の問いに答える。


「どうやら、出野さんを魔物と勘違いしたそうですね。これからは危害を加えないと誓ってくれました。そういえば私からも一ついいですか?」


「何だ?」


「なぜあの時、ゴブリン語を話せないのに話せると皆に嘘をついたのですか?私はこのパーティの事があまり分からないで、あの場では口を挟まなかったのですが」


 法子は純粋な疑問として聞いてきている。

 今までの仲間であれば、適当にそれらしいことを言えば納得してくれることが多かった。

 それが例え納得に至らない突拍子のないことであっても、何だかんだで深く追及せずに流していた。


 法子と出会って間もないが、一つ分かったことがある。

 彼女には嘘を見抜くような洞察力に長け、辻褄が合わないことがあれば指摘し、自分が理解できるまでどこまでも突き詰めるという研究家気質を持ち合わせているのだ。

 だからこそ、変なことは言えない。


 面倒臭いことになるのはごめんだ。

 ここは正直に言おう。


「カッコつけたかっただけだ」


 俺はそれが当然かのように堂々と振る舞う。

 下手なことを言って問い詰められるより、胸を張って自分をさらけ出したほうが良い。


「そうですか。皆を危険に晒してまで自分を優先させるのはやめたほうがいいですよ」


「お、おう」


 正直すぎてシンプルに叱られたのであった。

次回予告

 法子に注意され落ち込むハーデス。村の前での攻防がついに終わり、チェリーに中の様子を聞く仲間達であったが、チェリーが魔物同士が争っていたという内容を信じられず、話は平行線を辿ったかに見えたが……。


次回 ~作戦~

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